『寄生型触手を専門に研究する者は、著者を含め世界に数人しか居らず、知られている事実は限られている。  
また、寄生型の個体数が非常に少ない事も、研究が困難である理由の一つである。  
まずは、寄生の方法について述べよう。  
 第一段階として、寄生型は生殖器と融合する。この時の神経を接続する痛みは、想像を絶すると言われる。  
 第二段階は、精神に対する寄生である。取り憑いた触手は、宿主と意識を共有し、記憶を盗み見る。  
そして、宿主に夢を見せる。触手は、人の欲望から生まれた物である。故に、触手は宿主の願望を叶える。  
即ち、自身と宿主の記憶から、宿主が見たいと願った場面だけを抜き出し、見せるのである。  
「人は自分が見たいと思う事実しか見ないものだ。」とは、かの有名な武将の言葉であるが、  
宿主は意識を映像に集中し、見惚れてしまう。その隙に、精神の主導権を奪ってしまうのだ。  
 第三段階は、意識の改変である。第二段階で奪った主導権を用い、魂を腐らせ、心を黒く塗りつぶし、感情を消去する。  
最後には、理性と快楽本能だけが残される。  
 第四段階は、人体の触手化である。徐々に体が変化する。  
抗体を抑えるホルモンを分泌し、遺伝子を改竄し、時間を掛け末端から順に触手へと変化させる。  
最終的には、快楽を求めて、頭脳を最大限に発揮し、効率良く女を襲う生きた機械へと変貌する。  
 なお、第三段階の初期までなら、回復例が報告されている。  
(治療の具体的手法については、文献[Fl]が詳しい。興味のある読者は目を通すと良いだろう。)  
 
 次に寄生型触手の能力について述べる。代表的なものとして、『株分け』が挙げられる。  
『株』とは、言わば分身のようなものだ。憑けた人間を操ることが出来、本体が損傷を受けた場合は、入れ替わることも出来る。  
しかし、株自体に意思はなく、本体が消滅すれば、数日で死に絶える。  
 他の触手とは違い、寄生型触手は自身だけで繁殖することが出来ない。触手の中でも、実に脆弱な種族だと言えるだろう。  
寄生型が繁殖するには、他の生物の受精卵が必要となる。  
女体に寄生し、男性の精を受け、受精卵の核を自らの核と掏り替えることで、次世代を産み出す。  
 触手とは、繁殖すら性行為の手段として扱う、欲望の権化のような存在である。  
しかし、寄生型触手は実に複雑な手順を踏む必要があるにもかかわらず、繁殖に拘る傾向が見られる。  
これは、寄生型の特徴付けとも言える重要な要素である。私見だが、これは触手の進化の……』  
 
―――魔法学院図書館所蔵「触手概論(第二章:触手の分類)」より  
 
 妹は巨大な一振りの剣と化した利き腕を、ぺろり、と舐めた。  
それは異様な剣だった。刀身には幾筋もの血管が走り、どくどく、と脈打っている。  
妹の腕と融合している柄には、目貫のように無数の赤い目が鎮座し、きょろきょろ、と辺りを見回していた。  
禍々しい剣と、神々しい純白のコスチュームが対を成し、背徳的な美を構成する。血の赤黒い色彩が、鮮烈なアクセントになっていた。  
 妹が剣を、ぶん と一振りし血糊を落とす。その瞬間、剣は霧散し、見慣れた白い小さな手が姿を現した。  
「姉さんに頂いた衣装、汚れちゃいましたね。」  
妹が、あはは、と明るく笑う。  
 少女の頭に疑問が溢れる。これは幻覚なのか?なぜここに居るのか?だとしたら、いつから見ていたのか?その剣はどうしたのか?  
どうして、完全に滅した、あの触手の魔力が、お前から放たれているのか?  
なぜそんな―――そんな冷たい殺気を私に向けてくるのか?  
