今日は12月24日(水)、現在時刻は7時41分、俺の現在地は駅前。  
美紀と一緒に来たかったんだが、「デートなんだから、駅前で待ち合せするのが常識でしょ?」と意味の分からない常識を持ち出され、待ち合わせすることになった。  
ちなみに待ち合わせの時間は8時なんだが、緊張してしいたのか、気付いたら10分前にここに着いていた。  
こういう場合、女性の方が早く着いていて『待った?』『ううん、今来たところ。』ってやり取りするのが普通じゃないのか?コレって所謂中二病ってヤツなのか?  
まぁそんな事はどうでもいいが、今日こそは絶対に告白するつもりだ。生ぬるい関係もそれはそれで良かったんだが、気持ちが腐って廃棄処分される前にこの関係を崩したい。  
もしも振られたら、多分二度と甘やかしてやれるような関係に戻れないとわかっているが、わかっているからこそ、崩すと決めた。いつまでも生殺しはごめんだ。  
 
決意を新たにし、デートプランを練っていたらいつの間にか待ち合わせ時間を10分も過ぎていた。  
「遅いなぁ・・・」  
「遅いなぁ・・・」  
いつの間にか俺の目の前に立っていた女性が、俺と同じタイミングで同じ言葉をつぶやいた。  
思わず同情してしまい、その女性の顔を一目見ようと顔を上げると、  
「美紀?」  
「たっちゃん?」  
そこにいたのは美紀だった。  
 
「たっちゃんはいつからここに?」  
「大体30分前からだな。美紀は?」  
「私は15分前くらい・・・」  
「そっか、ごめんな。ちょっと考えごとしてて気付かなかった。」  
「か、考えごと!?って、何・・・?」  
何を慌ててるんだ、美紀は?  
「あぁ、今日のデートについて、ちょっとな。」  
「あぁ、そうなんだ・・・ほっ・・・」  
美紀は一体俺が何を考えてると思ったんだろうか。わからないがとりあえずスルーしておこう。  
「美紀、朝飯は?」  
「食べてきたよ。何で?」  
「食べてないなら食べていこうと思っただけだ。じゃあ行くぞ。」  
「え?じゃあたっちゃんは?」  
「食ってきた。」  
「そうなんだ。」  
まぁ嘘だがな。  
 
こうしてクリスマスイブデートの幕が開けた。  
 
 
たっちゃんの『考えごと』にはビックリしたなぁ。もしかして昨日の事を言われるんじゃないかと思ってたのに忘れてるみたい。というか今日のたっちゃんはやけに饒舌。いつものお出かけなら、私からしゃべりかけないと絶対しゃべらないのに。  
たっちゃんから誘ったっていう心理的プレッシャーでもあるのかな?と思ったんだけど、たっちゃんの目を見てる限りそんな感じは伝わってこない。むしろ何か喋ってないと壊れちゃいそうな、危うい感じ。だから、私は話の切れ目に疑問をぶつけてみた。  
「ねえ、たっちゃん。」  
「何だ?」  
「・・・何か、隠し事、してる?」  
「・・・さあな。」  
言葉自体はいつものたっちゃんだけど、なんか引っかかる。妙な違和感が取れないまま、私たち二人は遊園地に着いた。  
 
遊園地はクリスマスイブってこともあって、多くのカップルや冬休みに入った学生たちで混雑していたけど、中には初々しいカップルの姿もあって、ちょっと和んだ。  
一方、私たちと言えば・・・  
「ふぅ〜、ジェットコースター、気持ちよかった〜!」  
「そ、そうか・・・」  
「そういやたっちゃん、ジェットコースターとかの絶叫系って苦手じゃなかったっけ?」  
「いや、8年ぶりだから大丈夫だと思ってたんだが、なかなか克服できないな・・・」  
「ふふっ、たっちゃん、無理しなくていいんだよ?」  
「いや、美紀に楽しんで欲しいからな。」  
「・・・ありがと♪」  
たっちゃんは優しいけど、無理はしない人だと思ってた。今日は今まで無理だったものに積極的に挑んでいる気がする。  
さっきのジェットコースターもそうだけど、普通はカップルじゃないといけないアトラクションとか、プリクラとか。確か3年前くらいに買い物に付き合ってもらった帰り、  
ゲーセンに当時最新のプリクラがあったから『やっていこうよ』って言ったら『写真写り悪いから勘弁』とか色々と言い訳して、結局私が泣きそうになって、写ってもらったんだっけ。  
確かにたっちゃんと一緒にプリクラ写るのは嬉しいんだけど、どことなく無理してる感じがして、ちょっと悲しい。  
 
