―こんなはずじゃなかった。
湧き上がる後悔と自責の念を抑えつけながら車を飛ばす。
学生時代から女性関係には事欠かなかった。
学業でも運動でも人の遥かに上に立ち、加えて雑誌に載るようなモデル並みの容姿を持っていることも自覚している。
同時に複数の女と関係を持っていたことも何度かある。
それは社会人となっても変わらない。一流企業の肩書きを使い、様々な女と一夜限りの関係を楽しんだ。
その大企業の会長から直々に、孫娘との縁談の話が持ち上がったのがつい2ヵ月ほど前。
正直願ってもない話だった。相手は大企業の令嬢、結婚が決まれば将来は安泰、金も地位も思いのまま。―いわゆる逆玉というやつだ。
何でも偶々会社に来た時に見た自分に一目惚れし、祖父である会長に強引に頼み込み今回の縁談を実現させたらしい。
縁談はあっという間に纏まった。相手への感情などは二の次だった。
彼女の名は福永皐月(ふくながさつき)。年は自分の5歳下。決してスタイルが良い訳ではなかったが、艶やかな黒髪と白い肌が印象に残った。
そして、祖父が彼女に贈ったという屋敷―その偉容さからいってこう呼ぶのが相応しいだろう―での彼女との生活が始まった。
程なくして、その生活は破綻する。
彼女はれっきとしたお嬢様ではあるが、甘やかされて育った、ということは全く無い。炊事でも洗濯でもおおよそ良妻賢母の務めは全てこなした。
しかし、何度言っても敬語で話すことを止めず、家の中では常に和服を着る。それが、家の伝統。そう言われた。
元々金目当てだったのもあるが、奔放に生きてきた自分にとってはそういった伝統や形式といったものは何よりも我慢ならなかった。
何かにつけいちいち敬語を使われると、その度不快感を覚えた。
元々金目当てだったのもあるが、やがて会話するのも煩わしくなり、家にいる時間は確実に減ってゆく。
性交渉は新婚初夜の1度だけ。処女であったので最上級に優しく抱いたが、それから彼女の方から求めてくるようなことも無い。
そんなことは別にどうでもよかった。
これは金の為、自分の為だけの結婚。彼女がどうなろうと関係ない。
そのはずだった。
そのはずだったのに。
1週間近く家を空けて帰って来た時、激しい罪悪感の様なものが胸をえぐった。
食卓に置かれたまま冷たくなった夕食をみて、心が苦しくなった。
他の女を抱く時にも、彼女の顔がちらついて行為に集中出来ない。あれほど派手だった女性関係は狭くなり、付き合いがあるのは1人だけになった。
最近ではもう、ふと気付くと彼女のことを考えてしまっている。何人もの女と付き合ったが、こんな感情は初めてだった。
直接会ってこの感情を話すことが憚られた。なぜか申し訳なくて、顔を合わせることができない。
会社が終わると、家には帰らず適当なホテルに泊り、特に何もせず無為に朝を迎え、そこから出勤する。
そんな、傍から見ればおよそ馬鹿げたことを毎日のように続けた。
そして今日、事は起こった。
久々に家に帰って来た夕方、彼女はいつになく深刻な顔で出迎えた。
『信哉さん』
『...何だ?』
会話するのは5日ぶりだ。
『昼間あなたの部屋を掃除してたら、こんな物を見つけました』
差し出されたのは1枚の写真。写っているのは、俺と・・・いわゆる浮気相手の女。
『どういうことなんですか。ちゃんと説明して下さい』
『どうってことはない。皐月には関係無いことだ』
『ふざけないで下さい!』
突然、激しい怒りを露わにする。彼女がこんな風に感情を表に出すのは初めてで、少し面食らった。
『おかしいです。毎日毎日帰っても来ず、連絡もせず。
挙句の果てに、他の女の写真が出てきても関係無いなんて...こんなの絶対おかしいです!