思考が錯綜し、纏まらない。言葉が出てこない。  
「ぇ……ぁ……」  
少女は池で泳ぐ鮒のように口を、ぱくぱくさせる。  
妹は、そんな姉を見て、いつかの晩の如く、くすくす、と含み笑いした。  
「お元気そうで何よりです、姉さん。心配して損しちゃったなぁ。」  
何がそんなに、可笑しいのか!少女は怒りをばねにして、言葉を搾り出す。  
「お、お前は…んぁ!……ここには居ないはずだ……」  
妹は、ぷくっと頬っぺたを膨らませ、拗ねた顔を作って、こう言った。  
「寂しいことを言わないでくださいよ、姉さん。私はここにちゃんと居るじゃありませんか?」  
弾むような口調―――だが、目は笑っていない。依然として、凍りつく様な視線で少女を射竦めている。少女は掠れた声で問うた。  
「まだ、動ける体では無いはずだ……あふぅ……お、お前の先生は……どう……した?」  
 少女が触手に憑かれた妹に対して、施した術は荒療治だった。姉妹とはいえ、他人の魔力が神経を伝う痛みは激烈だ。  
後遺症こそ残らないが、数日は起き上がることすら困難なはずだった。時間も、魔力も、乏しい状態では他に方法がなかったのだ。  
少女は、あの後、自立行動している触手が居ないかどうかを魔法で探査した。  
その時、寄生型触手がばら撒いた、『株』の微弱な痕跡はいくつか感じられたが、危険はないと判断した。  
安全を確認した少女は、事情をある程度伏せた上で、妹の担当教官に後を託して、学院を出てきたのだった。  
「先生?ああ、あの色狂いのクソババアのことですか。そのことに関しては、私、姉さんに感謝してるんですよ?」  
 少女は耳を疑った。妹が他人のことを罵る所など、見たことがない。  
それに、礼儀正しい妹が、こんな汚い言葉を使うなんて―――何かに憑かれている。少女は確信した。  
「貴様……何者だ?」  
妹が、きょとん、とする。先程までの、拗ねた演技などではない。  
妹が完全に意表を衝かれた時に見せる、素の表情だ。ずっと共に居た少女には、はっきりとわかる。  
―――違うのか?  
「……何を言ってるんですか?姉さん。私は私ですよ?まあ、少し変わっちゃいましたけど、ふふ♪」  
妹は、徐に片手を掲げる。皮膚が、ぼこぼこ、と泡立ち、細胞が恐ろしい速度で増殖する。  
華奢な手は、瞬く間におぞましい触手へと変貌を遂げた。それは―――その色と形は、紛れもなく、あの時の触手だった。  
 馬鹿な!ありえない!確かに私は、本体を潰したはずだ!その後の探査も完璧だった。  
寄生型の反応は微弱なので、私の中に隠れていた時は感知しようがないが、外に出てしまえば話は別だ。  
理論上、探査の時点で、学院内に触手は存在しえない!私は一体、どんなミスを……いや、今更悔いても詮無き事だ。  
侵食が進みすぎている。あれはもう、我が妹ではない。私は義務を果たさねばならぬ。我が手を妹の鮮血で染めるのだ。  
それが……せめてもの―――少女は決意した。  
 
「きっ貴様ぁ……こ、殺……殺してやる!!」  
それでも、声の震えは隠せない。妹が器用に触手と手を、ぱちぱち、と叩いて嗤う。  
「あはは♪正義の魔法少女らしい格好いい台詞ですね、姉さん。でも……」  
妹が言葉を区切り、肩を震わせる。なにやら、笑いを堪え切れないといった面持ちだ。  
妹の人を小馬鹿にした態度に、少女は激昂した。ふざけるな!と怒鳴る寸前、妹が言葉を続ける。  
―――そんな面白い格好してちゃ、私、笑っちゃいますよ?  
