仕事もどうにか落ち着き、久しぶりに実家のこたつでぬくぬくとしていると、
玄関先で聞きなれた声がした。そしてその声の持ち主は勢いよく居間のふすまを開けると、
俺のちょうど向い側に何の断りもなしに足を突っ込んだ。
「うおっ! つっめてぇえっ。足をくっつけてくるな」
「いいじゃーん。ちょっとぐらい分けてよ。外、ちょー寒かったんだから」
ブーツで来たんだろう、薄いストッキングに包まれたつま先から冷えが伝わってくる。
見た目とは違い、内側の保温性はあまりないのか……。そんなくだらないことを考える間にも、
冬らしい銀色のマニキュアで彩られた形のいい爪が蜜柑を剥き始めた。
「いつ帰ってきたの?」
「今日の昼頃。お前は?」
「昨日。仕事終わって直接きたから」
長い爪で器用に白い筋を取る。その真剣な眼差しは、昔から変わらない。
一度ひと房を無断で食べた時の怒りようは凄まじかった。食いものの恨みは本当に恐ろしい。
「クリスマスどころか、年越しを一緒に過ごす恋人もいないのかよ」
「それはあんたもでしょ」
間髪入れずに返され、ぐうの音もでない。くっそ。
「いいじゃない、幸せにはいろんな形があっても」
「まぁな」
今年もこうやって話をできたんだし。いつまでこうした年末を過ごせるだろう。
「でも、少しぐらい形を変えても、いいかもしれないね」
「え?」
俺から熱を奪ってとっくに温まっていたはずの足はまだ触れたまま。
意味がわからなくて、目を白黒させる俺に微笑んで、摘まんだ蜜柑を軽く振る。
「食べる?」
次のクリスマスは二人で過ごせるのかもしれないなぁ、と俺は鬼が聞いたら大笑いしそうなことを考えながら、
差し出されたそれをありがたく頂戴するために身を乗り出した。