太陽の光さえ木々に遮られ、その場所はとても薄暗い。地面は朽ちた木の葉で覆われ、それを一枚でも捲れば、下からはムカデやヤスデや、その他小さな虫たちが顔を出す。  
 少女はその森の奥地にある、大樹の洞に閉じ込められていた。いや、目の前に出口はある。密閉されてはいないから、“閉じ込める”という表現は間違いかもしれない。  
 適切な表現なら、“拘束されている”だろうか。彼女の体がまるで言う事を聞かず、目の前の出口へ向かう事さえも出来ないのだ。。  
 地面からは虫たちが彼女の体に這い上がり、その寒気のするような感触に、白い毛皮が逆立つ。  
 地面に投げ出されたまま、体はビクビクと小刻みに震わせる事しか出来ない。  
 身の丈120センチも無い小柄な犬の、赤い瞳には、洞の入り口でたむろする、巨大な蟲たちが蠢く様子が映りこんでいた。  
 赤い瞳からは一筋の涙が流れて、すでにグショグショになった目元の毛皮を伝い、地面に落ちる。  
 後悔したところで遅いが、泣くしかなかった。  
 村の大人たちの言いつけを破り、好奇心から森の奥へと入って行ったのが、今日の昼だ。  
 曰く、「今まで森に入った者で、帰ってきた者はほとんどいない」曰く、「森には怪物が住んでいて、子供を食べてしまう」大抵の子供はその話しに震え上がり、森に近寄らない。  
 だが、中にはその話によって好奇心を掻き立てられ、居ても立ってもいられなくなる子がいる。その成れの果てが、今の彼女だった。  
 鬱蒼と生い茂る森の中、不意に現れる、まるでゴキブリを巨大化したような、おぞましい蟲たち。  
 獣が駆けるよりも素早い動きで跳び付かれ、首筋に毒針を打ち込まれ、衣服を剥ぎ取られた恐怖と痛みは、数時間が経過した今でも、少女の肢体を恐怖に震えさせた。  
「……ぁ…さ…ッ。おか…ぁ、さん……」  
 鼻水と涎で濡れた口を開き、搾り出すように母を呼びながら、少女が失禁する。  
 股の毛皮が僅かに黄色く染まり、洞の中の木が腐った臭いに、小便の饐えた臭いが追加された。  
 その臭いが、洞の出入り口から外へ漏れると、大樹を取り囲んで蠢いていた蟲たちの動きが止まる。  
 蟲たちが絶えず出していた、ガサガサという音が止み、何かの前触れではと、彼女は動かない体を強張らせ、股の間に尻尾を挟む。  
 カサカサと蟲たちの這う音が近づいてくる。少女は現実逃避するかのように、目をつぶった。耳まで塞ぐ事が出来たら、どんなにいいだろうか。  
 だが、少女が涙ながらに震えるのも無視して、蟲は彼女の背に、そのギザギザと突起のついた足を乗せる。  
「ひんっ」  
 か細い声を上げながら、小さな体がビクンと震える。その間にも蟲たちが彼女を取り囲み、顎で足や腕を掴み、仰向けにひっくり返す。  
 強力な顎で噛まれた腕や足が、千切れてしまいそうなほどに痛むが、出来る事は何も無い。  
「いやぁ……いやぁっ…!」  
 両足首を顎でがっしりと掴まれ、無理矢理開脚させられる。その股座には、うっすらとピンク色をした恥部が、毛皮の中に見え隠れした。  
 蟲たちの中でもひときわ大きな体を持ち、腹部を膨らませた一匹が、その割れ目に尻をくっ付けるように、少女の下腹部に乗り上げる。  
 
