お互いに顔を見合わせてから、ゆっくりと唇を合わせる。
「ん」
シロの喉から細い息が漏れた。
滑らかで柔らかな唇の感触を味わいつつ、正博はシロの背中に左腕を回し、右手でそっ
と頭を撫でた。きれいな髪の毛の手触り。白い猫耳が動いているのが分かる。
お互いに何度か舌を絡ませ、どちらからとなく唇を放した。
「ご主人様とのキス……」
口元を緩ませ、シロが呟く。
正博は自分の唇を嘗めてから、笑って見せた。
「俺のファーストキスだったな」
「そういうことは女の子が言うものですよ」
苦笑いをしながら、シロが指摘してくる。
正博は視線を逸らした。そうかもしれない。そうだろう。緊張のためか、口の中が乾い
ている。胸の奥が焼けるような熱を持っていた。
正博は頭を掻いてから、そっと右手を下ろした。一応、訊く。
「さわるぞ?」
「はい」
恥ずかしそうに俯いて、シロが頷く。
数拍の躊躇を挟んでから、正博はの胸に右手を触れさせた。絹のように滑らかな生地
と、丸みを帯びた控えめな膨らみ。そっと押すと、柔らかな感触が手に返ってくる。
女の子の胸を触るのは、生まれて初めてだった。予想通りのものなのか予想とは違う
ものなのか、それは分からない。手の動きに合わせ、柔らかく形を変えている。
「何だか、くすぐったい……。頭がふわふわします……」
目を閉じたまま、シロが呟いた。両手でワンピースの裾を強く握り締めている。くすぐっ
たそうにしているが、嫌がっている素振りは見られない。顔を真っ赤にして目を閉じて、
顔を背けている。
正博は何も言わぬまま右手を放し、シロの両腋に両手を差し込んだ。
「え?」
思いの外軽いその身体を持ち上げて、前後を入れ替える。ぴこりと跳ねる猫耳。
正博は後ろからエプロンの下に両手を差し込み、シロの胸を包み込んだ。乱暴に揉む
のではなく、両手で揺らすように撫でる。小柄ながらも存在感のある膨らみを、両手でじ
っくりと丁寧に味わう。
「ん、くすぐったいです……」
正博の手に自分の手を触れさせるシロ。しかし、嫌がっているわけではなく、正博の手
の動きを自分で確かめているようだった。
「んん……ぁ……」
シロの鼻から悩ましげな息が漏れる。
自分の愛撫にシロが感じているのだと、正博は焼け付くような興奮を味わっていた。頭
が熱い。だが、妙に冷静な部分も残っている。手の平に感じる小さな突起。
「シロ、気持ちいい?」
「はい……。人間って凄く、熱いです……」
口元を抑えながら、シロが頷く。人間の性欲は他の動物に比べて非常に強いと聞いた
ことがある。猫であるシロが人間の性に触れるのは初めてだった。
正博は指先で服の上から胸の突起を摘んだ。
「んッ!」
シロが微かに顎を持ち上げる。猫耳と尻尾がぴんと立った。
痛くないように、正博は優しく両手の指を動かす。小さなグミを弄っているような手触り
だった。両手で転がしたり、撫でたりつ、軽く潰してみたり。
「ん……! っ……」
シロは声が漏れないように、自分の両手で口を押えた。
その耐える姿に言いようのない興奮を覚える。正博は手の動きに緩急を付けながら、
つんと立った乳首のみを攻めていく。ただ、欲求の赴くままに。
「くぅ……。んんん」
口を押えたまま、顎を上げ、背筋を反らせるシロ。両足を擦り合わせて、逃げるように
肩を動かしている。尻尾と猫耳が跳ねるように震えていた。
しかし、正博は指の動きを緩めることもしない。
両手で口を押えながら、シロが何とか口を動かす。
「ご主人、様……っ! んぁ、そんなに、胸ばっかり……」
「シロ、気持ちよさそうにしてるし。このままもう少し続けてもいいんじゃないかな? あと、
多分大声出すと隣の人に聞こえちゃうから静かにね」
囁くような正博の言葉に、シロが慌てて口を塞ぐ。このアパートはそこそこ防音対策が
してあるので、よほどの大声でない限り隣には聞こえないだろう。ついでに、現在は外出
中のようだが、シロはそれを考える余裕もないらしい。
