二十歳くらいであろうか、女戦士が洞穴を一人で歩いていた。  
 外はまだ昼であるが、滝の裏に位置してあるためか内部に光はあまり  
届いておらず、薄暗い。  
 しかし松明を使うのは彼女には心苦しかった。  
 ひざの真ん中辺りまで水が流れているこの場所では、転んですぐ駄目に  
してしまうと思ったからだ。  
 実際、既に二度程そうなっており、松明を一本無駄にしてしまっている。  
 またそれには彼女が貧乏な冒険者ギルドに所属するせいでもあったし、  
(松明一本すら大事にしなければならないような、極貧ギルドである)  
 町から近いこんなダンジョンには弱い魔物しかいないだろうという彼女の  
慢心も松明を使わない理由を手伝っていた。  
 と、不意に何かに蹴つまづいて、バランスを崩した。  
「うわぁっ」  
 よく通る凛とした声が響く。彼女は後ろへ尻もちをついた。  
 戦士にはおよそ似つかわしくないふくよかな胸に、細くくびれた腰、  
大きな尻が盛大に水をかぶる。これで三回目だ。  
「くっそ……馬鹿にしやがって」  
 悪態をつきながら立ち上がる。鎧はいいが、下着がびしょ濡れになって  
しまった。非常に不愉快だ。  
 男勝りな性格の彼女は生来こらえ性が無く、短気であった。  
 その苛立ちは今や最高潮に達している。  
「こんのっ……!」  
 物に当たろうと足元の水中をキッと睨みつけたとき、彼女の苛立ちは  
驚くほどすっと引いていった。  
 宝箱だ。  
 きっと水の中に隠れていて今まで誰にも見つからなかったのだろう。  
 それは小物入れ程度の小さなものであったが、散歩がてらに入ったダンジョン  
の報酬にしては、十分すぎる程だった。  
「――ぃよっしゃあ!」  
 彼女は小さくガッツポーズを作った。そして水中から引き上げて、ワクワク  
しながら開けてみた。  
 小さなボトルに入った液体と、ビキニタイプの下着。  
 と、握りこぶし大のごつごつした宝石が一つ。  
「嘘だろ……? 大収穫だ!」  
 彼女は飛び上がる勢いで喜んだ。  
 丁度喉の渇いていた所に、替えの下着、財宝が入っていたのである。  
 宝石を腰の皮袋に入れると、迷わずボトルの液体を飲み干した。  
 
 ――普通の冒険者ならこんなことはしない。まず、液体が飲めるものかどうか、  
の確認から始めるであろう。  
 しかしながら彼女は二流ないしは三流の冒険者であった。適正な薬物に対する  
知識もなければ、万全の準備もない。  
 更にこんな洞穴ならば危険物はない、という油断や、苛立ちが昇華した  
過剰な喜びが、戦士の判断を曇らせた。  
 腕で口からこぼれる液体を拭い、一呼吸。  
 着ていた下着を脱いで、宝箱の中の下着を穿いている途中に。  
 自然と、笑いがこみ上げてきた。  
 皮袋に入った宝石は、ずしり、と重い。なんとも、価値のある物だと感じさせて  
くれる。  
 こんなものがあれば、自分は一気に大金持ちであろう。正に一攫千金だ。  
 少しの間、彼女は年相応の乙女らしく、将来についての夢想にふけっていた。  
 
 彼女が我に返ったのは、どくん、という心臓の鼓動の音が引き金であった。  
「あ……は……っ」  
 熱い。体が熱い。  
 燃えるようなものが体内を駆け巡っている。  
 動悸がして、体が疼く。冷や汗が肌を伝う感覚が、やけに鋭敏に感じ取れる。  
「ふっ……あぁ……や、ん……な……」  
 耐え切れなくなって、彼女は体をくの字におった。  
 その時である。  
 天井から、垂水が落ちた。それは静かに中空から、  
「あ……ひあぁっ!!」  
 したたかに彼女のうなじを打った。  
 戦士は息を呑んだ。不意打ちにはもちろんであるが、それ以上に驚いたのは  
自分があんなに甘い声を出したことである。  
 それに、あの衝撃。体に電流を流し込まれたような、そんな感覚。  
 痛みとも何とも形容しがたいむずかゆいそれに、彼女は身の危険を感じた。  
 急いでここから出なければと、思い疼く体に鞭を打ち、一気にそれを腰まで上  
げた時だった。  
「あぁああぁぁっ!! ふぁ、あはっ、はあぁぁぁぁあんっ!!」  
 下着が、凄まじい勢いで振動し始めた。それは主に股間部分で起こり、  
彼女の核を強く刺激する。  
 
