大きな旦那様と小さな奥様外伝
少しエロ
私は何を言っているのでしょう。
じーっと戸川さんを見つめている私ですが、
胸中ではとても混乱していました。
自らの言動を客観的に分析すると
年上の、それも今し方知り合った女性が眉一つ変えず
『私に料理を教えて頂けませんか?』
客観的に簡潔な感想を述べますと
『この人、初対面の人に何を言っているのかしら?』
自分でもそう思います。
もし私が年下で、それもすこぶる愛嬌がある娘で、もじもじしながら
『あ、あの…私に料理を…教えて下さい…お、お願いします』
と言っても、承諾してくれる確率は、五分五分でしょう。
『萌え』なるモノと自身との隔たりは超弩級と認識し、
自覚している私にそのような言動はできません。
零式艦上戦闘機で『最新鋭米原子力航空母艦ヲ撃沈セヨ』というぐらい無理な相談です。
しかし、戸川さんは
「あ、はい。僕でよければ喜んで」
と引き受けてくれました。
新婚SS『奥様はクールで眼鏡で料理ベタ』
そんな関係を続けていく内に、戸川さんの笑顔に明るい言葉に、性格に
私の心はどんどん惹かれていきました。
そして、お付き合いの切り出しは
『私とお付き合いして頂けませんか?』
『あ、はい。僕でよければ喜んで。』
そして、今に至ります。付き合っても手を繋いだり、唇を交わしたり、
床を共にしたりした事は一度もありません。その事を母に告げると
『まぁ…とても清潔な男性ですね。今で言う草食系男子なのかしら?
私はお父さんに美味しく頂いてもらったのだけれども。うふふ。』
さすが、母やりますね。その相手は当然、父。
その父に私は言いました。
『お父様、会って欲しい男性の方がいるのですが』
その夜、父は『探さないで下さい』という手紙を残し、7日程、家を空けました。
そして8日後、帰宅し、あっさりと了承してくれました。
後で母から聞いた話ですが、7日の間に父の人脈を使い、ありとあらゆる機関から
戸川さんの経歴や過去を調べ上げていたそうです。少しでも不審な点が
あれば、事故死に見せかけ、この世から抹殺してやると意気込んでいたそうですが…
当の本人は、そんな事知るよしもありません。
小沢家の諸事情から婿入りに対して、父に言ったこの台詞。
『これだけ由緒正しい家系に婿入りできるなんて、僕は幸せです。
両親も兄も祝福してくれました。』
のほほんとした口調で言いました。
これには私の父親もフッ…と笑い『気に入った』と満足していました。
「どう、チャンプルー美味しい?少し味が薄かったかもしれないけど…」
「いえ、とても良い味付けでした。美味しいです。」
私は口を拭い、水を飲みながら言いました。
「そう。よかった、治子さんのその言葉が聞けるだけで僕は幸せです」
とニコニコしています。
しかし、この結婚生活ですが私には悩みが二つあります。
一つ目は料理。
現在も料理を教えてもらっていますが、からっきしダメな私。
夫の職業は専業主婦…ではなく、専業主夫と言うのでしょうか
鼻歌を歌いながら食器を洗い、冷蔵庫整理しながら明日の献立を決める夫。
その背中を見ながら新聞を読む妻………夫と妻、立場が逆です。
二つ目は、夜の営みです。
付き合い始めてから一度もそういった事がない私達。
結婚してからも一度もありません。私が仕事で忙しいというのもあるの
ですが…この新婚四ヶ月間、一度もないのは少し考えものです。
私が性欲に対して関心がない…と言えばそれは嘘になります。
恥ずかしいですが、性欲処理の為に自慰もします。
それも最近は、特に欲求不満なので頻繁に自慰に興じています。
こんな時に気の利いた、男性の生殖本能を奮い立たせるような台詞が
言えればいいのですが。私が言えるのはおそらく
『私の性欲は限界です。今夜は早朝まで情事に耽りましょう。
あなたの生殖管を私の生殖口に挿入し、可及的速やかに膣内射精をしてください』
………これでは教育テレビの動物交配のナレーションの方がまだマシです。
それに可及的速やかにでは『とっとと終わらせろ』と暗に言っているようなものです。
『速やかに』の反対語は『徐(おもむろ)に』…可及的徐に膣内射精……違う気がします。
ああ…何を考えているのでしょう。全く興奮しません。
もっと愛おしく、可愛らしく……ですが私にとっては無駄な努力です。
野上先輩の奥さん…確か、明子さんと言っていました。
私より2歳年下の若い奥さん、特に背が低いらしく長身の先輩と比べると
さらにその差は広がります。
どうやってしてるんでしょうか?やはり無難に乗ったりしてるんでしょうか?
奥さんの胸が小さければ、女学生としてるような危険な錯覚に酔いしれたりしてるんでしょうか?
あの先輩が……
『パパと呼びなさい。』
あの若い奥さんが
『あなたぁ…今夜もいっぱいパンパンしてね♪』
はあはあ……とても興奮します。これで落ちない男性はいないでしょう。
新聞の経済面をチェックしながら眼鏡のずれを直します。
「ハイハイ、終わり〜。治子さん、お風呂先にどうぞ♪」
そう言って夫はエプロンを外し、『季節のお料理特選18番』と明記された
料理本を捲りました。この草食系男子め。ここは意を決して直訴すべき場面です。
「猛士―――――」
「どうしました、治子さん」
本から目を離し、こちらを見る夫。
「胸の大きい女性をどう思いますか?」
「胸が大きいと思います」
即答です。それなりに誘っている台詞なのですが、全く効果はありませんね。
これで『浪漫ですね』とか『僕は治子さんのおっぱいの方が好きですよ』
『僕が揉んで大きくしてあげます』とか『四の五の言わず吸わせろ』
などと言えば、戦略の立てようもあるものなのですが。
私の乳房はそれなりです。肩がこるほど大きくもなく、かといって小さくもない、
これくらいが気に入っています。お尻もそこそこ、大きくもなく、小さくもなく
両方とも女性としての魅力を欠くことはないサイズです
……港で寝ぼけた先輩に抱きつかれたせいで悶々とします。
「猛士、率直に言います」
「え…はい?」
「今日の私はライオンさんです。食べちゃうぞ!ガオー!」
「………はっ?」
「…危険な試みでした…猛士、どうしてセックスしてくれないのですか?」
「あ…え…セ、セックスて…治子さん」
「私が仕事の関係上、帰宅時間が遅くなることや職場に寝泊まりする事は認めます。
ですが、挙式をしていないとは言え、四ヶ月も…どうしてですか、私には
魅力がありませんか?」
続く