ふと気がつくとド○え○んの四次元空間のような場所に浮かんでいた。しかも裸で。股間のものが何気に立っていた。  
でも勘違いするな。俺は決して露出狂じゃないよ。  
慌てて服を着ようとするが、辺り一面紫と赤と黒が混じったような景色ばかり。服ばかりか身を隠すものすらない。  
とりあえず落ち着いて考えてみる。5分間くらい無駄に暴れた後。  
(えっと・・・最後に覚えていることといえば・・・)  
 
―――赤。それも血のような鮮やかな赤。  
     それが目の前にいる18程度の女の子に握られた銀色の物から雫のようなものが垂れ落ち、俺の赤くなった腹あたりに落ちていく。  
     その雫とは関係なしに俺の腹についている赤はどんどん広がっていた。  
 
―――銀色の物を目を凝らして見た。  
     ・・・ナイフだ。  
 
―――あぁ、また血のような赤色が俺の腹の上に垂れ落ちてくる。  
     いや、「血のような赤色」なんかじゃない。「血」だ。  
 
「―――!?」  
記憶となった恐怖と痛みが、今一度戻ってきたように感じた。  
ついつい腹を見てみると――傷や血の跡なんてなかった。  
(・・・傷がない?)  
おかしい。記憶では腹の赤はどんどん広がっていた。ということはアレだ、動脈が切れていたんだろう。  
だが、動脈が切れるほど深くまで刺されたのならば、後遺症・・・とまでは言わないが、傷くらいは残るんじゃないか?  
思考・・・とはいっても記憶からあの出来事の前後、数週間にあったことを思い出そうとするが、思い出せない。  
それどころか、更に重大な事実が判明する。  
 
「・・・俺、なんて名前だっけ?」  
 
そう、自分の名前が思い出せない。記憶にある友人の名前は思い出せる。山田くんとか佐藤さんとか。  
自分の名前を呼ばれた記憶を思い出そうとするが、その俺の名前が聞こえない。  
いや、「聞こえて」はいるんだが、そこだけ小声で「ゴニョゴニョ」言ったように聞こえる。  
耳をすまして(?)聞こうとするが、どうしても聞こえない。というかなんか目の前がとっても白くなってきたよ、  
ああもう疲れたよ○ト○ッ○ュ・・・お花畑が見えてきた・・・  
 
 
 
・・・危ない危ない、トリップしていたようだ。  
 
再び試行錯誤。手を動かす。もちろん動く。顔や足も試す。動いた。どうやら関節はすべて動くようだ。  
次は体をひねってみる。体全体を右に向かせる。  
・・・向かせようとした。だが下半身が後ろを向くだけで、上半身は前を向いたまま。俺の首は硬いので真後ろを見れない。  
足をジタバタして触れるものがないか試してみる。透明な物なんぞ普通ないから成果なし。いや、この場所は普通じゃないけどさ。  
 
 
「やることがない」  
試行錯誤開始後約5分。  
周りの景色も何も変わらず、ただここは重力が無く宇宙空間のような場所だと分かった程度。  
空気はあるのかどうか分からない。でも生きているから酸素はあるんじゃないか?  
 
さて、男性は一人&暇というコンボが成立すると妄想する奴がいるもんですよ、よく。こいつも同類です。  
(ハッ、まさか刺されたあの後、悪の秘密結社に拾われてついでに兵士にするため改造中、性格や記憶を消されている途中なのか!?  
 それとも神か宇宙人かが俺の目の前に光臨して、力を授けてくれるのか!?  
 いや、もしかするとこのまま謎の空間に永遠に漂ったままなのか!?  
 ああっ、早く真実を教えてくれーッ!!)  
コイツはその中でも厨っぽい妄想をするタイプです。誰でも夢を見るものです。  
 
「遅れたわ。手続きが時間食ってね」  
 
――!?  
 
うん、声から予想したとおりガキ。女の子。多分10歳弱くらい。でも姿勢がなんか大人っぽいぞこいつめ。俺より小さいくせに。  
目の色は赤だが、髪の毛は白。さすがにお肌の毛は黒の模様。あれ、体毛って髪の毛の色と同じじゃなかったっけ?  
俗説的な死神のつける裾の切れたローブを付けているんだが、その色は髪の毛と同じく白い。普通黒じゃないのかよ、死神は。  
あれ、似た奴をどっかのゲームで見かけた気がする。確か某同じn「ほら、もう行くわよ」版権ものの思考は見事にカットされた。  
死神――見た目は少女、中身は死神♪――は俺の腕を引っ張ってまさに引きずりながら(摩擦無いけど)どこかへ連れて行く。  
「こら、どこへ連れて行く」  
「狭間」  
・・・どっちかっていうと無口な部類に入る奴のようだ。ということは、こいつは会話する気ないのか?  
「会った直後にまともな雑談やら会話やらせずにするということは、もしかして俺のコト嫌いなの?」  
「うん嫌い」  
うわ本気で会話する気ねえなコイツ。なんか逆に話をしたくなったぜ!!  
「あのさあ、もしかして狭間を渡るって、いわゆる"転生"するってこと?」  
少女はため息をつきながら振り返る。だが引っ張って連れて行くのはやめない。後ろ向きながら進む、つまり後ろ歩き。  
「もちろん。輪廻転生させるって言ったでしょ?頭悪い奴ね」  
心底から嫌そうに話す。マジで嫌いみたいだ、コイツ。  
「・・・ってことは、もう俺はある意味終わりってコト?」  
「魂の本質は変わらない。だから終わりではない。宗教でもやって悟ったら終わりに行くことは可能ではあるけどね」  
・・・  
「・・・あのさぁ・・・」  
「黙りなさい」  
「嫌だ。お前に命令する権利などないだろうが」  
「そんなこと言っちゃって、あんたにも無いでしょ?」  
「俺は命令などしてないが?」  
「・・・」  
よし、頭悪いとか言ってきやがったが、コイツもあまりいいとはいえないようだ。少女は黙って俺を引っ張る。  
 
