高校入学と同時に、ボク達二人は付き合い出した。  
 産まれた日も、病院も、時間も一緒。ベッドも隣同士。  
 毎日暗くなるまで遊び、周りの連中に冷やかされても関係なく遊び、二人で揃って成長する。  
 そんな幼馴染みが大好きで、手放したくなくて、溜め込んだ想いを全て吐き出して告白して、やっと二人は恋人になった。  
 その後すぐに幼馴染みの両親へ挨拶に行き、ヨロシク頼むと了承を貰う。  
 ただし、条件は三つ。  
 
・高校を卒業したら、幼馴染みの両親がトップを勤める会社の社員になる事。  
・幼馴染みとは結婚を前提に付き合う事。  
・ボクと幼馴染みが高校を卒業するまではセックスしない事。  
 
 以上が出された条件。  
 つまり、ボクを婿に迎え入れて後を継がせたいと言うのだ。セックスするなってのも、ボクの我慢強さを見る為。  
 きちんと仕事を続けられるか?  
 他の社員に誘惑されても浮気せずにいられるか?  
 それを計ろうしているだけ。  
 なんて事は無い。ボクには歳の離れた兄が居るから婿に行っても大丈夫だし、幼馴染みも心から愛してる。三年間セックスをしなければ、ボク達の幸せな未来は確定なんだ。  
 思えば、ここまでは良かった。  
 ここまでは、順調だった……  
 二人の関係が暗礁に乗り上げたのは高校一年の夏休み。その初日。ボクは時期外れな肺炎に掛かり入院した。  
 手術を受け、薬漬けで横たわり、奇跡的簡単に回復し、夏休みの終わる前日に退院となった時……ボクの身体に異変が起こる。  
 この異変こそが、暗礁に乗り上げた原因。条件を守ろうとする意志を揺るがす悪魔。  
 
 ボクの身体は、美味しくなったのだ。  
 
 中毒性の高い、この世で最も極上なカレー味に……  
 
 そして幼馴染みは、重羽 美月(おもはね みつき)は、  
 双海 砂耶(ふたみ さや)の、ボクの味に魅了された。  
 
 
 
 
  『この世で最も華麗な彼氏』  
 
 
 
 気温を挑発する太陽。鳴き止まぬ蝉の声。身体は本の海に沈む。  
 学校の昼休み、静かな図書室の奥底で、卑猥な水音は響き続ける。  
 本棚の波を幾つも掻き分けて辿り着いた、広い図書室の底。ソコでボクの指をしゃぶるのは、一年前に愛を語った幼馴染み。  
「んっ、んっ、んっ♪ んっ♪ ぢゅるちゅっ♪ ちゅぷっ、はぁぁっ……とても、おいひいよ砂耶♪ さやのっ、とってもぉっ……んぢゅぅ〜〜〜〜〜ッ!!!」  
 ピリピリと、快楽の電流が全身を貫いた。肉体的では無く、精神的にボクの呼吸を荒くさせる。そうさ、誰だってこうなるよ。  
 自分の愛して止まない人が、上目使いで、瞳を潤ませ、耳まで紅潮させて、差し延べた左手の指を膝立ちになって口に咥えたら、誰だってこうなる。  
 手首を両手で持ち、人差し指と中指の二本をぽってりとした唇に挟んで顔を前後させ、肉厚な舌で情熱的に締め付けられたら、誰だってこうなるんだよ!  
 もちゅぅっ、もぐゅもぢゅもぢゅ、ぢゅぢゅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!  
「ねぇ美月ぃっ、まだ……ふうっ!? 終わら、ないのっ?」  
 
 美月が変わったのはアノ日から。  
 それまでは欠点らしい欠点さえ見当たらない、自慢の幼馴染みだったのに。  
 背は170センチ後半でボクより20センチも高くて、スタイルも良いし胸も大きいし足だって長いし、髪だってサラサラで、綺麗で、勉強もできて何でも熟す、自慢の恋人だった。  
 でも……変わった。ボクの味を知った日から。その日から、美月は変わった。  
 
 最初は「砂耶って変な味するな?」の一言。でも、次は十日後。次は一週間後。次は五日後。求めて来て、日を増すごとに間隔が短くなって行く。今はもう毎日。  
 印象に残ってるのは去年秋のマラソン大会。走り終わった後、美月に「汗を舐めさせて!」と泣き付かれる。  
 汚いから駄目だと断っても、校庭隅に生えてる大木の影に引きずり込まれ、押さえ付けられて、頬っぺたと首をベトベトになるまで舐められた。  
 家のトイレでオシッコした時、台所で手を洗おうとしたら、捕まえられて指を舐められた事も有る。  
 その後にビクビクと震えてヘタレ込んでたけど。  
 
 どうやらボクの体内から出る分泌液には中毒性が有るようだ。そしてボクの感情が高まると更に美味しくなるらしい。だから、いちいちイヤラシイ舐め方をする。  
 セックスはしちゃイケないって美月もわかってる筈なのに、わざと……興奮させるんだ。一年で、ボクを舐める為だけに進化して伸びた美月の舌。顎舌のラインに垂れるまでに長い。  
 こっちも意地でサポーターを付けて勃起してるのを悟られないようにしてるけど、こんなんじゃ約束を守れない。いずれ間違いを起こす。  
 そう思ったから、夕食後に美月をボクの部屋に呼んで、「もうボクの身体を舐めるな!」とキツく言った。  
 大声で泣かれたけど、首を縦に振り、納得してくれたんだ。納得してくれたと勘違いしていた。だから翌日に思い知らされる。  
 
 翌日、息苦しさで目を覚ますと、美月がボクの上に乗っかって顔を押さえ付け、舌を差し込んで咥内からジュルジュルと唾液を啜っていた。  
 グッバイ、ファーストキス。「あんな事を言う砂耶がイケないの! 私は砂耶が居ないと生きてけない身体にされちゃったんだよ?」と開き直り、美月は完璧に末期症状。ちなみに、唾液は汗より美味しいらしい。  
 それでボクも諦め、一日一回。激しくならないように学校で舐めさせてる。  
 美月はその一回を濃厚に味わい尽くすだけ。胸元を開けて、淫語を連発して、ボクを興奮させて。  
   
 ああ、無理だよ。こんなんじゃ堪えれない。  
 今は高二の夏。卒業するまで後一年半。やっぱり堪えれないよ。毎日、毎日、美月を想ってオナニーするだけじゃ堪えれない。  
 だけど、それでも、二人の未来を考えて堪える。  
 
 
 ボクの味は、感情が高まれば高まるほど美味しい。  
 何も無いより汗が、汗より唾液が美味しい。  
 感情が高まった時に出る液が特にオイシイ。  
 
 じゃあ、ボクのアレは?  
 
 
 
 
続く。  
 
 

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