『魔道具というとロッドやアミュレット、タリズマンや魔道書、古くは箒やタローカードを思い浮かべる読者が多いでしょうが、  
体内の魔力を具現化し発露する手段として最も古く最も身近な物として体液を忘れることは出来ません。  
現代に於いては、標準的な魔道具の発動鍵として用いられているに過ぎませんが、  
いざという時の為に魔道具そのものとしての側面も学んでおくと良いでしょう。  
 まず血液は「生命の川」と呼ばれ、太古に於いては魂と同一視されていました。  
魔力を全身に運ぶ媒体である血液は体外に流されただけで力を発揮します。たとえ魔力を操る事に長けた人間でなくとも、  
贄として捧げられた動物の血を地面に撒けばよく作物が実り、処刑された罪人の血には病気や不幸に対する強力な保護作用が知られています。  
況や魔術師をや……といった所でしょうか?魔力を込めた血の署名は強大な魔族すら契約で縛る事ができますし、  
人形に目的の人物の血液をかければ自在に支配することも出来ます。逆に血を焼いてしまえば、如何なる魔術も打ち破る事が可能です。  
また、経血が強力な媚薬の成分である事は民間にも良く知られています。  
まとめると、血液は精神を支配する特性を持ち、攻撃と防御の両面が有るという事になります。  
 次に唾。古代の魔女は唾を吐きかけるだけで呪いを掛けることが出来たといわれています。  
現代にまで伝わる手法としては、ナイフに三度唾を吐いて、それを不幸をもたらす対象者に擦り付ける方法や、  
魔王の名の下でタオルに三つの結び目を作り、そこに唾を吐いて被害者の名を呼ぶ方法が挙げられます。  
唾は運命に作用し、攻撃寄りであるといえるでしょう。  
反対に尿は呪縛を破壊する効果が知られています。魔術によって引き起こされた病気に対しては、被害者の髪の毛を切り取り、  
当人の尿に入れ沸騰させたものを火で焼く事によって解呪が可能です。もし呪いを掛けた張本人の尿が手に入れば、  
瓶に詰める事によって、呪詛を跳ね返すことが出来ます。  
 以上のように古代、中世の魔術師たちは経験上、魔力と体液の間に深い関わりがあることに気付いてはいましたが、  
厳密な理論付けが行われるのは、かなり後世になってからです。  
 最初に体液と精神との結びつきを説明しようと試みたのは古代ギリシアのヒポクラテスです。  
彼は人体の構成物質が四種類の体液、すなわち血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁であると主張しました。  
血液の多い人は楽天的、粘液が多い人は鈍重、黄胆汁が多い人は気難しい気質、黒胆汁が多い人は憂鬱であるという説は現代では否定されていますが、  
体液と人の精神に何らかの繋がりが存在するという推測は間違いではありませんでした。  
古代から中世末期を通じてヒポクラテスの学説以上の進展は無く、次の重要な展開は近代を待たねばなりません。  
 一六世紀のスイスの錬金術師パラケルススは、体液が人の体を離れた後も生命力の素を保持していることを証明し、これをムミアと名付けました。  
魔法理論に対する彼の最も重要な貢献は、このムミアを計量的に扱う手法を編み出し、体液が人体から切り離されているにもかかわらず  
ムミアの絶対量が精神状態に応じて変化するという現象を発見したことにあります。  
(ただし、パラケルスス自身は魔術師が儀式で行う「魔術」に対して懐疑的であったので、この発見を結びつける事はしませんでした。)  
 この現象から次の仮説が生まれました。  
「体液は魔力自体を保持しているのではなく、術者とのパスを保持しているのではないか?」  
 上で例に挙げた人形と血液を用いた呪いや、瓶と尿を用いた呪詛返しは、原理が良くわかっていませんでした。  
もしこの仮説が正しいのであれば、これらは体液を通じて直接相手の魔力に働きかける魔術ということになります。  
事実、後にこの仮説は証明され魔法理論の整理に大いに役立ちました。それまでは先人たちの残した術式に於いて、  
何が本質で何が枝葉か?を見極める指標がほとんど無く、非常に危険な人体実験を繰り返していたのです。  
また、実用上も大きな発展がありました。現代の魔道具の魔力変換効率は当時の2倍以上といわれています。  
我々はこの原理を魔道具に応用することによって、より深くより手軽に所有者と魔道具を結びつける事が可能になったのです。』  
 
―――魔法学院指定教科書「魔道具入門」より  
 
 
 しめた……!!  
 
 壊れた笑みを浮かべるだけだった少女の目に、一瞬光が宿る。一つ目との戦いで失われた後、ロッドの気配だけは共にあった。  
おそらく妹が隠し持っているのだろうと当て込んでいたが、賭けは私の勝ちのようだ。  
どういうつもりでロッド出したのか知らないが、これでようやく希望が見えてきた。  
何とかして隙を見つけることが出来れば―――  
「まさか、ただの身体検査にこれ程時間が掛かるとは思いもしませんでした。まあ、面白い踊りが観られて皆さんお喜びでしたけど♪」  
 露骨な挑発だったが、少女は反応しない。涎を垂れ流し、惚けたように妹の顔を見つめている。  
妹は少女の耳元に、冷たい声で小さく囁いた。  
「くすっ……いい表情ですね。あのくらいで音を上げててちゃ先が思いやられますよ?  
これから、じっくり、たっぷり、ゆっくり、ねっとり、私の受けた苦しみを味わってもらうんですから♪」  
 うっとり蕩けた瞳で語りかける様に、心が凍てつき戦慄した。今の妹にとって、姉の苦痛は悦楽でしかないのだ。  
触手は心優しい妹を別のモノに変えてしまった。  
―――少女は亀裂の入った笑顔を張り付かせたままぶるっと震える。  
 妹は少女の恐怖を喰らって満足したのか、振り返って触手たちに呼びかけた。  
「さて、皆様方。これより裁判を執り行ないますが、新参者ゆえ、このような場に相応しい言葉遣いに慣れておりませぬ。  
人であった頃と同じ口調で進行を勤めさせて頂きますが、どうぞお許しくださいま……」  
 
 今だっ!!  
 
