誤月一日  
 
 
「なぁにーちゃん、あたしを死なせたりしないって言ったよね?」  
「で、なんでまだコイツが死ぬんだ? しいなは俺のとこにきたんだろ?」  
『私が巡らせた死季が残ってるからね、まぁそのうち晴れるから☆』  
 
 
誤月二日  
 
「腹減ったな、出前でもとるか」  
「いぇーい! あたしおそば食べてみたい!」  
『私は天麩羅がいいなぁ♪魂とかキョンシーとか』  
「そんなもんねーよwwwwつうかおまえも食うのかよwwww」  
『うー、だって仲間はずれみたいで寂しいのデスよぉ〜』  
「ったくwwwとぅるるうるるるるるるるる  
 あ、出前お願いします。ええ、キツネそばとてんぷらうどん、  
 それと山菜そばで、はい、んじゃお願いします」  
「wwwwwwwwwwww」  
 
「うわwマジで届いたよww」  
「そりゃ来るだろw普通w」  
『あ♪ちゃんと天麩羅が希望どーりだ!』  
「「嘘だッ!!!!」」  
 
「あうっぅ…うぐっ…!」  
「ぬぅwwwww! やべぇwwww!」  
『おいち〜♪』  
 
誤月三日  
 
 
「……はぁ、あたしそばアレルギーだなんて知らなかったよぉ…死ぬかと思った」  
「……毒草は山菜とはいわネェwwwあーくそwまだ腹イテェww」  
『今日は出前とらないんデスか?』  
「なんでゲテモノ食ったお前だけピンピンしてんだよwwwww」  
 
誤月四日  
 
「なぁにーちゃん、そろそろ世間では黄金経験週間じゃないかな?」  
「そうだがw?」  
「ネズミーランドとか後楽怨とかどっかいきた〜い!」  
『逝きましょう☆』  
「逝かねーよwwwんな金ねーよww貧乏なめんな!」  
「え〜wwwこの甲斐性なしwwヒモww引きこもりwww!」  
『場所の問題じゃないんデスよ? みこちゃんの気持ちがわからないようじゃ  
 お兄さん失格デスね、生きてる価値なし、死んだ方がいいわね、むしろ死ね☆』  
「兄失格は困るwwwwwじゃぁ………電力館…とか」  
「地元かよwwwwwwww連休にいくとこじゃねーwwwww」  
「嫌ならくんなよwww俺一人でいくよwwww」  
「あ、う、にーちゃん一人じゃ迷子になるでしょwww  
 保護者としてついてったげるわよっ!!」  
『うふふふふふ♪』  
 
誤月五日  
 
「なぁにーちゃん、あたしもうわがままいわない……」  
「ああ……」  
『楽しくなかったデスか? 私はまたあのアトラクション逝ってみたいのデスが』  
「勢いの乗った鉄球が追尾してくるとか冗談じゃないわよwwwww」  
「発電機かと思ったら、普通の自転車だったとかありえねぇよwww  
 しかも窓ぶちやぶって落ちそうになるとかどう考えてもねえだろがwww」  
『チッ』  
「あ、しーな今舌打ちしたでしょ!」  
「くそwww漏電した電気にあてられてまだ身体しびれてるしwww  
 ミニチュア発電所模型は火災した上に放射能漏らすしwww」  
『一生忘れられない思い出になりましたね☆残り短いデスけど』  
「忘れちまうぐらい長生きするぜwwwwwwwww」  
『あら、若い体の方が私の好みなんデスが……』  
「むぅwww」  
「にーちゃんwwwwwwww」  
 
誤月六日  
 
「出前はもう懲りたw」  
「でもオナカすいたぁ〜」  
『どこぞの料理人は自らの足を食べて……』  
「「却下!!」」  
「コンビニいくかwww」  
「都会のオアシスへれっつごー!」  
 
「お前w御菓子ばっかえらんでるんじゃねぇよwww」  
「スイーツ(笑)」  
『そういう割にはハバレロとかカラムッチョとかばっかデスね』  
「…とりあえずカゴもってこい、前みえてないだろ」  
「うんっ」  
 