「っ!?あああっ!んぁあっ!!」  
 少女が自分の醜態に気付くのに、数拍の間を必要とした。  
少女は、足がさらに壊れるのにも構わず、軽く腰を浮かせたまま、秘唇を押し広げ、妹に見せ付けていたのだった。  
中を掻き回す指の動きもそのままだ。少女は、耳まで赤くして身悶える。  
妹は笑顔を張り付かせたまま、姉に蔑みの眼差しを向けた。  
「うっわぁ〜血だらけ♪姉さんのあそこ汚いですねぇ〜」  
あまりの屈辱に目が眩む。少女は悲鳴をあげた。  
「あっ!あひっ……み、見るな!見るなぁ!!」  
妹が姉の下へと、ゆっくりと足を踏み出す。その間にも、姉を嬲る言葉を止めない。  
「あらら♪血が出てるのに、ぐちゅぐちゅ、掻き回して。姉さん、そんなにオナニー好きなんですか?」  
指が止まらない。引っ掻くと傷がつく。傷がつくと痒い。痒いのが気持ちいい。そして、また引っ掻く……  
永遠に終りが見えない。少女の自制心は、完全に機能を停止していた。  
「ひっ!ひぁ!ひぁあん!!」  
止まらない。止められない。このままでは、私は、私は―――少女は絶頂の予感に身を震わせる。  
それは、怪物と化したとは言え、実の妹の前で果てるという、恐怖の震えか?  
それとも、お預けを喰らい、ようやく上り詰めることが出来るという、歓喜の震えか?  
妹の言葉が遠くに聞こえる。  
「姉さんがそんなオナ狂いの変態だったなんて、幻滅だなぁ♪」  
妹の罵声に歩調を合わせるかのように、少女の指の動きが激しさを増す。  
妹の声で罵られながら、自慰をするという異常な状況が、少女の燃え上がる被虐心に油を注ぐ。  
わ、私……もう……  
「んっひぃ〜!だっ……だめぇ!も、もうイっ……」  
妹が少女の顔を覗き込む。  
「『もうイ』?『もう』何ですか?姉さん。もしかして、イクんですか?この……私の前で。」  
少女の目に、ニヤつく妹の顔が飛び込んでくる。  
それが、今にも消し飛びそうな少女の自尊心に火を点ける。少女は舌を噛んで、嬌声を無理矢理殺した。  
―――どんなに努力した所で、残酷な結末しか用意されていないというのに。  
「っ!!!んんっ!んんん〜!!」  
声は殺せた。だが、指は止まらない。少女は、この淫乱な指を切り落としたいとさえ思った。  
妹は、ニヤつくのを止めない。  
「あははっ♪もしかして姉さん、イクの我慢してるんですか?こんなに激しくオナニーしながら?姉さん、馬鹿なの?」  
妹の容赦ない言葉に、少女は死にたい気持ちになる。くそっ……馬鹿にして……  
その時、妹の触手が少女の制服に潜り込んできた。少女の目が恐怖に見開かれる。  
そ、そんな……今、責められたら私……  
「手伝ってあげますよ、姉さん。私、姉さんがアヘ顔晒してイクところ見たいなぁ〜♪」  
下着を押しのけ、触手が乳首に巻き付く。  
こりっこりこりっ。  
手付かずだった場所からの激感に、少女が白目を剥く。  
「っ!!んぇ!!んんんんっ!!!」  
 それでも少女は、なけなしの克己心で耐える。  
妹の前で、オナニーして絶頂するなど許されることではない。少女の口の端から血が一筋垂れた。  
そっと、妹の人間の手が少女の足の付け根に伸ばされる。  
くりゅ。  
放置されたままの、少女の淫核が抓られた。  
「あっひぃぃいい〜!そ、それ……それらめぇ?……」  
きつく結ばれた少女の唇が、ほどけた。はしたないよがり声が漏れ出る。  
―――妹が嗤った。  
「それ?それってなぁに?姉さん。私、頭悪いから、はっきり言ってくれないと、わかりませんよっ!」  
ぐにゅ!!触手と手が力を込め、同時に乳首とクリトリスを捻り潰した。少女の背中が弓なりに反る。  
「らめらめらめぇ〜!そ、そんらろ……そんらろ、いえなひ……ひぅ!!も、もう、やめへぇ……」  
 
も、もうだめだ。妹の前でイってしまう。このまま、イかされてしまう。ろくに抵抗も出来ずにイかされ―――  
そっそうだ!私は触手にイかされるんだ。無理矢理イかされるだけなんだ。  
私は、妹の前でオナニーしてイク、変態なんかじゃない!  
