「もう行くの?」  
 圭祐は暗闇の中で下着を身に付ける香織に言った。圭祐自身はまだ、さっきまでのめくる  
む様な感覚を保存しておきたかった。  
「ごめんね。仕事なの。」  
「香織は忙しいね。まだ5時だよ。」  
「ロケがあるときは圭ちゃんだって大変でしょう?我慢して。」  
 
 圭祐は素肌のまま、冬の凍るような朝に出て行く香織を送り出した。ただし、玄関まで。  
 そして、香織はその足で六本木に向かった。圭祐に「仕事がある」と言ったのは嘘だった。  
いや、正しくは、これも一種の仕事なのかもしれない。  
 慣れた足取りで裏口からマンションに入る。合鍵を持たされている。東京の街並みが一望  
できる部屋で、香織は所属事務所の社長に抱かれるのだ。  
 
 大きなダブルベッドが事務所社長・岸田と繋がる場所。  
 岸田は下から女が動くところを見るのが好きだった。香織は岸田の黒い肌に跨り、腰を振り  
続けた。  
「あっ・・・はん・・おっきぃ」  
「カオリ、もっと動け」  
 岸田はそのゴツゴツとした手で香織の胸を揉みほぐした。香織は感じやすい。セックスの時  
は全身が性感帯になってしまう。  
「これ以上・・・うごい・・・たら ンッ 壊れちゃうよぉ」  
「じゃあ壊してやる」  
 岸田の腰の動きが激しくなった。ズンズンと香織を突き上げる。  
「やぁっ・・・だ、めっ んっあああっ」  
「ホラ、イけよ!」  
 岸田は香織を突き上げたまま身を起こし、香織の乳房に吸い付いた。  
 香織が果てた後も、岸田は責めていた。白濁の液を、香織の粘膜に塗りつける。岸田は、避  
妊をしない。  
 
 
 香織と圭祐が出会ったのは、3ヶ月前の夏の特番だった。香織がレギュラーで出演している  
バラエティ番組に、若手俳優の信川圭祐が番宣で出演したことがきっかけである。  
 圭祐は香織より1つ上の23歳。そもそも名古屋で風俗嬢をしていた香織だったが、たまたま  
お忍びで足を運んだ現在の所属事務所社長・岸田に見初められ今に至る。要するに、枕営業と  
いうやつである。  
 キレイにして、ひな壇の上でニコニコして、時々バカなネタ話を振れば芸能界で充分やって  
いけた。何もしなくたって、岸田と寝れば仕事は増えた。  
 一方、信川圭祐は苦労人だ。母一人子一人という環境にありながら、独学で演技の勉強をし、  
やっと今の俳優養成事務所に入ってドラマのほんの脇役をやれるようになった。最近は少しず  
つCMや、舞台の仕事も入ってきているようで、忙しくなってきている。  
 香織はそんな圭祐を尊敬し、自分の方から交際を申し込んだ。圭祐は「香織といると気が楽  
になる」と言って側にいてくれるようになった。  
 
 
 タン塩が運ばれてきたとき、香織の携帯のバイブレーションが作動した。  
 今日は圭祐と焼肉を食べに来ている。圭祐がドラマの打ち上げで先輩俳優に連れてきてもら  
ったという赤坂の店だった。個室があり、芸能人には向いている。  
「ごめん、ちょっと出てきていい?」  
「仕事?」  
「事務所から。」  
 圭祐は納得し、アミの上の肉をせっせと香織の皿に乗せ始めた。香織は携帯だけを持って、  
店の外に出た。  
「もしもし。岸田さん?」  
『香織、今から来なさい。今どこだ。』  
 岸田にとって、香織の事情はどうでもいい。  
「赤坂。トモダチと焼肉食べてます。」  
『赤坂なら近いな。早く来なさい。』  
 
