私の勤めているお屋敷には秘書兼執事の人がいる  
 実際は秘書がメインで執事の仕事はそんなに無い様だが、お屋敷内役割分業の  
名目上そうなっている  
 ご主人様である亮一郎様と共に常に行動を共にする腹心の部下のような人だ  
 男性である  
 
 でも、これって少し不思議じゃない?と思う  
 そりゃ、政治家秘書なら男性も多いようだけど、普通一般の話で秘書といえば  
女性が相場じゃない?  
 まぁ、女性じゃなくて四六時中ご主人様と一緒にいるから、大事なご主人様  
−亮一郎様−に取り付こうとする悪い虫(女)から守ってくれる訳で安心っちゃ安心なんだけど  
 (ご主人様好みの女性が秘書について、四六時中一緒となると、お館勤務のメイドである  
私如きにはきっと勝ち目は無くなってしまうから その…… 色々な意味で……)  
 
 ご主人様と近い若い年齢(少しだけ上の筈)で、私の亮一郎様に対する贔屓目を除けば、  
多分亮一郎様よりハンサムと思う人の方が多いかもしれない  
 「桐生さんって、イケメンだよね〜」と同僚メイドの恵菜なども言ってるし  
 ま、私はご主人様一筋なんだけど  
 
 
 
『 秘 書 兼 執 事 の 人 』  
 
 
 
 考え事をしながらご主人様の部屋の前を通る  
 あれ? ドアが少し開きっぱなし  
 キチンとしてる亮一郎様には珍しい事だ  
 話し声も聞こえてくる  
 亮一郎様と、もう一人……桐生さんかな?  
   
 ……ご主人様の声の感じがいつもと違って聞こえる  
 そう、何かウットリしてる様な声  
 
 「あぁ、上手いな、光治」  
 亮一郎様が、桐生さんを下の名前で呼んでいる  
 そして、少し桐生さんが笑ったような声  
 「ん゛〜」とくぐもった響き  
 
 え?  
 これはもしやと、思った  
 いや、私も他のメイドの娘に勧められて、Boys Loveモノを読んだ事がある  
 何というか、今一つ理解できない世界だったが、そういうモノがあるのは知っている  
 が、まさか、それがリアルで、よりによってお屋敷で  
 亮一郎様と桐生さんが……?  
 
 マズい、マズい  
 私というものがありながら  
 いや私の想いは告げていないから、届いていないかも知れないが、察しの良い  
亮一郎様ならもしかして分かってくれてると思ったのに  
 いやいや、私だけでなくお屋敷には美人の使用人も多いし、亮一郎様の交際範囲の中に  
美しいご婦人も多いのに、よりにもよって……  
 その…… ソッチの道を……  
   
 桐生さん、いや桐生のヤツが亮一郎様を妖しげな道に誘ったんだ……  
 そう、思った  
 そして決意を固める  
 
 ご主人様の夜の睦事を邪魔するのは、使用人としてあるまじき事だけど  
こんな事はマズい  
 
 うん、大旦那様もただ一人のご子息である亮一郎様が世継ぎをもうける事が出来ない  
ご趣味と知れば、お悲しみになるわよね  
 こういうのは何というのか  
 えぇと、君側の奸を斬るだったか?  
 
 高校の時の少林寺拳法部以来、組み手こそしていないが、訓練は続行している  
 体はそれほどナマっていない  
 ともかく、飛び込んで初撃で桐生を倒し、ご主人様を救おう  
 そして、おかしな迷いから目を覚ましてもらおう  
 然るべき後、お邪魔した事をお詫び申し上げ、後の事は亮一郎様の判断に任せよう  
 
 ドアを思い切りよく開ける時、ク、クビかな?という恐怖と、それでも今なら  
助けられるかも、助けるのは私しかいないという責任感的なものを感じた  
 
 「そこまでです」  
   
 ドラマの刑事さんが踏み込むような感じで、勢い良く部屋に入る  
 
 「桐生さん、天誅〜ッ!」  
 
 と突進する前に、そこで見たものは  
 うつ伏せになった亮一郎様の上にまたがって、背中に手をあてている桐生  
   
 「ん、葉月どうしたの?」  
 「おや、立花さんどうしたのですか? 主の部屋に入るのに少し無作法に過ぎますよ」  
 
 っと、私はたたらを踏んだ  
 
 よくは知らないが男性のナニをナニするのに、こんなポーズはない  
 あそこに入らない…… よね  
 っというか、両方ともズボンは履いている  
 亮一郎様は上半身裸だが、桐生は上も着ているし  
 
 えっ、あれ  
 生々しいものを見る覚悟もしていたが、眼前の状況は予想していた光景と大いに異なるものだった  
 
 「あの、その、えーと、も・申し訳ございませんっ!! しっ、失礼します!」  
 
 真っ赤になり、口ごもりながらお詫び申し上げ、アタフタと逃げる様に退出した  
 
 どう見てもあれって単なるマッサージだよね  
 自分の勘違いっプリを呪い、自己嫌悪に苛まされつつ、その場を引き上げた  
 
 翌日、メイド長からコッテリお小言をくらう羽目になったのは又別の話  
 
 
追伸:  
 何故そんな事をしたのか説明するため、自分がどう勘違いしたのかもメイド長に述べる羽目になった  
 BLモノを私に勧めてくれた同僚メイド、夕希にもその失態の話が耳に入ったのか、妙に同情されつつ  
 「亮一郎様と桐生さんがそういう風だと萌えますよね」云々と彼女の妄想話を聞かされる事になった  
のも別の話  
 
 
追伸2:  
 ある日の夕食  
 桐生さんが亮一郎様に「アーン」と食べさせる  
 おかしい  
 ご主人様はニコニコしてるし、仲が良いとはいえ、男同士で、その…… 何とも思わないのか  
 周りのメイドもなんか変に頬を染めながら、チラチラ見てるというか眼が泳いでる  
 夕希に至っては、妙に満ち足りた至福の表情を浮かべている  
 どんだけ妙な趣味の人が、このお屋敷にいるんだ……  
 

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