「漂流女子高校」  
序章  
◎トラックドライバー  
○消滅10分前  
警備員「今度来るときに、このメモッた物を買っといてくれよ。金は余分に払う。」  
トラックドライバー「おい、こりゃエロばっかりじゃないか。こんなものここでもっていいのかぁ?」  
警備員「こんな所だからさ。毎日毎日、若い女に囲まれているんだ。手を出さないように欲望を発散させないといかんのさ。それなりに苦労があるんでね。」  
トラックドライバー「ふん、うらやましい苦労だな。まぁ、来週にも持ってくるよ。」  
 くだらない頼みごとを聞いた彼は車を発進させた。  
 のどかな内海と美しい山々に囲まれた小さな村に、アジア有数の名門高校、海の花女学園はある。そこの寮と購買部に夕食分の食品を届けるのが彼の仕事である。  
 「ふん、銀のスプーンを産まれてきたか。羨ましいこった。お近付きになって逆玉…なんて無いよなぁ。」  
海の花女学園は、政府主導で創設されたアジア有数の女子高校である。アジア中の富豪や高級官僚の娘が入学し、  
さらにアメリカなら飛び級で大学に入れる天才やオリンピック候補生といった才能豊かな神童も生徒になっている。  
一介のトラックドライバーでしかない彼から見れば、生れから違うと思い僻むのは仕方がないだろう。  
○消滅1分前  
 『ここから海の花女学園です。関係者以外は引き返して下さい。』と書かれた看板とその上の監視カメラの横を、トラックは通り過ぎた。  
「相変わらずでかい学校だ。なにも森ひとつ敷地にすることは無いだろ。」  
ドライバーはまた愚痴をこぼす。  
海の花女学園は確かに巨大だ。全校生徒400人以上に対して、教職員も100人は超える。  
学生寮と校舎も最新設備が完備しており太陽風力発電・貯水装置まである。室内プールにテニス場と運動施設も十分すぎるほどある。おかげで森まるまるひとつが学園の敷地なのだ。  
愚痴ばかりの彼もこの巨大な学園があるから働ける。学園がなければ彼の故郷は廃村となっていた。  
 
○消滅0秒後  
 『ガ――――――――――――――――――――――――――!』突風が吹いた。  
 突然、トラックが後ろに引っ張られた。トラックだけでなく周りの石も空気も後ろに引っ張られる。  
ドライバーは必死でハンドルを動かすが、重いトラックが浮き上がったと思うと横転してしまった。  
風がやみ、歪んだドアから何とか彼は這い出すことができた。全身が痛い。腕の骨が折れたか。そう思いながらトラックが引っ張られたほうを見た。  
「なんだこれは?」  
 鼓膜が破れたことも骨折の痛みも忘れて呆然とした。  
海の花女学園が無くなっていた。『ここから〜』の看板も広大な森も消えていた。本来ある場所には深くえぐられた巨大なすり鉢状の穴があった。  
 
◎警備員  
○消滅0秒前  
なじみのドライバーが『ここから女学園〜』看板を通り過ぎた事を監視モニターで確認し、警備員は『ちゃんと頼んだものを買ってくれるのだろうか?』と考えていた。  
 突然、監視モニターの画像が、アスファルトの道路と木々から茶色い地面に変わった。  
○消滅3分後  
警備係長に連絡した警備員は、看板上の監視カメラを点検にいった。カメラが外れて地面を映しているのかと想像した。しかし彼の予想は裏切られる事になる。  
「なんだこれは?」  
看板より先は、アスファルトの道路と村と海ではなく、岩と土塊がゴロゴロとある荒涼とした大地だった。  
 
