「う〜、寒い〜〜」
俺の幼馴染みがかたかた震え始めたのが三日前。
いつも俺の家に勝手に上がり込んでは好き放題している一夏も、寒さには弱い。
ヒーターで対応してみたものの、ヒーターの前にぺったりと張り付いてしまった一夏は、多分凄く危ない。
「そんなにひっついてると発火するぞ」
そう言って一夏をヒーターから引っぺがそうとしたのだが、一夏は大きく身体をねじって俺の手から逃げだすと、ヒーターにしがみついた。
「やだっ!こっから動いたら寒くて死んじゃうんだからっ!!」
こうなったら一夏をどうにかするのは至難の業だ。
これでも一応女の子なので、俺が触れてはいけない部分が沢山存在する。
と言うか、むしろ触れちゃいけない所だらけな身体の穏便な部分だけに触れつつ、暴れる一夏をヒーターの前から除去するのは不可能に近い。
俺は溜息を吐いて一夏を見下ろすと、すたすたとヒーターの後に歩いていき、
「えい」
ヒーターのコンセントを引っこ抜いた。
「ちょっ……卑怯狡い反則っっ!!!!」
「あ〜はいはい、分かったからいい加減ヒーターから離れろ。それはもう何も出てこないただの箱だぞ」
「コンセントつけてよ! こんな寒いと凍死する〜!」
「しないだろ普通。それよりお前が発火する方が早い」
「だって、こんな寒いのに炬燵も何にもないなんて酷いっ!!」
「生憎炬燵布団はクリーニング中だ。誰かさんが柚子茶を盛大にこぼしたせいでな」
じろりと睨むと流石に一夏も何も言えないらしく、挙動不審に口笛などを吹き始めた。
しかも口笛が下手なので、傍目にはひょっとこの真似をしてふーふー息を吹いているようにしか見えない。
ああ、間抜けだ、こいつ。
俺が呆れた顔で見ていると、一夏は自分から注意が逸れたと思ったのだろう。
「隙ありっ!」
素早い動作で立ち上がり、俺の手からコンセントを奪おうと飛びかかってきた。
だが悲しいかな、俺と一夏じゃ身長差がある。
俺がコンセントを持った手をひょいと上げると、一夏の手は虚しく空振りし、その上勢い余ってヒーターのコードに足を引っかけ、見事に転んだ。
「……っきゃああ!?」
べちゃ、と言う音がしたように思う。
イモリみたいな格好で床に這い蹲った一夏は、何というか、非常に。
「馬鹿だ……」
あんまり馬鹿なんで暫く放っておくと、今度は床で手足をわさわささせながら、しくしくと嘘泣きを始めた。
「寒いよ〜、痛いよ〜、人の冷たさが心にしみるよ〜〜」
炬燵布団がクリーニングから帰ってくるまであと四日。
明日の天気予報が雪だったことを思い出して、俺は重くて長い溜息を吐いた。