夫婦なんです...私もっと信哉さんのこと知りたい、分かり合いたいのに...
こんなの...ひっく...まるでもう他人じゃないですか...
こんなの...夫婦じゃ...ないです...おかしいです...絶対...っく...』
言葉にならず、嗚咽を漏らし続ける。
寄り添ってやりたかった。髪を撫でてやりたかった。だが、口から出たのは拒絶の言葉だった。
『...そうかよ。
じゃあ、本当に出て行ってやるよ。お前の言う伝統とやらにも嫌気が差してたんでな。丁度いい機会だ』
『!待って、待って下さい!お願いです!』
『放せよ!』
縋りつく腕を乱暴に振り払う。
『待って下さい!待って...お願いです...おね...がい...で、す...から...』
泣き続ける彼女を無視し、荒々しく扉を開ける。ガレージに行き、全速で車を発進させる。
胸の奥では罪悪感が燃え続けていた。
なぜ、こんな事になったのだろう?ぼんやりと考える。
変に拒絶するような態度を取らなければ良かったのか。いくら考えても答えは出ない。
伊達に大勢の女と遊んでいた訳ではない。女が取り乱すのは見慣れている。この程度の修羅場は何回も経験しているのに。
去り際の泣き声が頭から離れない。どうしようもなく苛々する。
・・・くそっ!
やがて、ある高級マンションの前に付く。慣れた足つきで階段を上り、目的の部屋のインターフォンを鳴らす。
「はい〜?」
「俺だ」
「あ、信哉?待ってね今行くから」
ノブがガチャガチャと回され、こざっぱりとした印象のやや長身の女性が顔を出した。
名前は岡部香央里(おかべかおり)。大学時代からの腐れ縁で、今では唯一の浮気相手、そしてあの写真の女。
「どしたの?連絡もなしにいきなり」
「...せろ」
「え?」
「やらせろ。今、イライラしてんだよ」
「へ?あ、ちょっと、ちょっと待って!」
抵抗を抑え込み、玄関の床に無理やり押し倒す。服の上から、乱暴に胸を揉む。
皐月のは、こんなに大きくはなかったな。
そこまで思いついてはっと気付いた。俺は何故こんな時でも、あいつのことを考えている?
しかし一度脳裏をよぎると、思いは濁流のように押し寄せる。
一度だけ抱いた夜の記憶が鮮明に蘇る。上気した、雪のように白い肌。不安げな黒い瞳。
不安で押し潰されそうだから、ずっと手を握っていてほしいと言った時のこと。
皐月。皐月。皐月。・・・
「皐月っ」
しまった、と思った時にはもう遅かった。・・・思わず名前を口にしてしまった。
「あ...」
躊躇した隙に香央里は俺の体から逃げ出し、口を開く。
「はぁ、はぁ...ねぇその皐月ってさ、アンタの奥さんの名前でしょ...一体何があったの?ちゃんと話してよ」
洗いざらい、全て話した。言い争いをして家を飛び出してきた事。
会話が煩わしくて、家に寄り付かなくなった事。それなのに、彼女を忘れられない事。
2つ年上のせいもあるんだろうか、この人には何もかも話してしまって良い気がした。
「...おかしいんだよ。さっきだって、最中なのに、あいつの...顔が思い浮かんで、思わず声に出しちまった。
正直こういう気持ちは初めてなんだよ、どうしたらいいか分かんねえんだよ...」