 突然、弛緩していた少女の体がバネ仕掛けの玩具のように跳ね上がった。  
「ぐぅっ……!?」  
 少女は拳に魔力と触手への怒りを妹の鳩尾に撃ち込む。妹に植え付けられてしまった触手の安全装置は働かない。  
少女は目覚めた時から触手の支配が弱まっている事に気づいてはいたが、攻撃できるかどうかは一か八かの賭けだった。  
少女の今の状態では、体内と精神に巣食う触手を排除する事はできないが、魔力を注ぎ込んで一時的に麻痺させる程度の事はできる。  
完全に油断していた妹は自分の身に何が起こったのかすら認識出来なかっただろう。くたりと崩れ落ちる妹の腰に優しく手を回し支えた。  
―――暖かい……大丈夫、こいつはまだ人間だ。  
 守るべき者の体温を感じ、高揚する。胸の奥から熱いものが込み上げてくる。必ず皆助ける事ができる……そう確信した。  
固く握り締められていた妹の指を解きほぐし、愛用のロッドを取り上げる。魔法具に込められた恐るべき力を発動すべく詠唱を開始した。  
「冥界と地と天のヘカテよ、広い道と十字路の女神よ、汝、手に松明を持ち夜を徘徊せし者よ、昼の敵よ、来たれ!」  
もちろん触手たちがこのような状況を見逃してくれるわけも無く、数十本の触手が少女目掛けて鞭のごとく振るわれた。  
「闇の友にして闇を愛する者よ、汝、雌犬が吠え、温かき血が流るる夜に歓喜せし者よ、汝、亡霊と……ちぃっ!」  
 詠唱を中断し、ぐったりした妹を片腕に抱えたまま跳ぶ。次の瞬間、少女たちが居た空間を触手が切り裂き、  
押し出された空気が風となって少女の体を撫でた。凄まじいスピードだ。まともに食らえば、少女どころか妹もろともミンチと化す事だろう。  
「汝、亡霊と共に墓地を徘徊せし者よ……くっ!」  
 短く詠唱しては紙一重で触手を避ける―――危険な綱渡りだったが少女は完璧にこなして見せた。  
 触手攻撃の真の恐ろしさは、その無感情にある。如何に自身が有利な立場に立とうが決して油断せず、  
逆に如何に不利な状況であろうとも焦ることがない。全く感情によるぶれが存在しないのだ。  
少女が初めて触手の巣に挑んだ際、その知識が仇となった。99%の正確無比な触手をかわす事は出来たが、残り1%に足を掬われたのだ。  
それがこの植物型の操る蔦だった。こいつにだけはまるで人間のように感情による『ゆらぎ』がある。  
少女は圧倒的多数の攻撃とは完全に別物の、たった数本の蔦に翻弄され一時囚われの身となった。  
 だが、一度捕らえられた時に触手の動きは見切っている。要は困難を分割すればよいだけの話だ。他の触手は“正確無比”なのだから、  
軌道から外れるように僅かでも動き続けていれば決して当たらず、問題の蔦は大雑把な攻撃なのだから、紙一重ではなく大きく避ければいい。  
口で言うのは簡単だが、実際は高度な運動能力と高速な情報処理が要求される。その上、同時に複雑な詠唱をこなさねばならない。  
並みの魔法少女では対策を思いついても実行は不可能だったろうが、少女は並ではなかった。  
 それでも大きな荷物を抱えている状態では、完全にかわし切るのは不可能だ。少女の白磁の肌に紅い線が刻まれていく。  
 
「汝、血に……んぅ!血に渇く者よ、な、汝……くはぁ……」  
 しかし、妹の体には傷ひとつ無い。たとえ怪我をしても禁呪の効果で一瞬にして回復する事は分かっているが、  
これ以上妹を傷つけることは少女の精神が耐えられない。妹を庇う分、少女の体から貴重な魔力が血液と共に失われる。  
失われた体力と血液自身は禁呪がすぐに補ってくれるのだが、魔力までは戻らないし、何より副作用が問題だ。傷を負う毎に性感が増していく。  
「ん……んんっ!くっ……こ、この……ぁん……くぅ……あふぅ……くぁ……」  
 少女を責め苛むのは触手の攻撃だけではない。触手をなぎ払う為にロッドを振るえば、たゆんと小山が揺れて質量を伴った衝撃が頂を襲い、  
触手を避ける為にステップを踏めば、足の付け根で赤く腫れあがった豆が潰れて電撃が走る。レオタードの凶悪な食い込みを直す暇など無い。  
直すどころか、身を守る使命を忘れた防具は、一歩踏み出す毎に少女の股間をきりきり締め付けた。  
当然、触手は少女の事情をおもんばかるはずもない。動きが鈍くなった瞬間を見逃さず、多方向から一斉に襲撃した。  
なるべく最小限の動きでやり過ごすように心がけねばならないのだが限度がある。  
「ち、調子に……はあぁっ!!ひぁ♥」  
 やむなく長い足を鉈の如く振り回し、文字通り触手を蹴散らすことに成功したのはいいが、全身を生地に擦られてほぼイキかけた。  
少女は歯を食い縛って絶頂を堪えるが、口の端から垂れる涎と下の口から溢れる我慢汁は自制心の限界が近い事を物語っていた。  
このままでは触手から自身と妹を守るための体術自体が今の少女の体にとって命取りになりかねない。  
恥辱の身体検査によって散々に昂ぶらされた快楽神経が悲鳴をあげ、少女の心身が狂乱する。  
闘いの最中だというのに、きつく引き結ばれた唇から漏れる息遣いが徐々に艶かしい吐息へと変化していく。  
「んっ……ふぁ……ぁっく……ひぅ……」  
―――ま、まずい……このままでは……  
 遠からず行動不能に陥る事は明らかだ。すでに触手の鞭による切り傷も、快楽にしか感じない。ひりひり痛む肌が心地よい。  
禁呪の加護があるとはいえ、全身を切り刻まれれば死ぬ。だが、それはどれほどの悦楽なのだろう?  
 
『ああ、触手の鞭に身を曝したい。己が血の褥に身を横たえる気持ちはどんなものだろう?罪深い私をもっと穢して欲しい……』  
「身の毛立つ恐怖で、ぇ……ぁひっ!ひ、人の心を……ぉ゛……ふ、ふる、え……あ゛、あ゛ぁっ!!」  
 
危険な誘惑に支配されそうになり、慌てて思考を切り替える。今は敵の殲滅と妹の安全が最優先だ。  
―――いったん距離を取って、安全な場所に寝かせるか?いや、だめだ!何があっても、こいつを危険に曝すわけには……  
 激しい闘いの最中だというのに妹は静かに眠っている。ああ、可愛い……天使の安らかな寝顔を見ているとなんだか無性に、  
 