 席に戻り、急遽仕事が入ったことを圭祐に告げた。圭祐はブツブツと文句を言い始めたが、香  
織に仕事に行くよう促した。  
(優しすぎる)  
 本当にこの男は自分に好意があるんだろうか。根が優しいだけあって、香織は時々この関係性  
に不安を感じていた。しかし、圭祐を責めることはできない。不貞なのは自分なのだから。  
 
 この日、岸田はバックから香織を責めた。肌と肌がぶつかり合い、香織の中でいやらしく液体  
がかき混ぜられる音がする。  
 香織はバックが好きだ。奥まで快楽が届き、犯されているような自分に余計興奮する。しかし、  
圭祐はしない。「女の子がかわいそうに見えてしまうから萎える」と言っていた。香織は「優し  
いね」と言いつつも、もう少し欲望のままに愛して欲しいと思っていた。  
「んっ、んっ・・」  
「どうした香織。いつもみたいにもっと声を出せ。」  
 岸田の腰の動きが激しくなる。  
「あぅっ・・あんっ はぁぅ・・・ん」  
 香織は腕で体重が支えられなくなり、上半身をベッドに落とした。その体勢では尻がさらに岸  
田の方へ向けられる形となりさらに奥まで当たった。  
「イイッ、いいのぉっ・・もっと!」  
「イクぞ、香織、ちゃんと受け止めろ」  
「あぁ・・っ」  
 ドクドクと注がれる岸田の精液。仕事と引き換えの貞操。夜を重ねる度、重くなっていく罪の  
意識。ここまでして、何故香織は仕事をやっているのか。香織の目には、もう物事への輝きが見  
えなくなっていた。  
 
 
 クリスマスは香織も圭祐も仕事ということで、その5日前である12月20日に少しデートをするこ  
とにした。クリスマス・年末特番の収録で、ここ数日間、香織はろくに寝ていなかった。一方、圭  
祐も初舞台の地方公演があり、昨日久しぶりに東京に戻ってきたところである。お互いに疲れてい  
たため、結局「デート」は圭祐の家の中で行われることになった。会うのは約2週間ぶり。岸田との  
逢瀬の方が、頻繁なのかもしれない。  
 圭祐は、香織に内緒でペアリングを買ってくれていた。  
「好みじゃなかったらすいません。」  
 圭祐はそう言って、恐る恐る手渡した。  
 シンプルなものだったが、駆け出しの俳優である圭祐にとっては高価すぎる買い物だ。香織はそ  
の指輪を何度も電球にかざし、キラキラを楽しんだ。  
「ありがとう。ずっと付けるね!」  
「無理でしょ。何かの会見でそんなの発見されたらマスコミに総ツッコミされるよ。」  
「そっか。圭ちゃん、意外と頭良いね。」  
「頭いいかどうかは知らないけどさ。」  
 圭祐はテーブルの上のチキンを一つつまみ、かぶりついた。某ファーストフードのものであるが、  
圭祐はこれが一番好きらしい。  
「でも、今は付けていていいでしょう?」  
「いいよ。俺も仕事の時以外は程度に付けるから。」  
 