「あうっ! ごめんなさい」  
入り口の方に積んであるカゴを取りに行ったみことが、  
丁度入店してきた客にぶつかっていた。  
「おまwww気をつけろよwwすいません、うちのバカが…」  
「なに、気にしなくていい。その代わり少しだけ……協力してもらう!」  
「はい?」  
「あぅ?」  
「お前ら全員財布をこっちに投げて床に伏せろ!  
 そこのバイト! レジの金全部だしやがれ!」  
客だった男は一瞬にして強盗に成り代わり、みことを腕の中に捕まえていた。  
「にーちゃん!!」  
「みことっ!」  
「うるせぇ! お前もさっさと金だしやがれ!」  
「……っく!」  
 店内に居た残りの二人の客は財布を投げて伏せていた。  
バイトと呼ばれた店員はガクガクに震えながらビニール袋に金を詰めていた。  
俺は……。  
 
 強盗の体格は俺と似たようなもの、武器はみことの首元に添えられた文化包丁。  
サングラスとマスクのせいで表情は見えないが、おそらく初犯なのだろう。  
忙しなく振り向いたり怒鳴ったりと落ち着きの欠片もない。  
動くべきか否か……。  
『あらあら、大変な事になっちゃいまシたねぇ〜』  
(しいな、なんとかならないのか?)  
『コッチの世界の物質はあんまり干渉できないのデスよ〜』  
(役たたねぇーー!)  
『まこちゃんなんて立っても相手がいないですものね☆』  
(冗談言ってる場合じゃねえっての!)  
 
「おい! てめぇブツブツ言ってねぇでさっさと金出しやがれ!  
 妹の命より金が大事なのか!?」  
「わ、わかった! 今出す! すぐ出す!」  
『あら、早漏さん♪』  
(しいなっ!!)  
「へへっ、それでいいんだ。お前らそのまま動くなよ!」  
男はそう言うと店員から金の入ったビニール袋を奪い取り店を出て行った。  
みことを連れて。  
「みことぉッッツ!!」  
 
-*-*-*-*-* 死月三十日 *-*-*-*-*-  
 
「みこと、何か言う事あるんじゃないか?」  
「……」  
「黙ってちゃ解らない!」  
「あぅ……あの、あのね。  
 お父さんが死ぬ前に教えてくれたの、私にはお兄ちゃんが居るって」  
「親父……そうか、親父はもう…」  
「最初聞いたとき、なんで一緒に居てくれないんだろうって思った」  
「悪かったな…その」  
「その時しーなが見えたの。お父さんの横で笑ってた。  
 そして言ってくれたの、お兄ちゃんに会わせてくれるって」  
『モチロン命と引き換えになるって言いまシたよ?』  
「そこまでして俺のことを……」  
「どんな人だろうって楽しみだった、きっとステキな人なんだろうって。  
 一緒に暮らせたらきっと幸せになれるって思って、お父さんからしーな貰ったの」  
「……すまん」  
「そしたら、しーなに教えてもらったにーちゃんは理想の正反対で、  
 あたしはこんな奴の為に命賭けたんだって……」  
「…」  
「だから最初はにーちゃんにしーな憑かせて殺しちゃおうって思った。  
 馬鹿面さげてのほほんと暮らしてるのが憎く思えてた。だから、  
 あたしは助かろうって、そう思って…恥ずかしいコトも馬鹿な言って……」  
『私、奪われてしまいましたわ☆作戦成功デスね』  
「…」  
「でも、今は…なんだろう。どうしてかわかんないけど、死んでほしくないなって、  
 一緒にいたくて、どうしようもない馬鹿でキモイ奴だけど、それでも大切な…」  
『社会のゴミは私におまかせあれ〜♪』  
「それでも大切な私のおにいちゃんだからっ……その、ごめんなさいっ!」  
『みこちゃんもこう言ってるわよん? 許して上げたら?』  
「ああ、話はわかった。だがそんな事関係ないだろ?」  
「にーちゃん……どうしてっ!?  
 理想の妹じゃないっ! にーちゃんの為に毎晩こんなに……ぐっしょりと…」  
「許さん、今まで耐えてきたがガマンの限界だ!  
 お前は都道府県制覇で満足できないのか!? 世界征服まで狙うのか!?」  
「だって、にーちゃんみるくいっぱい飲ませるから……」  
「ほぉうwつまりミルクを買ってこなきゃオネショはやむんだなww?」  
「いやぁあ! にーちゃんみるくほしいのぉお! おあずけしないでぇ〜!」  
「だーwww近所に聞こえたら危ない事いうんじゃねぇえwwwwww!  
 俺、一人暮らしのハズなのww毎日のようにオネショ布団干す俺の身にもなれw  
 昨日なんか隣の爺さんに大人用紙おむつ渡されたんだぞwwwwww」  
『そういうプレイもオッケーデスよ☆』  
 