そこまで話すと、彼女はしばらく呆けたようにしていたが、やがて大きな溜息をつき、
「アンタねぇ、バカでしょ」
「...何だと?」
「バカって言ったのよ、バカって」
「何の理由があって―」
「好きなんでしょ、彼女のこと」
予想は付いていた。自分の感情がそう呼ばれる類の物であることは、なんとなく。
「好きっていうか、もう完全に恋しちゃってるわね。
大体ねえ、他の女としてる最中にその子の名前を呼んじゃうってねぇ...。どう考えてもその子のこと好きなんじゃない。
そんで、好きで好きでたまらないからわざとつれない態度をとっちゃうーって感じ?中学生並ね」
好き勝手に言われて、流石に怒りが湧いて来た。
「そりゃなんとなく気づいてたよ、そういう気持ちだってことは」
「じゃーもう素直に言っちゃえばいいじゃない、あなたが好きですだから仲直りしましょう―って」
「...今更言えるかよ!今までずっと拒んできたのに...」
「アンタねぇ、今まで散々女と遊んで来たんじゃないの?それともそういう話は全部嘘だったわけ?」
「嘘じゃない」
「だったら!女の扱いには慣れてるって、偉そうに言ってたじゃない。ちゃちゃっと素直に謝って、仲直りしてきなさいよ。
私なんか捨てちゃって構わないわよ。
それに...アンタら、夫婦なんでしょ。だったらなおさら早い方がいいわ、こういう亀裂を修復するのはね。
こちとら、その辺に関しては割とマジに辛い経験してんだからね?これは忠告よ」
彼女の言葉に、俺は思わず黙り込んでしまった。彼女は離婚経験者だ。・・・確か4年ほど前だと言っていた。
・・・俺は、皐月が好きだ。愛している。それは間違いない。今やっと、はっきりと気付いた。
だが、不安が残る。
もし、許してもらえなかったら。拒絶されたら?
「...今からでも、遅くはないのか?」
「大丈夫。まだ修復可能よ。でも、あと一歩遅かったら多分まずかったわね。手遅れになる前にこういう機会があって良かったわねぇ」
自分の気持ちを伝えよう。例え許してもらえなくてもいい。
・・・それが、こんな自分でも。夫として、妻にすべきことだろう。
「香央里」
俺は彼女に向き直った。
「はいはい」
「別れてくれ」
「えー、どうしよっかな〜」
「…………」
「そだ、手切れ金とか要求しちゃおっかな〜♪ 家、すごいお金持ちなんでしょ?」
「...おい」
「冗談よ。でもね、1つ条件があるわ。...幸せになりなさいよ?
もし、またノコノコ私の前に現れたりしたらその場で殴り殺すからね?分かった?」
「分かってるよ」
立ち上がり、玄関へ向かい、脱ぎ散らかした靴を履く。
「くどいけど、幸せになりなさいよ。...私の分までね」
「分かってるって。じゃあな」
少しだけ寄り添い、最後の抱擁を交わす。
「さよならだ。楽しかったからな」
そして俺は扉を閉め、妻の元へ向かう。
信哉が去った後、香央里は玄関でしばらく立ち尽くしていた。
(あ〜あ、行っちゃったか。またいい男見つけなきゃな)
靴を揃え、飾ってある花を少しいじる。
(それにしても奥さん、あんなに惚れられちゃうなんてちょっと妬けるわね。バカだったけど、割といい男だったのかもな...)
