「薄御伽草子」
ふしぎふかしぎぽんぽこりん
ゆめかうつつかぽんぽこりん
ひととたぬきのものがたり
たぬきとひととのものがたり
まことかうそか、ざれごとあそび
だいいちまくの、はじまり、はじまりー…
一幕・邂逅
僕が住んでいるのは、地方都市の片隅、開発途中の山の入り口だ。
すぐ裏が山というだけあって、様々な動物が庭に迷い込む。
野良犬や猫、たまに狐、狸、野兎。
宵闇が近付けば蝙蝠が飛ぶ。
実家暮らしのしがない大学生である僕は、長い夏休みを持て余して、時折庭に来る客人に余り物をご馳走していた。
今日の客人は、小狸だ。
僕の家の周りにいる狸は、警戒心の強い狐と違い、しっかりちゃっかり人間と共存して暮らしている。
かっかっ、と小さな音を立てて、僕からのご飯を食べ終えた小狸は、少し甘えるように僕の足に頭を擦り付けて去っていった。
(…大学に、涼みに行くか…)
余談だが、僕の家にはクーラーがない。
一年半通っている大学にはクーラーが付いている。
しかも、どの教室にも。
(私大ばんざーい…)
心の中で呟いて、僕は家を出た。
僕の家から大学へは、電車で40分ってとこだ。
しかし…今日は、昼過ぎのこの時間にしては混み方が異様だ。
ほぼ満員のまま、40分か…憂鬱だ。
小さく溜息を吐いて、吊革に掴まる。
半袖の白いカッターシャツはすでに汗でじっとりと湿り、視力が悪い僕の必需品にしてお気に入りのデザイナーズ眼鏡は曇っている。
う、本格的に前が見えない…
一度眼鏡を拭こうと思い、肩から下げている鞄に手を伸ばした、その時。
(う…)
誰かが、僕のジーンズの前を探っている。
誰だ?
僕は男だぞ?
「身動き出来ない満員電車の中で、見知らぬ誰かに股間をいじられている」
そう、頭の中で言葉にした瞬間、一気に体中を貫くぞわぞわした感覚。
(…ひっ)
途端に腰が熱く、重苦しくなる。
駄目だ、想像しちゃいけない、落ち着くんだ僕。
そう思えば思う程、僕のモノは硬くなる。
脳の中では、中学生の時に、いわゆる「痴女」に同じく電車で手でイかされた事を思い出している。
僕は嫌だったんだ、嫌だったはずなんだ、だからそんな眼で見るな、そんな白くて綺麗な手で性器に触るな、僕の耳元で息を荒げるな、舌なめずりをするな!!
その妄想は頭の中で回り続けている。
現実の僕は体を前かがみにして、唇を噛みしめ、鼻からふっ、ふっ、と荒い息を吐き出している。
ふと、耳元で声がした。「見られて…感じてるの?見られるの、好きなのね…ふふ」
それは、以前の「痴女」と全く同じ台詞だった。
頭に血が昇っていく。
あの時の「痴女」と今の「痴女?」が同一人物だという保証はないのに、僕はもう何も考えられない。
すでにジーンズのファスナーを開けて、ボクサーパンツを少しずり下げて、上を向いている僕のモノを擦る手を掴んだ。
掴んだ感じ、どうやら相手は女で、僕の後ろに立っているらしい。
いつまでも子供だと思うなよ。
女の手に自分の右手を重ね、女が触るより乱暴に、女の手で自慰するかのようにモノを擦った。
包皮ももう被っておらず、太い血管が幹に巻き付いている僕のモノは、異様な状況と異質な物体に擦りあげられ、あっという間に陥落した。
しかし、精液はしっかり女の手のひらに放出した。
出た感じ、あまり水っぽくは無いようだから流れ落ちたりはしにくいだろう。
女の手を離し、モノをしまい、身支度を整えると、まるでタイミングを計ったかのように大学前の駅に着いた。
そそくさと電車を降り、眼鏡を拭いた。
そして、ほんの少し罪悪感を感じながら、徒歩五分の大学へ向かった。
…続く