脚のトゲトゲを毛皮に引っ掛け、重量感のある黒い甲殻が、抱きつくように彼女に密着させられた。  
 蟲は尖った尻を少女の恥部に擦りつけつつ、その尻から細い管を伸ばし、膣へと挿入していく。  
「ひっ、な……なにぃ……?」  
 ようやく10歳の誕生日を迎えたばかりの彼女は、言うまでも無く処女であった。そればかりか、未だに子供はコウノトリが運んでくると信じている、幼子である。  
 ただでさえ、正常な思考など不可能な状況なのに、蟲たちが何をしようとしているのか、想像がつくはずも無かった。  
 ただ、人の指ほどの大きさを持った管が、体の奥を目指して突き進む感触に悲鳴を上げながら、がむしゃらに暴れようとする。  
 しかし蟲たちの本能には、抵抗しようとする苗床への対処が刻まれていた。腕に力を込められるのを感じ取った一匹が、顎の力を強める。  
 鋭い顎が肉に食い込み、少女の腕を覆う白い毛皮に、血が染み渡った。  
「い……っ! 痛いいだいいだぃいい!! あがぁ! ああああ゛!!!」  
 少女の絶叫に、木の枝に留まっていた小鳥たちが、一斉に夜空に飛び立つ。  
 蟲の顎はついに骨まで達し、少女の腕からは血が吹き上がって、蟲たちの黒い甲殻を染めていく。  
 それでも顎の力は緩むことなく、寧ろのこぎりの様に骨までも削っていく。絶叫に耐えられなくなった喉が、ついに声を出す事すら出来なくなった頃、少女の右腕がぼたりと地面に落ちた。  
「はぁっ……はっ…、ぅっ…」  
 荒々しく息を吐き続ける口からは、唾液が泡となって溢れ、涙、鼻水と混ざりながら、ボタボタと胸の毛皮に落ちる。  
 少女の視界はもはや真っ白だ。血を失いすぎて、貧血の症状が出始めている。このまま放っておけば、出血多量で死んでしまう事を、蟲たちは知っていた。  
 少女の右腕を噛み切った蟲が、口からどろりとした粘液を出し、腕の断面へと垂らす。すぐに癒着が始まった。  
 粘液が傷口から染み込み、細胞と結合する。火傷で爛れたようなケロイド状になりながらも、断面は塞がり、出血も止まっていた。  
 もう、少女の抵抗はまったく無い。幼子には到底受止められぬような、想像を絶する苦痛に、彼女は気の触れる一歩手前の状態にまで追い込まれていた。  
 ぴくりとも動かなくなった苗床に、少女の腹部に覆いかぶさる雌蟲が、行為を再開する。膣内へ潜り込ませた卵管を、さらに奥へと伸ばし、尖った先端で子宮口を小突く。  
 数度刺激すると、固く閉じた子宮口が僅かに緩んだ。それを見逃さず、卵管は少女の最も奥へと達する。  
 雌蟲の腹が、ギチュギチュと音を立てながら脈動し、丁度少女の握り拳と同程度の大きさの卵が、卵管へと送り込まれた。  
 それでも彼女の膣口を通過するには大きすぎるようで、最初の卵が入り口でつっかえて、卵管はさながらアナルビーズのような状態になってしまう。  
 行為が滞っていることに気付いたのか、先ほど少女の右腕を噛み切り、そのまま待機していた一匹が、静かに少女の下腹部へ移動すると、結合部へと顔を近づける。  
 まるで緩む気配を見せない入り口に顎を這わせ、柔らかな肉を裂いて、無理矢理入り口を広げた。  
 再び襲ってくる鋭い痛みに、少女の肢体がビクンと跳ね、下腹部も強張らせるが、切り拡げられた膣口は、ぴくぴく動いて血を垂らすだけで、閉めることなどまるで出来なかった。  
 その裂け目をミチミチと拡げながら、詰まっていた卵が膣内へと進入していく。未熟な産道を抉じ開けながら、ついには子宮へと達する。  
「あ……っ、あぁ……!」  
 
