「これでも食べて元気だせば?」
私はそういいながら、ほかほかと湯気をあげる親子丼をテーブルに置いた。
目の前には無駄にでかい身体をこれでもかって縮めたお隣さん。
「今度こそ、今度こそ俺の運命の人だと思ったんだ……」
「それ今年だけでも三度目なんだけど」
「言うなああああ!」
叫びながらご飯を掻き込むなんて器用なことをしているこいつは、振られるたびに私の親子丼を食べたがる。
毎回最後の一粒が無くなるまで愚痴やら泣き言やらを聞いてあげるのが通例になってだいぶたった。
「――ふー。ごちそうさま。やっぱりお前のが一番旨いな」
当たり前でしょ。そう応えそうになって、うつ向きながら綺麗になったどんぶりを手にした。
ご飯の炊き加減もダシの甘さも、卵の半熟の割合も玉ねぎの細さまで好みぴったりなんだから。
「……何回作ったと思ってるのさ」
親子丼以外の好みだって、それこそ女の趣味まで嫌ってぐらい知ってるし。
「きっつー。でもありがとな」
「これで最後にしてよね」
何で私が覚えてるか気付きもしない鈍感には難しいだろうけど。
「早く気づけよバカ」
「何か言った?」
「……何にも」
完