「あぁぁぁぁあっ! な、や、なに、ふあああぁぁぁっ!!」  
 彼女は、ひどく混乱していた。自分の体に何が起こっているのか把握しかねている。  
 生まれて初めて触れる快感という感覚に戸惑い、少しの恐怖さえ感じていた。  
「うあぁぁっ、あぁ、あああああぁぁぁっ!」  
 媚薬によって昂った体は、振動によってどんどん昇り詰めていく。  
 立っていられなくなって、膝をついた。そこから壁に背を置いて、自分の体をかき抱く。  
 彼女の頭は一瞬で桃色の靄(もや)がかかり、冷静な思考、正常な感情を  
それらは覆い隠していった。   
「んぅ、んぁ、ふあぁ! くふぅぅあああぁぁあ!」  
 快感を我慢しようとしても、できない。どうしても声が漏れ、そこから広がり、気付けば  
大声を上げて喘いでいる。  
 薄暗い洞窟に、彼女の嬌声だけが響き渡る。  
「ああああああああっ! うあ、あああぁぁぁっぁぁぁっ!!!」  
 彼女は絶頂に近づこうとしていた。振動がひときわ大きくなり、腰が揺らめく。  
 体の奥から来る「何か」に、少しの恐怖と期待を彼女が抱いた時、  
「ああぁぁあ、ああ、ぁ……ふぁ……?」  
 振動は、ぴたりと止んだ。  
 
「ぁ……ぅ……な、んで……?」  
 少し掠れた声で、彼女はつぶやく。  
 あと少し、あと少しで大きな何かが来たのに。  
 今まで一度も快感に気をやったことのない彼女は、イくということをそういう拙い言葉  
でしか表現することができなかった。  
 しかし気をやることができなかったことについて残念に思う反面、安堵をしていたのも  
正直な所であった。  
 何か、という言葉から置き換えるならば津波である。あの大波にさらわれては、  
自分は沖に流されて当分の間、陸へ帰ってくることはままならなかったであろう。  
 荒い息をつきながら、呼吸を整える。火照った体に、流水が心地よい。  
 彼女は未だに現在の状況に整理がつけられないでいたが、とりあえずここから一刻  
もはやく離れねばならないことは分かっていた。  
 そのためには、下着が邪魔である。この強烈な感覚はそれからもたらされた  
ことは明確であり、今一番の敵に他ならない。  
 
 サイドに手をかけた。絶頂寸前に打ち震えながら一気に脱ごうとして、  
「っはぁあああぁぁあっぁぁ!!」  
 失敗した。再度、振動が起こったためだ。あまりの快感に、体に力が入らない。  
 それに、穿く時は簡単であったのに、脱ぐ時には必要以上に力が要る。ありったけの  
力を込めたにも関わらず、それは1cmも下へ動いてはいなかった。  
 どうやら、脱ごうとすると振動が起こるらしい。それに何か呪具の類なのか、  
外す事ができない。少なくとも、自分の力では。  
「……はぁ、はあ……っんぅ、はぁ……」  
 腰に提げていた剣を杖にして、よろよろと立ち上がった。  
 彼女は無言で、出口を目指した。  
 
 そもそも、戦士は初心(うぶ)であった。生まれてから一度も、快感と  
いったような気持ちのいいものを受け入れたことはなかった。  
 例えば、自慰行為である。そのような言葉が存在することさえ彼女は知らない。  
 それに知っていたとして、自らで性器を刺激し快感を得るという大半の同異性が  
経験済みのその体験を、おおいに蔑み、哂ったことだろう。  
 性行為の事を知っている、つもりで本人はいたが、それは男性器を女性器に  
挿し込んで射精し、数ヶ月後に子供が産まれるというひどく幼いものであり、  
セックスに(特に女性側には)多大な快感が伴うことなどは知りえなかった。  
 また、当然のことながら  
「んふあぁっ!? あぁぁ、やぁ、またぁぁぁあっ!!」  
 自分の感覚器官に、ただ快感を享受することのみに特化したものがあること  
など、知る由もなかったのである。  
 初体験から数分。体内を逆巻く、どろどろとした色欲がようやく少しずつ  
自然消滅しかけていた時期に、もう一度その振動はやってきた。  
「あはぁっ! ふあ、んぅぅぅぅっ!! ひぅぅぁぁああっ!」  
 また、股間を押さえてその場へうずくまる。戦士の命であるはずの剣を投げ  
出し、振動に体を震わせる。  
 