「『もう、やめへ〜』だって、あははっ♪私、姉さんが女の子みたいな喋り方するの、初めて聞きました。姉さん可愛い♪」  
妹が、少女の口調を真似てからかう。少女は被虐心を煽られ、一足飛びに絶頂への階段を駆け上る。  
 イク。もうすぐイってしまう。でも、私が望んだことじゃない。  
私は心まで屈したわけじゃない!私は負けてなどいない!!  
「ちっちくびぃ?……ちくび、もう、いじめないれ……お、おまめ……おまめくりくりひないれぇ〜!!」  
妹は満面の笑みを浮かべて言った。  
「はいっ!よくできました!姉さんは、やれば出来る子なんですよね♪」  
そして……妹の手と触手が、それぞれの弱点を手放した。妹は一歩下がり、姉を上から見下ろす。  
まるで、汚物を見るような目で―――へっ!?そ、そんな……それって……  
「らっらめっ!もうらめっ!イクっ!イっひゃう〜!!」  
指が肉壁を引っ掻く度に、少女の矜持にひびが入る。  
だ、だめだっ!実の姉妹の前で、オナニーしてイクなんて……そんなの、そんなの……  
Gスポットに爪が引っ掛かる―――少女のプライドに止めを刺したのは、少女自身の手であった。  
「イ、イク!イ゛ク!イ゛クっ!!イ゛っグぅぅうう!!!」  
 少女の体のどこに、これ程の力が残されていたのだろうか?  
少女は、壁に寄りかかった頭と壊れた足を支えに、腰を高く突き上げる。  
噴出した潮は、理想的な放物線を描き、妹のロングヒールにへばり付いた。  
濡れたパールホワイトの皮が陽光を反射し、てらてら、と輝く。それは、神の使いとされる白い蛇の体表を連想させた。  
妹は姉の血液と愛液で塗れた指を、ぺろりと舐め、小さく呟く―――不味い……  
 焦らされ、散々煽られた少女の体には、あまりに甘美な衝撃だった。少女は登りつめたまま、戻ってこない。  
全てのエネルギーを燃やし尽くし、ぺたん、と尻が着地する。にもかかわらず、少女の意識は未だ空を舞っていた。  
虚ろな目が虚空を彷徨う。  
「あ゛ぁあ゛ぁ……う゛ぅああ゛ぁ……あ゛ぁ〜」  
少女が生まれて間もない赤子のごとき、喃語を発した。だらしなく半開きになった口から、涎が、だらだら毀れる。  
両腕が力なく崩れ落ち、地に伏す。無限の責め苦から開放された秘所は、ひくひく、と痙攣していた。  
全身が弛緩する。それでも、少女の双房の頂と淫核は天を指し、自己主張を続けていた。  
 妹は、小さな子供に対するかのように、優しい口調で語りかける。  
 
「ふふふ♪気持ちよさそう。姉さんが、こんな恥知らずの、“ど”変態だったなんて、悲しいなぁ〜♪」  
―――儀式が始まる前、先生に挨拶に行った際、保険を兼ねて株を分けておいたのは、正解だった。  
「こんな有様じゃあ、姉妹として世間様に顔向けできませんよ?そう言えば……ついさっきも、触手のプールで泳いでましたっけ?」  
―――触手溜めの結界を破壊し、触手を道にばら撒いた。  
「あの時は、びっくりしちゃったなぁ〜♪姉さん、自分から触手プールの中に入って行くんだもの。よっぽど好きなんですね、触手♪」  
―――物陰から触手を伸ばし、ロッドを触手溜めの中に放り込んだ。  
「泳いだ後の姉さん、空気を入れられた蛙みたいに、ぴくぴく痙攣して面白かったですよ♪」  
―――サイクロプスが現われたのは、単なる偶然だった。  
「そうそう!その次が傑作でした!芋虫みたいに、必死に逃げて♪正義の味方が聞いて呆れますね。  
『魔法少女たる者、敵に背中を見せてはならぬ!』って格好良く言ってたのは、どこの誰でしたか、姉さん?」  
―――巨人の行動如何によっては、さっさと始末するつもりだった。だって、姉さんは……  
「あんな穴蔵に隠れて何してたんですか、姉さん?オナ狂いの姉さんことだから……もしかして♪  
あは♪いつだったか、夜中に姉さんの部屋に伺った時、ずいぶんと、ご執心でしたね、姉さん?  
