「ねぇたっちゃん、膝枕して?」
そういって美紀――まぁ所謂幼馴染だ――は、俺の了承を待たずして勝手に俺の太ももに頭を乗せた。
「おい、美紀。まだ了承してないんだが。」
「いいじゃない、どうせOKだったんでしょ?」
「…まぁそうだが。」
「ならいいじゃん。今日は甘えさせて?お願いだから…」
そういいながら潤んだ目で俺のことを見つめてきやがる。俺がそれに弱いのを知っているくせに。
こいつが甘えてくるときは、大抵何かしらあったことを示している。
いつだったか、膝枕だけしてやって理由を聞かなかったら、その後が大変だった。俺の財布から、諭吉様が数人飛び立って言ったほどだ。
「で、今日は何があったんよ?」
「うん…今日はね、あのね、振られちゃったんだ…」
「振られたって、あの優しそうな彼氏にか?」
「うん、他に好きな人が出来たって…」
振られたときのシーンが思い浮かんだんだろう。目には涙が浮かんでいる。
「…なら、俺が彼氏になってやろうか?」
「たっちゃんが?冗談はよしてよ〜。他に好きな子いるんでしょ?」
冗談じゃないんだが。いつもこうやって俺が付き合ってやる、とか言うと話をそらしやがる。
そのくせ、甘えてくるから性質が悪い。生殺しもいいところだ。
「まぁな。片思いだけど。」
「え〜!マジ?誰?誰?!」
さっき泣いたカラスがもう笑った、じゃないが、爛々と目を輝かせている。
「バーカ、お前なんかに言えるかよ。」
本当にお前が一番なんだけどな。なんて甘い台詞、言えないが。
美紀と過ごす、この空気が、この距離感が好きだから、壊したくない。
「…ねぇ、たっちゃん。」
「ん、何だ?」
「手をぎゅってして?頭なでなでして?」
こんな泣きそうな声でお願いなんかされたら、黙って従うしかなくなる。
「…了解。」
美紀の左手を俺の左手に絡ませ、空いた右手で頭を撫でてやる。
さらさらとした美紀の髪の毛が気持ちいい。美紀も少し嬉しそうに目を細めている。
…って、よく見たらこいつ、もう寝てやがる。
「…ったく…」
今回は何時間寝るんでしょうかね。俺のお姫様は。
毛布をかけてやりながら、俺はこの姫様が起きた後の脚の心配をしていた。