そして、妙な違和感の答えが夕方、夕日が照らす観覧車の中でわかった。  
 
現在時刻は4時を回ったところ。日が沈むのが早いこの土地では、後1時間もしないうちに日が沈む。頃合だと思った俺は、美紀を観覧車に誘った。  
「観覧車なんて美紀と初めて遊園地に来た日ぶりだな。」  
「たっちゃんはあれ以来乗ってないんだ?まぁ私もだけどね。」  
「初めての遊園地と言えば、確かお前が迷子になって俺が見つけてやったんだよな。」  
「むー!それは言わないでよ!たっちゃんだってアイス落として泣いてたじゃん!」  
「・・・そうだったな。よく覚えてるな。」  
「たっちゃんこそ良く覚えてるよね。でも、あれ以来一緒には遊園地に来なくなったね。」  
「そうだな。確かウチの両親がその頃からウチの親父がなかなか時間取れなくなったんだよな。それに美紀があの頃からちょっとずつ変わっていって、誘いにくくなったのもあるな。」  
「え?覚えてるの?」  
「そりゃ、毎日見てりゃ分かるよ。何がきっかけかは知らないが、小4あたりから随分変わったよな。」  
 
「・・・たっちゃんのせいだよ。」  
美紀は俯きながら、そんなことを言った。若干震えている気がする。って俺が何かしたっけ?  
「俺の?・・・何をしたか覚えてないが。」  
「たっちゃんがっ!あの時クラスで一番人気がある優子が好きって言うから!」  
美紀が俺に食いつくように叫んだ。まるで俺が悪人のように、泣きそうな目でにらみつけてくる。  
「え?」  
「私、悔しくって!一生懸命かわいくなろうとしてたのに、たっちゃんは何も言ってくれなくって・・・」  
「美紀・・・」  
だからあの頃の美紀はやたらと俺に突っかかってきてたのか。  
「だからむかついて、彼氏作っても、たっちゃんはいつもいつも『そうか、おめでとう』って笑顔で言ってくるから、この朴念仁!とか思ったり、  
 彼氏と別れて甘えても普通に慰めてくれて・・・そんなときに限って、冗談で『付き合ってやろうか?』なんて言ってくるから冗談だと思ったけど、  
 わざと無防備に振舞ってたのに何もしてくれなくて・・・とっても惨めな気持ちになって・・・たっちゃんがわからなくて・・・」  
「・・・」  
「私、今までで5人くらい彼氏作ったけど、誰にもこの体触らせたことないんだよ?セックスどころかキス、手を繋ぐことさえしなかったんだよ?  
 そうやって下心を出してきた子はその場で振ったし、そういう私に嫌気がさして振ってきた子もいた。たっちゃんにしか、触られてない部分が  
 いっぱいあるんだよ?なのにたっちゃんは私に興味無い感じだし、今も好きな子が居るって言うし・・・  
 ねぇ、私、こんなにたっちゃんが好きなんだよ?どうやったらたっちゃんが好きになってくれるの?ねぇ、教えてよ・・・」  
 
 
美紀の突然の告白に衝撃を受けた。あまりのショックに反応が出来ない。普通に歩いていたら戦闘機が降ってきました、的な。  
今聞いた話を総合すると、美紀は俺のことが好き、なんだよな?しかも今まで作ってきた彼氏とは手も繋いでませんと。  
・・・俺らはもしかして壮絶なすれ違いを、少なく見積もっても小3の頃からしていたってことか?  
 
