史上最悪の流星群
車で自宅に帰る博士とティム。
さすがのティムも裸で車に乗るのはまずいと判断したのか、
水着に着替える前のメイド服を着ていた。
スレンダーな体にシンプルなメイド服はよく似合っていた。
「さぁ、帰ってからビデオ鑑賞が楽しみでありますなぁ。」
「……。」
そう。あの変態博士は自分の趣味にだけは頭をフル回転させる男である。
ヒトデや貝、鳥などに自動繁殖寄生型のナノマシンを使った
カメラを取り付けていたのである。
その映像は全てコンピューターに送られた後に自動で消滅する。
証拠は隠滅され、地球と動物にだけには優しい代物であった。
「ティムも見るでありますか?」
「けっこうです。」
「そうですかぁ。」
こうして、二人は研究所に戻る。
そこで彼らを待ち受けていたのは……、
ビーチから転送してきた大量の水着であった。
当然、どれもこれも女性のものばかり。
あまりの量の水着は転送装置の受信側のドアを突き破って
あふれかえっていあのである。
さすがの博士も驚いていたようである。
「ほぇ〜。」
そう言いながら、そのうちのパンツの一つをつまんで持ち上げて匂いを嗅いで見る。
ほのかないい匂いがした。しかも生温かい。
まだ脱がしたてであったのだ。
「博士。」
「なんだね?人の至福の瞬間の邪魔をしないで欲しいのだが?」
水着の海の中に飛び込んで遊んでいる彼は確かに幸せそうだった。
「これ、こんなに沢山どうするんですか?」
ティムの意見はもっともである。
この量では研究に支障がでる。
「う〜ん。そうであります!!」
「何か解決策を思いついたのですか?」
「ふっふっふ。
この天才、ドクターマッド様にかかればこんなものはおちゃのこさいさいであります!!
さぁ、この水着をこの箱の中に少し残して押し込むのであります!!」
そう言いながら、博士は少しだけポケットの中に水着を押し込む。
一方、ティムは水着を片っ端から箱に詰めていく。
明らかに箱は水着をすべて収容するには小さかったが、
ドクターマッドの超技術の詰まった箱は水着を全部、収容してしまったのである。
「博士。これでは転送装置の実験ができないのですが?」
「分かっている。だがそんなものはこの天才ドクターマッド様にかかれば、
たいした問題ではないのであ〜る。見ていろ、カップル共め!!
今日は大量の流星群を降らしてやるぞ〜!!」
「そうですか……」
ティムは博士が何をするのかは具体的には分かっていなかった。
だが、こういう時はたいてい周囲に迷惑をかけることであろうというのはよく分かっていた。
そして、午後7時。
モニターにはいろいろな女性が水着を奪われてパニックに陥る映像が流れていた。
博士が自分の戦果を鑑賞していたのである。
「博士。7時になりました。」
そこにコーヒーを持ったティムが入ってくる。
映像にも関わらず、彼女の表情はいつもどおりだった。
「そうですか〜。座ってくれたまえ。」
彼は彼女が入ってくるとモニターの映像を切り替えた。
そこにはかなり複雑な文字列と数式が羅列されていた。
ティムは彼に言われるがままに彼の隣に座る。
「さぁさぁ、本日2回目のメインイベント、やってまいりました」
「早くお願いします。」
「ティムはせっかちさんだなぁ。ささっ、スイッチオーン!!」
キュゥゥゥゥン!!
ドクターマッドがスイッチを入れると、
さきほどまで箱を埋め尽くしていた犠牲者達の水着はすべて光に包まれて消えていった。
これで、家を埋め尽くしていた大量の水着問題は見事に解決されたのであった。
「博士。水着はどこにいったのでしょうか?」
「ふっふっふ。それはおたのしみだよ。ティム君。」
一方、町の方で。
今日、この町では夏祭りの日。
何組ものカップルが屋台を楽しんでいた。
そんな中である。
何か得体の知れないものがひらひらと降ってきたのである。
それも、一つじゃない。いくつもいくつも。
まるで流星群のようだった。
「あれっ、何か降ってくるよ?」
「そうね。何かしらね?」
それが何なのか、暗くてよく見えない。
そこで、青年の方がひらひらと降ってくるそれを掴んだのである。
「これ、何……」
言っている途中で青年は自分が掴んだものの正体を悟ったようである。
だが、もう手遅れだったようである。
「きゃぁぁぁぁ!!バカ!!、変態!!、最悪!!、絶交よ!!」
泣きながら走り去っていく少女。
「待ってよ!!、これは誤解なんだ!!ねぇ!!」
慌てて少女を追いかける青年。
あまりにも動転していて、掴んだものは手から離れていなかった。
彼が掴んだものはなんだったのだろうか?
そう。それは女性のビキニだったのである。
ビキニだけではない。レオタードも、スク水も、
一斉に夏祭りの町をめがけて降り注いだのであった。
そこから逃げ出す女性達。
中にはここぞとばかりに集めだす男性。
なかには子供に目隠しをして一目散に去る母親までいた。
実は博士は女性の水着を一斉に夏祭りの会場に転送したのである。
当然、そこも大パニックになる。
それを見て、博士は大笑いをしながらコーヒーを飲んでいた。
横ではティムが、眉一つ動かさずにモニターを見つめてた……。
最後に付け加えておくと、
次の日の新聞の見出しは「水着流星群、夏祭りの町に降り注ぐ!!」
だそうだ。