ある高等学校での出来事である。
生徒はいつも通り校門を通り、玄関に向かう。
それは勿論私もだ。ちなみに自分は転校してきたばかりで、何一つこの学校のことを知らない。
よくある親の都合での引っ越しだった。どちらにせよ、前の街への未練はない。
元々無口で他人と関わるのは苦手だったから。
そして靴を履き替えてそれぞれのクラスに行く…はずだった。
通行するための場所が混んでいる。
その矛先を見ると、ある男子生徒達が争っていた。
「邪魔だ。迷惑だ。」
一人の男子がそう言った。
その言葉に対し、向かい側の男子数人は怒った様子で返す。
「何言ってやがる!元はと言えばテメェの所為だろうが!」
見てわかるとおり、喧嘩だった。
そしてどう考えても多勢に無勢。
一人の男子に数人、おそらくは三人が突っかかってきている。
何故そうなったのか分からないけど、そろそろ退いて貰いたい。
…だんだん混んできてる…。
「アンタ達が余計なことしたからだろ?」
「当たり前だろう!仲間がやられてんだからよっ!」
どうやら何時かの仕返しらしい。
「とにかく邪魔だ。そろそろ寝たい。」
「舐めてんじゃねぇ!」
そう叫ぶと三人は一斉に彼に襲いかかった。
周りの生徒は我関せずといった感じで遠巻きに見ている。
というか、巻き込まれないためにムリして下がっている。
一方の喧嘩組は意外にも一人の男子生徒が有利だった。
軽やかに交わしていた。
たぶん喧嘩慣れしている。
「眠いんだけどな…」
そう呟いていた。
かなり余裕に見える。
「この野郎!」
大柄の生徒がパンチした。
ヒットした。
これは痛いだろう。
可愛そうに思えたが、終わってくれるならいい。
それにしても教師が来ないなんてどういう学校なんだろう…。
「全然痛くねえな…。つまんね。」
「ひっ…」
顔面に直撃したはずなのに、何一つ傷がなかった。
「パンチってのはな、こう捻るように打つべし!」
大柄の生徒にその一撃が当たった。
お腹にジャストミート。
数メートル後方に飛ばされて倒れた。
残りの二人は担いで逃げていった。
ここで騒ぎは収まった。
ようやくここで職員登場。
事情を聞いているようだ。
今さら遅いだろうに。
そして私を含めた生徒は何事もなかったかのようにその場を立ち去る。
私は校長先生に挨拶に行った。
その後自分の教室の前に来て、自己紹介をさせてもらった。
何度も転校しているが、いつも同じだ。
「初めまして、灰塚繊です。よろしくお願いします。」
そう言って頭を下げた。
予想通り拍手だとかよろしくだとかワンパターンだ。
そして後の方を何気なく見ると、そこには朝喧嘩していた男子生徒(勝者)がいた。
窓の方を眺めている。正確には外を、だ。
周囲に歓心なさそうな雰囲気だ。
でもその姿も様になっている。
「では灰塚さんは、悪いけど一旦後の席に座ってて。」
「はい。」
悪い、そして一旦というのが気になったが、そのうち席替えでもするのだろう。
そのまま席に向かった。
その席は例の男子生徒の隣だ。
挨拶はすることにした。
「初めまして…。」
ようやくこちらに気づいた彼は、振り向いて睨んできた。
「…誰?」
「転校してきた灰塚です…。」
「あっそ。」
そして今度は寝てしまった。
結構他人嫌いなのか、ただそういう人物なのか。
そしてこの時間は何事もなく過ぎていった。
休み時間には私の周りに生徒が寄ってくる。
珍しい光景ではないので、受け入れる。
「灰塚さんも運がなかったね〜」
ある女子生徒が言った。
「何で?」
当然の疑問を返した。
「だって隣がアイツじゃんか。」
今度は別の生徒(男子)が言う。
「そうそう。校内一の不良だしね。」
「不良…?」
「そう。しかも喧嘩で負けたことがないし、ちょっとしたことで睨んでくるし、場合によっては男女関係なく暴力。」
「俺達もなるべく気を付けてるんだよ。例えば…ほら!朝に喧嘩あったの見た?」
「…うん。」
「あれはいつもより良い方だったんだ。いつもはもっとやばいからな。」
「警察沙汰とかね。」
余程あの男子生徒は恐れられているらしい。
警察沙汰とはまた大事だったんだろう。
そんなことを話している間に当の本人が帰ってきた。
みんなは黙って席に戻る。
彼も席に座った。
丁度その時チャイムが鳴った。
その時私は、案外彼は時間を守るタイプなんじゃないかと思った。