家に帰ると誰もいなかった。  
 気になって姉貴にメールしてみると返信。  
「インフルエンザで家に帰ってる。うつるといけないから来ないで」  
「ふむ」  
 もう一度送信。  
「大丈夫かよ。熱あんだろ。そっち行くよ」  
 返信。  
「来るなって言ってるの。久志まで寝込まれたら私のほうが大変じゃない。心配はありがたいけどそ  
こにいて」  
「う、ううむ……」  
 送信。  
「わかった。辛くなったら連絡しろよ。早く良くなってくれ」  
「ありがと。じゃあね」  
 
 
 
 これで終わったはずだったのだが、どうにも落ち着かなくて、結局姉貴の家に来てしまった。  
 姉貴の奴いっつも俺のところに入り浸って、スペアキーまで置いてあったから潜入に障害はない。  
 道々に買った花束と、ポカリスエットが入ったビニール袋を右手にそっとドアを開けると、中は真  
っ暗だった。  
 
 姉貴の家に入るのは初めてだ。女の子らしい、いい匂いがする……。  
 ちょっとぼんやりしたが、奥から「うーん、うーん」といううめき声が聞こえてくることに気づいた。  
 寝室の扉を少し開けて覗いてみると、ベッドに姉貴の姿。どうやら寝てはいるものの、かなり苦し  
そうで汗がすごい。  
 ダイニングにはコンビニのおにぎりの包み。  
 料理が得意でこんなもの買わないはずの姉貴が買うくらいだから、調子の悪さが推して知れる。  
 
 俺はとりあえずポカリを取り出し姉貴の脇に座る。  
 そっと布団をどかしてみるとぐっしょりと汗をかいていることがわかった。  
 変なこと考えてる場合じゃないなと思いながら姉貴の洋服タンスから替えのパジャマと下着を取り  
出し、しっかりと汗を拭いてから着せ替えた。  
 眠ったままポカリもごくごく飲んだが、まるで起きない。  
 
 一仕事終えて姉貴の右手に目をやる。  
 そこには開いたままの携帯が握られていて、ずっと気になっていたのだ。  
 好奇心に負けて携帯を開いてみると、未送信メールにカーソル。  
 開いてみると、宛先は俺だった。  
「冷たいこと言ってごめんね。でも、嬉しかった。本当は来てほしいけど、うつせないよ……。淋し  
いよぉ。メールで」  
 ここで終わっていた。  
 
 不意に抱きしめたくなる気持ちを抑えて、タオルを替えたり花束を花瓶に飾ったりした。その後俺  
はダイニングテーブルにもたれながら姉貴の寝顔を見ていた。  
 
 
 
 体を揺すられる感覚で目が覚めた。  
 どうやらいつの間にか眠っていたらしく、目を開けると涙でぐしゃぐしゃの姉貴がいた。  
「来てくれたんだ。馬鹿。馬鹿馬鹿馬鹿。嬉しくなんてないんだからね」  
「ここんとこ仕事詰めだったからさ。姉貴のそばにいるのも悪くないと思って」  
「うん、うん」  
 俺にしがみついて言葉が出てこない。  
 
「たった二人きりの姉弟だし、辛いときそばにいるのは当たり前だよ。姉貴は大事な人なんだ」  
 
 そう言った途端、姉貴が目を見開いて固まっている。  
 え、変なこと言ったっけと思っていると、  
「ふええええええええええええん」  
 声を上げて泣き出した。  
 
 そこに  
「葵ちゃーん、朝ごはん作ってきたわよー」  
 このマンションの管理人、綾名叔母さんがやってきた。  
「わ! これは何事?」  
「いや俺にもさっぱり」  
「久志がね、帰ってきてね、花束でね、大事ってね、だからね。うわああああああん」  
 綾名さんは「ははぁ」と勝手に納得して、  
「久志君がいるんじゃあたしの出る幕はなかったわね。サンドイッチ、ここに置いとくから後で食べ  
てね。じゃね」  
 とニヤニヤしながら去っていった。  
 そして姉貴はしばらくそのまま泣いていたが、いつしか泣きつかれてまた眠ってしまった。  
 
 
 
 それ以来、変わったことが二つほど。一つは、姉貴が以前に増して俺の家に居つくようになったこ  
と。そして二つ目は、  
 
 
 