 
「たっちゃん・・・?」  
「美紀、これから俺が言う言葉にびっくりするなよ?」  
「ふぇ・・・?」  
涙目の美紀がやたらと可愛く見える。口の中が乾いて声が出ない。緊張で鼓動がえらいことになっている。  
つばを飲み込み、目を閉じて大きく深呼吸し、気持ちを落ち着ける。そして目を開き、美紀の目をじっと見つめる。  
「俺は、美紀が、昔から、大好きでした。」  
そこで一度言葉を区切ると、美紀の目が大きく見開き、涙がこぼれそうになる。涙の色は、悲しみの色。  
「そして、今も美紀のことが、大好きです。」  
美紀の顔が歪む。涙の色は、喜びの色。  
「だから、美紀。俺の彼女になってください。」  
「た・・・っちゃ・・・う・・・ううう・・・」  
「ほら、泣くなら俺の胸で泣け。」  
「うわ〜〜〜〜〜!!」  
俺に抱きつき、大声で泣く美紀。胸を叩いてくるが、まるで痛くない。  
「ばかっ!たっちゃ、のばかっ!も、ぜったい!はなさないんだ、ら!」  
しゃくりあげながら俺を罵倒してくる。その罵倒すら心地よい。  
「ああ、俺も、美紀のこと離さないから。」  
夕日が照らす観覧車の中、俺と美紀は恋人同士になった。まぁ、随分と遠回りしたけどな。  
 
 
私は観覧車を降りた後、お手洗いに行かせてもらった、というか行かされた。観覧車の中でなんとか泣き止んだのはいいんだけど、  
「まだ話したい事があるんだが・・・その顔じゃ、な。」  
とちょっと苦笑しながら。うー、たっちゃんが泣かすのが悪いんじゃんかー!  
お手洗いの鏡で顔を見ると、目がすっごく赤いし、ちょっとメイクも崩れちゃってる。  
とりあえず目薬を注して、メイクも直す。目がちょっと赤いのは、たっちゃんの所為にしておこう。  
それにしても本当に嬉しい。たっちゃんを好きになって10年。ここまでくるのにすごい時間がかかっちゃったけど、やっと願いがかなった。これってクリスマスプレゼントになるのかな?  
・・・って良く考えたらクリスマスイブにカップル誕生じゃん?この後たっちゃんとお食事して、その後ホテルとかでたっちゃんが私をお食事!?・・・いい加減にしなさい、私。  
妄想で赤くなった顔を冷ますのにちょっと時間がかかっちゃったけど、おかげで目が赤かったのもだいぶ引いた。  
 
「ごめんね、遅くなっちゃって。」  
「っ!?あ、ああ。遅かったな。」  
「たっちゃん?どうかした?」  
「い、いや、いざとなると、結構緊張するなと思って。」  
えええ!?たたたたっちゃん!?も、もしかして、もうなの!?ちょ、ちょっと待って、まだ勇気とか気持ちとかその・・・  
「美紀、これ、受け取ってくれるか?」  
「っ!?ななななに!?」  
「えっと、一応、コレが本当のクリスマスプレゼントなんだが・・・」  
「ふぇ?これ?」  
あ、あせったー。たっちゃんが緊張してるから、ホテル行きかと思ったら・・・思わせぶりだぞ〜!  
「・・・ってこれ・・・」  
「うん、ティファニーのオープンハートネックレス、欲しがってなかったっけ?」  
確かこれが欲しいって言ってたのは中2の秋。たまたまたっちゃんとデパートに行った時に見つけて、思わず『好きな人からプレゼントされたいなぁ』とか言ったんだっけ。  
「指輪は美紀のサイズがわからないから、ネックレスならと思ったんだが・・・嫌だったか?」  
「ううん!すっごく嬉しいよ!ありがとう、たっちゃん♪」  
あまりに嬉しくって、気付いたらたっちゃんに抱きついてた。そういえば、こうやってたっちゃんに抱きつくのは初めてだなぁ。  
「っあ、ああ・・・」  
たっちゃんは顔を真っ赤にしながらそっぽ向いてる。その割には私の体をしっかり抱きしめてる。めちゃくちゃ嬉しい!  
 
「そういえばたっちゃん、いつの間にこんなの買ってたの?」  
美紀がニコニコとネックレスをいじりながら聞いてきた。  
「ん?たしか買ったのは10月ごろかな。それ以前から金は貯めてたけど。」  
「お金?毎月のお小遣いでも貯めてたの?」  
あ、そういや美紀には言ってなかったっけか。  
「ちょっと前までファーストフードでバイトしてたよ。」  
「え?そうなの?知らなかったなぁ。」  
「教えてなかったし、知られたくなかったからな。ほら、商店街にケンタあるだろ?あそこでだよ。」  
「えぇぇ!?あそこ普通に行ってたよ!?なんで気付かなかったんだろう・・・」  
「まぁ俺は表に出ない仕事だったからなぁ。俺も美紀が来てるのは知らなかったよ。」  
「ん?でもしてたって事は、辞めちゃったの?」  
「まあな。あそこのクリスマスは大変なんだぞ?それに俺たちはもうじき受験生だし、目標金額は貯まったしな。」  
「そうなんだぁ。私のためにバイトしてたんだ・・・なんだか嬉しいなぁ・・・♪」  
目を細めてネックレスに頬擦りする美紀がすごく可愛くて、思わず見とれていると、  
「ん?なぁに?たっちゃん♪」  
その反応に、本能がうずく。気付いたら俺は、美紀のことを抱きしめていた。人の目を気にせずに。  
「っ!?たたたたっちゃん!?」  
「美紀、目、閉じてくれるか?」  
「・・・うん。」  
とても整った美紀の顔。柔らかそうな唇。赤く染まった頬。全てが愛しくて、美紀の初めてのキスを奪った。  
ただ触れるだけの、官能的でもなんでもないキス。それでも、俺たちのファーストキス。時間は長くなかったはずだが、俺にとっては数分に感じた。  
 