不意に、涙がこみ上げた。遊び、だと思ってたのに。
「バカ...」
しばらくの間、少し泣いた。
屋敷に向かい、全速で車を飛ばしながら考える。俺はいつから彼女が好きになったのだろう。
体を重ねた時からか。帰りが遅くなっても、きちんと夕食を作って待っていてくれた時からか。あるいは、初めて出会った時からか。
しかし、そんなことはどうでもいい。今の俺に出来ることは、ただこの思いを伝える。それだけだ。
スピードを上げつづける車とは対照的に、心はどこか晴れやかだった。
いちいちガレージに入れる時間が惜しい。車を屋敷の前に止め、中に入る。鍵は掛かっていなかった。
入ると、料理のいい臭いが空腹を突いた。こんな時でも、こんな俺なんかを、食事を作って待っていてくれたのか。
改めて、激しい罪悪感が胸を焦がす。
彼女はそのテーブルの上に、突っ伏すように眠っていた。
恐らく泣き疲れてしまったのだろう、顔には幾筋もの涙の跡が見える。
「皐月」
声をかけ、そっと揺り起す。
「ん...しんや...さん?」
「...皐月」
「...出て行ったんじゃ、なかったんですか。あの、写真の人の所に、行ってれば、いいじゃ、ないですか...」
「違うんだ。あの人とはたった今別れて来た」
「...え?」
「許してくれ。俺はバカだった。
素直になれなくて、今までずっとひどい態度ばかり取ってきてしまった。
でも、お前に言われて、頭を冷やして、やっと気付いたんだ。俺はお前を心から愛している。
言葉も、服装も、お前のありのままでいい。
これからの人生を、お前と共に生きていきたい。
名前だけの関係じゃなくて、もっと心から分かり合えるようになりたいんだ。
だから...お願いします。俺と、夫婦になってくれ!」
あまりにも遅すぎるプロポーズの言葉と共に、頭を下げた。
これまでの人生で恐らく最も長かった沈黙が続いた後、やがて言葉が掛けられる。
「...信哉さん、顔を上げて下さい」
何を―と思い顔を上げた瞬間。乾いた音が響き、頬に鋭い痛みが走った。
平手打ち、された。気付くには数秒を要した。
「許してあげます!」
そう言い放った顔には笑顔が浮かんでいた。そういえば、彼女のこんな表情は久しく見ていない気がする。
「それと、その、私も謝ります。
ずっと信哉さんと分かり合いたかったのに、臆病で...自分から話しかけること、しませんでした。
ごめんなさい。それと、その、私もちゃんと夫婦になりたいです...信哉さんと」
「ああ、一生、一緒だ」
俺たちはどちらからともなく抱き合った。彼女の温もりが、何よりも愛しい。
「そうだ信哉さん、ご飯食べましょう?お腹、空いてるでしょう」
タイミング良く、俺の腹が鳴った。
それがあんまりおかしくて、2人で笑い合った。
夕食は旨かった。こんな料理を食べす、毎日のようにコンビニ弁当で3食を済ませていたことを後悔する。
食べている最中、思わず涙が流れた。皐月はそれを母親のように服の袖で拭いてくれて、それがまた幸せだった。それに―
「ほら、信哉さん。あーん」
テーブルから身を乗り出し、煮付けを載せた箸を俺の眼前に持ってくる。
「...それを食べるのか」
「い、いやあのっ!私、ずっと信哉さんにこうしてみたくて!
...ダメ、なんですか?」
主人に叱られた子犬のように、しゅんとなってしまう。―反則だ。そんな仕草をされて、断れる男などいない。
「頂きます」
ぱくっ、と食いつく。やはり最高に旨い。
「美味しいよ。...ほら、今度は俺がやるよ。あーん」
今までの俺からは想像もつかない台詞だったと思う。だが夫婦になったんだ、これ位はいいだろう。
「へっ!?あ、ありがとうございます!あむ、ふふ、嬉しいです...」
結局、2人が食べ終わるまで、ずっと食べさせ合ってしまった。
何よりも穏やかで満ち足りた時間。今まで生きていて、最高に幸せだった。
皐月が沸かしてくれた風呂から上がり、喜びと幸せを噛み締めながら寝室に向かう。
部屋に入ろうとすると、突然腕を掴まれる。
「皐月?どうした?」
