俺は死ぬ。  
極度の眠気に襲われ、そのまま目を閉じた。  
いまどき自殺なんて珍しいものでもなんでもないだろう。  
生活苦、そう生きていくための金がない。  
それでも頑張って生きている人もいる。  
でも、俺はそうはなれなかった…だから死を選んだ。  
大量の睡眠薬、知人に言わせれば容器の三分の一程度が人間の致死量だと  
以前酒の席での戯れで聞いたことがあった。  
錠剤といえども瓶まるごと飲むのにはかなり辛いものがあった。  
けど、中途半端に助かる可能性なんて俺には必要ない。  
これだけの量を飲めば確実に死ねるんだ。  
…  
……  
………  
不意に俺は誰かに肩を叩かれ目を覚ました。  
振り替えるとそこには見たこともない女が立っていた。  
「だれだ、お前?」  
おかしな格好をした女に問いかける。  
金髪、碧眼、といっても顔立ちは外人というより日本人っぽい女。  
俺の問いに答えようとせず女は首をかしげ微笑み返してきた。  
なんと礼儀知らずな奴だろう。  
それにそいつは冬だというのに黒いレオタード、そして網タイツ、靴はピンヒールを履いている。  
「っていうかなんで土足なんだよ!」  
次の瞬間俺は女につっかかり馬乗りに組み敷いていた。  
「ちょ、ちょっと!」  
突然の行動に慌てふためく女。  
「ちゃんと鍵はしまってたはずだぞ!」  
いきなり論点が変わってしまったものの、俺は扉を指差し怒鳴りつける。  
ワンルームの俺の部屋、お世辞にも片付いているとは言えないが玄関だけはいつも綺麗にしていた。  
しかし次の瞬間、俺は自分の目を疑った。なんせ鍵はちゃんと閉まっているのだ。  
ご丁寧にチェーンロックまでしているのだからそこから侵入してきたとはとても思えない。  
ならば反対の窓からかとそっちを見るが、しっかりと施錠しておりガラスが割れた様子もない。  
「にしても、元気な幽体だわね…」  
「へ?」  
俺の口からでた間抜けな声。  
「だ・か・ら。貴方はもうすぐ死ぬの、分かる?」  
「おれが、しぬ?」  
女が言った言葉を反芻していた。  
「ほら、あそこに死に体があるでしょ」  
女が指差した方向に顔を向けると、そこに俺がテーブルに突っ伏して寝入っている姿があった。  
 
テーブルの上には半分まで減った美味しい水500mlのペットボトル、その隣りに空の薬瓶が転がっている。  
そりゃ〜そうだ、俺はさっき自殺を図ってそれらを口にしていたんだから…  
「いい加減どいてよ」  
そういって不機嫌な表情を浮かべながら女は茫然とする俺の下から逃げ出していた。  
女は立ち上がるとついた埃を払うように太腿の辺りをはたいていた。  
「俺、死んだのか?」  
「さっきから何を聞いてたの?もうすぐ死ぬって言ってるでしょ」  
女は相当苛立っている様子だ。  
「じゃあ、お前は誰?」  
「お前って失礼な聞き方ね。せめて貴方様とか、お嬢様とか気の利いた尋ね方は出来ないのかしら?」  
「じゃあ、あんたは何なんだよ?」  
女の忠告に少しだけ柔らかに聞きなおす。  
「私は死神よ、貴方を迎えに来た死神No.373705…『三波・奈緒子』って呼ばれてるわ」  
「し、死神?!」  
一瞬心臓が止まるかと思ったが幽体にはその心配はないようだ。  
今になって分かったことだが、今の俺に足が無い。  
俗に言うこれが正真正銘幽体離脱というものだろう。  
「まだ生きているのか?」  
俺は自分の死に体に近寄り女、もとい奈緒子に尋ねる。  
「まだね、誰かに起こしてもらえばもしかしたら助かるかも知れないわ」  
奈緒子は最後にクスクスと小さな笑いを付け加える。  
ならばと俺は死に体の肩を揺り動かそうと触れる。  
…が残念なことに幽体の俺の手は死に体をすり抜け触れることが叶わなかった。  
「おい、どういうことだ?」  
「だから言ったじゃない、誰かに起こしてもらえればってね。貴方は幽体だから物体に触れることはできないのよ」  
ああ、なるほど。そういえば幽体離脱は壁や天井をすり抜けて空を飛んだりできるんだってテレビで聞いたことがある。  
そうと知った俺は早速隣りの住人に助けを求めるべく、壁をすり抜けようと試みた。  
それは何の造作も無いことだった。  
透視こそできはしないが壁を抜けた瞬間、隣人の部屋を目にすることができた。  
しかし残念ながらそこの住人は留守のようだ。  
にしても俺の部屋以上に汚い部屋に男臭い臭気の漂う部屋。  
俺も人のことは言えないがこいつの部屋に比べればよっぽどましだと実感した。  
「残念、留守みたいね」  
奈緒子が俺の隣りにやってくる。  
彼女も俺と同様物質をすり抜ける技を持っているようだ。  
「なら、さらに隣りに行くまでだ!」  
俺は助けを求めてではなく、他人の生活を覗き見することに楽しさを覚え隣りの部屋へと更なる楽しみを探索しにいった。  
「あっ、ああぁ……はぁん、あん!」  
「はっ、はぁ……っく……はっ…」  
突然広がる淫靡な光景、軋むベッド、交じり合う嬌声に絡まる男女の肉体。  
 