私、ドアの前で、真っ赤になっちゃって……そのまま引き返しちゃいました。あんな馬鹿でかい音立てちゃ、隣の人、まる聞こえですよ?」  
―――何時まで経っても、姉が出てこないのに、痺れを切らし、悲鳴を上げてみた。  
「でも、流石は姉さん!人々を救う正義の味方なんですよね♪『私はここだ!』なんて決め台詞、私、痺れちゃいました♪」  
―――巨人の目を、あの術で治しておいたのは、面白半分だった。  
「それにしても、ふふっ♪姉さんの戦い方って、魔法も使わずに、地面をごろごろ転がるだけなんですね。面白〜い♪」  
―――巨人が発狂したのは、完全に想定外だった。学院から逃げる際、自分に使った時には、大した副作用はなかったのだ。  
「まあ、すぐにヤられちゃいましたけど……人間のあそこって、あんなに広がるものなんですね♪それとも、姉さんが特別とか?」  
―――もう少しで止めに入るところだった。まさか、あそこまでやるとは思っていなかった。  
「オナニーしながら、あいつに『イかせて〜』って頼んでましたよね?あはは♪あれはどういう戦術なんですか?」  
―――あんな奴に壊されてしまっては困るのだ。だって、姉さんは―――私が、壊すのだから。  
 姉はいつの間にか、静かに俯いていた。ぴくりとも動かない。力尽き、気絶したのだろうか?  
妹は、やれやれと肩を竦めると、優雅な手つきで、少女の頤を上げさせる。少女の涎と涙に塗れた顔を覗き込んだ。  
「ちゃんと人の話、聞いてますか?姉さん?」  
 希望を奪われた。信念を踏み躙られた。誇りを砕かれた。正義の使者としての矜持は完膚なきまでに破壊された。  
唯一の家族も存在しない。全てを失った少女の目は、既に何も写してはいない―――はずだった。  
「わ、私を……姉と……呼ぶな!!薄汚い化け物め!!」  
少女は、妹を憎々しげに睨みつけ、唾を吐きかけた。  
 何もかも無くした少女の表層に浮かび上がったもの―――それは憎悪であった。  
愛する者を奪った触手に対する苛烈な復讐心が、少女を衝き動かす。  
 もはや、首から下は微動だにせぬ。義務遂行の可能性も潰えた。せめて、せめてその喉笛、噛み切ってくれよう。  
それが、若くして逝った、愛する妹への餞だ。我が妹よ、共に涅槃へ旅立とうではないか。  
「き、貴様は……必ず、私が殺す!如何なる手段を用いても……だ!」  
 妹は、ゆっくりと華奢な手を包む白のグローブで、顔を拭う。張り付いた笑顔の肉面には、一針分の綻びも見出せない。  
だが、妹は内心、狂喜していた。殺気の篭った視線が、悲しみに歪む整った顔が、憎悪に震える声が―――心地よい。  
 
 姉が怒っている!激怒している!敵意を向けている。誰でもない、この私にだ!やっと、やっと私を見てくれた!!  
妹は劣等感の塊であった。妹は、魔法学院の落ち毀れである。十六で、魔法少女デビューは遅すぎるのだ。  
世には何の教育も受けず小学三年生で、突然、魔法に目覚め、十九までに三度、世界を救った生ける伝説も存在すると言う。  
才能なしと判断され、とっくに放校になっていてもおかしくはなかった。事実、妹は学院で、ずっと辛い立場に居る。  
クラスメートからは、凄惨ないじめを受けていた。ペアを組む先輩は、役立たずの少女を無視する。  
担当教官は特別補習と称して妹を弄び、己が欲望を満たしていた。幾度、逃げ出すことを決意したことか?  
 それでも、学院に居続けられたのは、尊敬する姉の存在があったからだ。姉は、妹を学院に残すため、陰に陽に支え続けた。  
学院と取引する為、危険な任務に自ら志願し、昼夜を問わず働いた。妹の担当教官に指導を続けてもらう為に、頭を下げた。  
妹の成績が悪くとも、一言も文句を言わず、練習に付き合った。完璧な姉であった。妹は、そんな優しい姉を畏敬し、愛したのだ。  
―――何時からだったろう?心の底に澱が溜り始めたのは?  
