正南に輝く満月を浴びて、黒の少女は夜の闇に浮かび上がる。  
カラスの羽のように黒いゴシック調のドレスを纏い、艶やかな黒髪を黒のリボンで左右に束ね、黒く光るエナメルの靴を履いている。  
裏腹に肌は雪のように白く、その美貌は透き通るように、夜の静寂に美しく映えていた。その双眸の輝く両の瞳は、夜の如き漆黒の闇を湛えている。  
宵闇の中、月の光を浴びて輝く彼女の姿は、幻想的なまでに美しい。彼女ほど、月夜が似合う少女もいないだろう。  
浮世離れしたその美しさは、現にこの世の者ではない。彼女は死神メイファー、冥界より舞い降りた、美しき黒き死の天使。数多の魂を刈り取ってきた、恐るべき死の執行人である。  
「日付が変わった、やはりイレギュラーか」  
誰にいうと無くつぶやく言葉は、彼女自身に対する宣言であった。彼女はこれから魂を刈りに行く、冷酷なる処刑人に成るための自らへの宣言だ。  
人の寿命は予め決まっている。自殺で寿命より早く死ぬことはあっても、寿命を超えて生きることは無い。本来ならば、死亡予定日を過ぎて生き続けることは有り得ない。  
しかし、およそ一万人に一人の割合で、死亡予定日を過ぎても生き続ける者が現れる。0.01%の歪み、イレギュラーの発生を監視しその魂を刈る、歪みを正し厳格な死のルールを守ることが、死神であるメイファーに与えられた使命であった。  
真南の空に輝く満月は、深夜零時を示している。それはメイファーの担当地区に住む、村嶋秀太郎の死亡予定日が終ったことを告げていた。  
普通の死神ならば、日付が変わってからイレギュラーが無いかチェックするものだが、メイファーはその日死ぬ予定の人間すべてを監視し、イレギュラーの疑いが有れば即座に駆け付け、日付が変わると共に魂を刈る。おそらく冥界で最も厳格な死神はメイファーであろう。  
月夜に黒のドレスは舞う。  
重力を無視するような超人的な跳躍で、メイファーはアパートの二階へふわりと降り立つ。そして月明かりに映える白い手が、『村嶋』と表札の掲げられたドアを静かにノックした。  
 
