初めて「彼」と会ったのは…そう、忘れもしない四年前の春。
そのとき私は、短大を卒業して会社に就職したばかりだった。
中学からエスカレーター式で女子高、女子短大と進学した私は、学校の規律がうるさか
ったこともあって男性とおつきあいする機会がまったくなかったの。
配属された部署の隣の部署にいたのが「彼」。
一目見たときから心が惹かれてたの。
もちろん、隣の部署だから毎日は会えない。
でも、彼の姿を見ると、なんとなく一日が幸せな気がしてつい彼の姿を追い求めてたの。
遠くで彼の声が聞こえただけでうれしかった。
二年目の春。隣と共同のプロジェクトをすることになって、双方数人のメンバーが参加
したの。
私のところからは先輩二人と私。隣の部署からは彼ともう二人。
計六人のプロジェクトだった。
彼は若かったけど、このプロジェクトのリーダーに指名されて張り切っていたわ。
みんなで何回かお昼ご飯を一緒に食べたの。
そのとき、彼は言っていたわ。
「僕はこのプロジェクトを成功させるためにがんばる。それまでは恋愛もおあずけ」
って。
残業も苦にならなかった。
彼が一緒にいれば幸せだったし、いなくても彼のためだと思えばうれしかった。
何回か、一緒に外回りもした。
思いのたけを打ち明けようと思ったことも一度じゃないわ。
でも、そのたびに「プロジェクトを成功させるまでは恋愛おあずけ」といっていた彼の
言葉が浮かんだの。
一度だけ…本当に一度だけ、私を姓ではなく名前で呼んでくれたことがあったわ。
私はちょっとドキッとしたの。
でも、気づかない振りをしてしまった。
今から思えば、あれが唯一の機会だったかもしれない。
でも「恋愛おあずけ」。それを信じて黙っていたわ。
そんな状態が変わったのが去年の十月。
彼が結婚を発表したの。
お相手は、彼と一緒にプロジェクトに参加していた人。
「できちゃった婚」だって。
それからの彼は変わったわ。特に子どもが生まれてから。
仕事は定時に切り上げてすぐに帰宅する。
プロジェクトもおざなりになり、結局この四月で打ち切りになったの。
でも、いいみたい。
彼のパソコンの壁紙は、奥さんと息子さんの写真。
幸せそうな彼。
想いを伝えることもなく終わった恋。
でも、それが私の初めての失恋。