「ふあぁ、あん、ぁあン、だめ、玄関なんかで、あン」  
 朝の玄関先。  
 出勤間際にも関わらず、姉貴のビシッと決まったスーツ姿を見て劣情を抑えられなくなってしまった。  
「だめって、姉貴だって元から準備万端じゃんか」  
「そ、それは久志が昨日、私が失神するまでするから、余韻が……」  
 赤くなってうつむいてしまう。  
 姉貴は玄関にくにゃっと両手を突き、もたれるように後ろから攻められていた。  
 朝に似つかわしくない淫らな音が途切れることなくエントランスに響き渡る。  
 角度を変えると電流が走ったように姉貴の体がビクンと震えた。  
「ひぅ、そこだめ、ああもうっ、そ、そうよ、そこ弱いわよ。馬鹿、アホ!」  
 涙目になってそう言う姉貴は、すごくかわいい。  
 やばい、Sに目覚めそうだ。  
 ブランドのパンツスーツを着て街を闊歩する姉貴は、男なら誰でも振り返ってしまうような美貌の  
持ち主だ。  
 それがパンツをずり下ろされ、ストッキングに愛液の大きな染みをつくりながら、朝から玄関で弟  
とセックスしているなんて誰が思うだろう。  
「ひっ、ン、ンン、ンンッンンッンンン!」  
 姉貴の狭いそこはぎゅうぎゅうと締め付けるが、溢れる蜜にまみれてペニスのストロークは早くなる。  
「れっはい、おかひいよ、姉弟でこんなこと」  
 姉貴がそんなことを言う。あれだけ誘うような仕草を見せたのは、姉貴なりの防衛術だったのかも  
しれない。  
 一番奥をを突くと、子宮に衝撃が伝わるのか。  
「あっ、ああっ、はあああっ」  
 打ち震えた嬌声が上がる。そこで答えた。  
「なんで?」  
 姉貴は息も絶え絶えに、  
「なんれって……、なんれらろう?」  
 とろけた目で甘い吐息を漏らす。  
 その目で俺は、ラストスパートに入る。  
「ひ、ひあ、あ、あ、ああっ」  
 急激なテンポで細いからだが揺すられ、悲鳴のような声が上がる。  
「出すよ、姉貴」  
「来れ、わらひの中に来れぇ!」  
 ずっと、渾身の力で蜜壷を突き上げる。  
「ッッ! お、奥にぃ!」  
 姉貴の体が持ち上がり、爪先立ちになるくらいの突き上げの後、  
「出る!」  
 そのまま俺は精液をぶちまける。  
「ふあああ、久志、久志、いく、いく、いくうぅぅ!!」  
 焦点の合わない目を大きく見開いて、姉貴の体がガクガクと震える。  
「おなかが、おなかが熱いよぉ……」  
 言い尽くしがたい満足感に包まれながら、理性もとろけさせて、俺たちはずっと繋がっていた。  
 
 いたかったんだけど、現実問題そうもいかないわけで。  
 姉貴はその後急いで身支度を整え、家を出て行った。  
 俺はコンドームをゴミ箱に捨てて、ふといたずらを思いつく。  
 姉貴は車通勤をしていて、最近は目の前の駐車場に車を止めている。  
 俺は姉貴が当然のようにそこに置いていった車のスペアキーを手に、ベランダから下を見る。  
 丁度姉貴が愛車の鍵を開けたところだった。ふふふ。ロック。ぽち。  
「?」  
 姉貴、もう一度開錠。  
 当然のようにロック。ぽち。  
「!!??」  
 おろおろしだした。ちょっと泣いてる。  
 かかってくる電話を受ける。  
「久志、どうしよう、車が壊れちゃった! 困るよー!」  
「俺も姉貴が面白くて困ってる」  
「え?」  
 上を見る姉ににこやかに手を振る。ああ、かわいいなぁ。  
 
 だが、そんな平和な考えは次の瞬間吹っ飛んだ。  
 
「……ちょっとそこで待ってなさい」  
 
 ……やばい、もしかしたら怒らせたかもしれない。あの薄暗い笑みは危険な兆候だ。  
 今度は俺がおろおろして、すぐに姉貴が部屋に戻ってきた。  
「あ、姉貴、もう遅刻じゃないのか? 時間大丈夫なのかよ」  
「大丈夫。課長にもみ消させる」  
「課長になにやらせてるんだよ!? つか従うなよ課長! そこまでする理由でもあるのかよ!」  
「便利な時代よね。携帯にもカメラが付いてるんだもの」  
「いや! 聞きたくない、聞きたくない!」  
 いやいやと耳を押さえて首を振る俺の前に立ち、そっと目隠しをする。  
「マ、マイマスター、なぜ目隠しをされるのですか?」  
「ふふふ、いいから」  
「あ、あわわわわ」  
 何が起こるのかと思うと言葉が出ない。そこへ  
「ン――――」  
「ンンッ!? ン、ンン――――」  
 
 
 
「ぷはっ」  
 たっぷり2分間は密着した後、姉貴は玄関まで歩いていって、くるりと踵を返す。  
 ほうけた俺を見て目を細めて笑うと、右手をくぱくぱさせた。  
 
 俺はこの時、異常なくらい心臓がバクバクして、どれだけ姉貴にのめり込んでいるか分かった。  
 しかしインフルエンザで寝込んでいる今、果たしてそれは正しかったのか疑問が残っている。  
 
 
 
(おしまい)  
 

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