『犯したい。めちゃめちゃに汚したい。食べてしまいたい。この真っ白な喉笛に歯を立て噛み千切りたい……』  
「ふ、震え上がらせる……ぁ、ぁふ……も、者よ!」  
 
勇気が涌いてくる。この寝顔は自分の命と引き換えにしても守らねばならない。この腕の中に居るものは、私の全てだ。私の生きる理由だ。  
だが、その大切な妹を危険な目に合わせたのは私自身の軽率な行為なのだ。悔やんでも悔やみきれぬ。いや、今は後悔の時ではない。  
この唇から再び『姉さん』という言葉を聞く為にも、ここでやられるわけにはいかぬ。  
「んぅ……」  
 少女が決意を新たにした瞬間、妹の口から悩ましげな喘ぎ声が発せられた。なんだか妙に色っぽく感じられて、どきんと胸が高鳴る。  
耳を掠める弱々しい吐息がこそばゆい。呼吸に合わせて上下する柔らかな腹の感触が、グローブ越しに生々しく伝わってくる。  
少女はずっと闘いに集中していた為これまで気付かなかったが、二人とも極薄のコスチュームだけを身にまとって密着しているのだ。  
こうして意識してしまうと、まるで裸で実の妹を抱いているかのような錯覚をしてしまう。倒錯的な妄想が少女の理性を蝕む。  
体が芯から蕩けて、力が抜けていく。  
「……あはぁ♥」  
 はしたなく開かれた口から漏れたのは、べったり湿った溜め息だった。少女が妹の体に劣情を覚えているのは誰の目にも明らかだ。  
そして、それは少女自身にとって有ってはならない事実であった。  
 
―――ち、違う!違うっ!!こんな大事な時に、なんということを私は……これではまるで実の妹に欲情しているしているようではないか!?  
私は妹を愛している。愛しているが、それは姉としてであって厭らしい意味では決して……  
 
 妹を慈しむ気持ちすら胡乱なものに思えてくる。そんな怪しからぬ疑念を払拭すべく、妹を抱く腕に力を込めた。  
「あ、あひっ……!?」  
「んっ……」  
 少女の乳首に電撃が走った―――運悪く抱いている妹の乳首にぶつかってしまったのだ。  
妹は気を失った状態のまま、一瞬眉間に皺を寄せる。姉は快楽の電流に痺れて、びくんと大きく震えた。  
硬直したその一瞬が致命的な隙を形成し少女に試練となって襲い掛かる。触手がようやく俊敏な獲物を捕らえる好機を得た。  
少女の片足に触手が十重二十重と絡みつく。  
「くっ!」  
 この程度の触手などコンマ数秒もあれば、魔力を込めたロッドで一薙ぎできる。だが、触手の波状攻撃はその間を与えない。  
触手に囚われた足を軸に、ほんの小さな動きだけで攻撃をかわし続ける少女だったが、神懸り的な抵抗にも限界が訪れた。  
ついにもう片方の足から自由が失われる時がやってきたのだ。両足に纏わり付いた触手は剛力を発揮し、がっちり動きを封じる。  
少女は足を開いたままの姿勢で根が生やされたかのように、その場に固定されてしまった。もはや、自由になるのはロッドを持つ片腕しかない。  
触手たちの攻撃が徐々に鋭さを失い、緩慢なものへと変化していく。そう、獲物をじっくりと嬲る為に。  
「ぁくっ!い、いい気に……ぐぅ!」  
 懸命にロッドで応戦するが、防衛網を潜り抜けた触手に胸を撫でられ腹を殴られ―――硬軟織り交ぜた攻撃に翻弄されてしまう。  
最大の武器である機動力が奪われては、少女が敗れるのも時間の問題だった。  
「ご、ゴルゴーよ!ひゃん!そ、そんな所……も、モルモ……よ!あぁん……し、しつこ……すぎ……」  
 誰の目から見ても絶望的な状況だが、少女は諦めない。それどころか少女の瞳には勝利への希望すら窺えた。  
 そう、結局は『時間の問題』なのだ。  
「千変万化のぉ……ぐはっ!こ、これくらいでぇ!つ、月よ!!」  
―――あ、あと少し……だ……!  
 なにも永遠に触手の攻撃を避け続けなければいけない訳ではない。詠唱完了までの時間を稼げればそれで十分。  
少女は驚異的な集中力を持続し、ついに残り一小節までこぎつけた。  
 
 ロッドをかざす。  
―――チェックメイトだ!  
 
「わ、我らが犠牲に恩寵の眼差しを向け……くひゃぁああ!?」  
 凛とした声色の詠唱が突如として、あられもない嬌声に取って代わられる。少女はひどく混乱した。  
あそこから立ち昇った淫楽が詠唱にリソースの殆どを振り向けている脳を直撃し、  
あとたった数音節という所で魔法の完成を阻害されてしまったのだ。  
 少女が慌てて快楽信号の発信源に目をやる。  
触手の拷問台に長時間かけて煮込まれたとろとろのヴァギナ―――そんな絶好の弱点を触手が見逃すわけが無い。  
そこにあったのは……股間にへばり付く毒々しい色をしたウツボカズラだった。  
「あ゛、あ゛、あ゛……あああああああああああ!!!」  
 狡猾な触手は、わざと攻撃を上半身に集中させ、少女の気が緩む最後の瞬間に最強のインパクトを最弱の部分へと叩き込んだのだ。  
少女の瞬発力と判断力は、触手の老獪さによって完膚なきまでに打ち砕かれた。  
 膝ががくがく笑う。ロッドを持つ腕が震える。背筋が反る。舌がだらりと垂れ下がる、  
めくるめく堕落の瞬間が、すぐそこまで……  
 
―――だ、だめ……イ、イっては……だ……めぇ……  
 
「んっ!んんっ!!んんんんんんっ!!!」  
 一度絶頂してしまえば、意識が飛んでしまう。思考がリセットされてしまえば、詠唱は始めからやり直しだ。それは敗北と同義だ。  
少女は必死に絶頂を堪えた。大きな波を越えた瞬間、無意識に少女は反撃を試みる。紡がれる魔を帯びた言の葉。  
「我らが……犠牲に……お、恩寵の……んっひぃぃいいい!!」  
 
 じゅぷっじゅぷっぐっちゅぐちゅ……ちゅぶぐじゅぐじゅじゅっぷ!  
 
 色を帯びた悲鳴と淫らな水音に、魔術は再び中断された。ウツボカズラが本格的に活動を始める。  
遠くから見ても分かるほどにぐにぐにと。  
 
 豆を挽かれているのか?唇を吸われているのか?穴を埋められているのか?襞を押し広げられたのか?  
 