「胸だけ弄るのもワンパターンだし……」
自分で確認するように呟き、正博はそっとシロの猫耳を舐めた。薄い毛に覆われた三
角形の白い耳。薄い獣毛の感触を舌先に感じる。人間に化けた時は普通に人間の耳が
あり、猫耳は飾りのようなものになってしまうらしい。
「ヒッ……」
びくっと音がしそうなほどに、シロは身体を強張らせる。
正博は右の猫耳をそっと口に含み、甘噛みを始めた。胸を弄る手の動きはそのままに、
猫耳への攻めを開始する。
「あっ、っ――。んんん……!」
両手で必死に口を押え、シロは声を呑み込んでいた。それでも、喉から漏れ出る声を
完全に抑えることはできない。ぴんと伸びた二本の尻尾がぴくぴくと跳ねて、気持ちよさ
を主張している。
「思いの外凄いな」
右の猫耳から口を放し、左の猫耳への甘噛みを始める。乳首を弄っていた左手を放し、
おなかや腕や首筋などを丁寧に愛撫しはじめた。
「んんッ! くぅぅ――! ご、ご主人、さま……っ!」
引きつるような、どこか苦しげな声。
正博はすぐに手と口を放した。
「すまん、大丈夫か……?」
「はひ……」
呂律の回っていない口調で答え、シロが振り向いてくる。既に目の焦点は曖昧で、呼吸
も荒い。頬は赤く染まり、うっすらと汗が滲んでいた。
「大丈夫、です……。でも、もう身体が熱くて、熱くて……。何だか、私が私じゃなくなっち
ゃうみたいな……。人間って、凄い……ですね……」
切なげな声で、そう言ってくる。
正博は一度大きく息を吸い込み、そっとシロの右頬に自分の右手を添えた。顔を左側
に向けさせ、自分の身体を少し前に出す。そのまま、シロの唇に自分の唇を重ねた。
「んっ!」
黄色い目が大きく見開かれる。
正博はシロの咥内へと自分の舌を差し入れた。そして、シロの舌を優しく撫でる。紙ヤ
スリのような猫舌であることも予想していたのだが、幸い人間の舌とさほど変わらないも
のだった。
「ん……」
シロが舌を舐め返してくる。
それから、お互いに舌を絡ませ合うような、濃厚なキスへと移っていった。シロの瞳から
はほとんど理性の色が抜け落ちている。
同時、正博は紺色のスカートの中に左手を差し入れ、太股を撫で始めた。柔らかく、弾
力のある筋肉。どこかぎこちなく、それでいてイヤらしい手付きに、シロが太股を閉じよう
としている。だが、足を閉じることはできない。
正博は一度唇を放した。
「ふぁ、ご主人様……、もっとお願いします……。私を可愛がって……」
唇を震わせ、泣きそうな声を口にする。その言葉に込められた真意までは、分からな
い。ただ、正博は再びシロと自分との唇を重ね合わせた。
シロは両手を正博の首に回し、貪るように吸い付いてくる。
太股を撫でていた正博の手が、さらに奥のショーツへと触れた。
「ん!」
その感触に、シロの動きが止まる。
その反応には構わず、正博はシロの大事な部分をショーツ越しに撫でた。指先が柔ら
かな生地と、微かに粘り気を帯びた液体に触れる。指をゆっくりと上下に動かすと、ショ
ーツに染みた液体が少しずつ増えていくように感じた。
唇を放し、シロは瞳から涙を流しながら、懇願してくる。
「ふあ。ああ……ご主人、さま……。早く、お願いします……。早く、私の中にお願いしま
す。このままだと、私……おかしくなっちゃいますよ……!」
「分かった」
正博は頷き、シロを抱え上げた。
そのままこたつの上へとうつ伏せに下ろす。四肢に力が入らず、身体を起すこともでき
ない。猫耳と尻尾も力なく垂れている。
「失礼……」
そう一言断ってから、紺色のスカートの裾を持ち上げた。
きれいな太股と、丸く小さなお尻。三角形のショーツのクロッチ部分は、しっとりと濡れ
ていた。さほど前技はしていないのだが、シロは既に我慢の限界に達しているようだった。
これ以上じらしても、苦しいだけだろう。
「ご主人様……」
「大丈夫、力を抜いて」
不安げに呟くシロに声を掛けてから、正博はズボンのチャックを開けて、自分のものを