茶髪ロンゲの男の上に跨って腰を振る女。  
男の胸に手を置き、腰をグラインドしながら自ら快楽を貪る妖艶な姿。  
惜しむべくは揺れ動くほど胸が大きくない、だが汗がしたたる姿は性欲をそそるものがあった。  
「もしも〜し」  
その様子を凝視している俺の耳元に奈緒子が息を吹きつけてくる。  
他人の生エッチを見れる機会なんて早々あるものではない。  
このチャンスを生かすべく俺は奈緒子の口を押さえ、黙らせた。  
「あっあぁ……あ、あっ…あぁん、あっ…ふぁっ」  
ぐちゅぐちゅと淫靡な音が二人の結合部から漏れる。  
下になった男は女の腰を掴み、激しく突き上げ始めた。  
「あっあああぁ、あぁ…っひゃぁ!ぁ、ん…はぁあん」  
男の腰で激しく踊る女は喘ぎの色が変わっていた。  
結合部から除き見える男のイチモツには避妊具は付いていないようだ。  
「いて────!!」  
突然の激痛に俺は悲鳴をあげ飛び上がった。  
奈緒子が俺の手を思いっきり噛んだのだ。  
痛みに手を押さえる俺の耳を掴み隣の部屋へと引っ張る奈緒子。  
さっきお邪魔した俺の隣人の汚い部屋だ。  
「なにすんだよ!」  
千載一遇のチャンスを不意にされた俺は奈緒子を怒鳴りつけた。  
しかし彼女も腕組をして不服をあらわに俺を睨みつけている。  
「ったく、二度とないチャンスだってのに…」  
再度覗きを敢行しようと隣りへ向かう俺の手を奈緒子が握る。  
「分かってんの?貴方の命はもう10分ぐらいしか残ってないのよ?」  
「んなことぐらい分かってるさ!今更生きながらえたいなんて思ってないし、どうせなら最後に一発スカっと抜いてこの世とおさらばしたいと思ったんだよ!」  
我ながら情け無い最後だと思うものの、俺にはこの世に未練がある人も居なければ大した友人もいやしない。  
叶うことなら最後の最後まで自分のやりたいことを通したいものだと思っていた。  
「ほれ、見ろ!」  
俺は背筋を張って、腰を突き出し奈緒子に見せ付ける。  
自分でもびっくりしたが幽体でもしっかりと男の象徴が勃起しているのだ。  
AVや漫画なんかでは到底辿り着けないリアリティーを目に前にし、いつも以上にギンギンに滾っている。  
「ちょ、ちょっ!バカ!!」  
男に耐性が無いのか、奈緒子は恥かしそうに目を覆い隠し頬を朱に染めていた。  
奈緒子の意外な反応に俺はさらに興奮を増していた。そして思い立つ一つの名案。  
幽体の俺は物体に触れることは出来ないが、なぜか死神奈緒子の体には触れることが出来た。  
それはすなわち彼女とならエッチができるという答えに辿り着く。  
足首から下はうっすらと消えているがそれ以外はいつもの俺とまったく変わりが無のだから。  
「奈緒子、あれ…なんだ?」  
彼女の後方を指差し尋ねる。  
奈緒子は俺の指先を目で追いかけ後ろを振り返った。  
 
ガバッ!  
 
