『はぁ、はぁ・・・なんでこんな目に・・・』 
走りながら僕はそう思った。 
僕は今、十人位のならず者に追いかけられている。 
まあ、追いかけられる原因の一端を作ったのは他ならぬ僕自身だが・・・ 
そう思うと、今までのあらましが鮮明に頭に浮かんでくる。 
 
 話は遡って一時間位前になる。 
 
 僕は呆然と立ち尽くしていた。 
いつものように森の中で鉄パイプを剣がわりにして剣の稽古をしていると、 
落とし穴のような穴に落ちた。 
そして、気が付くと落とし穴の中に落ちていると思いきや、 
また森の中に倒れていたからだ。 
それだけではない。 
その森は、空気も植物も今までいた森とは明らかに異なっていたからだ。 
僕は、少し状況を整理してみようかと思ったけれど、 
いかんせん情報が足りなさすぎた。 
結局、今は考えても無駄だと悟った。 
僕は、少し深呼吸してから、人のいそうな場所を目指して歩き出した。 
 
 
 そして、三十分ほど歩いた時、 
「ちょっと待ちな、お前は野良のヒトだな?」 
とか言われていつの間にか、 
十二人位のならず者にとしか思えない奴らに囲まれていた。 
「うっへっへっ、こんな所で野良の"ヒト"を見つけられるなんて、 
俺たちにもツキがまわってきたな」 
ならず者達は、いわゆる耳と尻尾だけのコスプレみたいな奴と、 
全身、狼男のように毛深い奴がいた。 
この時の僕は、このならず者達を見て、 
『何だこいつら、妙な耳と尻尾を付けたり、妙に毛深い奴もいるな』 
と思った。 
妙に毛深い、というようなレベルではなかったが、 
この時の僕は、心の中で現実逃避していたのかもしれない。 
 
 
 怪訝そうな顔の僕を見たのか、ならず者の一人が、 
「さては、おまえはこの世界に来たてだな?」 
と聞かれた。 
けれども、言っていることの意味が分からなかった。 
なので、 
「この世界にとはどうゆう意味だ?」 
と聞き返すと、 
「やっぱり分かってねーな。俺様は親切だから教えてやろうぜ。 
ここはおまえのいた世界とは違うんだよ。そしてこの世界じゃ、 
おまえのような"ヒト"は奴隷なんだよ。分かったならおとなしく俺たちに捕まりな。 
お前をとっ捕まえて売り飛ばせりゃ一年くらいは遊んで暮らせるからな。 
俺たちのためにおとなしく捕まりな。」 
ならず者の言った事が一言一言頭に染みる。 
『つまり、ここは僕のいた世界とは違う異世界なんだな』 
と妙に納得した感じだった―――が、 
その顔を見てならず者が、 
「やっと自分の立場がわかったようだな、さあおとなし―――」 
                        「バキッ」 
喋っていたならず者が最後まで喋ることはなかった。 
僕が持っていた鉄パイプから放った一撃が頭に直撃して気絶してしまったからだ。 
ちなみに、これは相手を一撃で気絶させる『天落(てんらく)』という技だ。 
しばらくは起き上がれないだろう。 
今の攻撃で他のならず者たちは呆気にとらわれている。 
「お前らのために捕まってたまるか。」 
と、冷たい口調で言った。 
このときの僕は逆上してしまっていたようだ。 
 
 
 ならず者の一人が、我に返って、 
「てめー、俺たちの仲間に何しやがる」 
と言いながら襲ってきたが僕は、その攻撃を避けた。 
そして、鉄パイプを構えると、擦れ違い様に、 
襲ってきたならず者の腹部に強烈な一撃を食らわした。 
『溝落(みぞおち)』という『天落』同様に相手を一撃で気絶させる技だ。 
僕を襲ってきたならず者が崩れ落ちると他のならず者たちが、 
「なにやってるんだ、一斉にかかれー」 
と、リーダ格の男が叫んで本当に一斉に襲ってきた。 
「ちっ」 
思わず舌打ちして僕はならず者達の間をぬって逃げ出していた。 
「待てー、コノヤロウ」 
ちょっと振り返ってみると、凄い剣幕で追いかけてきている。 
「待てといわれて待つ奴がいるかよ・・・」 
と呟きながら脱兎のごとく駆けていった。 
 
そして、現在に到る。 
 
 
 『やっぱりあの二人をのしたのがいけなかったのかな』 
とかを走りながら考えてそして・・・ 
「くそっ」 
前方にはほぼ垂直に切り立った岩山がそびえていた。 
霧が深くて視界が悪かったので気づくのが遅れたようだ。 
後方を振り返ってみると、ならず者達が囲んでいた。 
「覚悟は出来ているんだろうな? 
無駄な抵抗をしなければ痛い思いをしなくて済んだのにな。」 
何だか逝った目つきでそのならず者は言った。 
「少しは身のほどと言う物を示しとかなきゃな。 
死なない程度に痛めつけてやれ。」 
リーダ格の男がそう言うと一斉に襲ってきた。 
さすがにこれだけの人数が相手では抵抗のしようが無く、 
ただただ痛めつけられるだけだった。 
「参りました、許してくださいと命乞いをすればやめてやる」 
と言われたけれど、それでも命乞いをすることは無かった。 
そんな事をする位なら死んだ方がましというのが僕の意思だからだ。 
 
 
 段々と意識が朦朧としてさすがにマズイと思った時、不意に声がした。 
「そこのお前達、一体何をしている?」 
ならず者達とは違う声がする。 
「お前たち、よってたかって一人を痛めつけて楽しいか?」 
何だか怒った口調で、 
「私はそんな事をする奴らが嫌いでな、そういうことをしている奴を、 
見つけたら容赦はしない事にしてるんだ。」 
と、言い切った。 
「なにをー」 
ならず者たちは今の台詞が気に障ったみたいで今の声のした方に向けて駆け出した。 
僕は、とりあえず助かったと思った。 
が、今の人が心配だと思ったので、 
痛くてフラフラする体に鞭打って声のした方に向かった。 
 
 
 そこに向かってみると物凄い光景が広がっていた。 
僕より年下の14歳くらいとしか思えない少女が物凄く大きな剣を持って、 
ならず者たちと対峙していた。 
少女にはならず者同じく頭の上に尖った耳と尻尾が付いていた。 
だだし、毛の色はならず者達と違って、透き通った銀色だった。 
やがてならず者達は一斉に少女に襲い掛かった。 
だがその少女は襲い掛るならず者達を次から次へと文字通りなぎ倒していった。 
ドカッ、ベキッとかの音や断末魔の悲鳴が聞こえたりしたが、 
僕はその少女とその戦い方に見とれてしまった。 
 
 やがて、大剣を持った少女が最後の一人を打ち倒すと大剣を鞘に収めてこっちに向かってきた。 
ならず者と対峙した時とは、別人のような口調で、 
「大丈夫ですか?」 
と言ってきたが正直もう限界だった。 
そして、僕は安心したのか、限界を超えてしてしまったのか分からないが、 
ふらっと目の前が暗くなって、 
「バタン」 
と倒れてしまった。 
「ちょ、ちょっと・・・」 
最後にそんな台詞が聞こえたような気がするが、 
最後まで聞き取る事が出来なかった。 
そして僕の意識も闇に飲みこまれていった。 
 
 
(続く) 
 

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