 少女が認識できたのは、熱いという感覚だけだった。快感が強烈過ぎて、本人にも自分が何をされているのか判ずることができない。  
股間を完全に覆い隠している為に、音しか聞こえてこない。だが、それ故に反って想像力を掻き立てられる。  
「んっ……ま、まなざ……ふぁ……まなざ……ぁっく……まな、ま、まな……ひぅ……」  
 口を開いた瞬間に激しくあそこを責められ、壊れたレコードのように、同じ文句を繰り返すしかない少女。  
 
絶頂を耐えるのに精一杯で詠唱を進める事ができない。もはや触手は完全に少女を玩具にしている。  
半ば絶望しつつ、少女は健気に淫靡な嬌声を奏でた。  
「ま、まなざっ……んひっ!!眼差し……を……ぉ゛ぁ゛ぁ゛……」  
 危ない。もうちょっとでイクところだった。今度、同じ場所を擦られたら耐えられるかどうか。  
……それにしても、そんな所にGスポットがあるなんて、私も知らなかった。  
ああ、触りたい……思いっきり引っ掻きた……  
「ち、違っ!ふやぁぁああ〜♥」  
 ま、また同じ所を……一度犯した私の体のことなどお見通しだとでも言いたいのか?  
くっ!人を馬鹿にしてぇ!一回勝ったくらいでいい気になるなよ!  
「向け……ひんっ!ひぃんっ!!む、向けぇ……ぉひっ!む、剥け……いやぁぁああ!!」  
 
くりゅ……くりゅくりゅ……くりゅっ!くりゅっ!  
 
「ら、らめっ!それは、らめぇぇええ〜!!も、もうクリトリスの皮被せないれ……何度も何度も剥かないれぇぇ〜」  
 そ、そんな……あとちょっとだったのに……か、皮が……皮がこんなに気持ちいいなんて……ぇ……  
わ、私の体……どうな……て……くぅっ!余計な事を考えるな!や、やり、やり直しだ。  
「わ、われりゃが、ぎしぇいに……お、おんひょーにょ……」  
 だめだ……呂律が回らない……また、やり直しだ。  
うあああああ……き、気持ちいいよぅ……こんなの、どうすれば……あ、あれ?あそこ止まった?  
「い、今だ!我らが犠牲に恩寵のまなざ……ふみゃあ!!」  
 乳首ぃ……そんなのひどいよぉ……い、いじめるの、あそこだけじゃなかったの?こんなんじゃ、何時までたっても終わらないぃ……  
な、なんで私、こんなことをやってるんだろう……つらい……イキたい……イって楽に……  
「ま、まなざ、あっひぃ〜!!ま、まらイっちゃらめぇ〜♥」  
 もう、だめだ……これ、以上、は……ぁ……  
「イ゛っイ゛っ!!」  
 
「ふぁ……あ、あれぇ?姉さ……?わたし……何が……」  
 
 奇跡が起きたのは少女の心が折れかけたその時だった。目を覚ました妹の声は姉の耳にまで届き、運命に抗う力を与えた。  
淫蕩に緩みきっていた少女の表情が引き締まり、絶頂寸前の全身の震えが収まる。姉としての意思が生理反応すら打ち負かしたのだ。  
 
「我らが犠牲に恩寵の眼差しを向けたまえ!!」  
 
 姉としての矜持を糧に魔術が完成する。あとは練った魔力を構えたロッドに注ぎ込めば、全ては終わる―――少女の顔が歪み狂相を成す。  
「このクズどもが!惑わず逝けぇ!!」  
 これまで抑圧されていた攻撃衝動が牙を剥く―――筈だった。  
「い、いやっ!!いやぁっ!!!」  
 
 え……?  
 
 どん!という鈍い音と共に少女は尻餅をついた。何が起こったのかわからない。呆然と自分を突き飛ばした妹の顔を見上げる。  
 
―――怯えた獣の目だ―――  
「わ、私の体に触らないでっ!!」  
 妹の目に宿っていたのは、紛れも無く恐怖と嫌悪。痛々しく震える華奢な体を掻き抱き、全身で姉に対する拒絶を表現していた。  
妹の心の中に愛し敬う姉は存在しない。昨夜の告白が決定打だった。思えばあれ以来、妹は『人の方の手』で少女の体に触れようとしない。  
ずっと『触手の方の手』で少女を刑場まで連れてきたのだ。  
 
 そう、まるで汚いものを触るように……  
 
「な、ん、で……」  
 少女の問いに答える者はもう居ない。妹はもはや別の世界の住人だった。  
鼻の奥がつんとする。最愛の妹に拒絶され、ぽっかり空いた心の穴に流れ込んできたのは敗北の蜜。  
「ひぁ……ひぁぁああああ〜!!」  
 意識の外に追いやられていた快楽信号が、まとめて押し寄せる。神経を焼ききらんばかりのパルスが少女を飲み込まんとする。  
一瞬にして守る者を失った闘士に抗う術など残されてはいなかった。  
「だ、だめ!だめ!だめ!だめぇ〜!!」  
 昇天への階段を駆け上る必要すらない。元々、少女の淫乱な体は限界だったのだ。  
ここまで我慢できていたのは妹の存在があったからこそ。  
無理矢理快感を忘れて、絶頂の棺桶に片足を突っ込んだ状態で、騙し騙し闘っていたにすぎない。  
 
ここに至り、妹の存在というモルヒネは永遠に失われた―――勝利への希望と共に。  
「くっひぃい〜!と、とまらな……やだ……んあぁ!!ま、負けたくな……イクのやだぁぁああ〜!!」  
 少女は明滅する意識の中、攻撃衝動の残滓だけを頼りに、ロッドを触手へと向ける。両手で構えているのに、がたがた震えが止まらない。  
そんな情けない有様でも、触手を全滅させるのに差し障りは無い。詠唱は既に済んでいるのだ―――悲しみと共に全てを解き放つだけ……  
『……してしまっても、いいのか?』  
 
 な、なに?  
 
『……を殺してしまっても、いいのか?』  
 
 なんの問題が?  
 
