「明胡さん、まず船員人数とその資格についてお伺いしたいんですが…」
タラップを昇り、船に乗り込んだ僕は言った。
「船員は全部で40人、男女比率は私を含めて25:15です。
あ、長い航海での欲求不満も問題ありませんよ。男性船員はほとんど
同性愛者ですので女性船員に被害が及ぶことはないんです。」
明胡の顔で言われて、そのギャップに思わずゴクリと喉が鳴った。
「そ、それにしても明胡さんは日本語が、お、お上手ですね」
アハハッと僕はその場を流そうと試みた。
「アイヤ〜そんな事ないアルよ、ノガミさん。私、日本語上手じゃないネ…
という感じで喋った方がノガミさん的には好みですか?あ、あと英語でも
イケますネ」
「………」
……この人は外見と名前は明子だけど、中身は朝子さんや朋子ちゃん
なんだな…と思った。
『大きい旦那様と小さな奥様〜浮気疑惑?編〜』
その後、船員の資格やら油記録簿、操舵室に機関室
積載状況に防火設備などを見て回った。
そしてここ、居住区の居室部の点検なのだが……
「さ、ノガミさんこっちです」
明胡の後についていく僕。
だが、ふと気になった扉があったので明胡から離れて
その扉に手を掛けた、鍵は掛かっていないようだ。
そっと中を覗くと、猛烈な獣のニオイ……顔をしかめ、
中をみる船倉へと続く階段があった。
「ノガミさ………」
先に行っていた明胡が僕に気付いた。
そのまま少し場が静止したような気がした。
「これって檻ですよね?」
船倉らしき所に積み上げられている檻を指して僕は言った。
「違うよ。部屋アルよ」
言葉が変ですよ、明胡さん。
「いや、無理でしょ。これって動物の骨ですよね?藁ですよねコレ?
このミイラ化した物体って糞ですよね?」
「自閉癖のある船員からの要望で檻の中が心地よいとの意見が
あって採用したんです。骨はカルシュウム不足を補う為で、
藁のベッドの方が安心するそうなんです。糞はたぶん我慢できなかった
んだと思います。」
明後日の方向を見ながら明胡は言った。
「……もの凄い獣臭がするんですが…」
「その船員はお風呂嫌いで臭いフェチなだけなんです。」
「これって密猟した動物――――」
「そそそそんなことはありませんよ?」
僕が大きな木の箱に手を掛けた、ガタン…ゴロゴロ……
その木の箱の穴からかなり大きな瓶が僕の足元に転がってきた。
「……クロロホルム?」
「そいつ、不眠症なんです。」
しぶしぶその場を辞して僕は明胡の後を続いていった。
とりあえず一通り終わって、二人で甲板に戻り、明胡が言った。
「何か問題がありましたか、ノガミさん」
明胡がニコッと笑った。
「はい、全ての項目にバツがついています。」
「それは『問題なし』を意味する印ですね。」
明胡はホッと胸をなで下ろした。。
「残念ながら違います。資格証明書、油記録書、その他の書類は
かなりいい加減ですし、航海日誌はあれは小学生の絵日誌ですか?
落書きだらけじゃないですか。救命設備は救命艇が竹で編んだ筏で
救命胴衣が市販の店で販売しているアニメがプリントされた空気入れる浮き輪でしたよね?
船内は缶詰やらタバコやらポイ捨てゴミの山、果てはゴキブリ、ネズミ、
カビ、虫のオンパレード。不衛生すぎます。残っている備蓄食糧が小麦粉、肉の塩漬け、
ジャガイモ、それに水だけって……大航海時代じゃないんですよ!?
何故、冷凍・冷蔵庫がないんですか?それと操舵室、機関室の
船員は国籍不明の髭が生えた大男達で、計器類の表示語、あれは何語ですか?
どこか中東の言葉ですよね?防火設備は消火爆弾ってこの船は軍艦ではありませんし、
消化器は取っ手を握って持ち上げたら、下がごっそり崩れましたよね?
何十年前の消化器なんですか!最後に居住区のあれって檻ですよね?檻なんでしょう?
クロロホルムは密猟した動物を眠らせるためのモノなんでしょう?」
「……………つ、つまるところ」
「はい、不合格です。出港は認められません。むしろ、いつ入港したんですか?」
「……………龍一さんって29歳なんだ」
そっぽを向いて女船長は言った。
「――――僕の年齢……なぜ、あなたが!?」
一瞬の間があって、僕は息を呑んだ。明胡の手に握られているモノ―――
「ンフフフ…野上 龍一、29歳……それとコッチは恋人ですか…?