 ベッドの上で寝転がりながら、素肌になった。背中に圭祐の手と、付けている指輪の感覚がある。  
指輪の部分だけひんやりとしていて、気持ちいい。圭祐がゆっくりと香織のおでこや、首筋に口付  
けを落としていく。頬、耳元、まぶた・・・そして、ようやく口に。  
 圭祐の唇は柔らかく、そして温かい。何度唇を重ねても、この感覚に蕩けそうになる。  
 次第に絡んでいく舌。くちゅ、くちゅと漏れてしまう音に、香織の体は昂ぶっていった。圭祐も  
夢中で香織を味わっていた。いつの間にか圭祐は香織の上になり、覆い被さるようにして香織に愛  
撫を続けた。  
「圭ちゃん、跡つけちゃダメだよ。」  
「わかってるよ。」  
 そう言って、圭祐は鎖骨を這わせていた口を、胸へ移動させた。香織の乳首をコロコロと舌で転  
がし、一方で空いた乳房を愛でた。  
「んっ・・圭ちゃん、胸は弱いって言ったでしょ?」  
 圭祐は何も言わず、胸への愛撫を継続した。  
「あん・・あっ 圭ちゃん・・・」  
 自然に香織は秘部をもじもじさせていた。圭祐もそれに気が付いたらしく、愛撫は下半身へ移行  
する。その時だった。テーブルの上に置いてあった香織の携帯電話のバイブレーションが作動した。  
このバイブパターンは、岸田からの着信によるものだ。事務所の社長でもある岸田は当然のスケジュ  
ールくらいは簡単にわかる。今日が10日ぶりの休日だということも、わかっているのだ。  
「香織、鳴ってるけど・・・。」  
「いいの、ほっといて。だから・・・シテ。」  
 しばらくすると、着信は止まった。圭祐は少し案じたように香織の秘所を舐め始めた。既に香織の  
ソコは愛液でいっぱいになっている。溢れる蜜を舐め取るように、圭祐の舌は次第に激しくなってい  
く。  
 しかし、また、バイブレーションが鳴った。  
「香織、本当にいいの?仕事じゃないの?」  
「いいのっ、いいから、お願い、早く欲しい。」  
 圭祐は吹っ切れたような顔で、サイドテーブルの上からコンドームを取り、素早く装着しては香織  
の濡れそぼった場所にあてがう。  
「挿れるよ。」  
 低い声で囁かれ、それだけで香織はイキそうになった。  
「うん、好きよ、圭ちゃん。」  
 香織は圭祐の体にしがみつき、圭祐からの律動を全身で快楽に変えた。圭祐の声、体温、息づかい  
・・・全てが香織にとっての快楽だった。  
 
 
<着信履歴4件>  
 翌朝、携帯を開くと、このフレーズが現れた。あの岸田が4度も電話したと考えるべきか、タレント  
KAORIには発信4件程度の価値しか無いと考えるべきか。  
 一度携帯電話を閉じ、圭祐の冷蔵庫から水を拝借した。「くすり」を飲むためだ。岸田は避妊をして  
くれない。だから、岸田との関係を持つようになってから香織は経口避妊薬を飲んでいた。  
 当然、岸田とのことは圭祐に言えないので「くすり」を飲んでいること自体も圭祐には隠している。  
だから、いつも圭祐よりなるべく先に起きているのだ。  
 岸田に逆らったのは初めてだった。正直、この先どうなるのかは全く予想できなかった。ただ、今  
もなんとなく体に残っている圭祐のぬくもりだけが信頼できるものだった。  
 香織はいそいそと服を着て、まだ眠ったままの圭祐に口付けをした。  
「じゃあ、圭ちゃん先に行くね。」  
 香織はバッグの中に岸田のマンションの鍵があることを確認して、圭祐の家を出た。  
 
 
 岸田の部屋に入る。電気は消してあり、岸田は鼾をかいて寝ていた。香織は一つ大きなため息をつい  
て、部屋を出ようとしたが、ちょうど岸田が起きてしまった。  
「昨日はどうしたんだ。」  
 半分寝ぼけた声で岸田が尋ねる。  
「寝ちゃいました。久々の休日だったから。」  
「その指輪は?」  
「・・これ?」  
 半分寝ているような状態にも関わらず、岸田は目敏く香織の右手薬指に付けられたままのリングを見  
つけた。こういうところが岸田の恐ろしいところだ。  
「自分への・・・ご褒美みたいなもの。」  
「嘘をつけ。そんな安物、おまえみたいな金食い虫が買うわけ無い。」  
 岸田はのそのそと起き上がる。バスローブは半ば肌蹴ており、一晩の間に体内で発酵された酒の臭い  
がした。  
「!!」  
 岸田は香織の右手を掴み、強く握りしめた。  
「ちょっと、岸田さん、痛いって。」  
「誰に貰った。」  
「誰だっていいじゃない。あたし、帰るから。今日、お昼から<ミュージックパーク>の収録あるし…。」  
 香織はそう言って、岸田の手から自分の手を引き抜こうとしたが、外れなかった。むしろ、逆に引き寄  
せられ、寝室の壁に放り投げられた。ゴン、という鈍い音がする。香織の頭がサイドテーブルに当たった  
のだ。  
「痛い・・・。」  
 ふいに、頭が上がった。岸田が香織の前髪を引っ張り上げたのだ。  
「忘れるな。おまえは俺がいなきゃただのキャバ嬢だったんだ。今の生活は俺のおかげだ。調子に乗るな。」  
 岸田は低い声でそう呟くと、髪ごと香織の頭を放り投げた。  
 バスローブを脱ぎ、軽く脳震盪を起こしている香織の股を無理やりに開く。まだ濡れていない香織の秘  
部に強引に自身を埋め込んでいく。抉られるような痛みを感じながらも、香織の頭は鈍い揺れで支配され  
ていた。  
 