『妹を殺してしまっても、いいのか?』  
 
「なっっっ!!?」  
 少女は自身の迂闊さに、はっとする。もしこのまま術式を発動させれば、この場の触手は跡形無く消滅する。  
それは当然少女の望む所だ。だが、それでは妹が……無事では済まない。  
「んっ!!くぅ……ふぐぅ〜っ!」  
 術式は妹の心に巣食う触手のみならず、実体の触手をも消し飛ばすだろう。禁呪とのバランスが崩れてしまう。  
「かっひぃ〜!!こ、これ以上、はぁ……」  
 妹の体だと認識している触手の部分が突如として失われれば、禁呪は暴走し快楽の海の中、狂死する。  
運よく発狂を免れても、今、触手と化している腕は消し飛んでしまう。妹を守るための方策が、同時に妹を傷つけてしまうのだ。  
「ら、らめ……らめらめらめらめぇぇええ〜!!!」  
 元々、この作戦は妹がこんな状態で事態に巻き込まれることなど想定しようの無い時点で考え出されたものだ。  
上手くいくはずが無い―――少女は葛藤したまま、何の抵抗も示せず、時間切れを迎える。  
「イ゛っ!!イ゛ク!!イ゛クっ!イ゛クっ!イ゛クっ!イ゛っちゃうぅぅうう〜♥!!!」  
 下半身は触手に絡み付かれた足をMの字に開いた屈辱の形、上半身はロッドを正眼に構えた凛々しい姿のまま少女は無様に絶頂した。  
「イ゛っっグぅぅうう〜〜〜っ!!!」  
 
 ぷしゅっ!ぶしゅっ!!ぶっしゃああぁぁああ〜!!  
 
 溜まりに溜った愛液の噴出は、留まる事を知らず股間を濡らす。思う様、潮を吐き出したあそこに嫉妬を覚えた尿道口が後に続いた。  
 
 じょろ……じょろじょろじょろ……  
 
「ぇ……ぁ……はぁ……」  
 絶頂直後の虚脱感と、放尿の排泄感のデュエットがシンフォニーを奏でる。その虚無的な音色に少女の心はめろめろになった。  
だが、こんなものは前奏にすぎない。  
 
 じゅる!じゅるじゅるじゅるっ!!  
 
「ふわわわわわぁぁああ〜♥そ、そんにゃ……吸うにゃんてぇ〜……ふやぁぁああ〜♥」  
 床は汚れていない―――大量に撒き散らした愛液も尿も、強力なバキュームで一滴残らずウツボカズラが飲み干したのだ。  
少女は思わぬ追撃に狂乱する。だが、触手の王のウツボカズラがたったそれだけの行為で許してくれるわけが無い。  
触手は少女の体から液体のみならず、実体のない物まで吸い出し始めた。  
「ひゃあぁぁああ……ち、ちからが、抜け……?あはっ♥これぇ……ま、まりょくぅ……」  
 ロッドの機構を発揮させる為に練られた魔力が根こそぎ奪われていく。魔力と密接に繋がる精神力が削られる。  
虚脱感と排泄感に絶望感が加わりトリオと成った。その魔力と共に魂まで吸われる高揚感は、まるで教会で賛美歌を歌う時のようで……  
「イクっ!イっちゃうっ!イったばっかりなのにぃ……そ、そんにゃに、しゅわれたりゃ……イキっぱなしになっひゃうよぉ♥」  
 イったら神経が昂ぶって敏感になるだけでなく、愛液と一緒に魔力を吸われて、精神力が萎え快楽への抵抗が失われる。  
すると、絶頂のハードルが下がって、またイってしまう……悪循環だ。  
「い、いい……いいよぉ……ら、らめ!らめ、なのぉ……こ、ここで挫けたらぁ……」  
 そのまま流れに身を任せ、法悦に狂いたくて仕方が無い。イってイってイキまくって、魔力と共に精神の澱も吸い出して欲しい。  
何もかも吸われて伽藍堂になってしまえば、傷なんか無くなって、痛みを感じなくて済むかもしれない。  
大事なものを失った少女の心は、ともすればそんな自暴自棄な欲求に傾きそうになる。  
―――い、いっそこのまま……ば、馬鹿者!そんなことをして誰が救われよう?  
諦めちゃ、だめ……だ……は、はや、早く、パスを、断たない……と……  
「す、吸うなぁあぁぁ〜!!ふみゅうぅ……ま、まら、イっひゃぅ♥んんっ!んっ!んひぃ……」  
 土壇場の克己心が、  
 
 土壇場の克己心が、ほんの数秒連続絶頂を遅らせる事に成功した。その隙に驚異的な集中力でもって魔力の発露を抑える。  
ぎりぎりの綱渡りだったが、少女はなんとかやり遂げた。これで、魔力を奪われる心配は無い―――思う存分、イける。  
 
 からん……  
 
 気が緩み、力を失った指が緩んで、転がり出たロッドが石畳を叩き乾いた音を立てる。全ての筋肉が弛緩し、少女は身を冷たい床に委ねた。  
「くひゃっ!かひっ!!くっひゃあぁぁああ!!」  
 まな板の上の鯉が、びくんびくんと跳ねまくる。宙に浮いた腰がぴくぴく痙攣し、絶頂の回数を刻む。  
その度にウツボカズラは大きな水音を立てて愛液を啜る。唯一の救いは、恥知らずな蜜の噴出を衆目に曝さずに済む事だけだ。  
もっとも、これだけ汗を飛び散らし、幼児のように涎を垂れ流しては、恥も外聞もありはしないのだが……  
「あん!ああん!あん!あんっ!イ、イクっ!またイっクぅ……吸われてイクのっ!イクのぉ♥あぁん、止まんないよぅ……」  
 魔力を吸えなくなっても、執拗に股間を攻め立てるウツボカズラに少女は悲鳴を搾り取られる。  
これ以上は無意味だと王が判断するまでの十数分もの間、少女の連続絶頂は続く。百数十回の絶頂の果てに、少女の搾り滓が残された。  
「ぅぁ……ひぁ……ぁふぅ……」  
 息も絶え絶え―――ずっと無言で姉の惨めな舞踏を見下ろしていた妹がロッドを拾い上げた。  
おもむろに姉の下に寄り、抑揚の無い声で静かに語りかけた。  
「ふん……惜しかったですね。まさか、その子がサボるなんて思いもしませんでした。  
いや、言い訳はやめましょう。これは私の油断ですね……」  
 虚ろな少女の瞳は何も映し出してはいない。ロッドの先端で意識すら定かでない少女の頬を、ぐりぐり抉る。  
少女は屈辱的な仕打ちにも無反応だ。ぎり……妹は歯軋りして、ヒールで少女の膝を踏みつけ、じわじわ圧力をかけていく。  
「あ〜あ……もう!誰かさんの汗と涎で服が汚れちゃったじゃないです……かぁ!」  
「っ―――!?あっっぎゃあぁぁああ―――っ!!!」  
 ごきん!鈍い音と同時に少女の目が見開かれる。迸る悲鳴が大理石の壁に反響した。  
ロッドに顔を押さえつけられ、折れた足を手で抱えるどころか、見ることすら許されない。  
妹はしばらくの間、姉の悲痛な絶叫を愉しんでから、やっとヒールを退けた。  
「なんて、下品な叫び声なんでしょう?それも人前で……恥を知りなさい!」  
「あ、あぎ……あぁ……ぁぐぅ……」  
 さっそく膝の再生が始まった。禁呪の加護があるお陰で痛覚はある程度抑えられているものの、不完全故に痛みを全て消す事はできない。  
激痛に悶絶する少女の口の端には細かな泡が浮かんでいる。妹は迷わず姉を断罪すべく再び足を振り上げた。  
「本当に……恥知らずで!淫乱で!変態で!傲慢で!卑怯で!冷酷で!独りよがりで!わ、私の気持ちなんか!考えもしないで!」  
「げほっ!!ごはっ!!や、やめ……ぐぁっ!!げふぅ!!ぐはっ!!があぁっ!!ぅぐぅ!!ひぎっ!!ぐえぇ……ごほっ!ごほっ……!」  
 少女の無防備に曝された柔らかな腹を力いっぱい踏みつける。一撃ごとに内臓が潰れ血管が断裂し骨が軋む。  
足先がめり込み、見えなくなるほどに強く九度。少女の獣じみた叫びに嗜虐心をくすぐられたのか、妹の頬が紅い。  
「はぁ……はぁ……はぁ……ふ、ふふふ……いい声で鳴きますね、薄汚い豚の癖に……」  
「ぁ……ぁひゅ……ぉ……ぁ……」  
 白目を剥き四肢を痙攣させるだけになった少女に妹の声が届くはずも無い。  
手酷い侮蔑を受けても、せいぜい喉を引き攣らせて呻き声を返すので精一杯だ。  
「聞こえてます?私は褒めてるんですよ?こんなに頑張ったんですから、もう一度チャンスをあげましょうか?」  
「ぅへ……?ぁぅ……?」  
 夢現の少女が妹の言葉に反応を見せる。妹はにたりと嗤って、無造作にロッドを手放した。  
「ほら、返してあげます。好きなだけ攻撃してきていいんですよ?さあ、どうぞ♪」  
「ぅ……うぅ……」  
 妹に言われるがまま、よろよろと手を伸ばしロッドを掴む。  
敵を倒さねばならないという攻撃衝動だけが未だ放心状態の少女を突き動かす。  
殆ど条件反射的に詠唱を開始した。罠とも知らずに。  
「め、めいかいと……ちと……てんのへかてよ……あひっ!ひ、ひろいみちととじゅ……ふあぁっ!  
な、何が……ひゃあぁぁああ〜♥あそこ痺れるぅぅうう〜♥か、掻き回さないでぇ〜♥」  
 活動を停止していたウツボカズラが魔力の胎動を検知し、再び蠢き始める。少女は快楽によって無理矢理、現実へと引き戻された。  
 