おおお、私にそっくり…これは驚きました。名前が………
わおっ、野上 明子…私と同じ名前の読みです。性が同じって事は奥さんですね?」
ニヒヒヒと笑って明胡は言った。明子が絶対に見せない…
いや、見せるどころか、『絶対にできない』であろう意地の悪い笑みだ。
だが、これはこれでいいかもしれない……ってそんな場合ではない。
「いつの間に財布を!?」
「お財布に奥さんの写真を入れてるってコトは、ラブラブですね?ひょっとして新婚かな?」
いつの間にか財布を抜き取った女船長・明胡は免許証や写真を見ながら笑った。
「返して下さい、明胡さん!」
「返して欲しかったら、私を捕まえてくださぁ〜い、龍一さん♪」
あっはっはっと笑いながら船の通路を走り出す明胡を追って僕は走り出した。
そして辿り着いたのが船長室。
[明胡]と書かれた名札が掛かっている。
遠慮はいらない、僕は一気にドアを開けた。
「いらっしゃ〜い、龍一さん」
この部屋だけは他の船室とは雲泥の差。掃除が行き届いている。
部屋の奥にある天蓋付きベッドに腰掛け、明胡がニャハハと笑っている。
室内に微かに漂うお香の匂いがする。女性の部屋だが、構わず僕は明胡に詰め寄った。
すると明胡は財布をゆっくりとベッドの横にある小さなテーブルに置いた。
それを引ったくるように取ると僕は中身を確認した。カード、現金、免許証……一つだけ足りない。
「写真を返して下さい。明胡さん。」
「写真ぐらい……そんなに大事なモノなんですか?」
とぼけた表情で明胡は言った。その手の中に写真が握られている。
「明子と…いや、妻の写真です。貴女にとっては何の価値もないものですが、僕にとっては
お金より大切な宝物です。」
ふうん…と頷き、明胡はその写真を僕に差し出した。
「宝物……とまで言われては返さないわけにはいきませんネ。ごめんなさい、龍一さん。」
明胡から写真を受け取り、僕は踵を返した。
「監査はこれで終わります。しかし、この船は先にも言ったように問題があります。
その問題を解決するまで出港を…みとめ…ワケにはいきま…せ…あっ…んんっ…」
目の前が一瞬霞んだように見えた。身体が熱い、熱か?いや、違う…これによく似た感覚は
ま、まさか――――――。
「誰にでも宝はありますネ、龍一さん。龍一さんにとっては明子さんが宝物…
私にとってはこの『船』と『船員』が宝物です。だから、差し出すわけにはいきません。」
「め…明胡さん…まさか…このお香は―――――」
「はい♪とっておき、男性だけにとーてもよく効く媚薬です。うふふ…龍一さん」
―――喜歡我的屁股??(あなたは私のお尻に欲情しているんでしょう?)―――
「な…何を…何を言った?」
僕は言葉の意味がわからず、明胡に言った。
「タラップに昇るときに私のお尻を見てたでしょう?どんなエッチな妄想してたんですか?
龍一さんはアナルファックが好きなの?…あ、それともお尻が好きなんですか?
ふふ、どっちにしろ…変態さんですね…」
明胡はゆっくりと僕の前でタンクトップに手を掛けた。日焼けした褐色の肌と真っ白な地肌の
ギャップに僕は思わず生唾を飲み込む。
スルリとタンクトップが床に落ち、明胡がその豊かな胸を両手で隠すように抱き、背後に回った。
「私のおっぱいを見て欲情してる龍一さん…明子さんが見たらどう思いますかね?」
「や…やめてください。め…明胡さん…」
背中にぐにゅっと押しつけられる乳首の感触に僕のモノは痛いほど勃起していた。
褐色の腕が僕の股間を這うように動き、シャツのボタンを外し、ベルトに手を掛けた。
「…帰ったら、お風呂?夕食?それても明子さんからいただきますですか……
あはっ、固い…とっても大きい…私でこんなに感じてくれてるの?」
勃起したモノをゆっくりと扱きながら、明胡が耳元で囁く。
「いけないオチンポさんですね…龍一さん…それで明子さんのオマンコを毎晩いじめてるんですか?
おっぱいに吸い付いて、お尻を揉みし抱いて、滅茶苦茶にファックして種付けしてるのかな?」
くすくすと明胡は囁くように笑った。背中に押しつける乳房の感触。その中心が固く尖っている。
「め…明胡さん、や、やめて…やめろ!僕には明子が…」
「鍵は開いてますよ?逃げ出したければ、突き飛ばして逃げればいいと、明胡は思います。」
「め…明胡!!」
僕は声を荒げ、明胡に振り向いた。
「明胡(あきこ)って呼んで…龍一さん。」
次の瞬間、明胡に唇を防がれ、僕の意識は急速に薄れていった。
続く