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-  
 
 俺だって知ってた、お前が俺と同じ空の下のどこかで暮らしてるって。  
お前に会える日をどれだけ楽しみにしていただろうか。  
それなのに……恥ずかしくて誤魔化していた俺の気持ちを、  
大切な妹にまだ伝えてすらいない。  
それなのに……。  
 
俺はッ! 俺は何も出来ないのかッ!?  
『……出て右に…1500m…の駐車場……』  
「わかるのか!?」  
『…白の…スバル。これくらいなら余裕デス☆  
 黙っててまこちゃんに嫌われたくないデスシ』  
「助かる! みこと、今行くぞっ!」  
『なんの準備もしないのデスか? それは勇敢じゃなくて無謀というんデスよ?』  
「急がないとみことがっ!!」  
『ホラホラ落ち着いてください、確かに急がなければイケマセンが、  
 このまま無策で行けば二人とも死んでしまいますよ?  
 みこちゃんの死季はあと少しとはいえ抜けきっていませんシ、まこちゃんも……  
 下手に動けば二人とも…あ! それもいいデスね☆』  
「俺、はどうなろうとかまわん。だが、みことは渡さん!」  
『ん〜、残念デス。まぁ二兎追うものはデスね、ではコレとソレと……』  
 
 しいなが指定した商品をコンビニの棚からかき集めて準備する。  
鍋焼きうどん弁当、小麦粉、片栗粉、ビニール袋、ガムテープ、靴下、猫缶、  
小さいペットボトルの暖かいお茶、カッターナイフ、紙パックのコーヒー。  
「こんな物どうすんだ? こんな物より傘の一本でも…」  
『犯人は人目に触れないように移動してるので、もう少し時間があります。  
 私の言うとおりにシたほうがいいデスよ? あ、おいし♪』  
「食うなwwwなんだよwお前が食べたいだけかよ!」  
しいなは鍋焼きうどんの玉子を頬張りながら、コーヒーで流し込んでいた。  
「コッチの物には触れられないんじゃないのかw? 何でくってんだよww」  
『好きこそ物のにゃんとやら? んぐっ、ホラ、手がとまってますよ♪』  
「くそっ、みこと…無事でいてくれよ……」  
 
 
 まさか強盗に合うとは……ついてない。  
犯人の逃げ去った自動ドアをポカンと眺めながら店員は思う。  
目の前では、妹を人質に取られたショックのせいで男性客が狂っていた。  
独り言を呟いたかと思えば、叫んだり店内の商品をかき回したりと、  
気持ちは分らないでもないが、見ていて痛々しかった。  
男性は「代金はあとで必ず払う!」と言い残し出て行き、店内に静寂が戻る。  
代金の言葉に店員はふと思い出した。とりあえず警察に通報しよう。  
面倒なことに巻き込まれたとは思ったが、焦りとかそういうものはなかった。  
「あ、すいません警察ですか? 今強盗に襲われまして……」  
店員の財布だけは無事だったから。  
 