「そ、そのっ、そのですねっ!な、仲直りのしるしに、その...」
俯いた顔は、見たことも無いほど真っ赤に染まっている。
「その、お願い、します。...抱いてください...」
最後は消え入るような声で懇願する。
俺はそんな彼女を抱き寄せると、唇を重ねた。
「もちろん...喜んで」
あらかじめ敷いてくれていた布団の上で彼女を待つ。何故か、初めての時の様にひどく胸が高鳴った。
やがて姿を現した彼女の濡れた髪が、色気を持って揺れる。
「...し...信哉っ...さ...」
「おいで」
おずおずと、伸ばした手の中に収まろうとする。が、ふと動きを止め何か少し考えるような顔をすると、布団の傍に正座した。
「あの...改めて。...ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
そして頬を染め、深くお辞儀をした。俺はそんな彼女が、愛しくて愛しくてたまらなくなって―
「きゃあ!」
思いきり抱きつき、布団に引き込んだ。
体を強張らせる彼女を安心させるように、濡れた髪を撫で、小さな唇についばむようなキスを重ねる。
同時に、体全体をやわらかく、いつくしむように愛撫していく。
力が抜け、吐息が熱くなるのを見計らい、ゆっくりと寝間着を脱がした。
一糸纏わぬ姿の彼女は美しい。月並みな表現だが、新雪のような。本当に、白く美しかった。
すらりとした足。細いながら、わずかに女性らしい丸みを帯びた腰のライン。
大きくはないが形が良く、少し血管の青が浮き出た乳房。
初めての時は単に綺麗だとしか思わなかったが、彼女への愛情をはっきりと自覚すると、これほどまでに美しく見えるのかと思った。
「...そんなに見ないでください...恥ずかしいです...」
可愛らしい抗議の声を無視して胸に手を伸ばし、そっと揉みしだく。彼女の口から小さな悲鳴が漏れた。
「や、や、ん...はぁ...」
柔らかで、それでいて確かな弾力を持った感触。その感触が、少しずつ理性を壊していく。
ぴんと張りつめた先端を口に含むと、彼女の体が震えた。
「だ、だめです...っだめ...」
「どうして?」
少し意地悪に聞く。
「だ、だって...なんか変な声が...」
「構わないぞ...もっと出して欲しいくらいだ」
「え?あ、あん、あ、はぁ.........っ!」
先端への力を強め、同時に秘部への愛撫もゆっくりと始める。
始め微妙な湿り気しか帯びていなかったそこは、やがて粘りを帯びた雫を溢れさせ、その雫をつっと布団に垂らしてゆく。
「や...ぁ...あん、あう........はぁ...うう...ん...信哉、さん...」
彼女は押し殺すように嬌声を上げつつけていたが、ふっと糸が切れたように胸に倒れこんできた。
「本当は...」
「?」
「本当はもっと、いっぱいこういうこと、したかったんです...
初めての時、すごく優しく...その、してくれて...私、忘れられなくて...
でも、私、勇気、ないから...したいって、ずっと、いえなくてっ!
信哉さん、話かけてくれなくてっ、私、怖くてっ、ずっと勇気なくてっ!
ひとりで、慰めても、満たされなくてっ!
だから今、こうしてること...すごく嬉しい...嬉しいです...えっく...うれしいよぉ...」
最後は言葉にならず、涙を流し続ける。
「ごめんな、今までずっと...もうそんな思いはさせない。この場で誓うよ」
「信哉さん、信哉さん...っ...うわああああああんっ」
俺はただ泣き続ける彼女を、じっと抱きしめ続けた。
彼女が泣きやむのを見計らい、そっと声をかける。
「...そろそろ、いいか?」
「...っ...はっ...ご、ごめんなさいごめんなさい!私ったら、何て...」
「いいんだ。気にするな。...それよりいいか、そろそろ」
彼女の顔が股間に向けられ、すぐにさっと朱に染まる。
「優しく...して下さいね?...慣れてないので...」
「大丈夫だ...任せておけ」
少し躊躇ったが、すぐに思い直した。そして、高ぶった分身を彼女の秘部にゆっくりと押し当てる。
