……幼なじみという関係が自身の黒歴史を暴露する可能性があることは、
前回の話から十分わかってもらえたと思う。
だがそれは、裏を返せばこちらが相手の弱味を握っているということでもあり、
同じことを相手にしてやることだってできるわけである。
そう、例えば、
「飛鳥は山はあんまり好きじゃないんだ。小さい頃一回迷って帰ってこれなくなったからな」
「ちょっと隆文、何をいきなり言いだすんだ!」
クラスメイトと昼食をとってる最中、山と海のどちらが好きかという話になったとき、
前回の意趣返しとして俺は先に答えたのだった。
「どうしたんだよ、そんなに慌てて。俺が何かしたか?」
「ひ、人の恥ずかしい過去を掘り返す真似は止めてくれ」
「いいじゃねーか別に。一向に話に交ざらない飛鳥が悪い」
……ふふ、前回とは立場が逆になったな。
飛鳥は冷静な、しかし厳しい目付きで睨んでくる。
ま、俺は全然気にならないけどな。勝者の余裕さ。
「……えーと、だったら栗栖さんは海のほうが好きなのかな?」
俺と飛鳥の間に漂う険悪な雰囲気を気にしたのか、一人が話題を振ってきた。
「いや、海も「海もあんまり好きじゃないだろうな
小学生のときに溺れかけて以来、行こうとしやがらねーし」だからそういう話は止めてくれないか?」
もう一度先に答え、ついでに恥ずかしい思い出も付け加えてやる。
友人達の意外そうな表情の前では、さすがの飛鳥も精神的にきつかろう。
さぁ、大いに恥ずかしがれ!お前も俺と同じ気持ちになりやがれぇ!
「……まぁ、でも。隆文には感謝してるよ」
「……え?」
静かに箸を置いた飛鳥に、しんみりと礼を言われた。
その瞬間、何となく負けが確定したことを認識してしまう。チクショウ。
「それにしても間宮くんって、栗栖さんには昔から優しいのねー」
「確かに。幼なじみの絆は固いってか?」
「それにしてもずいぶん気にかけてるじゃん。よっぽど気になるんだな」
「それだけ栗栖さんのことが好きなんでしょうね、色々な意味でね」
机に突っ伏す隆文を横目に、クラスメイトが口々に感想をこぼす。
そうした言葉が何だか嬉しくて、やっぱり表情がほころんでしまう。
「まぁ、私は大事にされてると思うよ、本当に」
本当に、そう。
ここで話したことは、私にとっては大事な思い出なのだ。
私が山で迷ったとき、彼は傷だらけになりながらも私を見つけてくれた。
私が海で溺れたとき、彼は浮き輪を手に泳いできてくれた。
私はいつも彼に助けられている。
そのことがちょっと申し訳なくて、でもやっぱり嬉しくて。
大事な記憶を話したせいか、何だか顔が赤くなった気がした。