背中から襲いかかられた奈緒子はそのまま俺の下敷きになって床に倒れこんだ。  
この部屋の持ち主がどういう趣向があるか知らないが幸いにして俺の近くにおもちゃの手錠が落ちていた。  
すかさずそれを手に取り彼女の手を拘束しようと考えたものの、残念なことに幽体の俺には手錠を取ることはできなかった。  
といえ、俺もここまできて引き下がることはできるはずがない。  
彼女の編みタイツに指を引っ掛け、力任せに引きちぎった。  
 
ビリビリリリ…  
 
思った以上に抵抗が無く引き裂けるタイツ。  
俺の下でわめき散らしている奈緒子の言葉を耳に入れず、次なる目的に手を伸ばした。  
彼女の大事なところを隠す薄い布、レオタードといえ伸縮性のあるものなら容易に破くことはできない。  
むしろ破る必要もないわずかな布なら少し動かすだけで奈緒子の大事なところが露になった。  
「だめ、だめってば──!こら───!やめなさい!!」  
大声でわめいたところで助けに来る者など居ないだろう。  
それにお隣さんも今「真っ最中」なのだから…  
必死に抵抗する彼女だが、言葉とは裏腹に下のお口はすでに男を迎え入れる準備ができているようだった。  
お隣さんの情事を見たからか、それともこういう状況に興奮を覚えているのか分からないが彼女の花弁は朝露を浴びたようにしっとりと潤っていた。  
そこに指を伸ばし、花弁を撫ぜる。  
 
くちゅ…  
 
指は簡単に第二間接まで飲み込まれ、彼女の中の温かさを体感できた。  
ぐちゅぐちゅと指で彼女の中をかきまぜる。  
嫌がっているわりに次々と奈緒子の奥からは蜜が溢れ出てくる。  
「ここをこんなにして、まだ抵抗するのかい?」  
「い、いや…優しくして…」  
急にしおらしくなった奈緒子。  
彼女なりに覚悟を決めたのか、それとも押し寄せる情欲の波に負けたのか、観念したかのように抵抗が止んだ。  
「なら、わかるよな?」  
俺は自らフォックをはずし、ジッパーを下げる。  
中から元気溢れるきかん棒が勢い良く飛び出してくる。  
胡坐をかいて座り、彼女の手を引き催促する。  
 
こく…  
 
奈緒子は生唾を喉を鳴らし嚥下すると前に垂れる髪を耳に引っ掛け、俺のモノに顔を近づけた。  
ふわり、そんな感じで口を開くとイチモツを口にしまいこんでしまう。  
 
ねっとり絡みつく唾液に、温かい口腔内。  
滑らかに舌が這い、頬をすぼめて頭を前後に動かした。  
奈緒子には期待していなかったのだが、予想以上のテクニックに彼女の職業を疑ってしまう。  
といっても死神が元来どんな仕事をしているか俺に分かるはずも無いのだが…  
もし彼女が今の職業を解雇されたとしてもその類の仕事で十分やっていけるだろう、と考えていた。  
俺のイチモツは根元まで彼女の口の中へと吸い込まれていく。  
そうしながらも彼女の頬や顎の動きを見ていればそれに舌を絡めている様子が伺えた。  
今までに味わったことの無い悦楽、俺は生涯最後にこのような快楽に浸れたことを幸運と思った。  
彼女は根っからの淫乱なのだろう。  
ふと見れば奈緒美は自ら手で自分を愛撫しているのが分かった。  
「そろそろ入れてやろうか?」  
主導権はいつの間にか俺が握っていた。  
このまま口淫に耽っているのも良いが彼女が言っているのが本当なら俺に残された時間は後わずかしか残っていない。  
最後まで達せれなければそれこそ死ぬに死ねない状況だ。  
奈緒子はコクリと頷くと自ら仰向けに寝転がろうとする。  
しかし俺は彼女の腰に腕を回し、それを阻止した。  
そして俺は自ら床の上に仰向けに寝転がった。  
最後ぐらいは自分が頑張るのではなく女に頑張って欲しいのだ。  
奈緒子は俺の意図を察したらしく、恥じらいながらも腰を跨ぎイチモツを手にする。  
それをすっかり濡れそぼった自分の秘所にあてがい、ゆっくりと腰を沈めていく。  
 