「くそっ、さっさと歩け!」  
「ひぐっ…」  
男の人はあたしをつれてはしりだした。  
後ろでにーちゃんの声がきこえた。  
「みことぉッッツ!!」  
あたしもさけぼうとしたけど口をふさがれてしまった。  
「騒いだらぶっ殺すからな」  
あたしだってバカじゃない、人がいない道でさけんでもダメだ。  
助けに来てくれる人がいるところじゃないと……。  
そう思っておとなしくついていく。  
それなのに男の人は曲がり角で立ち止まったり、  
引き返したりしてだれにも見つからずにすすんでいく。  
「ふぇ…っ…」  
「泣いても殺す」  
にぎられたうでがとてもいたい。  
このままじゃあたし本当につれていかれちゃう。  
 
 
「よし、ここまで来れば…っくそ、これだからしつけのなってないガキは…」  
駐車場の白い車を見つけて男の人がぼやいてた。  
車の屋根にはコンビニの袋が捨ててあって、  
ボンネットの上は飲みかけのコーヒーがこぼれていた。  
「おら、中でじっとしてろよ」  
あたしは後ろの方の席におしこまれた。  
どうしよう…車にのせられちゃったよぉ……。  
「中には……よし、染み込んでないな」  
男の人はボンネットをふいて、まだ中身のある紙パックを捨ててふみつけた。  
「ぬおおっっつぅぐぁああああ!!」  
ぽん、と車の屋根がふるえて男の人のさけび声がした。  
窓の外はまっしろになってて何も見えなかったけど……  
「この野郎っ!」  
にーちゃんの声がきこえた。  
 
走る、走る、走る。  
犯人より先に車に着かなければ意味は無い。  
『あんまり揺らさないで下さいね?』  
「わかって、るって!」  
しゃべると息継ぎが乱れる。  
『ここまでお手伝いシてあげたのに台無しだと、救いようがないデスシネ☆』  
「……」  
 俺の手には半分ほど残った紙パックのコーヒと、  
コンビニの袋に詰め込まれた即席の仕掛けがある。  
鍋焼きうどん弁当から抜き出した生石灰。これと片栗粉を混ぜたお茶のペット。  
そのペットボトルには穴が開かない程度にカッターで切り込みを入れてある。  
しいなの言うとおりならば、ベストタイミングで爆発するはずだ。  
 
『あ、アソコっ! 白いのあるわよん♪』  
「よし! 間に合った!」  
車の上にコーヒーを投げ捨て、屋根の上に袋を置く。  
袋の中で熱くなっているペットボトルを慎重に立ててから  
小麦粉で埋めて袋の口をこちらに向け、触れば解けるほど軽く縛った。  
『まこちゃ〜ん、そろそろよぉ〜』  
「ああ」  
 
 すぐに強盗犯がやって来た。  
俺は隣の車に身を隠してチャンスが来るのを待つ。  
「おら、中でじっとしてろよ」  
強盗犯に気付かれないようにゆっくりと移動する。  
手には二重にして猫缶を詰め込んだ靴下。  
小さな破裂音と共に辺りに小麦粉が飛び散った。  
「ぬおおっっつぅぐぁああああ!!」  
その瞬間を狙って車の陰から飛び出し、即席のブラックジャックで殴りつける。  
「この野郎っ!」  
鈍い音と、確かな手ごたえを感じ安堵する。  
だが、気を抜いたのがまずかった。  
まだ晴れない視界の奥から、無茶苦茶に振り回された包丁が俺の左腕に刺さった。  
「うっがぁッ!」  
慣れない感覚と、刺さったという事実に驚いて後ずさりする。  
目の前の男も少しずつ現状を把握してきたのかこちらを睨みつけていた。  
「うっっっっくぅうう、お前はさっきのっ!」  
サングラスとマスクは外され、それらに覆われていなかった部分には  
粘性をおびたお茶による火傷と、飛び散った小麦粉が張り付いていた。  
「みことは返して貰うっ!」  
無事だった右手に、ブラックジャックを持ち直し振り回す。  
強盗も包丁を構えなおし、お互いの間合いを計り……仕掛けてきた!  
だがかろうじてドアが開閉できる程度の隙間しかないここでは避けきれない。  
突き出された包丁を再度左腕で受け止める。  
「うぐっ!」  
包丁が振り下ろされていたらなんて考えたくもないが、  
腕を犠牲にしてまで得たチャンスを逃す手はない。  
右手を振りかぶって接近している男の後頭部を狙った……ハズだった。  
遠心力のついた自慢の武器はそのまますっぽ抜けてしまったのだ。  
「しまっ……!」  
男はそのまま勢いに乗って俺を押し倒して組み敷く。  
利き腕の方はボロボロ、右腕は無事だが男を跳ね除けるだけの力は無かった。  
包丁を持った手を押さえたものの、もう片方の手は俺の首にかかり……。  
 
