「はぁーあ…」  
私は今日、何度目かわからないため息をつきました  
ぱたん…ぱたん…と気怠げに洗濯物をたたみ、龍一さんの  
シャツにアイロンを掛けます  
「はぁー…」  
とため息をつく。外は酷い天気で朝から雨が降り続き  
時折、ゴロゴロと雷の音が響いています。  
時刻は17:00を少し回った頃、そろそろ  
夕食の準備に取りかからなければなりません。  
それも四人分、でもそんなのは問題ではないんです。  
そう四人分の夕食など問題ではありません  
問題なのはその四人分に龍一さんの分が含まれていない。  
と言うことなんです。  
ピカッゴロゴロ…雷が近くに落ちたようです。  
「きゃっ!」  
この歳になっても雷は怖いです。  
ピカッゴロゴロ!!  
あ…また…うう、怖いよォ…  
「やだ……おっきい…」  
朋子……貴女がいうと何だかとっても卑猥です。  
 
『大きい旦那様と小さな奥様〜浮気疑惑?編〜』  
 
「どうしたのアキ姉、さっきからため息ばかりじゃない?」  
妹の朋子がソファに寝ころびながら言います。  
「だって…龍一さんが今日も帰ってこれないって…今朝、電話があったの」  
「へぇ〜どうして?」  
「台風がきてて、入港予定にない船が一時、避難させてくれって。  
それもたくさん来てて、港が大変らしいの」  
「アハハハッ、そんなのウソに決まってるじゃない。女よ、愛人よ、情婦よ。  
アキ姉のケツに飽きたのよ。明子だけに、飽きた…あ、結構うまいかも。」  
けらけら笑う朋子に、私はアイロン片手に迫りました。  
一生消えないタケノコ状のスタンプを押してあげようと思います。  
「はい、龍一さんはお仕事です。大変です。焼き印はいやです、お、お姉様。」  
床に頭をこすりつけて謝罪する妹を尻目に私は再びため息をつきます。  
 
お父さんとお母さんが海外旅行の為に自炊できない朋子は  
先日から我が家に居候しているのです。  
「明子おばさん」  
「明子おばさぁ〜ん」  
と可愛らしい声が二つ、足音と共に聞こえてきた。  
「ため息は幸せが逃げるんだよォ」  
「お母さんが言ってたよォ」  
むぎゅ…と正面と背中から挟み撃ち。  
「あ、ああ…もー孝子(たかこ)ちゃん、司(つかさ)君、アイロン中は  
危ないから抱きつくのは無しって言ってるでしょ?」  
アイロンを置いて、私は二人の子供に言いました。  
この二人はお姉ちゃんの双子のおチビちゃん達です。  
二卵性双生児なので、女の子と男の子という何とも珍しい双子。  
ちなみにお姉ちゃんは単身赴任先で風邪を引き、  
寝込んでいる孝司さんの看病に行っています。  
「2〜3日で戻るから、子供達をお願い」と姉から頼まれ、ここに預かっているんです。  
私に子供ができたら……こんな愛らしい子達に育って欲しいと思います。  
ふふ……『おばさん」じゃなくて『お母さん』って呼んでもいいのよ、お二人さん。  
「はいは〜い、タカちゃんにツカくん、朋子おばさんが可愛がってあげよう。  
さぁ、おいで、おいで」  
困っていた所に何ともいいタイミングで朋子が言いました。  
朋子がソファの上で寝ころんでいます。  
「朋子お姉ちゃん、教えてほしい事があるの」  
「あるの」  
二人が朋子の前に行き、何やら教えを乞うています。アニメの話題かな?  
「ん、どうしたの?」  
朋子の言葉に孝子ちゃんが言います。  
「この間ね、夜におしっこに起きたらね、お父さんとお母さんが部屋で  
種を植えてるみたいなの」  
お姉ちゃんと孝司さんが……種…ですか?  
「うん、『ああっ孝司、孝司…種付けして!一緒に!  
種付け、種付けええ!』って、すごく苦しそうな声で言うの」  
「きっとジャックと豆の木の種を植えてるから大きくて、重いと思うんだ。」  
とこれは司君。それは致命的な間違いよ、二人とも。私は朋子にアイコンタクトを  
送りました。しかし、朋子はガン無視。さらに微笑んでこう言いました。  
「ええ、そうね。今度、夜に種を植えていたら部屋のドアを一気に  
開けて『僕達もヤる〜』って言いながら入るといいわ。」  
阿々、朋子、メス豚の如き汝には焼き印ね。焼き印よ。そう『branding』だわ。  
「申し訳ありません。女王様。女神様。明子姉様。ごめんなさい。もうしません。  
あ、あの…あ、熱いの近づけないで」  
はぁ……龍一さん、早く帰ってきてくれないかなぁ……  
 