「いやぁっ、あはぁぁっ、もう、んんんんぅっ!」  
 呪具は的確に、彼女のクリトリスのみを刺激していた。  
 あるいは強く、包み込むように。かと思えば、先端のみに微弱な振動を。  
 まるで生きているかのように、強烈な快感を与えていく。  
「あは、はぁ、ひあぁぁっ!」  
 それにただでさえ快感に慣れていないというのに、強力な媚薬で全身の  
性感帯を鋭敏にさせられている。  
 処女にとって、度が過ぎる快感であった。  
「ああはぁぁああっ!! ふあぁあっ、だめ、もう、んああああぁっぁっ!!」  
 また絶頂が近づく。背筋がぞくぞくした。今度こそはという期待を抱く。  
一瞬後にくる絶大な快楽を心待ちにして、  
「ああぁ……ぇぁ……また、ぁ……」  
 それはやはり来ることは無かった。  
 呪具は自分を生かさず殺さずの状態にしたいのか、絶頂の寸前、ギリギリの  
所で陰核への刺激を停止する。  
 足りない。あと少しで。疼く。熱い。  
 
 もはや彼女の論理的思考は失われ、単語でのみしか、欲望を表現でき  
なくなっていた。  
 その後、一連は何度も繰り返された。  
 しかし、彼女は決して自分の手で性器を刺激することはなかった。  
 自慰行為を知らなくとも、そんな状態になれば秘所へ手は伸びる。  
 だが触ってしまえば、何かが終わってしまう気がしたのだ。  
 冒険者としては三流の彼女であったが、自尊心だけは一流だった。まるで  
王国の騎士隊長のような、そんな誇り高いものを持っていたのである。  
 彼女を三流たらしめている事由の一つであった。  
 
「あぁぁ……はぁ、はぁ……ああぁぁ……」  
 そういった状態の中で、彼女は限界を迎えていた。  
 全身から汗が噴出している。内股になって、股間からは蜜を常に滴らせて  
いた。吐息は桃色に見えそうなほど艶やかで、目の焦点も定まっていない。  
 それでも、長いようで短いの旅もようやく終わりを迎えようとしていた。  
 光が見えたのである。出口だ。  
 …が、その光を遮るものがあった。  
 マンイーターである。  
 “人喰らうもの”の名を冠する彼の生態は、常識で知られるそれと大きく  
違っていた。  
 彼らは確かに人を食べる。しかし、食べるのは人の老廃物だ。  
 その触手で絡めとり、垢、汗、糞尿を食べる。主食は女性だ。  
 胎盤を、女性特有の月のものを食べるのだ。  
 命は脅かされることは無いが、襲われれば貞操は守れない。そういった意味  
で、彼らは多くの女性の冒険者たちに恐れられていた。  
 そんな魔物の目に、対峙した戦士の姿はどう映ったろうか。  
 多量の汗。滴る蜜。安産型の大きな尻。  
「くぅ……!」  
 彼女は、疼く身体を抑えて、剣を鞘から抜いた。構えは崩れ、戦える状態  
ではない。抵抗の意思表示だ。  
 