取り出した。熱いくらいに張り詰めている男性器。
ショーツのクロッチを指で横にずらす。
露わになるシロの女性器部分。ピンク色をした、綺麗でグロテスクな肉の割れ目。見た
目は人間とほぼ変わらない――と思う。シロは子供を産んだことがないが、処女なのか
どうかは不明だった。
「行くぞ?」
「はい。来て下さい……」
振り向かぬまま、シロが答える。こたつの上にうつ伏せになったまま、両手で顔を押え
ていた。恥ずかしさに耐えるような仕草に、嗜虐心が微かにうずく。
正博の先端が、膣口に触れた。
ゾクリ、と背筋を走る寒気。
息を呑み、覚悟を決め、正博はシロの中へと挿っていく。
「んん……。あぁ……。ご主人さまぁ……」
シロが甘く切ない声を上げていた。
柔らかな濡れた肉を先ながら、奥へと進む。絡みつくような肉の感触に、歯を食いしば
って射精を耐える。そうして、根本までシロの中へと呑み込まれた。
「入ったぞ……」
シロの頭を撫でながら、正博は擦れ声を口にする。
「はい。ご主人様が、私の中に……。ありがとうございます」
シロが満足げに頷いていた。
正博は息を呑み込む、全身が重い。性行為というものが異様に体力を消耗するもので
あると、思い知らされていた。だが、今更止めるわけにはいかない。
シロのお腹に右手を差し入れ、少し腰を持ち上げる。
「動くぞ」
そう言うなり、返事も聞かずに正博は腰を前後に動かし始めた。決して速い動きではな
いが、丁寧にシロの膣内を刺激している。
「ああっ……、んんん……、何だか、身体が痺れます……!」
両手でこたつの縁を握り締め、シロが必死に声を噛み潰している。さきほどの言葉が
頭に残っているのだろう。
「こっちも、かなり限界近い」
あくまで丁寧に動きながら、正博は正直に呟いた。
「できれば一緒に行きたいんだけど……」
「っ、私の、尻尾……。付け根……、触って下さい」
シロが何とか声を絞り出す。
何度かイタズラでやったことがあるから分かる。痙攣するように跳ねる二本の尻尾。そ
の付け根を、左手の指先で軽く叩く。
「にッ!」
鋭い吐息とともに、シロの身体が跳ねた。膣内が一気に締まる。
猫にとって尻尾の付け根は一種の性感帯らしい。敏感な部分だけに、触られるのを嫌
がることも多い。何度か引っかかれた経験もある。だが、このような状況下なら、簡単に
絶頂を調整できる部位として使えるだろう。
「なら、そうさせてもらう」
正博は腰の動きを早めつつ、人差し指で尻尾の付け根を軽く叩き始めた。
「にっ、にゃぁ、なぁぁ……、ふあぁ……」
シロの喘ぎ声が人間のものから猫のものへと変わっていく。付け根を指で叩くたびに、
身体が震えて膣内が締め付けられた。リズムを取るように付け根を指で叩き、シロの快
感を調整しながら、ともに絶頂へと上り詰めていく。
「なぁぁぁ、うぅぅぅぅ……」
沸き上がる性感を受け止めるように、シロはこたつの縁を両手で掴み、歯を突き立て
ていた。十八年間も猫として生きてきたシロにとって、人間の性感は許容量を遙かに超
えたものなのだろう。
こたつの縁から口を放し、シロが振り返ってきた。両目から涙を流し、口元から涎を垂
らした、恍惚とした表情。黄色い瞳は焦点も合っていない。
「ご主人様……。もう、私、限界です……!」
「なら、一緒に行くぞ」
そう告げるなり、正博は尻尾の付け根を指で強く押した。さらに、身体を前に傾けること
により、今までよりも奥深くまで挿入。駄目押しとばかりに、シロの猫耳に軽く噛み付いた。
シロの動きが一瞬止まる。
「っ! なあああぁぁぁぁ、んにゃああああぁぁぁぁぁ!」
発情期の猫のような嬌声とともに、シロが一気に絶頂を迎えた。跳ねるような大きな痙
攣とともに、全身の筋肉収縮させ背中を大きく仰け反らせる。
強く締め付けられた膣肉に、正博は溜まらず精を放っていた。
今まで溜まっていた分を一気に出し切るような、痛みすら伴った強烈な快感とともに、
十秒近い射精感を味わう。それは、今まで感じたこともない強さだった。