「頼みがある」「嫌だ」  
うわ即答。というかフライングだよ、二回目にしたやつは失格だよ。  
「まだ死にたくない。無念がある。大有りだ」  
「とは言っても、あんたは死んでいる。肉体も生体エネルギー切れで完全に死んでたし、もう火葬されている」  
「・・・」  
会話中でも問答無用に引っ張ってゆく少女。死神とはいえ、もっとガキっぽくしろよ。  
「・・・まだ死にたくない。未練がある」  
「同じことを二度も言わせないで。だからあんたは死んで――――」  
「それは聞いた。でも俺は生きることに未練があるんだ。  
 愛やら家族やらとは言わないが、なにかやり残したことが、な」  
俺としては名言、会話の鍵になりそうな事を言ってみたにもかかわらず少女は振り向かずに答える。多分さっきの事根に持ってる。  
「if―――もしあんたが生き返っても―――あんたを刺した彼女を見かけた瞬間、憎悪が湧き上がって、首を絞め殺したりするんじゃないの?」  
 
―――――!?  
 
「あー・・・失言だったわ。記憶班の仕事増やしちゃったじゃないの。こりゃどやされるかな・・・」  
 
――ああ、思い出した。  
    俺はおとなしく、図書館の本を読んでいるような彼女を学校帰りに見かけ、一目惚れ、  
    積極的にアピールし、デートに誘うことはできたが、俺の欲望が早急すぎて  
    彼女を強引に人のいないところに連行。彼女が嫌がっているのにもかかわらず、  
 
 
 
 
    俺は彼女を犯した。  
 
――それはもう性交は性交でも強姦だった。  
    しかも俺は終わったあとに後悔なんてせず、むしろ快感の余韻を楽しんでいた。  
    気絶した彼女が起きたあとも、一言もしゃべらずに――まあ話しづらくて当然だが――俺は謝らなかった。  
    余韻におぼれ、次は彼女をどうしようか、なんてことまで考えていた。  
 
    懲りずに、俺は彼女を二回目のデートに呼んだ。  
 
    驚いたことに――そのときは俺はほとんど罪悪感なんて感じてなかったから驚いていないが――彼女は来た。  
    昼はデートを単純に楽しんだ。彼女も楽しそうだった。楽しそうに見えた。  
    しかし―――日落ち夜訪れ、彼女をまた人のいない場所へ連れて行った。彼女は今回は抵抗せず引っ張られるままだった。  
 
    そこで気づくべきだった。  
    俺は彼女がやりたいと思って、抵抗しなかったのだと思った。  
 
    そんなわけがあるか。  
 
    そして犯そうと彼女に近づき――――グサリ。  
 
俺は急に体を締め付けられたように感じた。それも、とても強く。  
 
 
俺はなんてことを あんなことして刺されるのはあたりまえだ 俺は馬鹿だお前は畜生だ 死神が 何か言っている  
うらんで いるああ確かに未練は うらみかも な生き返る 資格なんてな いそんなの当然  
だって人が望ま ぬことをしたのだ からああなんて ことをした んだ でも生 き返り たい  
生き返っ てどうす るんだ彼 女を殺 す痛 みを返 すああ畜 生  
殺され た殺してた殺 される殺してる殺してやる殺す殺す殺す殺す殺ス殺ス殺ス殺ス「殺ス!!」  
「ほら、ね」  
 
俺は少女の一言で正気に戻る。少女は微笑を浮かべながらこちらを向いていた。引っ張るのはとめている。  
「笑ってたわよ、最後。これから何して遊ぶか決めた時のような顔をしてね。"殺ス"なんて言いながら笑ってた」  
確かに、頬が引きつっていた。きっと少女の言うとおり、俺は笑っているのだろう。  
「ああ――確かに、俺は生きる必要なんてなさそうだ。いや、きっと生きちゃだめなんだ、もう。  
 俺は壊れている。映画でよくある人型機械のように壊れて、殺人マシーンとなっている」  
俺は、何かを超えた気がした。多分、"生きる"欲望を超えた。  
その欲望を超えた今、転生することで"俺"がいなくなることへの恐怖なんてなくなった。  
「・・・もう話すことは無い」  
「ええ」  
 