 姉の期待に応えようと、頑張っても頑張っても結果が出せない。それでも姉は、ただ笑って、気にするな、と言ってくれる。  
失敗ばかりの妹に、周囲の風当たりはますます厳しくなる。姉の負担は、雪だるま式に増えていった。  
妹は、誰かに八つ当たりすることも出来ず、全てを自らの内に抱え込んだ。  
姉の犠牲が妹の肩に重く圧し掛かる。魔物との戦いで傷つき、生傷が増える姉の体を見る度、ちくりと胸が痛んだ。  
―――それが、姉に対する嫌悪感から由来するものであることに、妹は気付かなかった。そう、あの夜までは。  
あの、触手との邂逅が無ければ、妹は自らの澱の存在にすら、気付くことは無かったであろう。  
 あの、忌まわしき夜。眠っていた妹は、激痛によって強制的に覚醒させられた。  
涙で歪む視界の隅に、股間に喰らい付く一本の触手が有った。パニックを起こした妹は泣き叫ぶ。  
 痛い。やめて。許して。なんで?なんで私だけ?痛い痛い。死にたい。死にたくない。壊れる。いや、やめて。誰か助けて。  
朦朧とする意識の中、妹は夢を見た。見てはならぬものを、見た。知ってはならぬことを、知った。  
―――夢の中で姉は、怪物に犯され、腰を振っていた。何もされていないのに、拘束されるだけで、上気し、股を濡らす姉。  
両手と口を使って、涎を垂らしながら触手に奉仕する姉。触手に不浄の穴を埋められて、極めさせられる姉。  
何本もの触手を、下の口で咥え込む姉。拷問じみた陵辱に、舌を突き出して、何度も絶頂する姉。触手に懇願し、命乞いする姉。  
初めて見た姉の牝の顔に驚愕し、深層に潜む澱みが、侵食を始める―――  
 なんだ、姉さんも私と同じように穢れているじゃないか。化け物を、あんな風に嬉しそうに咥え込んで……気持ち悪い。  
化け物と戦うのも、自分の性欲を満たす為なのではないか?私は、体よく口実に利用されているだけなのではないか?  
許せない。私はこんなにも、苦しんでいると言うのに。姉さんは、私のことなんかなんとも思ってないんだ。  
自分が気持ち良くなれれば、それでいいんだ。私のことなんか見てくれてなかったんだ。変態のくせに、保護者面して、偉そうに。  
姉さん、許せない。姉さん、許せない。姉さん、許せない。姉さん、許せない。姉さん、許せない。姉さん、許せない。姉さん、許せない。  
 ああ、そうだ。姉さんに、私と同じ目に遭ってもらおう。変態の姉さんなら喜んでくれるはずだ。  
あの、他人の気持ちを解せぬ、牝豚を思う存分鳴かせてやろう。そして、姉さんの目には、私しか映らなくなるんだ。  
唾棄すべき牝豚の、腐りきった心に、私の存在を深く刻み付けてやる―――  
 妹は、笑顔のまま、無言で少女の豆を抓る。  
「覚悟しろ化け物!貴さ……きっひぃぃいい!!ち、ちぎれ……ちぎれひゃうぅぅうう!!」  
しばらくの間、姉を泣き叫ばせてから、妹は言った。  
「あら、ご免なさい姉さん。ちょっと考え事してて、姉さんの言うこと聞いてませんでした。もう一度言ってくれませんか?」  
しゃべる間も、クリトリスを締め付ける力は緩めない。少女は、目に涙を浮かべながらも、口を固く結んで抵抗した。  
「んん!んんん!!んぁ……んぅ!!」  
片腕から伸びる触手が、再び少女の制服内に浸透を開始する。二又に分かれた触手が、両乳首にそれぞれ巻き付いた。  
 
「だんまりですか、姉さん?じゃあ、ずっと、このままですけど♪私は、いつまでだって、構わないんですよ?」  
ど、どこまで人を馬鹿にすれば気が済むのか!触手の言いなりになど、絶対に……だ、だが、このままでは……  
少女の額に珠の汗が浮かぶ。少女は淫虐に屈し、ついに口を開いた。  
「き、きひゃま……んひゃ!れっひゃい……わ、わらひが……ひぃん!わらひがこりょ……ころすんら……ひぁ……ひくび、とれひゃ……  
あ、あねとひへ……からき……い、いも……いやぁ……いもうろの、からき……ふぁぁああ!おま……おまめ、ひこひこ、らめぇ?……  
からきうつんら……そ、それが……しょれ!しょれしゅごいぃ?……し、しょれが、あねとしへの……ぎむ……むりむりむりぃ!  