「あらら?どうしたんですか?変な声をあげて……いいんですか?詠唱、止まっちゃってますよ?」  
「んあああああっ!あぁ……も、もう?イっちゃう?なんで、なんでイっちゃうの?あっひいぃぃいい〜♥」  
 ウツボカズラの中から篭った水音が聞こえる。長時間の潮吹きで搾り滓に等しい少女から、さらに愛液を搾り取ろうというのだ。  
反攻の要たる魔力共々に。  
「ふみゃああぁぁ〜……そ、そんなぁ……魔力、吸われ、て……?と、閉じたのにぃ…  
…うみゅぅ……だ、だめ……こ、これ、以上、は……これ以上、吸われたら、ぁ……」  
―――状況認識は後だ。ま、まずは、魔力の流出を何とかしないと、術式の発動が出来なくなる……  
 幾度もの絶頂の所作で敏感になりすぎた粘膜に、禁呪の副作用で鋭敏に研ぎ澄まされた神経が追い討ちをかける。  
残された僅かな理性だけで快楽に打ち勝たねばならないのだが、闘う前から少女は追い詰められていた。  
貴重な魔力となけなしの精神力が、なす術無く触手に吸われていく―――少女を救ったのは、皮肉なことに『絶頂』だった。  
「あふ……ふぅ……ひはぁっ!」  
 魔力流出が止まった。あまりにも苛烈な絶頂の連続に晒された為に、少女は『絶頂を堪える』事ではなく、  
『絶頂しながら行動する』事を覚え込まされてしまった。  
快楽によって地獄に突き落とされた少女は、快楽慣れした罪深い体のお陰で首の皮一枚繋がったのである。  
ウツボカズラはこれ以上の魔力の搾取が困難とみるや、あっさり活動を止めてしまった。どうやら魔力と愛液に自動的に反応するようだ。  
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」  
「くす……痛みじゃなくて、イかされて正気に戻るなんて……ふふっ♪なんて救い難い淫乱なんでしょう?」  
「くぅっ……!」  
 本当の事だ……少女は反論できず俯いた。悔しくて情けなくて肩が震える。敗北を噛み締める一方で冷静に状況を見つめる自分が居た。  
―――不意打ちだったとはいえ、予想以上に魔力を喰われてしまった。この残量では発動は……ここは一旦退くしかないのか?  
退く?馬鹿馬鹿しい!我が妹は明日をも知れぬというのに?我が身可愛さに逃げるというのか?  
こいつがおかしくなったのは私の責任なのに。どんなに嫌われたって構わない。妹と友さえ無事なら私はどうなったっていい。  
だが、魔力が足りぬ。いったいどうすれば……ああ、魔力さえあれば……  
「何を、ぼ〜っとしてるんですか?あはは♪イキすぎて呆けちゃいました?使わないんなら、そろそろソレ返して下さいな♪」  
「え……?」  
 妹の言葉で我に返る。  
「だめだ……これは私のものだ。お前には扱えない……といっても、どうせ力ずくで奪うのだろうがな……」  
「いえいえ♪無理にとは申しませんよ?そうだ!交換しましょう。これ、お好きでしょう?ほら♪」  
 ふざけた調子でしゃべる妹が手に持っていたのは、もっとふざけた代物だった。眼前に男性器を模した蔦が突きつけられる。  
先端にはモウセンゴケのような腺毛がびっしり生えており、粘液を滴らせている―――醜悪なることおびただしい。  
「ひ、人を馬鹿にするのも大概にしろ!!誰が!こんなも……の……?欲しが、る、もの……か……ふゎ……ふざ、け……」  
 むわっと立ち昇った精液の匂いに中てられ、頭の奥がじんじんする。匂いたつ淫虐の予感が少女を狂わせる。  
 目の前のペニスが欲しくて堪らない。違う!そんな事……なんて美味しそうなんだろう?おかしい、こんなの私じゃない……  
これはやはり、フェロモンの効果……そうだ、発情して、はしたなくむしゃぶりつくなんて私らしくない……  
なんとかして理由を考えないと……こんなの欲しくなんか、な……そう、欲しくなんてないんだ。だけどしかたなく、これを選ぶんだ。  
 