◎異世界  
○消滅0秒前  
 荒涼とした大地があった。枯れた草やむき出しの赤土でできた広大な平地に岩山が点々とあり、まばらながら木も生えている。  
ちょっと目を遠くにやると、オアシスらしい森がある。さらに遠くには巨大な山脈や大河が見えた。  
アフリカのサバンナに似ているが違う場所だ。地球ですらない。ライオンやシマウマはおらず、地球にはいない奇妙でグロテスクな生き物が蠢いている。  
ここはそんな異世界である。  
『バ―――――――――――――――――――――――――――――――ン!』  
突然、荒地の一箇所が吹き飛んだ。空気は急激にふくらみ、衝撃波を巻き起こいて外へ外へと動く。  
地面は爆発してえぐれ、岩も木も砕けながら土石流となって外へ外へと動いていった。  
一瞬にして巨大なクレーターと真空の空間が生まれた。  
○消滅0秒後  
衝撃波と土石流によって、半径数百mの生物は吹き飛んでほぼ壊滅した。  
その元凶となった場所に、緑の森と巨大な人工物でできた海の花女学園が出現した。  
 
◎海の花女学園生徒  
○移動0秒前  
 昼食後の授業、まして暖かい日差しが降り注ぐ心地いい日となれば、名門女子高校の真面目な生徒でもウトウトしてしまう。  
グランドではクリケットやテニスなど体育の授業が行われ、室内プールも使われている。  
○移動0秒後  
4階の教室にいた女子高生は黒板ではなく窓の景色を見ていた。窓から見える景色は、自分の見慣れた美しい蒼い海から殺風景で薄茶の大地へ何の前触れもなく変わった。  
あまりのことに席を立ったその生徒に教師から叱責がとぶ。しかし教師も他の生徒も、この度は自分が窓をみて驚愕するのだった。  
 しかしほとんどの生徒も教師も、全く普段どおりに教科書を読みグランドを走っていた。  
海の花女学園が異世界へ瞬間移動した時、女学園そのものは物音一つたたなず小石一つ動かなかったからである。  
○移動30分後  
 学園中の人間が「何か解らない事が起こった」こと解ったのは、学園移動の30分後である。  
生徒たちは教室で『自習』することになったが、窓から見える異様な景色を見て騒いでいた。  
 教師たちは職員室で会議を始めたが、全員がパニックになっていた。教師たちは若くて優秀な女性ばかりなのだが、誰にも事態が解らないのだ。  
大人たちがパニックになるのは仕方がないことだろう。自分たちが学園ごと未知の世界へ瞬間移動したのだ。  
だれも想像しないことが起こったため、自分たちがどういう状況なのか解らない。そのうちいやでも解ることになるのだが・・・  
○移動2時間後  
 何が起こったのか解らず、教職員たちはどうにも動けなかった。生徒も職員もいまだこれは夢だと思っているようだった。  
電話は通じず、テレビも映らないことも恐怖だった。  
 学校の時計が5時になり実際に夕方になった。  
とりあえず生徒は学生寮に帰り、完全に戸締りをして、女性警備員たちと寮母が番をすることになった。教師・職員は担当教室を見回ったり点検したりと右往左往である。  
 
○移動 数時間後  
 夜になった。女学園の全員が空を見上げた。美しさは変わらないが見慣れた模様とは違う月が空に浮かんでいる。  
それも3つ。3つの月は、女学園の人間全員に『ここは地球じゃない。知らない世界に来てしまった。』と絶望させるのだった。  
 
 人間たちが空を見上げているころ、暗い大地では女学園へ向かって移動する生物がいる。  
女学園が出現した衝撃波は多くの生物を殺したが、その死の空間を埋めるかのように移動する。  
かれらは、突然現れた森には滅多に手に入らない女のにおいを判っているのだ。  
 
 ◎日本  
海の花女学園が突然に消滅した日本では、当然大変な騒ぎになっていた。生徒たちや教師たちの家族が集まり泣き叫ぶ光景が見られ、警察だけでなく自衛隊までも登場し現場一帯を封鎖した。  
海外の子女も同時にいなくなったことで、国際問題に発展し、政府も苦慮する事になる。なぜ学園がまるまる消滅したか、原因が判明する事は無いだろう。  
さて日本の大騒ぎなど、当の海の花女学園の人間たちは想像つかなかった。なにしろ自分のことで精一杯だったからである。  
 