「はぁー……」  
雨と風が舞い、事務所の屋根を叩く音。  
防波堤に荒れ狂った波が叩きつけられる音。  
そんな音に頭を抱えながら僕は深いため息をついた。  
「野上先輩、ため息をつくと幸せが逃げます」  
デスクでぐだーとする僕に後輩の小沢 治子(なおこ)が言った。  
ややキリッとした双眸にショートカットの26歳…発言ハキハキ行動キビキビ。  
仕事の上でしか話してくる事はなかったので、嫌われているのか?  
と思っていたが、クリスマスは部署に手作りケーキを持ってきてくれたり  
バレンタインに手作りチョコをくれたりと料理上手な面もあり、  
淡泊な性格なんだと納得している。  
おぼんには監査官達の夕食であるお茶とカップヌードル(シーフード味)  
とコンビニのおにぎりがのっている。  
「ありがとう……つ、疲れた…」  
「私達の部署はまだマシです。港湾作業員は3日間ほとんど徹夜です」  
キリッと眼鏡を上げ、治子は言った。  
「4日連続で事務所に宿泊…新記録だ。夕飯、先に」  
「どうぞ。まだ他の人達は南方国籍の貨物船の監査やそれぞれの監査に行ってます。  
私もこれを片づけたら少し席を外しますので、電話をお願いします。」  
「ああ…」  
僕はそう言って、カップヌードルの蓋を捲った。  
「それと濃霧が酷いので視界が不良です。  
海に落ちないよう、岸壁には充分注意して下さい。」  
「ずるずる…了解」  
そしてお盆を片手に事務所の給湯室に消える後輩の後ろ姿を見送る。  
 
スレンダーな身体付きをしている小沢。  
ショートカットの眼鏡付き。  
胸もお尻もなかなか、背筋がピンとしていて身長は160はあるだろうか…  
美人なのだが、ちょっとキツめの印象が災いして、部署内では1歩引かれている。  
港湾作業員にかなり入れ込んでいる若者がいると聞いたが……と僕は詮索を止めた。  
「野上先輩、何か?」  
「ん…どうした?」  
「いえ…背中に視線を感じた気がして…失礼しました。」  
……後ろに目があるのではないか、と思われるぐらいの鋭さ。  
お尻に視線を向けてなくてよかった…一度、港湾作業員のおじさんが  
『私のお尻に興味があるのですか、セクハラで上告して人生破滅させますよ?』  
と言われ、事務所に泣きながら駆け込んできた事がある。  
…危ない…危ない…そして食事を済ませた僕はデスクワークに戻った。  
 
時刻は01:00…夜中になってようやく風も雨もおさまってきたようだ。  
ほとんどの者が事務所に引き上げ、仮眠室に入っている。  
この時間は僕と小沢の当直だ。が、彼女も疲労がたまっているのだろう  
隣席で時折、うつら、うつらと船をこいでいる。  
僕はノートパソコンを閉め、デスクにある明子の写真を少し眺めた。  
……帰ったら思いっきり、抱き締めて、キスしてお尻の感触を堪能しよう……  
……イカン、イカン…頭を振り、妄想を振り払う。トイレでの性処理はもう御免だ。  
僕は席を立ち、給湯室で暖かいコーヒーを2つ入れ、一つは小沢のデスクに置き、  
簡単な書き置きを残して事務所を出た。  
懐中電灯を片手に岸壁を回る。潮の香りが漂い、ひんやりとした空気が身体を包んだ。  
小沢がいったように酷い霧だ。港を照らす大型スタンドだけでは足元が危ない。  
足元に注意しながら、船舶を見て回っていると……  
「ん?」  
報告になかった船がやや離れた所に停泊している。  
やけに古めかしい貨物船だ。どこの国籍だ?と思い僕は近づいた。  
聞こえてくるのは…イントネーションからして中国語だろうか?  
何かの積み荷を降ろしているようだ。  
 
「……誰だ!」  
ぎょっとして振り返るとそこには船長らしき人物が立っていた。  
くたびれた船長帽子を被って、ポケットに手を入れながらこちらに向かってくる影。  
かなり流暢な日本語だが、ややトーンが高い。女性なのか?  
そしてその影の持ち主が濃霧の中から現れた。僕は目を疑った。  
「あ、明子?」  
それはまさしく明子の生き写しだった。  
やや褐色にみえるのは日焼けしているからなのだろうか。  
黒い髪を首辺りで切りそろえ、ヘアゴムで後ろで一つにまとめている。  
タンクトップから覗く、両腕は鍛えられているが男性と比べるとやはり女性のソレだ。  
「アキコ?……って、に、にっぽんじん!?」  
僕を見てその女性は眼を見開いた。そしておずおずと聞いてくる。  
「あ、えー…その、ひょっとして……『カンサ』の方ですか?」  
「あ、ああ…そうだけど?この船の船長は貴女ですか?入港と停泊の連絡が  
ありませんでしたが…資格証明書と積み荷のリスト―――――」  
「そ、そーですね、さっさ、どーぞどーぞ案内しますから。  
あんたたち、『監査官様』がお通りだ。  
道を開けろ!前等被甥儿悟?装的荷物!(お前ら、積み荷を悟られるな)」  
『監査官』という単語にその船で作業している船員達が全員  
ぎょっとした。続く中国語に頷き、そして顔を隠すようにせこせこ動き出した。  
「ヤーヤー、失礼でした。どーぞ、案内します。船長の明胡(メイフォア)です」  
「あ、ああ…監査官の野上 龍一です。よろしくお願いします…明胡さんはとても  
日本語が上手ですね。」  
「ノー、違うね。祖父が日本人ですから教えてもらったのです。ちなみに  
私の名前、日本読みだと、日に月にさんずいのない湖で『ア・キ・コ』言います♪」  
………ああ、明子、君のドッペルゲンガーがここにいるよ…  
「さっきびっくりしました。急にノガミさん、私の名前を言うから…」  
そう言って先に船へと続くタラップを昇っていく女船長。  
下はジーンズで、ぴっちりとお尻にフィットしている。歩くたびに左右に  
揺れるお尻は……と、とても美尻だ。大きすぎず小さすぎず左右から  
こんもりと盛り上がったお尻…く、ぐう…明子にも勝るるとも劣らない  
美尻を眼にするとは…あ、明子…他の女性に欲情する僕を  
許してくれ…。  
 
続く  
 

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