 マンイーターは姿勢を低くし、水を蹴った。同時に、幾本も触手を伸ばす。  
 迎撃に、なんとかブロードソードを振り上げ、  
「あっ……!」  
 切り落とす前に、腕を絡め取られた。本体が近づいてくる。  
 無数のそれが、彼女へ伸びる。  
「はなせぇ……! やめろぉ、う、あぁ……ひっ」  
 そうして、全身を触手に包まれた。  
「ふぁああっ、ああぁっ……やめ、やめろぉ……あはああっぁぁっ」  
 そっと装備を脱がされた。鎧を立てて水へ浸かり、すぐに裸身になった。  
 傷一つない肌は静かにじっくりと陵辱されていく。  
 胸を、腋を、腹を太股を手足の指を。  
 汗だくの身体を、懇切丁寧に舐めとられていく。  
 普段ならぬるぬるとした触手のその行為は不愉快極まりない所だが、媚薬に  
と呪具の責めによって全身の感覚が鋭敏化した今の彼女には、極上の愛撫であった。  
「うぁああぁっ、やめ、あああぁっあ!! いひぁあああっ!」  
 マンイーターは呪具と違って焦らす事をしなかった。最初から強い刺激を彼女に  
与え、なすすべなく絶頂へ導いていく。  
「あああぁああっぁっ!! もう、いやぁ! ふぁ、んはあぁああっぁぁ!!」  
 だが、彼は悦楽を貪る魔物ではない。全身の垢と汗を舐めとり終えたのか、 
触手は愛撫を突然停止した。  
 
 ごぷり、と多量の愛液が下着越しから溢れ出てくる。が、それだけであった。  
 またも、かくやというところで気をやることができなかったのだ。  
「ぁあ……ああぁあぁ……いやらぁ……られか……たす……け…」  
 彼女はもうどうにかなってしまう寸前であった。もう、快楽の事しか考えられない。  
 さっきから来そうで来ない何かを待ち焦がれて、もどかしさで爆発してしまいそうだ。  
「……ぇ、あぁ……なに?」  
 と、マンイーターは優しく彼女に目隠しをした。  
 どうすれば人間の女が感じやすく、つまり秘蜜を分泌しやすくなるか心得ているのだ。  
「え、ぁ、うそ……なに、なに?!」  
 視界を抑えられ、彼女は戸惑った。何も見えないという異状が、無意識的に感度を  
高め、興奮を昂らせる。  
 感覚は一気に股間へ、具体的にはクリトリスへ集中した。  
 そしてマンイーターは、ついに主菜へ手を伸ばした。下着をはぎとろうと、  
一気に太股の辺りまでずり下ろす。  
「んふああぁぁっああぁああぁっああぁ!!!!!」  
 呪具が反応し、甘い電撃がはじけた。  
「ふぁあああぁぁああぁ!!! らえ、これらえええええぁあぁぁっぁあぁ!!!!」  
 頭が真っ白になり、意識が明滅する。何も考えられない。  
 今までせき止められていたものが決壊し、理性は波にさらわれたのだ。  
「ひあああぁぁああぁぁぁぁっぁぁあっ!!!! ああぁああぁぁっ!! ふああぁっぁ!!」  
 つま先は伸びきり、体は身体の稼動する限界まで弓なりに反った。  
 しかも、気をやった直後にも繰り返し快感の波が押し寄せる。  
 呪具が全勢力をあげ、彼女の陰核全てを激しく責め立てているのだ。  
 小さな円を何重にも描き、強く押し付け、摘み上げるように。  
 というのも、マンイーターが呪具の解除にてこずっているのが原因であった。  
 それは脱がされまいと、必死になって抵抗しているのだ。  
「ああぁああぁぁぁっぁあぁぁぁ!!! らえぇぇぇ! ろけうぅっぁあああぁぁあっ!!!」  
 魔物である彼の力を以ってしても、道具は股までずり下ろされることはなかった。  
 下ろそうとするたびに振動が強くなり、彼女は絶叫する。  
 膣を犯そうと何度も呪具を外そうとするが、それはより大きな快感を  
無理やりに与えるだけであった。  
 
 その試みが七度目に至ろうかという時、彼はある事に気がついた。  
 獲物の股間の膨らみが、奇妙な音を立てて振動しているのである。  
 そんな人間の女性を、かつて一度も見た事が無かった。  
 呪具はあとほんの少しでも力を込めれば脱げる位置まで来ていたが、もはや  
そんなものよりはこちらの方が気になった。好奇心である。  
 一本の触手を伸ばした。それは先端から四つに分かれ口のようになり、  
 その部分に甘く噛み付いて思い切り吸い上げた。  
「ふぁあぁあああああぁぁっぁぁああ!!!! ああぁぁあっぁあぁあ!!!!!!!!!」  
 イキっぱなしになっていた彼女にとって、その状態を上回る快楽は、言葉では  
表現できないほどであった。  
 ただ、気持ちいい。  
 与えられる快感に抵抗できず、獣のように絶叫する。  
「やえ、そえやらぁ!!! いひぁあああぁあっっ!!! んあぁぁああぁぁああぁっ!!」  
 今や股間からは、小水のように愛液が溢れ出していた。  
 男勝りであった口調は既に崩壊し、呂律もとっくに回らない。  
 学習した彼は、それを更に大きく左右へ、少し乱暴につまみをねじるような動作をした。  
「んぅぅぅぅああぁっっ!! そえ、おかひ、おかひくぅぅぅぁあああっぁああ!!!」  
 