「・・・お二人さんとも、お熱いですなぁ。」  
ふとそんな声が右から聞こえた。ってこの声は佐々木!?  
「佐々木!?」  
「瑞希!?」  
「やー、どもども、その通り佐々木瑞希でございまーす♪」  
「ご、ごめんね、瑞希が見たいって言うから・・・」  
隣には佐々木の彼氏らしき男性――たしか佐々木より2歳上だったっけか――の姿も。  
「む、村上さん!瑞希を止めてくださいよ!」  
美紀はどうやら佐々木の彼氏の名前を知っているらしい。ちょっと嫉妬。  
「あ、あはは。どうもこの子の野次馬根性に火がつくと俺でも制御不能でね。」  
「む、どういうことかな?イチロー君?」  
「ばっ!俺の名前は志郎だ!イチローではない!」  
「じゃあ今どこの学校行ってますか?」  
「ぐっ・・・!」  
なるほど、予備校生か何かで。と言うかよく佐々木と付き合ってられるな・・・  
「まぁイチローの話はほっといて。お二人さん、いつから付き合い始めたのさ?昨日はそんな雰囲気じゃなかったと思うんだけど?」  
「・・・さっきだよ。俺から告白した。それにさっき佐々木が見たのがファーストキスだよ。」  
「おー!ファーストキッス!きゃー!これはみんなにメールしないと!」  
「瑞希止めてー!お願いだからー!」  
「じょーだんよ、じょーだん♪でも、のりぴーとみなっちにはちゃんと言わないと、だよ?」  
「・・・うん、分かってる。」  
「ま、あの子達だってちゃんと事情説明すれば分かってくれるよ。心配すんな。」  
「・・・うん、ありがと。」  
何で木津さんと水上さんが出てくるんだ?よくわからんのだが。  
「朴念仁は気にするな。乙女の秘密ってヤツだよ♪」  
「侮辱された気がするが気のせいか?というか心の中を読むな、佐々木よ。」  
「あははっ!だってたっつーの顔に『なんでのりぴーとみなっちなの?』って書いてあったもん。」  
「むぅ・・・」  
なるほど、俺は考えてることが顔に出やすいのか。気をつけないとな。  
 
瑞希に散々茶化されたあと、1時間ほどダブルデートみたいな感じで遊園地を回って、私たちは先に帰る事にした。  
今日のデートのことを色々と話していて、今度はどこ行こうか、とか話していて、ふと今日の晩御飯のことが気になったので、たっちゃんに尋ねてみた。  
「たっちゃん、この後の予定は?」  
「あれ?美紀、お母さんから何も聞いてないのか?」  
「ん?何も聞いてないよ?」  
「そうなんだ?とりあえず美紀の家にお邪魔させてもらうよ。」  
「うん。・・・え?ええええええ!?」  
「うん?ダメか?」  
「いやいやいやいや、ダメじゃないんだけどダメというかなんと言うか、だってパパもママも居ないし、だからたっちゃんが狼さんに・・・」  
パパはお仕事、ママはお友達とご飯とか言ってたし。  
「なりませんから。送り狼になんてなりませんよ。美紀のお母さんからいい鳥を買ったから、良かったら調理してくれって言われててな。」  
「そ、そうなんだ・・・」  
と言うか何故たっちゃんにメールを送ってるのよママ。せめて娘にそういうこと言ってよ・・・。  
 