村嶋秀太郎は、エロビデオを見ながらオナニーしていた。  
DVDが主流になり、一本300円で叩き売りされていた時代遅れのビデオテープ。古いやつだからモザイクが粗いのが気になるが、貧乏大学生の秀太郎にとっては貴重なズリネタだ。  
既にテープはビロンビロンに延びてノイズ入りまくりだが、今までに50発は抜いたことを考えれば一発当たり6円以下と驚きのコストパフォーマンス!  
今日もHカップの巨乳、空和葵のビデオでプレイの真っ最中。彼にとっては至福の時間だ!  
するとその時、コンコンコン、という控え目なノックが部屋に響く。  
「ハァハァハァ、葵ちゃ〜ん」  
何かドアをノックする音が聞こえたような気がする。しかしもう夜中の12時だ、こんな時間に来る非常識な奴いないだろう。気のせいだなきっと、と秀太郎はそのままオナニーを続行する。  
「葵ちゃんの巨乳たまんねーなぁ、ぷるんぷるん揺れてるぜ!」  
スピーカーからは、アンアンアンと喘ぎ声が聞こえてくる。その音に混じり、コンコンコンとノックの音が再び響く。  
「ハァハァハァ、葵ちゃん、うぉ〜、あは〜、くふ〜」  
情けない喘ぎ声を上げながら、秀太郎はオナニーを続ける。ビデオも更に激しく喘いでいるが、ドンドンドンと力いっぱいドアを叩く音がそれを打ち消す。  
「あ〜あ、うるせぇなぁもう。誰だよこんな時間に」  
良い所で邪魔が入り、秀太郎は切れかけた。しかしあれだ、ここまで盛り上がっちゃうとあれだ、途中で止められないんだ。ここは一つ邪魔者はシカトして、力の限りオナニーだぜ!  
「居るのは分かっているんだ、速やかに出てこい」  
ヤバイ!借金取りだ!!  
思わず反射的にビデオと明かりを消して息を殺す。  
いや待て、借金は競馬で当てた18万7731円で全部返したじゃないか。それに声は女だ、しかもかなり若い女の声だ、別にビビることなんてない。秀太郎は冷静に自分に言い聞かる。  
しかし、一気にシラけてしまった…。仕方なく秀太郎は縮み上がったチンポをしまい、玄関のドアを開けた。  
「はいはい、どちら様ですかぁ?」  
そこにいたのは、髪を両サイドで結ったツーテールの少女、いや美少女だった。  
ゴシックロリータというんだっけ? 原宿辺りにいそうな、やたらと無駄にヒラヒラの付いた高そうな黒づくめの服を着ている。  
築四十年の木造ボロアパートには、明らかに似つかわしくない子だ。何でこんな子がこんな時間に一人暮らしの男の部屋に? と首をかしげる。  
「村嶋秀太郎だな」  
メイファーは冷徹に問う。  
その落ち着き払った口調はとても十代の少女とは思えない。ああ、あれか、ゲームかアニメのキャラの成り切りか、コスプレってやつだ! 原宿系じゃなくて秋葉系か! と納得しかけたが、そんな子が何故秀太郎を訪ねて来たのか益々分からなくなる。  
「はぁ、村嶋秀太郎は俺だけどぉ」  
間の抜けた答えを秀太郎は返す。  
「トラックに轢かれてそれだけ元気とは大したものだ。だが悪運もこれまでだ、その魂刈らせてもらう」  
メイファーの右手に青白い炎が宿る。  
炎は上下に伸び、木製の柄に姿を変える。  
柄の先からは光が横へと弧を描いて走り、黒光りする巨大な鎌の刃が形作られる。  
死神の鎌デスサイズ。魂を刈る大鎌は、何も無い空間から出現した。メイファーは一歩下がり距離を合わせ、両手で構えたデスサイズを横凪ぎに振り払う。  
「えっ! トラックって君あの事故の…」  
秀太郎には何が起きているのか理解できなかった。コスプレ少女の手に青白い炎の様な光が点ったかと思うと、それは瞬く間に巨大な鎌に姿を変えた。美少女が一歩下がり、大鎌を構え必殺の一撃を放つまでもほんの一瞬。その動きは滑らかで優雅でさえあった。  
メイファーの放つ一撃に殺気など無い。彼女は冥界に住まう死神、死に属する存在、死こそ普通の状態なのだ。故にメイファーの一撃に殺気などない。  
農夫が麦の穂を刈るように、メイファーは死の大鎌を振るう。死神は音も無く魂を刈る。  
秀太郎は突然訪れた美少女が死神であることを知らない。状況も飲み込めぬまま、ただ呆気にとられることしか彼にはできなかった。  
メイファーのデスサイズが音も無く振り抜かれる。  
それは正確に、玄関のドアの隙間からこちらを覗く村嶋秀太郎の首筋へと放たれた。  
壁を抜け、秀太郎の首を横切り、ドアをすり抜ける。  
死神の鎌、デスサイズは魂を刈る鎌だ。アストラル体の刃は物質をすり抜け、肉体を傷付けることなく、魂だけを刈り取る。  
音も無く、冷徹な刃は命を刈る。  
「任務完了」  
美しき黒き死の天使は、静かにつぶやく。  
村嶋秀太郎は昨日死ぬ運命だった。死はすべての人間に平等の定め、避けられぬ宿命である。その枠から外れるイレギュラーを刈ること、それが死神であるメイファーの使命だった。  
 
