こんにちは、野上 明子です。あれから毎晩とは言いませんが週に2回くらいの
ペースで龍一さんと…え、エッチするようになりました。
え…えっと龍一さんはバックからするのが好きみたいで…でも上に乗ったりとか
少し舐めたりとか…し、し、し、しゃっぶたり……できるようにはなりました。
む、向かい合っても…その…色々とできるようになりました。
俗にいうと…か、開発された…というんでしょうか?
とっても恥ずかしいです。
ピンポーン
あ、龍一さんです。
今日はお昼前には帰れるからと連絡がありました。
ここ数日は船舶の出入りが多かったそうで、港の事務所で寝泊まり
していた龍一さん。久々の帰宅です。
ぶっちゃけ――してもらえると思います。
う、嬉しいとか、期待してるとかそういうワケではありませんよ。
野上家の繁栄を願い、子孫を残す神聖な儀式なのです。
断じて不純なワケはありません。でもゴムは必着です。
「おかえりなさい、龍一さ―――」
「ちわー、アキ―――――」
バン。私はドアを閉めました。
ふぅ…間違いだったみたいです。何やら女性の声が
したような気がしましたが、気のせいです。
その声がお姉ちゃんの声に似ていましたが気のせいです。
きっと、きっと、いや、絶対に気のせいです。
『大きな旦那様と小さな奥様〜姉妹訪問編〜』
「もぉ〜アキ、いるんだったら閉めないで中に入れてよ」
お姉ちゃんは給与した午後の紅茶を飲みながら悪態をつきます。
あ、今は旧姓の神谷から中村 朝子(あさこ)になっています。
「……あ、あのねぇ…お姉ちゃん、孝司(たかし)さんは?」
孝司さんはお姉ちゃんの旦那さんで一流企業のエリートさんです。
でもそういう事は全然自慢しなくて、とっても明るくてお話するとおもしろい人です。
龍一さんとは対照的な人かな。
「えー」
気怠そうな声をあげるお姉ちゃん。
「私を置いてどっかに蒸発されましたの」
「ふざけてないで、何で私の所に来たの?」
「ありゃ〜もう引っかからないか、アキだったらすぐに
『ええっ!本当!?』とか言って騒ぐと思ったのに〜」
「前置きはいいから、理由を言ってよ。」
「はぁ〜い。ちびっこ共が幼稚園のお泊まり教室で今日いないから
せっかく旦那と『セックスしまくろうぜ』って言って、約束したのに
出張入ってさぁ…衣食住をアキの所に求めにきたの。」
ここにいるだけで問題なのに、『衣』『食』『住』って何なんだ、姉よ。
「お姉ちゃん、とっても寂しいの。慰めて、アキ。」
「…………」
そのまま孤独死してね?……という思いで沈黙する私。
「そんな顔しないで?冗談よ、冗談♪」
あ、なんだ、冗談か…私はホッとしました。
「キツイ冗談言わないでよ、お姉ちゃん。龍一さんだって帰ってくるんだから」
「うん。だから材料買ってきたんだ。アキに食費出させるワケにはいかないもの」
どの辺から冗談なんですか、マイシスター?衣食住の『食』部分だけ冗談ですか?
「今日はカレー曜日だ。私が作るからアキは待ってて、で龍一さんは?」
「ええ、帰ってきますよ。もうすぐ、だから帰って下さい!」
私は思わず声を上げました。
「………アキ、生理中?」
……辞書はないかな……辞書は。
その辞書でお姉ちゃんに全ての女性が生理中に
情緒不安定になるワケではない事を知ってもらって、
ついでに姉ヘッドに落とすような超重量辞書。
ピンポーン
再び、チャイムが鳴りました。
きっと龍一さんです。私はダッシュで玄関に行きました。
あああ、マイダーリン…マイシスターに何とか言って下さい!
「おかえりなさい、龍一さ―――――」
「こんにちは、姉さ――――――」
バン。私は再びドアを閉めました。
また……間違いだったみたいです。
何やら女の子の声がしたような気がしましたが…幻聴です。
その声が妹の朋子の声に似ていましたが…幻聴です。
見たことのある容姿――――――幻覚です。
絶対、絶対、絶対に、お願します、神様。
「何だ、来てたんだ。」
「何だ。じゃないわよ、朋子(ともこ)。それにちゃんと『お姉ちゃん』って呼びなさい」
……二人の姉妹に挟まれた私。お姉ちゃんは身長166センチ、妹は160センチ。
某合衆国で捕獲された宇宙人の心境とはこんなカンジでしょうか?
