猫が恩返し 3話 雪の日の話  
後編 シロの提案  
 
 
 右手をシロの肌に触れさせる。  
 湯上がりで少し熱を帯び、部屋の空気に触れて少し冷たくなったきれいな肌。猫ではあ  
るのに、肌の感覚は人間と何ら変わりがない。肩から、背中を通り、一度髪の毛を指で梳  
いてから、バスタオルの縁を指でなぞった。  
 
「ん」  
 
 二本の尻尾が小さく動く。指から逃れるように、シロが身体を捻った。  
 しかし、動きを止めることはない。正博はバルタオルの上から、人差し指をシロの胸に走  
らせた。きれいな曲線を描く胸の膨らみ。  
 指を押し込むと、その分を押し返してくる。  
 
「んー……」  
 
 シロは両手で毛布を掴んでいた。猫耳が不安げに動いている。  
 縁を軽く引っ張ると、バスタオルがあっさりと解けた。シロの肌を落ちる衣擦れの微かな  
音が、無音の部屋に妙に大きく響く。  
 
「大丈夫、力抜いて」  
 
 正博はそう告げて、左手でシロの肩を抱きしめた。  
 安心したのか、ふっとシロから力が抜けるのが分かる。覆うものの無くなったシロの肌に、  
正博は再び右手を触れさせた。胸の膨らみの縁を下からなぞるように。そして、腋の下を  
くすぐり、脇腹の辺りへと。  
 
「ん……。ご主人様……」  
「あまり、声出さないでね」  
 
 一度宥めるようにシロの頭を撫でながら、正博は指でシロの腋をくすぐる。指の動きにあ  
わせて、産毛もないような肌が微かに粟立ち、猫耳が細かく動いていた。二本の尻尾が落  
ち着き無く揺れている。  
 
「くすぐったいですよ……」  
 
 小声で言ってくるシロ。  
 腋を撫でる指の動きはそのままに、正博はそっと猫耳に息を吹きかけた。  
 
「にゃ!」  
 
 身体を小さく跳ねさせる。尻尾がぴんと伸びた。  
 困ったような顔で、シロが振り向いてくる。  
 
「ご主人様ぁ……」  
「ごめんごめん」  
 
 謝りながら、正博はシロの胸に右手を触れさせた。  
 手の平よりも少しだけ大きな丸い膨らみに、優しく指を押し込む。張りのある弾力が、指  
を押し返してきた。五指の動きに合わせて、形を変えていく乳房。  
 
「うんっ……」  
 
 シロが肩を竦ませる。  
 
 欲望に任せて蹂躙したくなる衝動を抑えつつ、正博はあくまでも優しく丁寧にシロの胸を  
愛撫していく。指先で縁をなぞるように撫で、円を描くように手の平を動かし、先端の突起  
を人差し指の腹で転がすように弄った。  
 
「はぅっ、んん……ぁぁぁあぁ……」  
 
 微かに背筋を逸らして顎を持ち上げ、シロが喉から甘い声を絞り出していく。毛布を握る  
両手に力がこもった。猫耳を動かし、二本の尻尾を伸ばしている。  
 目の前で小刻みに向きを変える猫耳。  
 正博は白い猫耳に優しく噛み付いた。  
 
「んにゃ!」  
 
 シロの身体が一度大きく跳ねる。  
 猫耳の甘噛みはやめぬまま、右手を下ろしていく。胸から、お腹へと。緩やかな曲線を  
描いているお腹を撫でてから、脇腹の辺りを手の平で軽くくすぐった  
 シロは手から逃れようと身体を捻るが、毛布の中では逃げ場はない。  
 
「あっ、ん……なぁぁ……」  
 
 口からこぼれる、悩ましげな声音。  
 冷たく暗い部屋に、シロの声が大きく響いている。自分の声を聞きながら、シロは興奮を  
高めているようだった。肌が火照り、うっすらと汗が滲む。  
 猫耳から口を放し、正博は小声で言った。  
 
「あんまり、大声出さないでね?」  
「だって……ご主人様が……」  
 
 言い返してくるが、構わず首筋に舌を這わせる。  
 
「ぅなぁああ」  
 
 猫のような鳴き声。  
 うなじから肩の辺りを舐めながら、今度は両手でシロの全身を撫でていく。胸やお腹から、  
腕や太股、背中まで。手の平で皮膚の形を写し取るように。  
 