「うわゎ〜、びびっくりしたー」  
メイファーは耳を疑った。有り得ない、デスサイズは確実に村嶋秀太郎の首を捉えた、生きている筈がない。しかしカッと驚き見開いたメイファーの目には、青ざめた顔でよろよろ後ずさる秀太郎の姿が映し出された。  
有り得ない、デスサイズで斬られて生きている人間など考えられない。見た目は少女であるメイファーだが、死神になって既に百年を越えている。これまで数百もの魂を刈ってきたが、ただの一度も仕留めそこなったことなどない。  
アストラル体のデスサイズは魂だけを刈る。マテリアルプレーンにおける物質的活動しかできない人間に、アストラル体のデスサイズを防ぐ手段など無い。  
なのにこの男は、何故まだ生きている? メイファーの顔に当惑の陰が浮かぶ。  
一方、当惑しているのは秀太郎も同じだった。  
深夜に突然押しかけて来た美少女は、ただのコスプレ少女などではない。何も無い所から取り出された鎌は、秀太郎の体をすり抜けた。冷たい刃が体を通り抜ける感覚は、全身の毛が逆立つかと思う程ぞっとするものだった。  
この美少女、明らかに異常だ。いかにぼんくらダメ人間の秀太郎でも、それくらいのことは分かる。警戒心は秀太郎を二歩三歩と後ずさりさせる。  
ああ、やっぱドア開けるんじゃなかった。あのまま居留守使ってれば良かったんだよ。だいたいこんな時間に来る時点で不審者じゃないか、何でチェーンロックかけなかったんだよ。などといろいろ後悔したが、既に後の祭りであった。  
少女の鋭い眼光が秀太郎を捉える。狼のような精悍な視線は、まるで矢で射るかのようだ。その視線の圧力に、秀太郎は気圧され後ずさる。  
とはいえ、六畳一間の安アパート、あっという間に追い詰められてしまう。ここは二階、逃げ場はない。飛び降りられない高さではないが、背を向けて鍵を開け窓を乗り越えるのを、この少女が待ってくれるとは思えない。背中を見せた瞬間、再び大鎌が襲いかかるだろう。  
ならば携帯、とポケットに手をあてるが、それも無駄なことだと直ぐに気付く。目の前まで迫っている脅威が、助けが来るまで待ってくれるとはとても思えない。  
正に絶体絶命の状況に、秀太郎はガクブル状態だ。  
メイファーはアパートの奥まで踏み込み、デスサイズを深々と振りかぶる。長柄の大鎌は、本来なら狭い屋内で使うには不向きな武器だが、アストラル体のこの鎌であれば狭さは不利にはならない。むしろ部屋の隅から隅までとどく長さは、逃げるスペースを与えない。  
追い詰めた。メイファーは渾身の一撃を秀太郎の首筋に向けて放つ。  
「ひやゃ〜〜〜〜ぁ」  
再び体を駆け抜ける戦慄に、秀太郎は堪らず悲鳴を上げる。その情けない声は尾を引きながら、木造のおんぼろアパートに響き渡った。  
「ひやゃ〜〜〜〜ぁ」  
尚も続く秀太郎の悲鳴は、メイファーの顔から平静を奪う。  
何故だ、何故生きている。デスサイズの一撃は、悲鳴を上げる間もなく標的を絶命させる筈であった。なのにこの男は、一度ならず二度も受けながら、何故今も生きている。  
今までミスを犯すことなく、確実に任務を遂行してきた。その完璧さ故に、メイファーは初めての失敗にひどく動揺していた。  
「うおおぉぉぉぉぉ」  
雄叫びを上げながら、メイファーは大鎌を振り下ろす。殺気を込めた一撃など、およそ彼女らしからぬ行動だった。三日月状の大鎌の刃は、大きく弧を描きながら秀太郎の体を袈裟斬りに斬り付ける。  
「うわああああ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。何が悪いのか良く分からないけど、とにかく謝ります、ごめんなさいたすけて〜」  
メイファーの気迫に圧倒され、秀太郎はもう涙目だ。必死で土下座を繰り返す姿は、ぶざまを通り越して滑稽であったが、それはメイファーの笑いを誘うどころか、冷静な彼女を取り乱させる。  
メイファーはデスサイズを振り回し、滅多やたらに斬り付ける。アストラル体の大鎌に質量は無く、巨大な武器にもかかわらず素早く振り抜くことが可能だ。人間を凌ぐ身体能力を持つ死神は、恐るべき速さで嵐のような連撃を放つ。  
だが、そのことごとくは虚しく空を切るばかり。必殺の一撃どころかかすり傷一つ付けられない。  
秀太郎もそれに気付き始めた。いやマジ最初ちょービビったけど、なんか痛くないし血出ないし、慣れれば平気〜? みたいな〜? 意外と普通て感じ〜?  
流石に小心者の秀太郎でも、実害が無いと分かれば恐くはない。焦って闇雲に鎌を振り回す彼女の姿は、今は無力な少女にしか映らない。  
「あー君、ちょっと落ち着こうょ。ねぇ何なのキミ? 落ち着ぃて話シ合おう」目茶苦茶にデスサイズを振り回すメイファーであったが、本来必殺の筈の大鎌を連続で振るう訓練など受けてはいない。死神の彼女といえども流石に息が上がり、鎌の動きは鈍くなっていた。  
 
「君さぁ、さっきトラックのこと言ってたょね?  
もしかして、キミぁのトらックの運転手?」  
秀太郎には思い当たることがあった。実は昨日のお昼頃トラックと交通事故を起こしていたのだ。8tトラックに轢かれる大事故、最近あった事件といえば真っ先に思い浮かぶのはそれだった。  
 
あれは昨日のお昼頃だ。昨日は講義無くて昼まで爆睡していたが、起きたら腹減ってたので安くて腹一杯になる学食ランチを食べるため、チャリンコで激走していた。  
すると、向こうから歩いてくる巨乳美女発見! ピッタリとしたコンシャスなニットシャツの下で過剰なまでに自己主張しているオッパイは推定Fカップ!!! その豊満なオッパイを揺らしながら歩く姿は男にとってある意味凶器! 思わず見入っていたら電柱に激突つー!  
もんどり打って車道に投げ出され、丁度通りかかった8tトラックに轢き殺されてしまったのだったー!  
 