「.........つっ...う........」
「...平気か?」
初めてではないといえ、長い間男を受け入れることのなかった体。苦痛は避けることができないはずだ。
「...へいき、です...来て、ください...」
「すまない」
「謝らないで下さい...私が、望んだんです...だから、おねがい、します」
布をきゅっと握り、痛みを堪える彼女。・・・その気持ちには、答えなければならない。
ゆっくりと深く挿入していく。苦しみを和らげるため、最中はずっと髪を撫で続けた。
皐月の秘部が分身をきつく締めあげ、思わずこみ上げた射精感をこらえた。
「ん...はぁ...っく...ひとつに、なったんですね...」
「そうだな...」
互いに結合部を見つめ合う。初めてではないのに、不思議な感慨が湧いた。
「...いくぞ」
「...はい。きて、ください」
始めはゆっくりと、徐々に激しく、自らの分身を打ちつける。
その間にも、乳首や首筋、背中を思うままに愛撫し、深いキスを重ねた。
「ああっ...つうっ...信哉さん、しんやさんっ...」
「.........皐月っ!」
「っあああああああっ!!!しんやさんしんやさん...きもち、いいよおっ.........」
思うより遥かに早く絶頂がやってくるのを感じ、少し慌てて彼女から体を引き離そうとする。
が、彼女は息も絶え絶えながら、きつく抱きついて離してはくれなかった。
「...皐月?」
「...いいんです...私、信哉さんの、こども、欲しいの...だから...」
・・・この言葉で、理性は完全に飛んだ。強く抱き返し、互いに激しく体を打ちつけ合う。
「ああっ!信哉さん、...っあああああああっ!!!もっと、もっとぉ!きてぇっ!」
「つうっ...っ!」
我慢が利かなくなってしまった。
俺は熱い迸りを彼女に注ぎこみ、強く抱きしめる。
「信哉さん、す、き...っ...だいすき...」
「俺も...愛してるよ...」
彼女は疲れからか、そのあとすぐに眠ってしまう。俺も、髪を撫で続けながら、深い眠りに落ちた。
朝の光が差し込んでいる。そして隣には、温かい感触。
「ん...」
「あ...おはようございます」
「ああ...おはよう。...何してたんだ?」
「ふふ...信哉さんの寝顔、見入っちゃいました。可愛いんですもん」
「...やめてくれ...恥ずかしいだろ」
起き上がり、軽く目覚めのキスをしてやる。
ふと、ある事を思いつく。
「なあ、今日は2人でどこか行こうか。どこでも連れてくぞ」
「ええっ?いいん、ですか...?」
「仲直りの記念だ。仕事は1日くらい休んでも罰は当たらんだろ...それで、どこへ行きたい?」
「えーと、ううん...」
ちょっと、けれども真剣に考え込んだ後。
「やっぱり、信哉さんと一緒なら...どこでもいいです」
「.........」
「あ、今のなしですっ!忘れて、忘れて下さいっ!...そうですね、海の方がいいです」
「海か...ちょっと季節外れだが、江の島あたり行くか?」
「行きます!行きましょう!」
子供のようにはしゃぐ彼女。そんな姿は、心を躍らせた。
「夜はどっかのいいホテルでも行こう...欲しいんだろ、子供」
その言葉で、顔にさっと朱が射す。
「やだ...もう、信哉さんったら」
「冗談だ」
「嫌いです、信哉さんなんて」
手を握り、髪を撫で、なだめすかせる。下らないやりとりだが、なんとも言えない幸福感を感じた。
愛する妻に向き直る。
「...なあ」
「どうしたんですか?」
「幸せになろうな」
始めきょとんとしていたが、満面の笑顔で頷いてくれた。
「はい。...もう浮気しちゃダメですよ?」
「...最大限努力するよ」
「その、子供も、いっぱい欲しいです...2人じゃ広すぎます、この家」
「そうだな、幸せになろう」
幸せになろう。・・・その言葉を何度も何度も反芻する。
この先、何があっても大丈夫。根拠はないが、確かにそう感じた。
俺たちには絆がある。
夫婦という、永遠の・・・八千代の絆で結ばれているのだから。