「あっ……」  
 
 滑らかな肌を正博の手が撫でるたびに、シロの身体が震え、猫耳と尻尾が跳ねる。手か  
ら逃げるように、手を受け入れるように、身体をくねらせていた。  
 
「にゃぁ……」  
 
 敏感な部分に触れるたび、シロが小さく声を漏らす。  
 灯りの無い冷たい部屋。窓の外では、音もなく白い雪が降っていた。微かな空気の動き  
が、雪の結晶を部屋に舞入れている。白い結晶は、フローリングの床に落ち、音もなく溶  
けて水となっていた。空気は冷たく、暗い。  
 
「あっ、ふにゃ……」  
 
 部屋に響くのは、シロの甘い声のみ。  
 正博はシロを撫でていた手を一度止めた。  
 
「ご主人さま……ぁ……」  
 
 気の抜けた声をかけてくるシロ。肩越しに振り向いてくる。黄色い瞳にはうっすらと涙が  
滲み、荒い呼吸が空中に白い霞を映していた。  
 
「こっち向いて、シロ」  
 
 正博はシロの身体を持ち上げ、その前後を入れ替えた。  
 シロが掴んでいた毛布が落ちる。  
 雪明かりに照らされたシロの肢体。やや乱れた白い髪と、惚けたような黄色い瞳、だらし  
なく緩んだ頬、白い肌、細い手足、きれいな半球系の乳房、細いお腹、何も生えていない  
下腹部。それらが、淡い雪光に浮き上がっていた。  
 妖艶で、どこか畏怖すら覚える姿。  
 
「シロ」  
「ご主人様」  
 
 お互いに小さく呟き、正博とシロは唇を合わせた。  
 柔らかな唇を合わせ、舌を絡ませる。唾液を交換するような、濃厚な口付け。お互いに  
相手の背中に両手を伸ばし、身体を抱きしめる。  
 淫猥な唾液の音が、頭の中に大きく響いた。  
 舌を舐めあい、じっとりと相手を味わってから、どちらからとなく口を放す。  
 唾液で濡れた唇を人差し指でそっと撫でから、シロが微笑んだ。無邪気なようで、艶めか  
しい笑み。それは、まさに猫のようである。  
 
「ご主人様、もういいですよ」  
 
 開いた右手で、すっと秘部を撫でた。  
 持ち上げた指は、透明な液体で濡れている。  
 正博は息を呑み込んだ。胸の奥が焼けるように熱い。伸ばしていた足を一度折り曲げ、  
緩い正座の姿勢を作る。寝間着の前を開くと、大きく勃ったものが姿を現した。  
 シロが一度息を呑んでから、腰を持ち上げた。  
 右手でそっと正彰のものに触れ、自分の膣口をその先端に触れさせる。  
 
「……」  
 
 ぞくりを背中を走る痺れに、正博は右手を握り締めた。一度息を吸い込んでから、シロ  
の腰に両手を添える。緊張しているのか、少し震えているようだった。  
 シロが腰を沈ませていく。  
 
「あっ、ふあぁ……」  
 
 甘い声とともに、猫耳と尻尾がぴんと立った。  
 正彰は両手でシロの身体を抱え、挿入を助ける。シロが腰を落とすに従い、正彰のもの  
が、シロの体内に呑み込まれていった。暖かく湿った肉の壁をかき分ける。思わず射精し  
てしまうかと思うほどの快感だった。  
 そうして、正彰のものが完全にシロの膣に呑み込まれる。  
 少し苦しげに片目を閉じながら、シロが呻いた。  
 
「ご主人様の、大きいですよ……」  
「普通だって」  
 
 シロの頭を撫でながら、正博は苦笑する。  
 下腹を撫でながら、シロが嬉しそうに笑った。  
 
「ここに、ご主人様のが入ってるんですねぇ」  
「だなぁ」  
「じゃ、動きますよ」  
 
 そう言ってから、シロはゆっくりと腰を動かし始めた。熱を帯びた肉の凹凸が、正博のも  
のを上下に扱く、と同時に正博のものがシロの膣内を掻き回している。  
 
 無音の部屋に響く淫らな水音。  
 
「ん……ああっ……。気持ちいいです……!」  
 
 シロが両手で口を押さえるが、声を抑えることはできない。  
 腰から背骨を駆け上がる痺れに身を震わせつつ、正博は左手でシロの身体を支えてい  
た。後ろに倒れないように。二本の尻尾が揺れていた。  
 