もしかして、このコスプレ少女はあのトラックの運転手なのだろうか?  
やべーよ、あのトラックあの後ガードレールに突っ込んでたんだよ。やべーよ、トラックの修理代払えとか言われたらどうしよ。やべーよ、そんな金ねーよ。  
村嶋秀太郎は真剣にビビっていた。轢き逃げならぬ轢かれ逃げで、警察入れずに逃げてきてしまっのだ。  
まあ常識的に考えれば、ゴスロリ少女が8tトラック乗ってるとは考えないが、秀太郎は本気でそうゆうことを考えてしまう奴だった。  
一方、メイファーも憔悴していた。闇雲にデスサイズを振るっても効果が無いのは分かっている。しかし必殺のデスサイズと、自分の技に自信を持っていただけに焦りは禁じ得ない。焦りは思考を鈍らせ、効かぬと分かっている攻撃を単調に繰り返えさせる。  
しかし打ち疲れ手を止めたことで、メイファーはようやく冷静さを取り戻しつつあった。この男にはデスサイズは効かない、何か秘密が有るはずだ。何とかしてその秘密を暴かねばならない。  
メイファーは乱れた呼吸を整えながら、手短に秀太郎に説明する。  
「ハァハァ、私は死神、お前を殺しに来た」  
それは乱れた呼吸を整えるだけでなく、乱れた思考を整えるための言葉でもあった。  
「えっ!死ニ神だって?!」  
秀太郎は素直に驚いた。まあ普通いきなり死神と言われても信じられないものだろうが、しかし秀太郎はあっさり信じてしまった。秀太郎は、まあそういう奴なんだ。  
ヤバイ、死に神だって! しかも俺を殺しに来たんだって!! でもこの子あんまり恐くないんだよな、あの鎌全然切れないし。あっ、分かったぞ! この子死に神だから鎌持ってるんだ。そうだ、そうに違いない!  
「ああ、そうぃぅこと〜」本質をはなはだしく履き違えいたが、秀太郎は納得した。  
その余裕しゃくしゃくといった態度が、メイファーを苛立たせる。焦りは整い始めた思考から、再び冷静さを奪い去る。  
「何故だ、何故お前はデスサイズで斬られて死なない。お前は何故生きていられる」  
単刀直入な質問は、焦りに因るものか。元よりメイファーは魂を刈る死神、問答無用で対象者を斬り捨てるのが仕事だ。人との交渉やかけひきは得意ではなかった。  
「答えろ、お前は何故死なない」  
鬼気迫る勢いで、メイファーは秀太郎に詰め寄る。  
「何でってぃゎれてもなぁ、ォれもう死んでるんだよ。  
実はォれ、ゾンビなんだ」  
ぺろんと上着をめくり、秀太郎はお腹を見せる。へその横が破れ、傷口からどす黒く変色した血まみれの内臓が飛び出していた。  
 
「キャアアアァァァァァ」  
深夜のアパートにメイファーの悲鳴が木霊する。  
「オ、オ、オ、 オバケェー」  
メイファーは距離を取ろうとよろよろ後ずさる。  
しかし恐怖で足がすくんでしまい、足がもつれて尻餅を着いてしまう。  
「ちょっwおまwww  
死ニ神がぉ化け恐がらなぃでょwwwww  
それに漏れ、ぉ化けじゃなくてゾンビだしwwwwwwww」  
ヘラヘラ笑いながら、秀太郎はじわじわとメイファーに近寄って来る。  
「いやあぁぁぁ、やめて、こっち来ないで、あっち行ってえぇぇぇ」  
メイファーには、最早毅然たる死神の風格は無かった。恐怖に震えるその姿は、見た目の印象通りのか弱い少女のそれでしかない。  
足はすくみ、尻餅を着いたまま立ち上がることすらできない。  
「いや、来ないで、近寄らないで」  
にじり寄るゾンビをデスサイズで押し返そうとする。しかしデスサイズは秀太郎の体をすり抜けるばかりで、まったく何の役にも立たない。  
魂を刈るデスサイズは、肉体と魂の結び付きを断ち切る鎌。ゾンビのようなアンデットは、悪霊化した魂が死体に憑依しているだけで、肉体と魂の結び付きは既に切れている。デスサイズは、アンデット相手には何の役にも立たない。  
「そんなに恐がンなぃでょ。アっ、もしかシて血を見るの恐ぃ人ぉ?」  
「バ、馬鹿、ち、血じゃなくて、は、はらわたが飛び出してる」  
はっ! とした表情で秀太郎は自分の腹を見て、いやまいったまいったと照れ笑いを浮かべながら、右手で飛び出した臓物を無理矢理腹の中に押し込む。  
「ゴメンごめん、とラックに轢かれた時にぉ腹破れちゃってさ、油断してると中身出ちゃぅんだょね。でもこうやって奥まで押し込めば出なぃから」  
「いやあああぁぁぁぁぁ」  
メイファーの恐怖は限界に達していた。必死で逃げようとするも、完全に腰が抜けてしまった。身体は震え、立ち上がるどころか這って逃げることすらままならない。  
「そんな恐がんないでょ。お腹破れちゃったけど、他は生きてる時と何も変わらなぃんだ。君も全然ゾンビだなんて気付かなかったでしょ? 俺も忘れちゃってたんだょね(笑)」  
確かに気付かなかった。ゾンビといっても、死後あまり時間が経過していない場合、見た目も行動も生前と変わらないケースが報告されている。死後まだ半日しか経っていない秀太郎の場合、生前と何も変わらないとしても不思議ではない。  
「ぃやさあ、8tトラックに轢かれた時はホント死ぬかと思ったょ、まぁ死んだんだけど。でさぁこれはヤバイと思ったから、気合いで家まで帰って黒魔術の儀式やったら、ナント成功しちゃったんだょねぇ。ひょっとして俺って天才? ゾンビ作りの才能ぁるのかな」  
ヘラヘラ笑う秀太郎。黒魔術じゃなく医者に行け、それにゾンビは黒魔術でなくてブードゥーだ。などとツッコミを入れる余裕は今のメイファーには無い。  
駄目なのだ。潔癖症のメイファーは、ゴキブリとかそういうが大の苦手なのだ。もうゾンビなてとんでもない、たとえ普通の人間となんら変わらなくても、はらわた見せられてゾンビと分かっしまった以上は、体の振るえは止まらない。  
「大丈夫だょ、ホント普通の人間と変わらなぃんだから。だから安心して℃」  
秀太郎は怯えるメイファーを安心させようと、彼女の傍らにひざまずき、その手を握った。  
「いやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」深夜のアパートにメイファーの悲鳴が木霊する。  
 