思考の空白から戻り、自分のものを膣内から引き抜く。勢いはまだ残っているが、二回
目は無理だろう。シロはこたつの上に突っ伏したまま、荒い呼吸を繰り返していた。既に
体力を使い切ってしまっている。
「シロ、大丈夫か?」
「だ、だいようふでス……」
呂律の回っていない回答。
「でも、とっても気持ちよかった……です……。私が、人間になるには、まだ足りないので
……またお願いしますね、ご主人様」
肩越しに振り向いて、嬉れしそうに微笑んでみせる。しかし、ぐったりとしていて身体は
まともに動かないようだった。しばらくは動けないだろう。
正博は右手でシロの頭を優しく撫でながら、気の抜けた笑みを向ける。
「分かってる。でも、毎日は無理だぞ。俺としても」
「はい」
頷くシロ。本当に満足そうに微笑んで見せた。
「ありがとうございました。ご主人様……」
一人用の布団に二人が入るのはやや窮屈だが、苦痛というほどでもない。
シロは正博の身体にぴったりと寄り添っていた。服装は水玉模様のパジャマである。術
で作ったものではなく、シロに着せようと買っておいたものだ。紺色のメイド服はシロが脱
いだ途端に消えてしまった。そういうものらしい。
正博の腕を枕にしたまま、シロが楽しそうに呟く。
「ご主人様のお布団暖かいですね」
「二人で入れば暖かいよ」
左手でシロの頭を撫でながら、正博はそう答えた。二人分の体温で、布団の中は多少
熱いくらいである。体温だけが原因でもないだろうが。
気恥ずかしさを誤魔化すように、正博は頷いた。
「そういえば、シロの名前決めないとな。いつまでもシロじゃまいずいだろ。シロなんて名
前の人間はまずいないんだから。あと戸籍もどうしよう?」
今まで特に気にせずシロと呼んでいたが、人前でシロをそのまま呼ぶわけにはいかな
い。相応しい名前も決めておかないといけない。それに、猫に戸籍があるわけでもなく、
その辺りも何とかしなければいけないだろう。
「戸籍とかの公的手続きの方は神様が何とかしてくれるそうです」
そう答えてから、シロは首を左右に動かした。
「あと、名前はまだいりません。まだ人間としての名前を貰っちゃいけないんです」
「よく分からないな……」
正直な感想を口にする。
シロは困ったような顔をして、自分の頬を撫でる。
「決まりなんです。猫が人間になるって、生き物が別の生き物になるってことですから。そ
の手順も色々沢山ありますし、その手順も間違ってはいけないんですよ。たとえば、私が
人間として問題なく動けるようになるまで、ご主人様のことはご主人様と呼ぶとか、色色
々あるんです」
詳しいことはよく分からないが、本当に大変らしい。
好奇心のままに、正博は尋ねてみた。
「もし間違えたら?」
「人と猫又の間の中途半端な妖怪になってしまう、と神様は言っていました。それがどう
いうことなのかは、私も分かりません」
明後日の方向に視線を向けながら、シロが答える。
しかし、その状態を恐れているようには見えなかった。そうなることがないと確信してい
るのか、そうなっても平気なのかは分からない。ただ、滅多に起こることではないことは
理解できた。
「前にも言いましたけど、私が人間になれるまでは、七年くらいかかると思います。それま
で、色々とご主人様にも協力して頂きたいこともありますが、いいでしょうか?」
シロがふっと不安げな顔色を見せる。
やはり、まだ自分が受け入れられないかもしれないという不安を持っているようだった。
シロは元々猫である。それが人間に姿を似せ、思考や言葉を覚えても、結局は人間では
ない。それは仮に人間になっても、一生つきまとうことだった。
「大丈夫だよ。安心してくれ」
正博は両手でシロの身体を抱き締め、そっと背中を撫でる。それで少しは安心したよう
だった。少し緊張していた身体から力が抜ける。
「未来の妻に協力しないほど、俺は薄情じゃないって」
「ありがとうございます……」
その声は少しだけ震えていた。