◎海の花女学園  
○2日目朝・職員室  
 一夜明けて海の花女学園の教職員が職員室に集合した。この世界の1日は地球とほぼ同じのようだ。  
教職員はほとんど20〜40代の女性である。  
名門女子高で男性教師がいれば問題が起こるかもしれないという配慮と、若い人間のほうが理事長と文部省に逆らわないからである。  
おかげで女学園の男性は、理事長と教頭(2人のうち1人)、警備員の一部(校内は女性警備員のみ)だけである。  
何をどうすればいいのか理事長・校長にも分からなかったが、彼女たちは学園の状況を知らなければならなかった。  
全員、持ち場の教室や学生寮を見回って一睡もできなかったので疲労の影が濃い。  
 まず60前半の背が高く立派な口ひげをはやした男が喋りはじめた。海の花女学園理事長だ。  
「ええっと、全員いまだ信じられないかもしれないが、自分も未だ夢だと思いたいのだが、どうも学園が地球とは違う……世界にワープしたらしい。」  
 職員室にざわめきが起こる。誰もが異世界に自分たちが移動したなどと口にしたくもない。  
理事長「生徒は全員、学生寮にいる。まず、我々が学園の状況を把握しないと、生徒に説明できない。生徒の不安が解消されないだろう。」  
 『自分たちの不安を解消するためだろう』と教師たちは思ったが、理事長の話を聞く事にする。  
理事長「学園の外の荒地については後にして、まず学園内の状況だか、電話もネットも通じない。外部との情報のやり取りが全くできない………」  
           重い沈黙  
 
「電気は幸いにも、巨大風車とソーラーパネルのおかげでなんとかもっているね。風と太陽があるならどうにかなるだろう。  
ガスはガス管が切れているのか使えない。水は使えている。」  
 これには意見が出た。  
 
「理事長、学生食堂と学生寮の大型冷蔵庫が夜に止まりました。購買部(学園内のコンビニのこと)の冷蔵庫もです。」  
「エレベーターも動きません。電気が足りないのじゃないですか?」  
「昨晩、生徒からシャワーが使えないとの報告ありました。屋上の貯水タンクが空になったのだと思います。」  
「でもトイレは使えたでしょ。」「水道料金削減のために汚物用の水は、雨水を貯めて流しています。飲み水とは別系統です。貯めた雨水もいずれなくなるでしょう。」  
 「冷蔵庫が使えなければ食べ物が腐って、」「それより食べ物は?いやそれより水が無くなるのか?」  
   職員室がざわめき始めた。しばらく悲観的意見ばかりでたが、とりあえず以下の事をすることになった。  
・冷蔵庫が使えないので早めに料理をして食べる。  
・風と太陽任せではエレベーターも大型冷蔵庫も使えないのはしょうがない。  
・小型冷蔵庫を使い、節電する。  
・できるだけ節水する。あとで貯水タンクと雨水タンクを確認する。  
・体育館地下倉庫と旧校舎に災害時用の非常食と水がある。それで1週間はもつはず。体育館に食べ物を集める。  
最後に理事長がこう付け加えた。  
「それと・・・森の外だが、警備員のみなに調べてほしいのだが。」  
 
○2日目朝・学生寮  
 悲観的な大人たちに比べて高校生たちは楽天的であった。すぐに学生寮に閉じ込められて外の様子が分からなかったからである。  
どちらかというと、シャワーのお湯が出なくなった。さらに水すら出なくなったほうが問題で、寮母さんにブーブー文句を言っていた。  
ガスコンロが使えないために昨晩の夕食と今日の朝食は、パンとサラダだけで学生たちはこれに不平不満を口にした。わがままなのだ。  
 
○2日目昼・屋上  
 屋上で何人かの教師が貯水タンクと雨水タンクの水量を調べていた。  
貯水タンクはすぐに空になりそうだが、雨水タンクは十分あった。トイレの水だけなら当分使える。  
というより虫がわかないよう薬品が入っているので飲み水に使えないのだ。  
 屋上から遠くを見ると、学園とその周りの森が円状に広がっている。どうやら球状の空間がワープして、球の中に学園と森が入っていたのだ。  
森から外はアフリカのサバンナのような荒野だ。数km離れた場所に青々とした森が点在している。  
飲み水が無くなったら、あの森まで水探しするかもしれない。  
「ここはいったいどこなのよ。」教師は涙した。そんなとき放送がかかる。  
「全校の生徒は校庭で食べ物と水を受け取ってください。受け取ったら速やかに寮へ戻りなさい。」  
 