「そんな大声出さなぃでょ、ホント何もしなぃから☆ だからそんな恐がらなぃで#」  
秀太郎は優しく微笑みながら、メイファーの手を握り締める。  
「あ、あ、ああ」  
メイファーの恐怖は限界を越えていた、もう悲鳴すら上げることはできない。  
「死ニ神さんの手、とってもスベスベで気持ちぃぃ。それに近くで見るとスッゴぃ美人£  
 
ねぇ、せっくすしょ?」  
メイファーの全身を悪寒が駆け抜ける。激しい嫌悪感に顔面蒼白となり、全身も激しい痙攣に襲われる。  
「ねぇせっくすしょぅょせっくすー@ せっくすスゲー気持ちぃぃんだょ§ もぉサイコーーー(´Д`)  
¥セックス¥ ◎※●◇▼∧⊃ Ohゐゑ〜ゐ」  
駄目だ、こいつ脳みそが腐り始めている。理性が失われ、性欲が暴走しようとしている。  
何が普通の人間と変わりないだ、自覚が無いだけで完全にゾンビ化してる。  
逃げなければ、一刻も早く逃げ出さなければならない。さもなければゾンビに犯されてしまう。  
迫り来る恐怖から逃れるため、メイファーは持てる力すべてを振り絞り、秀太郎の手を振り払う。  
だがしかし、メイファーの手を握る秀太郎の手は、まるで万力のようにがっちりと掴んで放さない。  
それはゾンビの力だった。人間は通常、筋肉や腱を痛めないように30%の力しか出していないと言われている。火事場の馬鹿力などという言葉もあるが、人間は本来持っている力すべてを出さずセーブした力で暮らしている。  
しかしゾンビにはそんな力のセーブは無い。肉体が壊れることなど無視して、その100%の力を発揮することが可能だった。  
死神であるメイファーも、本来人間を凌駕する力をもっている。しかし今の恐怖に震え体のすくむメイファーでは、ゾンビの怪力を持つ秀太郎の手を振り払うことはできなかった。  
「い、いやっ、放して」  
「セセセせっくす〜♂ せっくすキモチイー♀」  
必死の抵抗を試みるメイファーを押し倒し、秀太郎は華奢な身体の上に覆い被さって、怪力で押さえ込む。黒のドレスの裾から、必死に身をよじるメイファーの白い脚があられもなく乱れる。  
「やめて、お願いやめて」  
必死の懇願は、秀太郎には届かない。  
「チューしょぅ、チュー¢ 死ニ神さんチューしょー(;´3`)」  
「いや、やめて」  
秀太郎の唇が迫る。顔を左右に振って逃れようとするメイファーの頬に首筋に、ぞっとする秀太郎の唇の感触が伝わってくる。  
「いやっ、たすけて」  
「ダメだょ死ニ神さん∂ ォれとチューしょー♪」  
顔を背けるメイファーの頭を、秀太郎はがっしり両手で押さえ込む。逃れることができないメイファーの目に、秀太郎が静かに顔を寄せる光景が映った。  
唇と唇が触れ合う感触、おぞましいゾンビに唇を重ねられている。  
汚らわしいゾンビに唇を奪われてしまうことは、メイファーにとって耐えがたい屈辱であった。  
なまめかしく秀太郎の唇はうごめく。熱く、激しく、深く、快楽を求める唇は、貪るように吸い付き、荒々しい口づけを繰り返えす。  
「死ニ神さんの唇、とっても柔らかくて気持ちいい」  
熱烈な秀太郎の求めに、メイファーは耐えるしかない。貪欲に繰り返されるディープキスを、ただ涙を浮かべながら耐えるしかなかった。  
淫らな唇は官能的に絡み付く。飽きることなく続く唇への凌辱は、止め処無く執拗に繰り返される。  
「ぅ、ぅぅ、ぅ…」  
目から涙は溢れ、泣き声は咽から漏れ聞こえる。今はただ、このおぞましい行為が一秒でも早く終わってくれるのを待つしかなかった。  
どれ程の時間が過ぎただろう。メイファーの唇に触れる感触が消える。うっすら目を開けると、離れて行く秀太郎の顔が見える。  
果てし無く続くかと思われた悪夢はようやく終わったのだと、メイファーの胸に一瞬の安堵が広がる。  
しかしその想いも束の間だった。胸を掴むおぞましい感触が、再びメイファーを襲った。  
 