「ただいまー。」  
「おじゃましまーす。」  
ついつい習慣で帰ってくるとただいま、って言っちゃう。誰も居ないんだけどね。  
「じゃあ俺は台所に行って確認してくるから。」  
「うん。私は着替えてこようかな。」  
たっちゃんとは台所で別れ、私は一回部屋に行くために、リビングの扉を開けた。  
「「メリー・クリスマース!!」」  
「ひゃう!」  
ぱーん!と言う音と同時に真っ暗なリビングからそんな声が聞こえて、驚いて思わずしりもちをついちゃった。  
「お父さん、お母さん、やっぱりやりすぎだったと思いますよ。」  
苦笑しながらたっちゃんがリビングの電気をつける。え?お父さん?お母さん?  
たっちゃんが「お父さん」と「お母さん」って呼ぶのって・・・  
「まぁいいじゃないか。たまには娘の驚く顔が見たくてな。」  
「お父さんったら趣味が悪いんだから♪お帰り、美紀♪」  
のほほんとしたウチのパパとママが、リビングに居た。  
 
「もー!パパもママも人が悪いよ!それにたっちゃんも!知ってるなら教えてよ!」  
「まぁお母さんに『美紀に言ったら電気あんまね♪』って言われてたし・・・」  
たっちゃんが昔の事を思い出したのか苦笑いしている。あれってそんなに痛いの?  
「まぁまぁ、それより美紀、私たちに何か報告すること、あるんじゃない?」  
「ふぇ?ママたちに報告すること?」  
「遊園地で何かあったんじゃないの〜?」  
遊園地での出来事を思い出し、思わず顔を背ける。背けた先のたっちゃんは、ちょっと恥ずかしそうに、でも嬉しそうにしていた。  
「・・・うん、たっちゃんと付き合うことになった。」  
「あら、この子は恥ずかしがっちゃって♪」  
「おお、そうなのか!辰則くん、美紀はあんまり料理は出来ないが気の利く優しい子だ。ぜひ幸せな夫婦になってくれよ!」  
「パパ!なんでいきなり夫婦なのよっ!て言うかたっちゃんも照れてないで何か言い返してっ!」  
「いや、ほら、彼女の両親公認で結婚を認めてくれるのって、やっぱ、嬉しいじゃん?相手は10年来想ってきた相手だし・・・」  
「〜〜〜〜〜!!!」  
たっちゃんの言葉に頭から湯気が出るんじゃないかってほど照れる。たしかに、たっちゃんとなら結婚してもいいけど・・・  
「まぁまぁたっちゃんは積極的ねぇ♪お母さん少し妬けちゃうわ♪」  
「そうだねぇ。娘を手放すのが惜しい親の気持ちって、こんな感じなのかねぇ。」  
なんだかのほほんと娘離れについて語りだしたうちの両親。こんな風にさせたたっちゃんが恨めしくて、手の甲を思いっきりつねる。  
痛い痛い痛いとかたっちゃんは言ってるけど、腹の虫が収まるまでこうさせてもらうことにする。  
 
 
嬉しくて調子に乗って夫婦宣言したら、美紀に左手の甲が若干紫がかるまでつねられた。何がいけなかったんだろうか。  
それはともかく、あの後は美紀の家族のために料理を振る舞い(と言っても材料は美紀の家の冷蔵庫からだが)、特に茶化されることもなく終わった。まぁ料理は上手いと褒められたが。  
その後帰ろうとしたら、お母さんに「冬休みなんだし、泊まっていきなさい♪」と言われたので断ろうとしたら、ことごとく断り文句を撃破され、「さあ、他に理由は?」といい笑顔(でも目は笑ってない)で言われてしまったので、結局泊まる羽目になってしまった。  
「で、何故美紀の部屋に・・・?」  
「恋人なら添い寝くらいしなさい♪心配はしないで!美紀のベッドはこんなこともあろうかとダブルサイズだから♪」  
「いや、普通付き合って初日で一緒に寝たりしないと思うんですが・・・」  
「あら、最近の子たちは性の認識が軽くて、付き合った初日にヤっちゃうって言ってるけど?」  
「それはテレビの中の話で、僕はそんなに軽々しくヤるもんじゃないと・・・」  
「あら、美紀はたっちゃんのこと思ってオナニーしてるのよ?」  
「っ!?!?!?そ、それは本人が居ないところでいうべき問題ではないと思います!」  
と言うかこの話は美紀に知られる前に忘れよう。そうしないと後で大変なことになりそうだからな。  
「まぁまぁ照れちゃって可愛いんだから♪男の子なんだから女の子にがっかりさせちゃダメよ?」  
「・・・何を言ってもヤんなきゃいけないんですか・・・」  
「うふふ♪それはたっちゃんの気持ち次第ね♪さぁ、コレ持って美紀がお風呂から上がるのを待ってなさい♪」  
・・・いつのまにこんなもの持ってたんですか、お母さん。あなたの底が知れません。  
「それ、ラテックス製だからとっても気持ちいいらしいの♪でも、伸縮性無いのが難点かしらねぇ。あ、それにたっちゃんのサイズわからないからねぇ♪あら?顔真っ赤にしてかわいーんだから♪」  
・・・おかーさま、貴女は私に何をさせたいんですか。ヤらせるのが目的なのか辱めるのが目的なのか。よくわかりません。  
 