「ご主人様のものが……わたしの中を……」  
 
 腰の上下運動を加速させながら、シロが恍惚とした表情を見せる。だらしなく口を開け、  
身体を逸らして、ただ下半身から全身に広がる快感を貪っていた。  
 後ろに流れた白い髪、丸い乳房が無防備に晒されている。  
 正博は左手でシロの身体を支えたまま、その身体に右手を触れさせた。  
 胸の膨らみや、腋やお腹、お尻を丁寧に愛撫していく。冷たい空気に晒されながら、そ  
れでも熱を帯びたシロの肢体。  
 
「ンにゃぁ……」  
 
 手の動きに、シロが切なげな声を出す。その間も、腰の動きは止まらない。シロの快感  
が、絶頂に向かって登っていくのが分かる。それは正博も同様だった。  
 
「ふあぁ、ご主人様ぁ……気持ちいいですぅ……」  
 
 シロが両手で自分の身体を抱きしめる。  
 
「じゃ、もっと気持ちよくなってね」  
 
 そう告げて、開いた右手をシロの後ろ腰に回した。猫又の証明である、二本に分かれた  
白い尻尾。個人差があるらしいが、シロはほぼ根元から二股に分かれている。  
 迷わず、揺れる尻尾の付け根を摘んだ。  
 
「うなぁ!」  
 
 シロの喉から漏れる、猫のような声。  
 そこは猫又のシロにとって、最も敏感な部分である。正博はシロの反応に満足しながら、  
尻尾の付け根を攻め始めた。右手の人差し指と中指でとんとんと叩きながら、左手で尻尾  
の一本を丁寧に扱く。あくまで優しく丁寧に。  
 
「あっ。ふあ、はっ、はっはぅ、尻尾……だめ……」  
 
 腰の動きはそのままに、新たに加わった別方向からの快感に、シロはぱくぱくと口を動  
かすだけだった。無防備状態になった神経に、快楽が染み込んでいく。  
 
「ご主人……さま……? あっ、ああああっ!」  
 
 融けたような黄色い目を向けてくるシロ。その性感が戻らぬところまで行くのを確認して  
から、正博は尻尾から手を放し、両手をシロの背中に回した。  
 
「シロ、好きだよ」  
「!」  
 
 お互いに抱き合い、深い口付けを交す。  
 
 同時にシロと正博は絶頂を迎えていた。深く身体と心に染み渡るような一体感。何度も  
小刻みに身体を震わせるシロ。正博は締め付けてくる膣内へと、ありったけの精を解き放っ  
ていた。びりびりと背筋が痺れる。  
 舌の絡め合う淫猥な音。  
 一度口を放し、頬を紅潮させながら、シロが笑った。目元に涙を滲ませ。  
 
「わたしも……ご主人様が大好きです! んっ」  
 
 そして、再び唇を合わせる。  
 正博とシロはその余韻を味わうように、繋がったまま無言の口付けを続けていた。  
 
 窓の外では、変わらずに雪が降っている。  
 
 
エピローグ  
 
 
「こたつは暖かいですねー」  
 
 肩までこたつに入ったまま、シロが嬉しそうに笑っていた。  
 電気を付け、窓を閉め、エアコンとこたつを再開する。冷えた部屋の空気が、温度を上  
げていた。しばらくすれば、元の暖かい部屋に戻るだろう。  
 
「風邪引いたら元も子もないからね」  
 
 正博はシロの頭を撫でながら、苦笑した。  
 
「にゃぁ」  
 
 シロが心地よさそうに目を閉じて頬を緩めている。  
 ふと目を開けて、窓を見た。今はカーテンが閉じているが、外では雪が降り続いている。  
もう二、三センチくらい積もっているようだった。  
 
「たくさん積もりますかね?」  
「天気予報じゃ積もるって言ってたけど」  
 
 猫耳の縁を指でくすぐりながら、正博は答えた。  
 明日の朝までに十センチほどの積雪があるらしい。朝起きたら、一面銀世界になってい  
るだろう。晴れるのは、明日の夕方のようだった。  
 窓に指を向け、尋ねる。  
 
「積もったら、雪合戦でもする?」  
「いえ――!」  
 
 黄色い目を見開き、シロは断言した。  
 
「一日中おこたで丸くなってます」  
 
 

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