「いやっ、やめてっ」  
メイファーは秀太郎の腕を掴み引き離そうとする。しかしドレスの上から胸を鷲掴みにしている秀太郎の腕は、全くびくともしない。荒々しく両腕は、メイファーの胸を揉みしだく。  
「やめて、放して」  
必死の抵抗虚しく、両腕が乳房を揉み続ける。  
「おおおオッパイー、オッパイキモチイー+−×÷  
葵ちゃんのより>小さいけど=オッパイキモチイーπ∞  
おおおオッパイーーー◎◆※▽■☆▲○」  
奇声を挙げながら、秀太郎はその怪力でドレスを引き裂く。  
カラスの羽のように黒いゴシックドレスは破れ、その下からは純白のブラジャーが現れる。潔癖症のメイファーらしい純白の下着は、夜の闇のような黒のドレスと、鮮やかなコントラストを成している。  
「いや、やめて、こんなのいや」  
下着を見られる羞恥心、そしてこれから起こるであろう邪な行為への恐怖に、メイファーは苛まれる。  
秀太郎の右手が、メイファーの胸へと伸びる。ブラの上から包むように掌を添え、乳房全体を揉んでいく。左手はブラと胸の隙間に滑り込ませ、直接乳房を揉みしだく。  
「いやぁ、こんなのいやぁ」  
泣きじゃくるメイファーを眼下に、愉悦の秀太郎は乳房を弄ぶ。そして両手でブラジャーを掴むと、力任せに左右に引きちぎる。  
やや小ぶりながら、形の良いメイファーの乳房が露になる。キスされたり触られるのとはまた違った、見られることの恥ずかしさがメイファーに込み上げてくる。裸を晒すことの惨めさ、心細さに、溢れる涙は頬を濡らす。  
細身の体は小刻みに震えていた、露になった乳房もかすかに震えている。滑らかな肌は透き通るように白く、なだらかな膨らみの頂きにある乳首は、綺麗な薄桃色に染まっている。  
その可憐な乳房を、秀太郎の両腕が荒々しく揉みしだく。  
若く瑞瑞しい張りのある乳房。やや小ぶりながら、肌はスベスベとしてきめ細かい。両手に力を込めて揉めば、掌に合わせ、乳房は柔らかにその形を変えていく。  
強く激しく乳房を揉みしだき、思うがままに弄ぶ。そして貪るように乳首に吸い付き、狂おしくメイファーを求める。  
「いやぁ、グスン、いやぁ」かすれるようなか細い声は、メイファー最後の抵抗だった。せめて抵抗の意志を示すこと、それだけがメイファーにできるささやかな抵抗だった。  
今も尚、乳房をまさぐる手の動きは止まらない。絶え間無く胸を揉みつづけている。  
「死ニ神さんのおっぱい、柔らかくてとってもキレイだ。俺、今まで巨乳好きだったけど、死ニ神さんのおっぱいは好きだよ」  
唇が乳首に優しく吸い付く、チュッ チュッ と舐めながら、舌の先で乳頭をくすぐる。掌は柔肌を滑るように撫で、柔らかな胸の膨らみをしなやかに揉んでゆく。  
「あ、 んっ、あぁぁ」  
メイファーの口から、甘い吐息が漏れる。  
それは繊細な愛撫だった。それまでの力で押さえ付けるのとは違う、優しく繊細な愛撫。恋人と愛し合う時のように、メイファーの胸を優しく愛撫している。  
「ああっ、あ、ダメ、あっ」  
メイファーは切なく喘ぐ。汚らわしいゾンビに体を弄ばれるのは耐え難い嫌悪感だ。その嫌悪に今も苛まれているのに、心ならず喘ぎ声は漏れてしまう。体は蹂躙されようとも、守り通して来た清廉ささえ脅かされている。快楽を受け入れてしまえば、心まで蹂躙されてしまう。  
「いやぁぁ、ダメェェ」  
メイファーは快楽を拒み続ける。そんなメイファーの乳首を、秀太郎の口は優しく責め立てる。白い柔肌を撫でながら、滑らかに舌を這わせる。  
「あ、う、ダメェ、あ」  
甘く切なく、吐息が漏れる。  
不意にメイファーの胸から秀太郎は離れていく。いきなり立ち上がり、突然雄叫びを上げる。  
 