○2日目昼・校庭  
 校庭ではバーベキューが行われていた。学園祭のバーベキューセットを使い、痛みやすい肉などはどんどん焼いてしまおうとしたのだ。  
ただし学生は校庭で食べる事を許されず、紙皿に盛った肉とペットボトルを持たされて寮に帰る様指示される。  
 つまり2日目になっても学生たちには教師たちは何も説明していなかった。それでは学生たちは逆に不安になってしまう。  
中には自分自身で、学園の外がどうなっているか知ろうとする学生も出てくるのは当然だった。  
 
○2日目午後・校内  
 教職員のほとんどは職員室に集まっている。寝不足と疲れからかみな注意力散漫になっている。気絶したように寝てしまった教師もいる。  
だが、学園の森の外れにある旧校舎から非常用食品を交代で運ぶ女教師もいる。  
 このように教職員が疲れきっていては生徒へ目が行き届かなくなるのは仕方が無いだろう。  
好奇心旺盛もしくは何も説明しない教師に不満がある生徒たちは、勝手に寮を抜け出して外の様子を見ようと動き出していた。  
 
○2日目午後・校舎外  
「ちくしょう。危ない仕事はいつも男ばかりにやらせて。」  
 アスファルトの道路がなくなり見たこともない荒野に変わる境界で、茶髪の若い男性警備員は苛立った声をあげた。  
名門の子女に変な虫が付かないようにという理由で、海の花女学園では教職員ばかりか警備員も女性が勤めている。  
しかし屈強な男性がいなければいないで不安なので、校舎外は男性警備員数名が巡回している。対して女性警備員は校舎や寮を警備している。  
「怒るな。とにかくこの訳のわからん荒地を調べなければいかん。」  
 こちらはやや白髪混じりの年配の警備員だ。『ここから海の花女学園です。関係者以外は引き返して下さい』と書かれた看板に寄りかかりタバコをふかしていた。  
「そうだ。危険なことが起こった時のためにおれたちがいるんだ。」はげかけた中年警備員が相槌を打つ。「まずこの森を一周してみる。」3人は恐る恐る森を出て歩き始めた。  
 森の周りは土がめくりあがって岩がごろごろして歩きにくかった。だから絶えず足元に注意しないといけない。おかげで彼らは地面であるものを見つける。  
茶髪警備員「おい、この足跡は何だ!?」  
白髪警備員「人?いや、サルか。それにしては大きいような。」  
はげ警備員「こっちの模様は何かが這いずり回った感じだ。」  
 3人の見つけた奇怪な動物の足跡は、森の中へと向かっていた。  
 
○ 2日目夕方・学生寮食堂  
「キャ〜〜〜〜〜〜!!」「サルよ。」「あんな大きいサルなんて、化け物よ。」  
 女子高生の悲鳴と逃げる足音が学生寮に響き渡った。  
 女子生徒たちが普段からおしゃべりするとき食堂に集まる。  
外の様子を調べようとする勇気のない女子生徒たちは、このときも食堂で不安な気持ちを口にして励ましあっていた。  
このときお菓子を持ち込んでいたことと、暑さから窓をあけたことが間違いだった。  
 突如、菓子の匂いと女子生徒の声にひきつけられて開いた窓から『何か』が這入りこんできた。  
『何か』はヒヒに似ていたが人間以上の大きさで、黒い剛毛に覆われていた。  
当然、食堂の中はパニックになり女子高生は散り散りに逃げ出す。  
大ヒヒは机の菓子を貪り食っていた。そして腰を抜かして逃げられなくなっている女を見つけると、ニヤリととても人間臭く笑った。  
 

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