このようなやり取りがあった後、俺は美紀が上がった後で風呂に入り、今は美紀の部屋のベッドの上で、背中合わせで話している。  
「た、たっちゃんと寝るのって、久しぶりだね。」  
「あ、ああ・・・」  
お互いどもったり、声が裏返ってるのは、まぁ察してくれ。いきなりのお泊りで緊張してるんだ。それに俺はお母さんから妙なプレッシャーかけられるし。  
「昔はよくお互いくっついて寝てたよね。まぁ向きは逆だったけどさ。」  
「そうだったな。まだあの頃は男女の区別は無かったけど。でも、俺はあの頃から美紀のこと、好きだったぞ。」  
「・・・恥ずかしげも無く、よくそんなことが言えるね。」  
「付き合い始めたからな、さらけ出してもっと俺を知ってもらいたい、ってのもある。」  
「そっか。・・・そうだよね。」  
「だから、観覧車でのあの告白、かなりびっくりしたぞ。まさか美紀が俺の事好きだなんて知らなかったし。」  
「私もだよ。たっちゃんがいつも言ってた『なんなら付き合ってやろうか?』が冗談じゃないなんて。」  
「あれはおちゃらけて言ってた俺も悪かったな、ごめん。」  
「ううん、気にしないで。私だってあの言葉に救われてた部分もあるし、ね。」  
「そうか。」  
「うん。」  
 
 
言葉が途切れて、次の言葉が出てこない。でも、嫌な空気ではない。今までの二人には無かった、ちょっと甘くて、胸が締め付けられるような、そんな空気。  
「・・・ねぇ、たっちゃん。」  
「ん?なんだ?」  
「・・・私のこと、後ろから抱きしめて?」  
「っ・・・あ、ああ・・・」  
『美紀を抱きしめる』なんて、恋人じゃなかった頃には絶対に許されなかった行為だからこそ、『抱きしめる』って言う単純な行為に緊張するし、興奮する。  
右腕は腰にまわし、左腕は頭の下を潜らせて肩にまわし、美紀を抱き寄せる。俺の鼻をくすぐる美紀のちょっと長めの黒髪。  
美紀の背中やお尻の柔らかさ、華奢な肩、細い腰。全てが愛しくて、満ち足りた気分になり、思わず美紀の髪に顔をうずめる。  
「ちょっと、たっちゃんくすぐったいっ」  
「美紀、俺今すっごく幸せなんだが。」  
「・・・うん、私も、幸せだよ。」  
その言葉が嬉しくって、思わず強く引き寄せる。  
「きゃっ、たっちゃんつよ・・・た、たっちゃん?あ、あの、その・・・」  
「ん?どうした、美紀。」  
「や、あのね、お、お尻に、なんか堅いのが当たってるんだけど・・・」  
「堅いの?俺の骨かなに・・・」  
そういえば先ほどから下半身に若干違和感が、と思い右手で下半身をまさぐると、そこには自己主張の激しい息子様が御起床されていました。  
「うわわ、ご、ごめん美紀!そ、そんなつもりは、全く無くって、美紀の体が柔らかくて気持ちいいなとは思ったけど、べ、別にしたいわけじゃな「ねぇ、たっちゃん。」な、なんだ?」  
「やっぱり、その、あの、・・・したい?」  
「えぇぇぇ!?いや、そういうのはお互いの体も心、環境とか準備でき「私は、いいんだよ?」美紀!?」  
「だってたっちゃん、私と結婚したい、って言ってくれたよね?ホントは嬉しかったんだよ、あの言葉。あの時は恥ずかしかったからあんなふうにしちゃったけど。だから、たっちゃんに最後まであげたいの。イヤかな?」  
「美紀・・・」  
「それにね?一緒に布団に入ったときから、そういうことを意識しちゃってて、でもまだ早いかなって思ってたの。  
 でも、たっちゃんの体は正直に反応してくれて、私が欲しいんだってわかったらもっともっと嬉しくなっちゃって、たっちゃんとのつながりが欲しくって。だから、私の初めて、貰ってくれないかな?」  
「・・・始めたら、二度と止められないかもしれない、と言うか止める自信が無いぞ。それでもいいのか?」  
「うんっ。たっちゃんがくれる痛みなら、いいの。最初を忘れたくないから、痛くてもいいの。」  
「・・・わかった。じゃあ、こっち向いてくれ。キスも出来ないからな。」  
まさか本当にこうなるとは思ってなかったが、やっぱり嬉しいもんだな。その嬉しさをこめて、俺は美紀にキスをした。  
 