「うおおおおチンポー! チンポ我慢できねー! チンポーーー!」  
秀太郎はベルトに手をかけ留め具を外そうとする、しかし焦っているからなのか、なかなか上手く外れない。  
「ガーーーー√煤ソ*」  
業を煮やしたのか、金具を外すのを諦め、革製のベルトを怪力で無理矢理引きちぎる。抑えるものがなくなった秀太郎は、ズボンを脱ぎ捨て、固く勃起した男精器をさらけ出す。  
その光景に、メイファーの恐怖心は再び甦る。こいつにはもう理性なんて残っていない、人間らしい優しさなど残ってなどいない、こいつはただの化け物なんだ。  
そそり立つグロテスクな男精器が剥き出しになっている。犯される、という恐怖心は、今までのそれよりも遥かに切迫したものだった。身の危険を察知し、何とか這ってでも逃げようと、すくむ体で懸命に床の上を這いずる。  
そんなメイファーの細い足首を、秀太郎の腕がガッチリと捕える。そしてもう一方の手で、黒いドレスのスカートを捲り上げる。  
「いやぁぁ」  
露わになるメイファーの白い太ももと純白の下着。メイファーは必死に隠そうと内股で踏ん張り、両手でスカートを押さえ付ける。  
「無駄無駄無駄無駄ぁ!  
貧弱貧弱ぅぅぅぅぅぅ〜」  
秀太郎の力は、メイファーの抵抗などものともせずにその手を払い除ける。純白のパンティーに手をかけ、尚も抵抗するメイファーなどお構いなしに、力で無理矢理パンティーを脱がせる。  
覆い隠す物が無くなった下半身は、黒々としたヘアーと秘所とを無防備に晒す。内股に力を込め脚を閉じようとするのを、秀太郎の怪力が阻む。太ももを開かせ、体を股の間に割り入れ、赤見を帯びて広がるメイファーの秘部にペニスの先を当てがう。  
熱くたぎる男根がメイファーを穿つ。  
硬直する異物が突き刺さる苦痛に、メイファーの顔が歪む。太く固い異物は、膣壁を押し広げながら体の奥深くまで侵入して来る。内臓まで達するかと思うほど深々とした挿入が、荒々しく突き上げを繰り返す。擦り切れるほど激しいピストンは、膣内を狂おしく掻き混ぜる。  
「アアアアア」  
苦痛の叫びが上がる。  
そんな叫びは聞こえないかのように、あるいはそれを楽しむかのように、秀太郎は狂ったように腰を振る。メイファーを貫く男根は肉欲を貪り、猛々しい突きを繰り返す。  
「アアアアアアアアアア」  
メイファーの顔は苦痛に歪む。蹂躙され凌辱され、膣を犯されるおぞましい感覚が、繰り返し彼女を襲う。  
痛みは感覚を麻痺させて行く。耐え難い苦痛に、意識も次第に薄れて行く。すべての感覚が、曖昧になって行く。  
「死ニ神さん、俺嬉しいよ」  
耳元で聞こえる声は幻聴だろうか。薄れ行く意識の中に遠く響く。  
「死ニ神さんと一つになれて、俺嬉しいよ」  
秀太郎の腕が、メイファーを優しく抱きしめる。体を密着させ、包み込むようにメイファーの体を抱きしめる。  
猛り狂う腰も、今はたおやかなリズムを刻んでいる。  
メイファーは戸惑う。時に荒々しく、時に優しく、求められることに戸惑いを感じずにはいられない。  
何が彼の本性なのか、何が偽りなのか、薄れ行く意識の中で、曖昧な思考は答えを出さない。  
いずれにしろ、今のメイファーは秀太郎にその体を委ねる以外なかった。  
二人の唇が重なる。深く口づけを交わしながら、秀太郎の腰はその動きを早めて行く。その動きが最高潮に達した時、秀太郎は絶頂を迎えた。  
熱いディープキスを交わしながら、精液をメイファーの膣に注ぐ。溢れる想いと共に、ペニスはぴくぴく脈打ちながら、繰り返し何度も射精する。そしてメイファーの膣をたっぷりの精液で満たすと、秀太郎はそのまま動かなくなった。  
 