―――咥えたい―――  
 
 だめ……だ……魔力で防壁を、このまま呑まれてしまったらぁ……  
魔力?そうか、魔力だ!こんな恥ずかしい事をするのは魔力の為なんだ!  
私の魔力は取り込まれたばかりで、こいつの体に馴染んでいない。だから、精液から回収できるはずだ。  
そうだ、私がこんなはしたない事をしているのは魔力の為なんだ。勝利の為なんだ。妹の為なんだ。だから、しかたないんだ。  
「はむ……くちゅ……くちゅ……んぐ……ちゅっ……んむ……ぬちゅ……くちゃ……」  
「おやおや、まさか迷わずこっちを選ぶなんて思いませんでしたよ?ふふふ♪じゃあ、これは返してもらいますね♪」  
 ああ、構わないさ。そんなもの何時だって取り返せる。そんな事より……なんて凄い匂いだろう。  
なんだか重くて、甘ったるくて、頭がくらくらする。口の中も凄い……腺毛の先に付いた粘液が吸盤みたいに張り付いてちくちくする。  
 
こ、こいつ舌の敏感な場所ばかり狙って……私の口を犯すとでも言うつもりなのか?ふんっ痴れ者め!  
いくら媚薬が効いているからといって、口だけでイってたまるものか!さあ、さっさと魔力を吐き出せ!!  
「くっちゃ、くっちゃ……ぬちゃぬちゅ……ちゃぷ……んんっ!んむぅっ!?」  
 大きくなってる!もうちょっと、だ!……あ、あれ?でもなんだか口の中熱くなってる……  
うあぁ……びくびくうねって舌に絡み付いてきた。し、舌おかしくなってるのに、今、出され、た、らぁ……  
「んむぅっ!!んぅっ!んんっ!んふぁ……ぷぁっ!!」  
 そんなっ!いきなり出すなんて、酷い……ああ、なんて量だ……それに臭い、息が詰まりそうだ。  
喉にへばり付いて気持ち悪い……なんだか熱くて火傷してしまいそう……あ、あそこもじんじんして……きたぁ……  
で、でも、の、飲まないと、我慢して飲まないと。い、いやだけど精液飲まなきゃ……  
「んぐ……んむ……あむ……じゅる……ねちゅ……ぺちゃ……ぺちゃ……」  
「なんです?もしかして飲んでるんですか?指に付いた精液まで舐めて……ソレそんなに美味しいんですか?くす♪やっぱり淫乱は違いますね〜」  
「ち、違っ!これはっ―――!!」  
 思わず衝動的に言い返しそうになるが、なんとか抑えた。ここで下手な事を言ってしまえば、取り返しの付かないことになる。  
そう……だ、ここはなるべく淫乱な振りをしない……と、作戦が、見破られては……ならな、い。  
「そう、です……わた、私は……へ、へ、変態です……じゅる……せ、精液美味しい、です……ちゅぷぅ……」  
 こんな臭いの美味しくなんか、ない。苦くて、ねっとりして、濃厚で、暖かくて……すぐにでも吐き出してしまいたい。  
ぁ……?あぁっ!?力が溢れる……満たされていく……き、来たっ!来たっ!魔力来たっ!!これで勝つ……  
「ふわっ!ふわわわわわわっ〜!?」  
 
 じゅるじゅるじゅるっ!  
 
 そ、そんな!あそこ吸われてるっ!愛液飲まれてるっ!ま、魔力吸われちゃうっ!なんで!?なんで!?いやらしいことされてないのに!  
わ、私、口の中犯されて濡れたりなんか、してな……  
「いや……いやぁ……あ、あそこ吸っちゃだめぇっ!!ま、魔力……魔力がぁ……くひぃぃいいぃ〜!!」  
 このままじゃ、だめだ。イかされてしまう前に、なんとしても魔力の流出を食い止めないと……  
「んんん〜!!んぅ〜!!んっくっ!ふっ、ふひぃ〜……」  
「おや?魔力?魔力がどうかしたんですか?」  
「な、なんでも……ない。そんなこと言ってない……」  
「ふぅん……そうですか。ところで手が止まってますけど、もういいんですか精液♪」  
 どうしよう。イク直前に遮断できたからそれほど魔力は吸われなかったが、もう一度アレをやられたらどうなってしまうか。  
魔力が流入するのも流出するのも原理は同じ現象だ。回収しつつ吸収を防ぐといった器用なことは出来ない。  
今のは差し引きして黒字だったが、もう一度術式を行えるだけの魔力量に遠く及ばない―――そうか、選択肢はないんだ。  
「の、飲みます!飲みますっ!わ、私は、精液が好きな、へ、変態ですか、らぁ……ぁむ……くちゅ……」  
 く、屈辱だ!実の妹の前で、こんな恥知らずな……耐えろ、耐えるんだ。みんな勝つ為なんだ。  
こうして触手を咥えているのも、臭い精液を飲み下すのも、本当は好きでやってるわけじゃない。  
私は淫乱なんかじゃない。変態なんかじゃない。  
   
 ただ……ちょっと喉が渇いているだけだ。  
 
 肉棒から再び白濁液が溢れ出す。貪るように粘った液体を舌で絡めとり奥へと送り込む。  
強烈な雄の芳香が鼻腔をくすぐった。  
 
 甘い……  
 
 人間の味覚は嗅覚に大きく左右される。鼻を摘んでものを食べてみれば、どんな料理だって味気ないものだ。味覚は錯覚を起こしやすいのだ。  
だから……私がこのおぞましい液体を美味に感じることがあったとしても、何もおかしな所などない。  
 
―――私は狂ってなんかいない―――  
 
 嗅覚だって同じようなものだ。実際、普段自分の体臭は感じたりしないし、一方で嫌いな人物の体臭を必要以上に過敏に感じ取ってしまう。  
 だから……私がこの腐臭を華美に感じることがあったとしても、不思議なことなどありはしない。  
 
―――私は狂ってなんかいない―――  
 
「へぁ……ちゅっぷぅ……ぁぷぅ……くちゃぷ……」  
「あははっ♪だらだら涎が溢れてますよ?もうっ!そんなんじゃ盛りのついた雌犬じゃありませんか♪」  
 粘性の高い液体が唇を潤し、口内を優しく包み込み、するりと滑らかに喉を通り過ぎる。  
 