「ご冗談を。妹の新居に集(たか)りに来た『雌豚』の間違いでしょ?」
……朋子の毒舌は、源 頼政が放った矢の如く鋭いです。
「あら、私が『雌豚』ならトモちゃんは『雌犬』ね。パパとママはどうちたのかなぁ?」
……お姉ちゃん、笑えてないよ。顔が般若になってるよ。とっても怖いよ。
「R指定ゲームでも最近は見ない『両親は海外旅行設定』で、昨日からいないわ。
でもさすがに3食カロリーメイトじゃ食傷になりそうなので姉さんの所にお邪魔
しようと思ったの。そしたら姉……紛らわしいから豚とアキでいい?」
「ううん、よく聞こえなかったんだけど、もう一度言ってもらえる?」
お姉ちゃんが鬼気迫る笑顔で立ち上がりました。
「トモ…私はいいから、せめて朝子姉さんにして。新居を廃墟にされたくないの。」
「わかったわ、最大限に譲歩して『朝子姉さん』と『アキ姉(ねぇ)』で」
一触即発から………意外に一件落着ですか?
「ずいぶんと素直になったじゃない。その調子で私の足を舐めなさい。」
ずいっと足を差し出すお姉ちゃん。
「やめて、ここからでも嗅覚が破壊されてしまうわ」
そのまま蹴りを繰り出しそうなお姉ちゃんを押しとどめて、私は言いました。
「もォ…二人ともやめて。トモの好きな呼び方でいいから。」
「ありがとうアキ姉。呼び方がエロゲーの設定みたいでとても萌えるの。」
お姉ちゃん、妹よ……姉妹共々、あそこの窓から飛び降りてくれないかな。
鍵は開いてるよ。
トゥルルルル、トゥルルルル
自宅の電話が鳴りました。も、もしかして龍一さん!
ああ、電話でもいいから声聞きたいです。
この状況を何とかして下さい。と、思って受話器を取ろうとしたら
『はぁーい、もしもし野上です』
お姉ちゃんが電話を取りやがりました。
『え…うん、龍一さん?あはっ…やだぁ明子よ、明子。あなたの妻の明子よ』
り、龍一さん!?
『ねぇ…あなた、明子とっても寂しくて…セックスしたくてたまらないの。
毎日、あなたの事思いながらオナニーばっかりじゃもう限界。
ついさっきもしてたの。今、時間ある?このままテレホンセックス…』
そしてその横から朋子が
『…したくてしたくてたまらないの。私のアワビに龍一さんのクジラをぶち込んで!
それではしたない雌豚アキの顔に振りかけて!龍一さんの種汁を、種汁を
いっーぱい飲みたいのォ―――――』
「あれ、切れちゃった?」
「………………………」
……辞書じゃなくてこの花瓶をそのヘッドに叩きつけて差し上げますわ。姉妹共。
私、とっても御腹が御起立しましたの。
「朝子姉さんはいつもそんな低俗な事を言ってるんだ、大人として恥ずかしくないの?」
いつの間にかくつろいでる朋子がコーヒーを飲んでいます。
「そうよ、旦那とラブラブだもの。犬にはわからないわよ。
それにアンタの方が卑猥だったし、『種汁』なんて……ゲームのやりすぎじゃないの?」
とっても恍惚とした顔のお姉様と妹様。花瓶じゃなくてこのポットを――――
ちゃらら〜ちゃらららんちゃらら〜♪
これはケータイの着信音!?
しかもプリントインストールの『Jupiter』は龍一さんです。
優しいこのメロディは龍一さんにぴったり…っとそれどころじゃありません!
私はポケットに入っているケータイを開きました。
『もしもし、龍一さん!?』
『あ…アキ、す、すまない。プライベートな話は事務所のではまずかったから』
『ううん、こっちこそごめんなさい。今の電話――――』
『わかってる…寂しい思いをさせてすまなかった。アキがそこまで思い詰めてた
なんて。でも大丈夫だ。僕もアキの事を思いながらトイレでしていたから。何回もしたよ。
アキの胸やお尻や唇を想像しながら―――――」
……龍一さん、私はもう魂が口から抜け出しそうです。
「今日は帰れるハズだったんだけれど、今度は事故が起きてしまってね。
中国国籍の船なんだが事情があって帰れない。すまない。明日には
何とか帰れると思うから、それじゃ。』
『え…あ、ち、違うの龍一さん!』
ご、誤解です。龍一さん、私はそんなはしたない女ではありませ――――
『アキ』
『は、はい?』
『帰ったら……一緒にお風呂に入って洗いっこして朝までパジャマパーティだ!』
『……………はい』
龍一さん、会心の一撃だ。絶対、電話の向こうでガッツポーズキメてる。
『それじゃ』
プープープー………
「アキ、龍ちゃんなんだってぇ?」
「アキ姉、今日は泊まる部屋なんだけどー」
この、この、この悪魔共め!
「お…お姉ちゃん」
「およ?」
「と…朋子…」
「どうしたの?」
「この…この…このぶわかあああああああっ!」
続