『みこちゃん、こっちデス』  
「しーなっ」  
反対側のドアから上半身をのぞかせたしーながいた。  
『シー、気付かれないようにそっとデスよ?』  
声のする方の窓はまっ白でこちらの様子は見えないみたい。  
音を立てないようにしんちょうに車の外に出る。  
すぐにでもにーちゃんの居る方に駆け寄っていきたかったけど、  
しーながあたしの前に先回りして遠くをゆびさした。  
『ホラ、アソコのブロック塀が崩れてるトコあるでしょ?  
 一番重そうのを大急ぎで持ってきてあげて』  
あたしは頷いてそこを目指す。  
駐車場の入り口の所、まえに車がぶつかってこわれたままところ。  
ずっとほったらかしの壁のまわりに、目当てのブロック片を見つける。  
「…っく、ちょっと重いかも」  
『みこちゃんがんばって〜♪』  
車の上でしーながのほほんと手をふっている。  
「あとで…はぁ…ぜったいっ…はぁ…文句…いってやるんだからっ」  
腰を使って持ち上げたブロックを抱えて、全力でかけだす。  
『そうそうその調子☆』  
車の横まで来ると、にーちゃんが男の人に押さえつけられていた。  
「っ!」  
『ガツンとイッパツ! ヤっちゃいなさいっ!』  
いわれなくたってっ!  
抱えていたブロックを頭の上に持ち上げて、思いっきり投げ下ろす!  
「っがああ!!」  
「っっげほっげっはっっはぁはぁっげっふ!」  
ブロック片は頭に当たって少しだけかけた。  
男の人は血が出てて動かなくなっていた。  
「ううぇっぷ、っはぁはぁ…っみ、こと?」  
「…にーちゃん……うぐっ」  
咳き込みながらにーちゃんはあたしを抱きしめて……  
ちょっと痛いけどイヤじゃなかった。  
抱きしめられた腕に、ぬめっとする感覚に気付いて視線を落とすと赤くぬれていた。  
「あぅ! にーちゃんっ血が出てる!」  
「…こんなの大した事……あっべ、意識したら痛くなってきたっ!」  
『それじゃ、最後のフラグ回収デスね♪』  
そういってしーながガムテープを指差してた。  
「っっつぅう、ああ? ソレ犯人縛り上げるんじゃないのか?」  
『ソレを縛る? 違いますよ? まこちゃん、とりあえず上着脱いでください♪』  
うまく腕が動かせないにーちゃんを手伝って上着を脱がす。  
「イタイ、いたっっもっとやさしくなっ! んでこれが何になるんだ?」  
『みこちゃん、その上着で血を拭いてください。そしたら、  
 腋のほうからキッツークガムテープ巻いてあげてください♪』  
「わかったっ」  
「うっぎゃあああぁぁいってぇええ!!」  
『男の子デショ? それくらい我慢デスよっ』  
 