 その度に彼女の体はびくびくと震え、絶叫する。  
 天井の見えない空へ、無限に昇り詰めていくような感覚を。  
 大きく腰を揺らしながら、よだれを垂らし、ただ絶頂を享受する。  
「あはっぁ、んふぁああぁっあああぁっ!!! もうやえ、やらぁあああぁっぁああぁ!!」  
 最後に、彼はいたるところへ触手を伸ばした。そろそろ胃袋も限界である。  
 全身の汗をもう一度舐めとりながら、かたくしこった乳首へ手を伸ばす。  
 細い触手はそれへ巻きつき、思い切りひっぱった。  
 淫核を刺激していた口も、舌を下着越しに巻きつかせ、仕上げとばかりに思い切り  
吸い上げる。  
「ひいいいぃぁあ゛ぁあぁああああぁぁぁぁっぁぁぁあぁ!!!!!!!!!」  
 敏感な部分を容赦なく刺激され、彼女の意識は彼方へ吹き飛び、失禁した。  
 
 
「ん……ぅ……」  
 ゆっくりと、水の中から身を起こした。  
 出口から射し込んだ光が目を射抜き、未だ朦朧とする意識に喝を入れる。  
 色は、昼間の白から黄昏の朱に変わっていた。  
 何時間犯されていたのだろうか。まだ頭に靄がかかっていて状況を上手く  
整理できない。  
 だが、少なくとも陵辱から解放された、という事は理解できた。  
 ……と、重大な事に気づいた。  
 股間に振動が無い。同時に、股の辺りに何か引っかかっている感覚がある。  
 姿勢を変えて確認すれば、案の定下着が脱げているのであった。魔物が犯す  
ためにそうしたのだろう。  
 もう魔物は辺りにいるようになかった。  
 そいつを思うと、激しい憎悪が沸きあがる。明らかに不快になり、今すぐに  
にでも暴れたい気持ちになる。  
 ……だが、それと共に、多少の感謝の念が沸き上がっているのも事実であった。  
 ふと、背筋に冷たいものが走る。それが寒気だと気付いた時に、彼女は自分が  
全裸だということを思い出した。  
 
寒い。ただでさえ肌寒い洞穴の、滝の流水に数分でも浸かっていれば  
(どのくらい気絶していたかはわからないが)、それは道理であった。  
 引き剥がされた装備を探して、手の届く範囲をばしゃばしゃとやる。  
 剣は見つかった。が、それでは寒さはしのげない。  
 それを杖に立ち上がろうとして、失敗した。どうやら腰が抜けているらしい。  
 体が気だるく、自分のものでないように重い。これではいくら寒くても、  
防具を装備すれば水原から身じろぎすらできそうもなかった。  
 皮袋はそれらが入る程大きくない。装備するにも気力が足りなかったし、  
今すぐにでもこの忌まわしい呪具を脱ぎ捨てたい気持ちもある。  
 だが、今は何より外に出たかった。  
「く、ぅ……ぁ……くそっ……」  
 仕方なく剣を水際へ置いた。皮袋だけは何とか回収し、情けない気持ちで  
いっぱいになりながら四つんばいで出口へ這っていく。  
 まだ媚薬の効果は抜けていないらしい。出口の際(きわ)でちゃぷちゃぷ  
やっている流水が、股間へ当たってむずがゆいような快感を与えてきていた。  
 小さく甘い息をつきながらも、なんとかそこまでたどり着く。  
 