一度緩んだ子宮口は、少女の意思とは関係なく、その入り口を広げて卵の通過を許した。一つまた一つと、未熟な子宮に卵が産み付けられていく。  
 少女の小さな子宮では、雌蟲の腹に溜まった卵の、半分も入りいらないうちに、満杯になってしまう。  
 それ以上卵が入らなくなると、雌蟲は卵管を子宮から抜き放ち、肛門へと卵管を伸ばす。だが、固く閉じた肛門は、細い卵管すら通そうとしない。  
 気付いた雌蟲は、今度は自らの顎を使って、少女の肛門を引き裂いた。ブチブチと柔らかな肉を裂きながら、膣口と肛門を繋げてしまう。  
 修復不能なまでに破壊された肛門は、卵管程度はなんの抵抗も無く飲み込んでいった。  
「あひぃ、ひぃあぁ……ッ」  
 そんな酷い扱いを受けて、彼女の精神はついに破綻をきたしたらしい。涙と鼻水と涎と、あらゆる体液でぐしゃぐしゃになった顔は、口を半開きにして恍惚の表情を浮かべている。  
 彼女の心は、到底受止められぬような苦痛と恐怖を避けるために、自らを破壊したようだ。  
 だが、蟲たちにはそれを感じ取る様子も無く、行為を続行する。雌蟲の腹は、先ほどまでに比べて、明らかに小さくなっており、その役目の終わりが近づいている事が見て取れた。  
 すべての卵を少女の体内に産み付け、役目を果たした卵管を引き抜くと、ぽっこりと膨らんだ下腹部がビクンと震えた。  
 これで、巣で唯一の雌の役目は終わった。雌蟲が少女から離れると、入れ替わりに周囲を取り囲んでいた蟲たちが少女に群がる。  
 その尻からは、透明の粘液を滴らせる、雄の生殖器が見え隠れしていた。赤みを帯びたそれは、黒い甲殻との対比でいっそう際立ち、醜悪な印象を受ける。  
 己の遺伝子を残そうという雄たちが、苗床を奪い合って暴れ、その中心に居る少女は、尖った脚で何度も引っかかれ、傷だらけになっていった。  
 残った方の腕で頭部を守るようにするが、すぐにそちらの腕にも蟲の顎が食い込み、切り離そうと力を込められる。  
 その一方で、彼女の恥部と肛門には、ついに雄の生殖器が突き立てられた。雄の中でも最も体の大きい二匹の蟲が、  
彼女を挟んで脚を絡め、少女の胎内へと突き入れた生殖器を脈動させる。  
 
 あぶれた雄たちは、本能に従って、苗床から不要な部分を切り離す作業を始めた。  
 ただの苗床に、周囲の様子を確かめる必要は無い。赤い瞳を刳り貫き、耳から顎を突きいれて鼓膜をズタズタにする。  
 獲物に止めを刺すための牙も、食べ物を味わうための口と舌も、臭いを嗅ぐための鼻も必要ない。犬特有の尖ったマズルを、強靭な顎で挟み、丸ごと切り落とす。  
 移動するための脚も必要ない。太ももからズタズタに引き裂き、骨を砕き、切り離す。  
 蟲たちが口から出す粘液で、傷口はすぐに塞がって出血は止まる。許容量を超えた苦痛は、もはや恍惚とした熱しか残さない。  
 犬獣人として、もはや原形を留めていない有様だったが、それでも命に別状は無かった。  
 動く事も、見る事も、聞くことも、味わう事も、嗅ぐ事も許されなくなり、ようやく彼女は蟲たちの苗床として完成を向かえる。  
 後は、胎内に直腸に産み付けられた無数の卵へと、二匹の雄蟲が精液を放つだけだ。  
 それも近いらしく、雄蟲たちは、顎をいっぱいに開きながら、ギチュギチュと不気味な鳴き声をあげ、生殖器をより深くへと押し込んでいく。  
 そして、犯されつくした少女の胎内へと、蟲の精液を発射した。哺乳類のように熱を持ったりはしていない。むしろ、冷たい液体が胎内に溢れるような感覚だった。  
 恍惚を孕んだ熱に狂い、その冷たさは無粋以外の何でもない。体に篭った熱が逃げていくようで、彼女の心は着実に平静な状態へと導かれていった。  
 しかし、この状況での平静な精神に戻るというのは、地獄でしかない。彼女は少しだけ正気に戻りながら、しかしパニック状態の頭で考える。  
 何も見えない。何も聞こえない。何も匂わない。手足が動かない。それらがもう無い事も気付かず、血と涙の混ざった液体を、目のあった場所から垂らした。  
 何かが彼女の胸の上に覆いかぶさり、口があった場所に、生暖かい息が吹きかかったかと思うと、固い蟲の口が、くっつけられる。  
 傍目にはキスに見えなくも無い行為だが、蟲たちにそんな観念的な行動があるはずも無い。  
 行うのは、苗床を死なせないための、単なる餌付けだ。マズルを切り取られ、曝け出されている喉へ、蟲の体内でどろどろに溶かされた肉が流し込まれる。  
 地面に投げ捨てられていたはずの、両腕両脚に、すでに肉を食い尽くされて骨だけになっていた。先ほど流し込まれたのも、彼女自身の肉に他ならない。  
 恐怖に叫びたいが声は出ない。痛みに暴れたいが、動かす手足も無い。卵は急速な勢いで細胞分裂を始め、体内からその脈動だけが伝わってくる。  
 幼い少女は、絶えず血の涙を流し続けながら、生まれて初めて自らの死を願った。  
 
終  
 

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