涎と混ざり合った精液は、軽く火を通した濃厚なバターを思わせる感触で、微かな苦味と程よい塩味、  
そして精神を腐らせる鮮烈な甘味を伝えてくる。  
 
 涎が……治まらない。  
 
 そ、そんなことどうだっていい!魔力、魔力さえ得られれば……みなを助けられる力さえあれば、それで十分だ。  
それにしても、量が多い……さっきよりも増えているような気がする。  
「んぐ……んぐ……ぷぁ……げほっ!げほっ!こ、これで……っ!?ふぎぃっ!!ま、またぁ……」  
 やはり、来たか……先程は不意を突かれて不覚を取ったが、こ、今度こそ、は……  
 
 ぐちゅ、ぐちゃ、じゅるじゅるぐちゅり  
   
 だ……めぇ……イクの、我慢、できな、い……  
「あっひぃぃいい〜っ!!そ、そんにゃあぁぁあ〜!!わ、わらひ……か、感じてにゃんかにゃひ……ふやぁああ〜!!」  
 す、吸われてる!せっかく魔力取り返したのに、また吸われちゃってるよぉ……  
あ、あそこがぐちゃぐちゃになってる……私は口を犯されて感じているのか?そんなことだけで発情してしまう淫乱なのか?  
認めない!断じて認めない!!私は誇り高い戦士だ!口の中に出されてイク雌豚なんかじゃない!!  
「うああああ……す、吸うにゃあぁぁ……わらひの、まりょく、吸うにゃあぁぁ……」  
 
 こんな攻撃、大した事ない。魔力などすぐに取り返してやる。抵抗など無意味だと愚かな触手に教えてやる。  
 
「はむ……ちゅぱ……出ひへぇ〜!わ、わらひの中に、早くぅ……あむ……ぁむ……ちゅる……ごぽっ!!ぐぇ……ぇふ……」  
 
 ああ、美味しい……どうだっ!見たか化け物!!これで、私の勝ち……ぇ?え!?ま、また……  
 
「ど、どうして、こんな、敏感、に……イっっ!?イっちゃだめ……だ……イったら吸われ、て……  
あっはぁぁああ〜♥吸われてるぅ……吸われて、まら、イクぅ〜♥」  
 
 射精の間隔が短くなる以上に、絶頂の間隔が短くなっている……このままじゃ……  
 
「いや……いやぁ〜……こ、こんな体いやぁ……もう感じたくないのにぃ……こんないやらしい体、いやだよぅ……」  
 
 が、頑張らないと、もっともっと精液出してもらわないと……こんなに、こんなに、美味しいのに……飲めなくなってしまう。  
で、でも顎が、もう限界だ……間接が外れてしまいそうだ。ああっ!そうだっ!胸だっ!胸で搾ればいいんだ!!  
 
「だして、だして、だしてぇ〜!!お、お願いだかりゃ……はやく射精してぇぇええ〜!!」  
 
 やった!やったぁ!いっぱい出てきた。ああ、噴水みたいで綺麗だなぁ……顔にいっぱいかかちゃった。あ〜あ、もったいない。  
床にまで零れてるよ。貴重な魔力なんだから、ちゃんと残さず舐めなきゃ。  
 
「れろ、れろ……ぴちゃ、ぴっちゃ……あ、あまいよぉ……おいひいよぉ……くっひいぃぃ!!」  
 
 ひどい……回収したばかりの魔力をそのまま吸うなんてぇ……こ、こんなこと続けられたら、私……  
壊れてしまう……狂ってしまう……蕩けてしまう……堕ちてしまう。  
 
「そんにゃぁ……せ、せっかく取り返ひらにょにぃ〜!魔力溜めにゃきゃいけ……イけにゃいのにぃ〜!なんれ?なんれぇ〜!」  
 
 あ、あそこから魔力吸われるのぉ……気持ちよすぎちゃう……このままじゃ癖になっちゃう……  
だめっ!だめだ!だめだ!このまま流されてしまっては!!触手に魔力を吸われて悦ぶなど、人として戦士として、あってはなら、な……ぃ……  
ああっ!ああぁっ!!でもでもでもでもぉ〜!!イキながら吸われちゃうのいいよぅ……このままずっとこうしていたいよぉ……  
 
「あふぅ……お、お願いれす……も、もう、魔力、吸わないれぇ……このまま吸われたりゃ……ひぃん!  
わ、わらひ、お、堕ちちゃうぅ♥だめになっちゃうからぁ……」  
 
 ぁ……吸われるの終わっちゃった。なるほど、私の魔力が尽きたんだな。ははっ笑える。すっからかんになっちゃった。  
じゃあ、急いで精液飲まないと。もっともっと射精してもらわないと。じゃないと、魔力吸ってもらえなくなる……そんなのいやだ。  
 
「んぐぅっ!!い、いや!ださないれ……ぉぐっ!!げほっ!げほっ!ま、魔力なんかいらにゃい!  
もう、いりませんかりゃ……ごほぉっ!!いやぁ……いやあぁぁああ〜!!」  
 
 ほら、魔力だ。さあ、吸ってくれ。もっと、私を狂わせてくれ。  
 
「ふみゅうぅぅうう〜♥き、きちゃう……きちゃうぅぅうう〜♥ふわぁぁああ〜♥  
らめっ!らめぇ〜っ!!イかせながりゃ魔力吸うにょ、らめぇぇええ〜!!こ、これっ!これ、しゅごしゅぎひゃうかりゃあぁ……」  
 
 もう、なにも、かんがえ、られない。  
 
「あは♥あはははははははははははははははははははははははははは!!  
いいよぉ〜♥きもちいいよぉ〜♥さいこーだよぉ〜♥」  
 
―――哄笑?いや狂笑?―――  
 
 モウセンゴケの触手に浅ましく喰らいつき、ウツボカズラに喰らいつかれた腰をはしたなく振る少女。  
口からたらりと垂れた精液が、汗と愛液と粘液で穢れきった黒いコスチュームをさらに白く穢す。  
自分の魔力を精液と共に吸って、愛液と共に吸い出される―――その度に暗く澱んだ欲望が、疲弊した白い正義感を黒く穢す。  
救いのない永久機関の部品と化した少女の姿は、『淫靡』や『狂乱』を通り越して『憐憫』を誘うものだった。  
すでに少女の体に魔力なく、未来への希望は完全に失われたに等しい。  
 
―――狂虐、腐食、暗惨、壊乱―――  
 
 妹は静かに口を吊り上げて哀れな姉の醜態を見つめていたが、ふと誰に言うともなく呟いた。  
 
 なんて、汚い……  
 
 
「少女の弁明(幕間)」終了  
 
梅雨前線を見ていると、無性にエネルギー吸収モノを書かねばならない気持ちになった。  
 
次回  
「少女の弁明」中篇  
 
 

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