「―――死なせてよ。」
とある廃ビルの屋上。そこに立つは、死を欲求する髪を茶色に染めた青春真盛りのお年頃の少女。
対するは、黒、いや漆黒と言うのが正しいだろう黒よりも黒い髪を持つ二十歳位の女性。
「あなたのような子が人生を捨てるだなんて、勿体無い。
まだまだ私みたいなおばさんより、はるかに道は残されてるでしょ?」
本来驚くべきことは少女が屋上のヘリ―――一歩踏み違えると落ちてしまう位置にいることだが、
この場合、むしろ……女性が宙に透明の椅子があるかのように座っていることに驚くだろう。
「……誰も私を気にせず、誰も私を愛しない。そんな私が生きてても、ただ苦痛を感じるだけなの。」
(誰も私に関わろうとしない。ただ、私のことを遠くで見守るだけ。)
「でも、今私があなたを相手にしているじゃない。」
「どうせあなたには私の気持ちは分かっていない。今更私のことを相手にしないで。」
(どうせあなたは、私が死ぬのを止めたいだけでしょう。)
「知ってる?寿命を残して死ぬと、その残った分に応じて、"罪"と"罰"を背負うのよ。」
「……そんな迷信がどうかしたの?」
(……脅してるのかしら。)
「ただの警告。あなたが死んだ場合、あなたはその"罪"で嘆くことになる。」
「どいて。脅しのつもり?私はもう死を恐れてなんかいない。」
(そう、私はもう死ぬんだ。これ以上生きていける自信が無い。)
「足が震えているわよ?」
「……うるさい。」
(うるさい。どけ。)
私は目の前に立つ女性を押しのけ、廃ビルから飛び降りる。
私は頭から落ちていく。廃ビルの5F、4Fが経過して、3Fが過ぎ、2Fが去って、1F――――
私は、死んだ。
そして、私は、生きていた。
なんで?私、死んだはずでしょ?
『それがあなたの罪と罰。あなたは、"死なない"。
よかったじゃない。みんなの憧れる不老不死を手に入れたのよ?』
病院の質素な天井をぼんやりと見ている私に、どこかからあの女性の声が聞こえてくる。
『あなたは、死なない。でも、あなたは魂を持っていない。魂を持っていないから、
あなたは生き続ける為に、魂を消耗する代わり、エネルギーをひたすら消耗し続ける。』
『例えエネルギーがなくなっても、死ねるわけじゃない。 ただ、苦痛を味わい続けることになる。』
『そう、これがあなたの忠告されて自殺した"罪"への、苦しみ続けなければならないという"罰"。
あなたは、苦しみながら生き続けなければならない。』
『ああ、心配しなくてもいいわ。おそらく、10000年くらい経てば、
あの世から文字通り"お迎え"が来てくれるはずだから。』
『それまで、あなたは苦痛を味わい続けることになる。』
私は、両親に迎えられ、無事?に病院を退院した。
『消耗するエネルギーだけど、実際エネルギーなら何でもいいのよ。
例えば、食べ物から手に入るタンパク質とかアミノ酸、ブドウ糖でも構わない。
でも、その程度じゃ足りないの。すぐ消耗しきってしまう。』
『なら、消耗し続けるだけで、そのうち苦痛を軽減なんてできなくなる、
そう思ってるでしょ?……もちろん、その通り。』
私は、親の運転する車の中で、その声を聞く。
『だけど、そんなあなたにうれしい情報。わたしは、あなたに一つの鎌をあげる。』
私の指には、一つの指輪が。
『それはあなたの想像に応じて、刃を創造する。……なんてね。』
『その刃で人を貫け。そしたら、あなたはその人のエネルギーを奪って生きられる。
あなたが憎む人を貫き、殺しなさい。あなたの復讐もかねて。』
彼女は、私の身の上を知っているかのように話す。
ならば、私は答えよう。私は、憎きあいつらを殺す。
私は、魂を刈り取る死神と化そう。