一歩洞穴から踏み出ただけでも、視界は一気に開け、光量は倍増し、外気は  
上昇し、すがすがしい開放感に包まれた。  
 出口の壁に、そっと背を預けた。  
 大きく、深い息をつく。  
 助かったという安堵、生の実感、宝を持ち帰った達成感、様々なものが  
流れ込み、先程までの絶望を埋め満たしていった。  
 優しく降り注ぐ橙色の陽光は母を思わせ、泣きそうになる。  
 助かった。助かったのだ。  
 落ち着いたら鎧を着て、町へ帰ろう。そして、財宝を見つけた事を  
報告するのだ。一気に英雄になって、少しの間は遊んで暮らせる。  
 油断を呼んだ妄想を再度膨らませているとき、こつこつと滝の向こう側から  
足音が近づいてきた。と、同時に声も。  
「こらー、どこへ行くのー! 戻ってらっしゃーい!」  
「まってー、しゅぎょうごっこしたいー!」  
 落ち着いた大人の女性と、幼い女の子のものだ。徐々に近づいてくる。  
 彼女は焦った。何をどうすればよいか、まったくわからない。  
 とりあえず露出したままの性器を隠そうと下着を腰まで上げようとして、  
それが呪具であることを思い出した。  
 
 近くには小さな石や砂利しか転がっておらず、裸体を隠すものは何も無い。  
「……あれ、おねえさんなにしてるの?」  
 あたふたしていると、子供が滝を越えてやってきた。  
「な、なにもしてない……。きにすんな……」  
「さむくないの?」  
「ああ、だいじょうぶだ。だから……」  
「うそー! あたしはさむいもん。はだかとおかぜをひいちゃうよ?」  
「いい、こなくていい。よるな、はやくあっちへ……」  
「あ、おぱんつはけないのね。あたしがはかせてあげるー!」  
 その無邪気な悪意に、背筋が凍った。女児は、除々に近づいてくる。  
 両手を前へ突き出して、大きく首を横へ振った。全身に力が入らない  
彼女にとって、それが精一杯の抵抗であった。  
 だが、そんなことは女児には関係ないようだった。その腕をかいくぐり、  
あっという間に彼女に接近する。  
 快感への絶望が、鎌首をもたげ始める。  
「やめろ! やめろ、やぁ、やめて! おねがい!」  
 頭が混乱する。あまり上手い言葉が思いつかない。何を言おうと、  
どうやっても止めてくれそうにない。  
 
 女児よりはるかに大人な彼女はどんどん涙目になり、いやいやと首を振る事  
しかできなくなっていた。  
「だーめ」  
 無邪気に、残酷な言葉が洞窟内に少し反響した。   
 心臓が、動悸が早くなる。時間が、止まればいいと思った。  
 無理やりにでも少女へ暴力を振るい引き剥がせばよかったが、彼女の自尊心  
がそれを許さなかった。  
「んんんんぅぅぅっっ!!」  
 ――そして結局、最後までそれは彼女を助けることはなかったのだ。  
 尻を地面につけているはずなのに、下着は嘘みたいに正位置まで上ってきた。  
 再び、股間に振動が蘇る。  
「はい、これでだいじょうぶ。ほかのふくは?」  
 聞いてくる。だが、今の彼女にそんな余裕は無い。喘ぎ声が漏れないように  
精一杯奥歯を噛み、自分をかき抱いて、快感に打ち震える。  
 答えるように、ぶんぶんと首を横へ振った。  
「そっかー……。なんでそんなふうなのかわかんないけど、おかぜひいちゃ  
だめだよ?」  
 今度は、首と縦に振る。  
 
「んぅ……んはっ、はぁあ……んんんっ!」  
「ど、どうしたの? どこか……いたいの?」  
「いや……んっ、それ、より……はあぁっ! はやくかえらないと……  
ふぁ、おこられるんじゃ……んぁああっ!!」  
「あ、そうだった! じゃあね、おねえさん! お大事に!」  
 なんとか搾り出した言葉に、ぽんと手を打った。元気よく手を振って、  
女児は滝の向こう側へ消えていった。  
 少女が去った瞬間から、振動がより強烈になった。  
 彼女を満たしていたものは粉々になり、大仰に喘ぐ。  
「あぁあ、ふぁああぁっ!! んぁ、ひぁああああっ!」  
 ただ一人、洞穴の入り口に女戦士だけが残された。  
 嬌声だけが、壁に反響して無情に響きわたっていた。  
 
 
 
 

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