「おまえのって見た目より柔らかいのな」  
 この前の仕返しとばかりに俺は後ろから手を差し入れると、野生動物的幼なじみ様のそれに触れた。  
「やっ……、やめなさいよ!」  
「やめなーい」  
 両手が塞がっている上に俺の両腕にはさまれて身動きできないことをいいことに、思う存分感触を楽しむことにする。  
 あまり外気にさらされていないからか、どことなくしっとりしていて、指によく馴染んだ。  
「ん、ふ……くすぐったい」  
 けれど脂肪だからだろう接している背中より冷たくて、まるで別の生き物をなぜているみたいだ。  
 薄く生える産毛までわかる。  
 指の腹を使っては丁寧に、短く切っておいた爪の先では念入りに輪郭を何度も渡る。  
「だから、う……くすぐったいってば!」  
「ふぅん?」  
「人より優位にたってるからって偉そうにしちゃっ――あっ」  
 上の方にあるコリコリとしているところを人差し指がひっかけると、身体がわずかに跳ねた。  
 触れているところはルームウェアから覗く首筋よりも白いことは見なくても知っている。  
「だって我慢できないし」  
 もう二週間もしてない。  
「そんなしょっちゅうしなくても」  
 
 微妙な凹凸に合わせて指に力を加えると、鼻にかかった音が漏れる。  
 じらすみたいに優しくもみほぐす。  
 背中から伝わる声の振動と鼓膜に伝わる声の振動が心地いい。  
 右手は柔らかな感触を楽しんで、左手は指の隙間から逃げようとする突起をこねた。  
「ホントはして欲しいんだろ」  
「そんなこと……ないし」  
 弱い反論は意味がない。その証拠に参考書を開いて、ペンを握っていた小さな手は力なくなげだされているから。  
 見えないだけで表情だってきっと。見えないのもときにはいいな、自由にできる。  
「さきっぽだけだから」  
「さきっぽって……」  
「ちょっとだけだから」  
「……ちょっと?」  
「許してくれるならいっぱい」  
 あっさり覆すとふきだされた。  
 それを合図に小さな身体を持ち上げて膝へ乗せる。  
 顔を覗き込むと呆れたと言うようにため息を吐かれた。  
「ヘンタイ」  
「ヘンタイでーす」  
 いそいそと準備をはじめる俺にさらに言いつのってくる。  
「まったく何が楽しいんだか……耳たぶいじるの」  
「耳掃除は男のロマン」  
 愛用の耳かきでポーズを決めた。  
「……普通逆じゃない?」  
 
 
完  
 

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