 
 
また引っ張られ始める。  
 
 
 
「ほら、狭間の穴――というか門が見えてきたわよ」  
少女の言うとおり、門が見えてきた。  
門というか、正方形のでっかい窓。というか扉とかない。  
少女の引っ張るのがとまる。  
「もう、未練なんてないんだったわよね?」  
「ああ・・・どうせ生き返れないんだろう」  
「ん、本当は生き返れる。」  
なんか嘘ついたこと告白してますよ、コイツ。嘘ついてんじゃねえよ。  
「いや、同じ体には戻れないけどさ。燃え尽きて灰になってるし。  
 似たような体を無理やり作って、記憶を消さないままその体に転生させることはできた」  
「・・・もう、話はいい。覚悟も何もとっくに決めたよ」  
 
門の前。約5m。  
「んじゃ・・・覚悟はいい?」  
「覚悟なんざとっくに決めたと言っただろうが」  
更に門の近くへ引っ張られる。  
 
――ふと、2mほど進んだところ(残り約3m)で少女――死神――が止まった。  
 
「・・・ねぇ、本当は彼女とちゃんと愛しあいたかった?」  
「何故そんなことをいまさら聞く」  
「別に〜」  
珍しく、少女から問いたずねてきた。  
 
「んで、どっちなの?」  
「どっちかっていうと・・・愛したかった。  
 人目惚れしたとき、性交したいなんて気持ちは全ッ然無かった」  
 
「ただ、純粋に愛していた。  
 ちょうど少年マンガのようなとこかな、よくあるだろ、最後は彼女と付き合って終わり、っての。  
 あんな感じで付き合いたかった。ただ、純粋に愛しあって。」  
少女は黙って聞いている。赤い目がこちらの目をのぞいてくる。  
「エロいことなんてしなくていい。子供や家族なんざいらない。  
 ましてや性交なんざしないでいい。ただ純粋に、彼女を、愛したかった」  
「・・・」  
少女は沈黙を保ったまま。  
「さて・・・この門に入ると、俺―――  
 ―――というか"俺"という人格やら性格やら記憶やらは消えちまうのか」  
「ええ」  
「門に入れろ。もう未練は無いって言ったろ」  
俺は笑う。微笑。その行為に意味するものはなかった。ただ、なんとなく微笑んだだけ。  
 
「んじゃ・・・最後に一つ」  
「しつこいな。まだあるのか」  
会話をし始めた最初のころとは逆になった。少女が質問を投げかけてくる。  
「また"彼女"と会ったら、どうする?」  
「俺は消えるんだろう。ならどうもしないさ、きっと」  
 
「へぇ・・・なら、もし消えなかったら?」  
「もし、か・・・ああ、幸せにしてやるさ、きっと」  
「フフ・・・幸せにできるといいね」  
彼女もただ笑う。微笑みをうかべながら会話をする。会話が弾んでいる。  
「あなたは転生しなければならない。  
 彼女と再びめぐり合える確率も低いし、  
 "あなた"が記憶消滅せずに生きている確率もほぼゼロ。  
 でも・・・奇跡が起こる確率はゼロじゃない。  
 そのことは覚えていてね♪」  
少女は笑う。覚えていることが消えるのに覚えていろだなんて無理な話だ。  
 
「それでは、良い生涯を♪」  
門まで約1m。近い。ちなみに俺は動けないまま。  
「んじゃ・・・またな」  
「会えることは無いと思うけど・・・またね」  
少女は何もしていないが、俺の体は少しづつ門へと近づいていく。というか吸い込まれている?  
「そうだ・・・  
 彼女にまだ謝ってなかったな。  
 ・・・ごめん」  
「・・・バイバイ」  
 
最後に少女は微笑んだ。  
 
「あなたが反省してくれてよかった」  
少女は独り言をつぶやく。  
「手続き、大変だったんだからね。  
 悪魔召喚して罠にはめて無理やり代償無しで力を貰ったり、  
 その力で天使を片っ端から捕まえて神を怒らせたり、  
 異世界の人々の力で神を無力化してこれまた捕まえて創造主を呼び出したり、  
 創造主に頼んで死神にしてもらったり。  
 
 でも、その苦労も報われた。  
 あなたの気持ちが聞けたし、  
 何より謝罪もちゃんとしてくれた。  
 私にそれで十分」  
少女、いや"彼女"は笑う。  
「私も、あなたのこと好きだった。  
 ただいくらなんでも早すぎて、私の怨みが収まらなかった。  
 それであなたをあのナイフでやっちゃった。  
 ごめんね」  
彼女は何処かへ歩き始める。  
「さて、今度は転生システムをいじって、彼を記憶そのままで復活させなきゃ、ね」  
最後に"彼女"は微笑んだ。  
 
 

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