 強引な止血を済ませ改めて犯人を見る。ピクリともしない。  
「おい、これって……」  
『大丈夫デスよ、残念デスがソレは死んでません。  
 それに、もうすぐ警察も来る頃ですから☆』  
「それならっいいんだっがっ、いってぇえ!  
 くそぅ…怪我するの分ってたんだろ? 他に方法なかったのかよ!?」  
『他の方法デスか? 私的にはベストだと思ったのデスが……  
 楽しくなかったデスか?』  
「おまっ!!」  
「たすかったからいーじゃん、それより病院っ!」  
それもそうだ、けっこう血が流れたせいか頭もフラフラするし。  
『楽しそうですね』  
「だから、楽しくなんか……誰だお前?」  
頭に響く声は、しいなのソレとは違って幼い感じがした。  
声のするほうを見るとモノクロのゴシックロリータ風の服を着た少女がいた。  
コイツも死神なのだろう。というのも、それらしい鎌を持ち地面から浮いていた。  
しいなは馬鹿っぽい言動とか空気、そして鎌すら持ってなかったせいか、  
死神というイメージには程遠かったが、コイツはヤバイと直感が示していた。  
『クリュー…』  
「なんだ? しいなの知り合いか?」  
『……』  
しいなの様子が何かおかしい。  
いつものヘラヘラとした気配が消え、常に張り付いていた笑顔も失われていた。  
「しーな?」  
みことも心配そうに声をかける。  
『あらごめんなさいっ。みこちゃん、まこちゃんを病院に連れて行ってくださいね。  
 私はこの方と少しお話があるのデスよ☆』  
いつも通りの【笑顔】で俺達にそう言うしいな。  
『みこちゃん? まこちゃん? デスよ☆? っぷ、あっははははははは  
 新しい冗談? しばらく見ない内に腑抜けたもんだね』  
クリューと呼ばれた少女がしいなを馬鹿にして笑っている。  
たしかに俺だってアホの子かと思ってはいたが、他人に言われるとなんか腹が立つ。  
「お前いい加減に…」  
『ホラ、病院、早く行かないと。死んじゃいますよ?』  
『っくっははは、ひぃ、もうヤメテってば、死神が病院薦めるとか…っぷ』  
「いこう、にーちゃん」  
「でもっ!」  
「しーなの気持ち無駄にしないであげて…」  
みことも何かを察したのだろう、俺の手を引いて訴えかける。  
「…そうだな、いってくる。またあとでな、しいな」  
『いってらっしゃい☆  
 ……クリュー、場所を変える』  
『ボクはここでもいいんだけどなぁ〜、まぁシーナがいうならそうするよ』  
 
