「……ん?」
走り始めたばかりでまだ団子状態の駅伝に飽きて、少しぬるくなり始めたお椀に目を移すと、
なにやら茶色がかった物体が増えている気がする。というか増えた。
「入れたろ」
「違ふよ」
白々しく餅を頬ばりながら首を振られても。
「お前なぁ、俺だって椎茸あんまり好きじゃないんだよ」
「私、嫌い」
「レベルの話じゃないんだ。人ん家で雑煮食っておきながら好き嫌いすんな。ましてや人に押し付けるな。
いい大人が――」
「よそではやんないもん」
俺は例外かよ! 同じ例外ならもっといい思いできるのがいいよなぁ。
「ってか昔は食えたじゃん」
「大人になるって悲しいものよ? 知りたくなかった……菌だなんてっ」
「イメージ先行かよ! 俺は味が嫌いなんだ。レベル高いだろ。むしろ俺の分も食え」
箸で自分の分もまとめて差し出すとそっぽを向かれた。
「いやだしー。そうだ! 私たちのお雑煮はノン椎茸にしよう」
これは名案。とばかりに手を打つ姿を見ながら、冬のボーナスで指輪を買いにいくべきか、そんなことをふと思った。