ずぷぷぷ…  
 
片手で自分の体重を支え、バランスをとりながら恐る恐る体の中へと包含していった。  
不思議と彼女の重みを感じなかった…幽体同士だからといわれればそうかもしれない。  
けれど彼女の中は温かく、心地よかった。この感覚は今の俺でもリアルに伝わってきた。  
きっと奈緒子も同じなのだろう。  
挿入後、しばらく休んでいたものの誰に指示される事なく彼女自ら腰を律動させる。  
頬を高潮させ、唇を噛締める様子は喘ぎを我慢しているように見える。  
その様子は俺の苛虐心を燻り、奮い起こした。  
隣で見た見知らぬ二人の情事よろしく、奈緒子の腰を掴み舌から激しいピストン運動を繰り出す。  
「あ、あぁ…ああん、はぅ!……ひゃぁん、あっ、あぁ…」  
奈緒子の沈黙を破ることに成功し、彼女は辺りにはばからない喘ぎを漏らす。  
惜しむべくは脱衣させていないレオタードだろうか。  
豊満な膨らみの動きを抑制していしまっているのが悔しかった。  
「あぁ…あっ、っく…はぁ、ああぁあ───!」  
そう思ったものの手を伸ばしレオタードをずらせばすぐに彼女の胸を露見することができた。  
中途半端に乱れた衣服はより淫猥さを増幅させる。  
日頃の運動不足がたたってか、幽体だというのに俺は息があがって動きが止まる。  
しかし今度は奈緒子のスイッチが入ったようで自ら腰を激しくゆれ動かした。  
 
乱れるブロンドに揺れる乳、奏でる嬌声に滴る汗…  
その姿はとうてい死神というより淫魔のように見える。  
「もっと、もっとぉ…あはん…」  
ぐちゃぐちゃと淫靡な音を鳴らし、腰が蠢く。  
髪の毛と同じブロンドの陰毛は蜜を帯びて艶かしく輝く。  
奈緒子の扇情的な姿や動作に湧き立つ射精感…  
「っく、俺…ヤバイ!」  
俺はこみ上げる感覚を必死に堪えながら、呻くように彼女に伝える。  
「いい、いいの……逝って…いいわよ、…逝ってもぉ!」  
彼女の腰がさらに激しくグラインドし、搾り取るよう柔肉が収縮しイチモツを刺激した。  
限界だ!  
俺は彼女の腰を掴み、指に力をこめると子宮めがけて腰をめいっぱい突き入れた。  
 
ドクドクドック、ドクン!!  
 
普段の絶頂感に加え、爽快感が体を満たす。  
解き放った白濁液は彼女の中を満たすと同時に奈緒子自身の絶頂へ導いていた。  
「ああああ────!」  
彼女は背中を仰け反らせて歓喜の声を上げる。  
少しの硬直、わななく太腿…  
今彼女は絶頂感に浸っているのだろう。  
俺もその姿をみながら余韻に耽る…はずだった。  
「お疲れさま、そしてさよなら…」  
彼女は微笑を作り、俺に零した。  
最後にその記憶を残し俺の全てが霧散していった。  
 
 
 
「さてと、次は…4時に三丁目の山田、誠ね。性癖は…また、コスプレ?」  
奈緒子は先ほどの部屋で鏡を見ながら乱れたセットを整えていた。  
淫魔あがりの死神『三波奈緒子』、指名があれば死ぬ直前に貴方の元へと伺います。  
少しの性欲と希望を持ってお待ちください。  
 
□おわり□  
 
 

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