小学校の同級生が、右手にYシャツ左手にクリームパイを持って襲いかかってくる。
(……はっっ!?)
夢だった。
目を覚ますとなぜだか右腕を腿ではさみ込むような体勢で、手首から先がしびれていた。
枕元の水のボトルを体が欲したので、電気もつけずにまさぐる。
「ひゃっ!!」
……ひゃっ? だって?
何かをつかんだようだが、眼鏡がないのでよく見えない。すべすべしている。
さわり心地がいいのでしばらくなでてみる。でもボトルと違うので離す。それより水だ。
「あふっ、あのぅ……」
暗いこの部屋にどうも自分以外の誰かがいるようだ。怪しからん。
飛び起きるや否やぼう、と白く浮いている誰かに詰め寄る。
近寄らないと、裸眼ではよく見えないからだ。
「わわああああのっ」
顔を近づけると、人の眼鏡を勝手にかけているその人物。やぶ睨みされビビっているようだ。
胸元に抱えている、これも枕元に置いておいたはずのペットボトルを取り返す。
いったいどういう積もりだ?
「は、はい……?」
いろいろ聞きたいことがあるが、まず眼鏡を返せ。
しぶしぶといった表情でその人物は、おずおずと外した眼鏡を差し出した。
話を聞いてみると、この人物、死神らしい。枕元に鎌を持って立ってるというアレだ。
人畜無害そうににへらぁ、と笑う白いワンピース姿のこの少女がそうである……とはにわかに信じ難いのだが。
「ごりかいいただけましたか?」
無理。
近いうちに死ぬ予定もないのに、そんな悟りが開けるか。
「こまりました……」
お互い様だろうが……下手に追い出して騒がれて、未成年者略取とかあらぬ疑いをかけられても面倒だ。
「いえ、わたしはほかのひとには、みえないしきこえないとおもいますよ」
そう言うと、死神はおもむろに壁を殴った。
ばっ……派手に響いたようだが、あいにく隣は空き部屋なんだよ。
あーあ、うずくまって涙目になるくらいなら、やめとけってのに。
「うううううぅ〜」
擦り傷になってないようなので、冷凍室からカップのかち割り氷を出して冷やしてやる。
少し笑った。