駐車場を出るときに振り返ると。  
しいなとクリューがふわっと消えていったところだった。  
「しいな……」  
 
『ひさしぶりだね、シーナ』  
風景は同じながらも時が止まった灰色の世界。そこに二人の死神が居た。  
『何か用か?』  
『人間には優しくしてたのに、ボクには冷たいんだね。』  
つまらなそうに言葉を吐き捨てるしいなと、  
笑顔からいじけた様にとコロコロと表情を変えるクリュー。  
『せっかくここまで来たってのに。ちょっとガッカリだよ。  
 あの活躍以来さっぱり消えちゃうし、見つけるの苦労したんだよ』  
『それは残念だったな。話はそれだけか?』  
退屈だと直接言葉にはしないがそれを態度で示す。  
『見てくれてたかな? 政界交易センタービル。あれ全部ボクが刈り取ったんだよ。  
 60年前のシーナにはまだ及ばないけど、150歳の実績としては最高の仕事でしょ?  
 これなら十分だよね? また一緒にヤろうよ!』  
『それで?』  
『それでって……何も思わないの!? ボクはあんなにがんばったのに、  
 凄いとか、悔しいとか、何も感じないっていうの?』  
『凄いな、悔しいよ。これでいいか?』  
『…ッ!!!』  
一方は睨みつけ、もう一方は静観と、すれ違う睨み合いに空気が変り始める。  
『ボクを、馬鹿にしてるのかッ……』  
『そんな事はない、ただ、今の私にはどうでもいい事だ。  
 狩りにも興味は無い』  
全てが死に絶えた世界の歪に、熱が、風が生まれる。  
『ボクがどうでもいい……!?』  
クリューの周りから生まれた熱風が、しいなの黒髪をなびかせ、あおってゆく。  
『あぁそうだ。これならボクを認めてくれるかな?』  
クリューが鎌を一振りすると、裂けた空間から血のついた服が落ちてくる。  
『っ!』  
『あはは、どう? 他人の獲物を狩る趣味はないんだけどね〜。  
 ボクが使えるヤツだって、また組みたいって本心から認めさせて上げるよ』  
『彼らに手を出す事は許さない』  
再び周囲の空気が変る。しいなから広がってゆく死の気配が熱を奪い、風を殺す。  
『ふぅ〜ん、そんなにお気に入りなんだ?  
 ならさっさと殺っちゃえばいいのに。  
 そういえばあの優秀な鎌はどうしたの?』  
『鎌は還した』  
『もったいないなぁ、ああ、それであの男の子狙ってるのかな?  
 確かにいい鎌になりそう。ボクも欲しくなっちゃったなぁ〜』  
クリューが服から滴る血液を指に乗せ、ソレを舐め上げながら言う。  
『警告を二度はしない』  
黒いスーツが影に沈み、灰色の空間がしいなの死に覆われはじめる。  
『何この記憶…着床?…死季?……なにそれ?  
 傍に居るだけで……触れるだけで殺せるのに……。  
 鎌だって使えば……なんで?……なんで……殺 さ な い の ?』  
広がった闇の中、スポットライトが当たった様に灰色の空間に浮き立つクリュー。  
『貴様には関係の無い事だ。そこまでにしてもらおう』  
しいなが距離を詰めて歩き出す。  
クリューはそれに構わずに、舌の上で舐め取った血を転がす。  
『…血の……もっと古い…記憶……!』  
ニヤリ。  
しいなが拳を振り下ろし、クリューがそれを受け止めて笑う。  
『それでこそ死神シーナだよ』  
『その名はすでに捨てたッ!』  
他者の侵入を許さない二つの死の結界。  
黒く荒ぶる力と、灰色の虚ろな力が交戦を始めた。  
 
 太陽が沈みかけ、紅い光が街を照らす。  
都立病院の屋上は地平線こそ見えないが、ほどよく街が見渡せる。  
そこの給水塔の上が、たまに来る彼女のお気に入りの場所だった。  
長くストレートに伸ばされた髪が風を受けて揺れ、  
足元からは、着ているスーツのように黒く長い影が、背を追い越していた。  
 
『命を奪う事を辞めた私は、一体何なのだろうな……』  
ただの神にでもなるのだろうか?  
それはそれでおもしろいかもしれない。  
 
 視線をおろした先に、病院から出てくる兄妹が見えた。  
女の子は青年の腰ほどまでしか背が無く、  
青年の方は左腕を包帯に巻かれ、首から吊り下げていた。  
 
『椎名、どうやら……アイツとお前の血は…しっかり受け継がれているみたいだ』  
兄妹に、ここには居ない二人の面影を重ね、  
一人呟いて、  
そっと身体を浮かせた。  
 
 
『みこちゃ〜ん、まこちゃ〜ん、おまたせデス☆』  
「しーなっ!」  
「おまえどこいってたんだよw」  
『知りたいのデスか? それはもう激しくっグチョグチョのっドロドロで……』  
「いいwwwやっぱ聞きたくねぇww」  
「あ、あたしはチョット聞きたいかも……」  
『みこちゃんは大人デスものねぇ〜♪ 女の子同士のお話シマショ』  
「わ〜い」  
「おまえらなぁ……とっとと帰るぞ、外に出るとロクな事がねぇ……」  
『私はドコカに寄って御休憩でも…』  
「あたしもー」  
「怪我人をもっと大事にしろよwww」  
 
 
 私が神だとしたらなんと不自由なものだろうか。  
手に触れて抱き寄せる事も出来ず、傍に居続ける事も叶わず。  
できる事といえば死を振りまく事だけ。  
あぁ……やはり私は、ただの死神でしかないわけか。  
 
 

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