 
 年が明け、数週間が経過した。信川圭祐はしばらく香織と連絡が取れていない。自身も冬クールのドラ  
マ撮影などがあり忙しかったのもあるが、まさに香織は音信不通状態となってしまった。何度か家に行っ  
てみたが、家はひっそりとしていた。  
 そんな頃、ある下世話な芸能誌に香織のベッドでの写真が流出した。  
 【人気タレントKの衝撃S○X画像】と題打たれたその記事はインターネットなどを通じて広まっていった。  
 圭祐がそのことを知ったのは、マネージャーの真壁を通じてだった。真壁と圭祐は年も近く、親友のよ  
うに何でも相談し合える仲だった。もちろん香織との仲も承知していた。  
 目は隠されているものの、圭祐にはそれが香織だとすぐにわかった。  
「おまえじゃないよな?こんな写真流したの。」  
 真壁が気を遣うように尋ねた。  
「俺、こんなの撮ったことない。第一、こんなの・・・。」  
 そう言って、圭祐は恐る恐る雑誌を指差す。香織の腕には手錠が嵌められている。いわゆる「プレイ」だ。  
圭祐はそのような「プレイ」は未経験だった。  
 香織の過去の「仕事」については全く知らないわけではない。それも承知で付き合ってきた。この写真が  
過去のものならまだ良いのだが、現に今香織と話せていなかった。  
 
 
 香織は仕事が終わると、まっすぐ六本木にある岸田のマンションへ向かうようになっていた。かと言って、  
毎日抱かれる訳ではない。時には同じ事務所の新人タレントがやってきて、香織は物置のような小さな部屋  
に追いやられることもあった。  
 岸田はその財力で新進気鋭の俳優・信川圭祐と香織が良い仲であることを掴んでいた。岸田にとって、圭  
祐を潰すことはたやすいことであった。それくらい、岸田は芸能界を支配している。香織がこのまま圭祐と  
付き合い続けることはすなわち、圭祐の将来を潰すことであると岸田に言われた。  
 だが、それも当然かもしれない。元風俗嬢で何の才能もないマルチタレントが、将来有望な俳優に何をし  
てあげられるというのだろう。  
 
 いつの間にか、岸田に抱かれることに嫌悪感は無くなっていた。以前はベッドの中であふれる岸田の汗や  
臭いが嫌でしょうがなかった。しかし、香織自身から溢れる愛液や嬌声がそれと同じくらい汚い物のように  
思えてきてしまった。  
 この晩も岸田とベッドを共にした。岸田は最近手錠に凝っている。この日のセックスも香織に手錠をはめ、  
目隠しをし、後ろから突くというやや変態めいたものだった。  
「んっ、ふぅっ・・んっ」  
 既に2度果てた後で、香織の体はもう感じる余裕も無い。喘ぎ声も快感からではなく、疲労から漏れてい  
ると言った方が正しいだろう。しかし、岸田は満足する気配も無く、律動は激しくなるばかりだった。既に  
注入された精液が香織の奥へと押し込まれる。また、香織の太腿を通じて愛液と精液が混じったもの流れ出  
ていた。汚い夜は無限かと思われる程に長く感じる。  
 