 
たっちゃんからの優しいキス。『受け入れてくれてありがとう』って気持ちが伝わってくる。胸が熱くなって、張り裂けそうで、嬉しくって強く唇を押し付ける。  
そういえば、こういうときってベロを絡ませてする、大人のキスがあるって本に書いてあったけど、どうなんだろう。  
ちょっと試したくなって口を半開きにすると、私の口に進入してくる熱くてぬるっとしたもの。ちょっとびっくりしたけどたっちゃんのベロだってわかったから、それに私のベロを触れさせてみる。  
触れた瞬間、体に電気が走ったような感じになって、体がビクッて震える。でも全然嫌じゃない、例えるならそう、オナニーしてるときに感じるような震え。でもオナニーとは違って寂しくない、暖かいぬくもりのお陰で心まで暖かくなる。  
私の体がビクッとしたことに驚いたのか、たっちゃんが離れようとする。嫌じゃないんだよ、ってアピールしたくって、両手をたっちゃんの首に回して、たっちゃんが離れられないようにする。  
今度はたっちゃんの口の中に私のベロを入れる。たっちゃんの口の中を、歯をなぞるようになめると、たっちゃんもビクッて反応して、かわいい。  
お互いのベロとベロをくっつけて、表面を撫でるように、裏側をなで上げるようになめると、私もたっちゃんもビクビク震える。  
ただベロとベロをあわせるだけの行為なのに、こんなに気持ちよかったんだ。他の男の子にキスを許さなくて正解だった。こんなのされたら、いくらなんでもえっちな気持ちが我慢が出来なくなっちゃうもん。  
その証拠に、さっきからお腹の奥の方がせつなくって、何かあふれてるような感じ。  
 
「んはぁ・・・すごいね、キスって・・・」  
「はぁ・・・はぁ・・・そ、そうだな・・・」  
さっきからたっちゃんの言うことを聞いてないアレが、なんだかさっきより堅くなってる気がする。  
「ひゃう!」  
突然たっちゃんに胸を触られて、変な声が出ちゃった。  
「い、痛かったか?」  
「ううん、いきなりだったからちょっとびっくりしただけ。だからもっと触ってみて?」  
「お、おう。」  
「あ、でも触ってるときはキスして欲しいな・・・」  
「わ、わかった。」  
ふふ、たっちゃん緊張しすぎ。おかげで私の緊張が解けたから、まぁいっか。  
「ふぁ・・・は、んん・・・」  
たっちゃんに胸をもまれて、思わず変な声が出ちゃったから、思わずたっちゃんの唇で声が漏れないように口をふさぐ。と言うかたっちゃん、そんなに胸ばっか見ないでよ。  
たしかに無駄に大きいおっぱいだし、街を歩いてると男たちはエロエロしい目で見てくるし。たっちゃんは違うと思ってたんだけどなぁ、やっぱり男の子だったんだね。  
「んんっ!んぁ、た、たっちゃんそこはつまんじゃだ、ひゃう!」  
既にブラ外してたから、乳首が堅くなってるのことにたっちゃんが気付いちゃった。そこはかなり感じる場所だからあんまりされるとおかしくなっちゃいそう。  
「た、たっちゃんちょっと待ってっ!」  
「い、痛いのか?」  
「ううん、痛くは無いんだけど、いきなり気持ちよくなったからちょっと怖くって・・・」  
「そ、そうなのか?」  
「うん、だから、もうちょっと優しくしてくれるとありがた・・・っ!?」  
起き上がってたっちゃんにお願いしたときに、ふと目に入ったドア。よく見てみると、鍵が開いていてびっくり。  
お布団に入る前にちゃんとドアの鍵は閉めたはずなのに。・・・!もしかして!  
 
