夕刻の17:00……その時間は主婦の戦場になります。
その戦場の名前は『スーパー万戸(まんと)』
敵勢力は付近の団地に住むおばさん集団。
お父さん、お母さん、お姉ちゃん、そして妹よ、
私、野上 明子(のがみ あきこ)24歳は、頑張ります。
『大きい旦那様と小さな奥様』
「だああ…つ、疲れた……」
私はスーパーマン…(あ、これはスーパー万戸の略です)で買った野菜に
お肉、その他今夜のおかずをマイバックから出しながらため息をついた。
「…あんなに引っ張らなくても…」
最近知ったのですが、あそこのスーパーは
夕方5時になると割引シールを貼ってくれるんです。
それを狙って近くの主婦達が映画で見たゾンビの如く群がり、壮絶な争奪戦が
繰り広げられます。店のお兄さんに商品を突き出し半額シールを貼るように迫るおばさん
最後に残ったお刺身を走って取りに行くおばさん、昨日は元気なお婆ちゃんが
籠を乗せたカートに足をかけ、お刺身をすり抜けながらかっさらっていったんですが、
勢い余ってペットボトルの山に突っ込んでいました。
私も負けじと高校の頃、剣道部で鍛えた筋力を総動員してお目当ての商品を
奪取してきたのですが……
「この身長じゃ…間違われるのも当然か……」
そうなんです。私の悩みはこの身長です。147センチしかなく、高校生…悪ければ
中学生に間違われるんです。
争奪戦では『何で中学生にお酒が必要なの!未成年でしょ!』とか『離しなさい!学生にこの肉を取られてたまるか!』とか言われ、挙げ句の果てに『君、何故こんな夜遅くにお酒を?』
と帰り道で出くわしたお巡りさんに補導されかけました。
「はぁ……毎日、牛乳飲んでもなんで身長は伸びないの…」
学生の頃から毎日のように牛乳を飲み続けていましたが身長は伸びません。
今でも飲み続けていますがやはり伸びません。
そのかわり……お、おっぱい…とかお尻…とかは…そこそこ…育ちましたよ?
でも身長だけはどうしても伸びませんでした。
「悩んでもしょうがない、笑顔、笑顔♪」
といつもの調子に戻し、野上家夕餉ノ膳を愛しの旦那様の為に用意することにしました。
私は結婚して、まだ3ヶ月の新婚です。若妻です。何か萌えます。
旦那様の名前は野上 龍一(のがみ りゅういち)29歳。
私が23歳の時、全く男っ気がない事を心配したのか、お母さんがお見合いの話を
もってきました。お母さんのお習字の先生から紹介だったそうです。
私は男の人と付き合った事のないし、まだ結婚は……と始めは拒否しましたが、
そのお習字の先生はその業界ではかなり有名な人で、無下に断るワケにもいきません。
とりあえず会ってみるだけでも…と言われ、それでお見合いをしました。
始めは何だか怖かったんですが、話すととっても可愛い人で
何となく気に入ってしまいました。
ええ、そうです一目惚れとは少し違いますけど、惚れちゃったんです。
でもダメだろうなぁ…と思いました。その理由は身長。身長。身長です。
私がたった147センチなのに対して龍一さんは何と179センチもあります。
その差、32センチ。とても、とても、とてもじゃないけど釣り合いません。
ですが、その差も何のその。なんと向こう側から
『お付き合いしてくれませんか?で……できれば…結婚を前提に』
との御返事を頂きました。私は電話を受け取った時、呆然として
『よ、よよ喜んで受けさせて頂きますじょ』
と思いっきりかみかみで答えてしまいました。
そしてお付き合いすること1年。とある日にプロポーズを受け結婚しました。
そんなこんなで今に至ります。
ピンポーン
「ん?」
現在の時刻は18:30、お味噌汁が丁度できた頃にチャイムを鳴らす人は
一人しかいません。ガチャと鍵を開け、ぬっと入ってきたのは長身の男の人。
「お帰りなさい、龍一さん」
「ああ、ただいま明子。」
「どう、龍一さん、美味しい?」
「ん、この海老フライは美味い」
「ホント?よかったぁ~あんまり揚げ物ってまだ自信なかったんだよ」
「そうか?美味いぞ。」
ンフフ……。私は満足しました。今夜のオカズのサラダや味噌汁は自信があったんですが、
メインデイッシュの海老フライはちょっと微妙でした。
ですが、旦那様は美味しいと言って召されています。お世辞でも嬉しいです。
「はい、お茶をどうぞ。」
「ああ、ごちそうさま。」
龍一さんのお仕事は港に出入する船舶の管理をする何だか難しい名前のお仕事です。
初めて会う人は口数が少なくて、寡黙な人かな?っと思うでしょうけど、ちょっと違います。
「龍一さん、最中あるけど食べる?」
「ああ、最中は好きなんだ。」
「じゃーん、この最中はどちらかが粒あんでどちらかが腰あんです。」
「え………」
龍一さんが何か悲報を受け取ったような顔になります。
「どちらでしょう?選択権は龍一さんにあります。龍一さんが好きなのは腰あんでしたよね」
「あ…ああ…え~と……こっち、いや…こっち……」
私の左右の手にのせた最中を選ぶ龍一さんの手がふらふらと右に行ったり、
左に行ったりします。何か…とても可愛いです。
「わからん……賽子で決めよう!鉛筆と黒マジックを用意するからちょっと待ってくれ。」
「はいはーい、そこまで。そこまで。実はどちらとも腰あんでしたー!」
「……………」
「はい、どうぞ龍一さん。今日、一日ご苦労さまでした。」
と、私は笑顔で最中を差し出しました。
「…あ、明子……あ、ああ…ありがと……」
フフフ、赤くなってる。赤くなってる。ホントに可愛い旦那様なんだから。
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