「満足したら成仏したか」  
力を失い、重くのしかかる死体をメイファーは押し退ける。  
悪霊、死霊の類は、生への執着から生まれるものだ。満足して執着が無くなり魂も離れていった、大方そんなところか。  
ようやく力が入るようになった体でメイファーは立ち上がる。  
元々素人のにわか仕込みの知識でアンデットになったとしても、そう長く持つものではない。いずれにしろやがて滅んでいただろう。  
そう思うと余計頭が痛い。彼女が人間だった頃から、百年以上も守り続けて来た貞操を、よりによってゾンビに奪われてしまうとは。余りにも悲惨過ぎる。  
本来ならアンデット処理班の管轄で、イレギュラー狩りのメイファーの仕事ではないのに、早とちりで出動した揚げ句、ゾンビに腰を抜かしてレイプまでされてしまったなど、恥ずかしくて誰にもいえない。  
幸い魂は正常に冥界に送られた訳だから、結果的に何の問題も無い。このことは上には報告せずに無かったことにしよう。できることなら、すべて忘れてしまいたい。  
 
 
メイファーは冥界に戻り、悪夢の夜は明けた。  
いかに勤勉なメイファーといえど、あんなことがあった翌日では流石に仕事に身が入らないない。  
そんな日に限り客が訪れる。  
「久しぶりだなメイファー、元気にやっているかね」  
メイファーは慌てて頭を下げる。  
「コルネオ様、お久しぶりです。今日はどのような御用件で」  
コルネオと呼ばれた死神はメイファーの上司に当たり、日本の死神を統轄する役職にあった。  
「実は新しく死神に成った魂が有ってね、紹介に来たんだ」  
コルネオの後ろに一人死神が控えている、この男が新入りか。その顔を見て、メイファーの顔が歪む。  
「げっ」  
「村嶋秀太郎です、よろしくお願いしま〜す♪」  
メイファーの眉と鼻と頬と口が、ヒクヒクと痙攣している。  
「今日の未明に死神に成ったばかりの新入りだ、まだ何も分からないから面倒見てやってくれ」  
「はっ、私がですか」  
「ああ、イレギュラー狩りの任務に就かせるつもりだ、勤勉な君に教育係になってもらうのが一番だと思ってな」  
穏やかな笑みを浮かべるコルネオとは対照に、メイファーは引き攣った笑みを浮かべる。  
「何だ、不服かね」  
「い、いえ、決して不服というわけでわ」  
「そうか、なら頼む。ビシビシ鍛えてやってくれ」  
「あ、いえ、教育係なら私より適任者は沢山いるかと思いますが」  
「ははは、謙遜するな。実績も勤務内容も君は優秀じゃないか、それじゃ任せたよ」  
コルネオは踵を返して去っていく。  
「と、いう訳で、よろしくお願いしますね、先輩♪」  
秀太郎はぽんとメイファーの肩を叩く。  
「触るな化け物」  
メイファーはさっと後ろに飛び退き身構える。  
「化け物は酷ぃなぁ、俺もぅゾンビじゃなくて、先輩と同じ死ニ神なんだからw」  
と秀太郎はヘラヘラ笑う。  
「ふざけるな、何でお前が死神に成っているんだ」  
メイファーは顔を真っ赤にして怒りに震える  
「ぃや〜、ぁの時、先輩とずっと一緒にぃたぃなぁって思ったら死ニ神になっちゃったんですょ〜(笑)」  
頭が痛くなってきた。思うだけでゾンビになったり死神になったりするなど、何てデタラメな奴んだ。  
「きっと、ゾンビになったのも、先輩に出合うためだったんですょね、正に運命の出合ぃてやつぅ? きっと仏さまの御導きですねo(^-^)o」  
「ゾンビが仏さまとかいうな」  
「だからぁ、もぅゾンビじゃなぃってぃってるんじゃなぃですかぁ⌒☆ せんぱぃってけっこぅオチャメなんですねwww」  
「そ、そのおぞましいしゃべり方は止めろ」  
ああ、こいつと話ていると調子が狂う。本当にこんな奴の面倒をこれから見なければならないのか。何だか本格的に頭が痛くなってきた。  
「せんぱ〜ぃ♪ これからよろしくお願ぃしますね〜LOVE」  
「こら、近寄るな、あっち行け」  
 
 
こうして、死神メイファーの苦悩する日々が始まったのであった。  
 
The end  
 

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