「ふっふっふ……ついにお前達にも最後が訪れるようだな」
私は口角を上げ、ニヤリと心から愉快そうな笑みを浮かべた。
拳を地面に叩きつけながら唇を噛む武闘家。
MPが切れ、悔しそうに顔を歪ませる僧侶。
杖を頼りになんとか立ち上がろうとする魔法使い。
そして…私が最も痛めつけたい憎き勇者が地面に膝をついている。
…残念ながら顔は俯いていて見えないが。
「お前等なんか私が本気になればこんなものだ!
所詮は人間…諦めて私の父上の下僕となるがいい」
黒く伸びたツインテールを風で揺らしながら私は得意気に薄い胸を張る。
「誰が…魔王なんかにっ…!」
屈辱に塗れた声を漏らしたのは普段きつい目つきで私を睨みつける武闘家。
「従うわけない…でしょ!」
漸く立ち上がった魔法使いが私を睨みつけながら強がって見せる。
「私達は……この命が尽きようとも、貴方達に抗うわ…!」
最後に、腰まで届く髪を靡かせながらどこまでも神を信ている僧侶が言い切った。
「ばっかじゃないのアンタ達。それ、ボロボロの状態で言う事じゃないのにさー」
私はあまりの必死さについつい噴出してしまった。
ああおかしい、こういうバカどもを力で捻じ伏せるのはこの上なく快感だ…。
そんな有頂天の私に、やっと口を開いた勇者の声が響いた。
「…わかった。従おう!」
顔を上げてやけに強い口調でそう言った勇者を他の3人はありえないものを見るような目で見ていた。
…それは私も同様だった。
「俺は従う!今すぐ魔王の元……いや、お義父さんに会わせてくれ!!」
……誰しも口を開けずにいた。
ただ1人、バカ勇者が熱く拳を握り締めているだけだった。
「…? もしかしてミリちーは結婚してから紹介したいタイプだったのか?
いやいやそれはさすが駄目だろう。道徳的に…いくら魔王だからといって…」
1人延々と駄目だ駄目だ、まずは挨拶から…とかなんとかバカな事を勇者は呟いている。
私は漸く…キレた。
「ばっ………バカな事を言うのも大概にしろ!!このバカ勇者!!!」
「ええっ!?どこがバカな事なのさ。おれ真剣だよ?」
「誰が…アンタみたいな正義正義した勇者と結婚するか!!
私は魔王の娘だぞ!いい加減脈がない事くらい気づけ!」
「ハッハッハー、いいんだよいいんだよ無理しなくて。
本当はミリちーが俺にゾッコンラブ!だってことは承知してるからさー」
そう言いながら勇者がにこやかに私に近づいてくる。
「っ!? く、来るなぁぁーー!!」
その笑顔に身の危険を感じ、身体が勝手に魔法を繰り出していた。
けれど勇者はボロボロになっていた筈なのに…何故か食らっても平気な顔をしていた。
「なっ、なんでぇ!?アンタ私に負けて………」
「んー、ミリちーに負けたらお義父さんのところに連れて行ってくれるかなーとか思って。
だから今日はわざと手を抜いてみたよー」
…プツンと、私の中の何かが切れた。
「………ふ…………」
「…ふ? …不倫でも貴方を愛したい?」
「……ふぇぇぇん………折角…折角勝ったと思ったのにぃ…!」
この日の為に沢山準備をしてきたのに。
お小遣いを溜めて強い武器を買ったり…。
モンスター達や部下達のスケジュールが合う日を選んで…。
念には念を入れてトラップや魔封じの札だって用意した。
お金もかかって時間もかかって…漸く作ったチャンスだったのに…!
「うううぅぅぅぅぅぅっ……ひどいよぉ…折角頑張ったのに!うわぁぁーーーん!!」
とうとう私は泣き出してしまった。
涙が止め処なく溢れてくる。
憎き勇者は私の涙にオロオロしているようだ。
「み、ミリア様!ここは一先ず退却いたしましょう!」
「…うっ、ぐす…うん……退却ぅぅ………」
涙声で部下にそう指示して、ぐいっと涙を拭う。
そしてビシッと勇者どもに指を突きたてる。
「…きょ、今日はこのくらいで勘弁してやる!
次会った時がお前達の最期………なんだからぁぁ!」
最期は涙声でうまく言えたか心配だったけど、私は一刻も早くこの場を立ち去りたくて足早に部下の作った転送用魔方陣の上に乗った。
「ミリちー!愛してるよーーーー!!!!」
バカ勇者が手を振りながらまたバカげた事を言っている。
「…アンタなんか、だぁぁぁぁーーーーーーっい嫌いなんだからぁぁぁーー!!」
私は精一杯勇者に向って言葉を返す。
…なんでこんなバカ勇者にわざわざ反応してやってるのか自分でもわからないけど、とにかくあいつはむかつく奴だ!
だから大嫌いだ!
私は徐々に転送されながら、ニコニコと笑顔で手を振る勇者をいつまでも見続けていた。