 
 午前4時。香織はベッドから這い出て、手首の傷跡に薬を塗った。段々手錠の痣が濃くなっている。岸田  
の鼾が聞こえる時間が香織にとって唯一の自由な時間。香織はベッドの下に散らばった洋服のポケットから、  
圭祐にもらった指輪を取り出した。この自由な時間にだけ、香織はコレをつけることができる。床に座りこ  
み、指輪を付けた手を天井にかざす。圭祐にもらった時はあんなに綺麗に見えたこの指輪も、この暗い部屋  
の中ではただの銀のわっかだった。  
<ブー ブー ブー ・・・>  
 携帯のバイブレーションだ。しかし、このバイブパターンは岸田によるものではない。現に、岸田はベッ  
ドで眠っている。香織はこそこそと携帯をバッグから取り出し、ベランダへ出た。  
<圭ちゃん>  
 この表示に、胸が痛くなる。これ以上圭祐と関われば圭祐の俳優人生にに未来は無い。この言葉を聞いて、  
香織は圭祐と会うのをやめた。だから着信にも一切出なくなった。しかし、この日の香織はどうかしていた  
のかもしれない。無意識に、通話ボタンを押した。  
「圭ちゃん?久しぶりだね。」  
『岸田さんのとこにいるって、本当?』  
「相変わらず直球だね。」  
 圭祐が声を立てて笑った。  
「どうやって調べたの?」  
『いろいろ。芸能界の噂を駆使してみた。』  
「じゃあ、もう私のことなんて嫌になったでしょう。」  
『そのつもりだったんだけどね。』  
 下着姿のままベランダに出たため寒くなり、部屋に戻りたくなった。香織は電話を切ろうと、圭祐に切り  
出したが圭祐はそれを制止した。  
『今から出られる?』  
「今、ほぼ裸だから無理かな。」  
『逃げようよ、岸田さんのところから。』  
 今度は香織が声を立てて笑う番だった。やはり、圭祐は何もわかっていない。何のために香織が圭祐から  
離れたのかわかっていないのだ。  
「圭ちゃん、正直、そんなことされても迷惑だから帰っ・・・。」  
 香織はベランダのフェンス越しに圭祐の姿を確認した。植え込みの陰になってよく見えないが、見慣れた  
人物がそこにいた。  
「圭ちゃん、マンションまで来たの?」  
『あ、見えた?俺もさっきから探してるんだけど、俺からはよく見えないんだよ。』  
「圭ちゃんはバカだよね。」  
 香織はそう言い残して携帯を切った。  
 すぐに部屋の中へ入り、ベッドの下に散った衣服を急いで身に付ける。いつも持っているバッグと、右手  
のリングを確認して外に出た。  
 
「圭ちゃん!」  
 圭祐は全く話が読めない、という顔でそこに突っ立っていた。しかし、これくらいの無防備さが香織には  
心地良い。  
「逃げよう。早く。」  
 香織は圭祐の右手を取る。香織とのペアリングがまだそこに光っていた。  
 
 間もなくして、すぐに香織は「過去の人」となった。数多の「あの人は今」タレントの仲間入りだった。  
事務所も解雇され、岸田からの連絡も絶えた。日にち感覚がおかしくなるほど働いた日々を後悔はしていな  
い。一生の宝となる経験であると思っている。しかし・・・。そこまで考えて、香織は顔を圭祐の胸に埋め  
た。圭祐もバーター出演が一切なくなり、今は全てオーディションで役を勝ち取る生活になった。圭祐自身  
は意外にポジティブで「それこそが役者だ」と言って張り切っている。恋人に不幸を味あわせてまで手に入  
れたこの幸福を、少しでも永く感じられるように、香織は目を閉じる。  
 

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