「美紀?どうした?」  
「(たっちゃん、ちょっと悪いんだけど、静かにドアまで行って、ドアを思いっきり開けて欲しいんだけど)」  
「(えっ?どうかしたか?)」  
「(うん、ドアの鍵が開いてるの。閉めたはずなんだけど・・・)」  
「(・・・わかった)」  
たっちゃんがゆっくりゆっくりドアに近づく。たっちゃんも察したようで萎えちゃったみたい。たっちゃんがドアノブを握り、さっとドアを引くとバタバタッと倒れてくる人が二人。  
「あ、あはは・・・バレちゃった?」  
「だ、だから俺は鍵だけはやめとけって言ったんだ。」  
「ママ〜?パパ〜?ちょっとお話聞かせて欲しいんだけど?」  
「「み、美紀が怖・・・あ、あはは・・・」」  
 
 
美紀の尋問はおよそ一時間ほど続いた。その間、美紀のご両親から『助けてたっちゃん』的な視線が飛んできたが、俺自身も被害者なので苦笑で返した。  
もっとも、俺の方を見た瞬間に『なにたっちゃんに助け求めようとしてるの!?』と言う美紀の雷が落ちたため、口の出しようがなかったわけだが。  
と言うか、俺も美紀を怒らせないように気をつけよう。  
 
「ねぇ、たっちゃん。」  
ちなみに今は美紀が俺の腕に抱きつく形で寝ている。もちろん変なことはしていない。また覗かれるかもしれないし。  
「ん?どうした?」  
「たっちゃんは最後まで出来なくって、残念?」  
「残念っちゃ残念。だけどまぁ、これでよかったと思ってる。」  
「どして?」  
「多分あのまま続けてても最後まで上手くいかなかったと思うんだよ。俺ガッチガチに緊張してたし。」  
「あはは、確かにたっちゃんの緊張はすごかったね。」  
「あんなことするのなんか初めてだからな。いざそういうことになると緊張するもんだな。」  
「でも、嬉しかったよ。」  
美紀が恥ずかしそうに俺の腕を強く抱きしめる。腕が胸に埋まってなんだかこそばゆい。  
「それに何かで見たことあるんだが、ただ寄り添って寝るだけの夜を何日も過ごす内に、お互いの波長が合ってきて、セックスが良くなるって言う話もあるらしいぞ。」  
「え?そうなの?」  
「俺の記憶だけにある話だから眉唾かもしれないけどな。ただ、焦る必要なんてないさ。」  
「そっか。・・・そうだよね、別に焦る必要はないんだよね。」  
「美紀には焦る理由があったのか?」  
「・・・まぁ心当たりは無きにしも非ず、かな。」  
「俺が他の女に、性的に篭絡されるとか考えたとか。」  
「っ!・・・たっちゃん、本当は全部知ってて今の話してるの?」  
「は?何のことだ?」  
と言うか一つの例えで、俺のことが好きな子って聞いたことないんだが。  
「だよね。・・・たっちゃんがにぶちんさんで本当に良かったよ。」  
「にぶちんとは失礼だな。まぁ別にモテたところで美紀が好きなことには変わりないよ。」  
「・・・うん。」  
俺の言葉に頬を赤く染めて目を逸らす美紀。可愛すぎだろマジで。  
「とりあえず今日はゆっくり寝て、また明日からも仲良くしような。」  
「うんっ!」  
赤い頬はそのままに、潤んだ瞳で笑顔になる。今までとは違う笑顔に、今まで以上に強く強く『好きだ』って気持ちがあふれてくる。体が勝手に動いて、美紀を抱きしめながらキスをする。  
美紀は一瞬びくっと震えたものの、素直にキスを受け入れてくれる。今日はこれ以上しないので、ディープキスはなし。  
「ん・・・ふぅ・・・」  
「ん・・・はぁ・・・たっちゃん、ありがと♪」  
「おう。さ、寝ようぜ。」  
「うんっ!」  
 
互いに『おやすみ』と挨拶し、夢の世界に旅立つ。  
ちなみにその日見た夢は、かなり幸せな夢だったとだけ言っておこう。  
 

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