ひくびのなかはいらないれぇ……けひめ、なんら……あ、あひ!かわで……かわれ、あそんりゃらめ!……らめらめらめぇ!  
ころしゅ……ろんらころひへも……こりょしゅ……イ……イかしぇて?……イかしぇれ、やりゅ……ら、らめ!わらひもイックぅぅう!!!」  
ぷしゅっ!じょろろろろろ……少女の体には、まだ水分が残されていたようだ。潮吹きと同時に、派手に失禁した。  
制服が黄色く穢れていく。妹は、小動物のように小首を傾げた。  
「あははっ♪何を言ってるのか、ちっともわかりませんね。あれ?姉さん?姉さん?」  
少女は今度こそ、完全に気を失っていた。妹はしばし、黙考する。  
 なんて、無様な姉さん!姉さんの魔法少女としての誇りは、完全に失われた。使命を忘れ、私を憎んでいる!  
私は敵として、姉さんに認められたんだ!そんな姉さんは、私の前で何度もイった。子供のように泣き叫んだ。  
私の掌で踊っている。煮るも殺すも私次第。ああ、楽しい。姉さんは、私のものだ。私の玩具だ。でも……でも……  
―――妹は不満だった。姉は、涙も枯れよとばかりに、泣き叫んだが、一度として妹に許しを乞うことは無かったからだ。  
 私は、あの夜触手に情けを乞うた。許して、殺さないで、と泣き叫んだ。惨めにも、化け物に赦しを求めたのだ。  
姉さんが、あんなものを持ち帰らなければ、私はあんな思いをせずに済んだ。  
 あの時もそうだ。私の親友が死んだ。同学年の、その子は姉さんとペアを組んでいた。学院から、任務中の事故であると発表がなされた。  
だが、程なくして、姉さんが、その子を殺したのだと言う噂が流れた。私は、もちろん信じなかったし、姉さんに問いただすことも無かった。  
ただ、親友を失った喪失感で、しばらく呆然としていた。そんな私は、クラスメート達の、よいサンドバッグだった。  
人殺しの妹と詰られ、蹴られ、顔の形が変わるまで殴られた。全員の前で詫びろと命令され、おとなしく従った。  
私は、悲しむ事すら許されず、クラスメート全員の前で、全裸になって土下座させられたのだ。  
あの時は大変だった……魔法で傷は治せても、腫れは中々引かない。姉さんに気付かれないよう、化粧をして誤魔化した。  
傷を治す魔法ばかり上達していく。姉さんから隠れて、傷を治す度に、心の奥底で何者かが蠢くのを感じた。  
姉さんさえ……姉さんさえ居なければ、あんな思いをせずに済んだのに。ああ、姉さんを詫びさせたい。  
姉さんこの手で屈服させたい。そして赦そう。その時こそ、私の剣で苦しみから解放してやろう。私は姉さんに勝つんだ。  
―――妹は、姉の髪を掴み、目の前まで持ち上げた。少女が薄く目を開ける。  
 
「う……うう……うぅう……」  
少女の体の限界が近いのだろう。瞳孔が開き、目の焦点が合わない。妹は、にこやかに笑いかける。  
「おはよう、姉さん。ご機嫌いかが?」  
目は、半分開いたものの、少女は未だ夢現であった。  
眠い。もう、何も考えたくない。もう、何もしたくない。このまま、眠らせてくれ。私はもう……  
再び閉じられようとする瞼の奥が、不可思議な映像を捉える。少女は驚愕し、目を見開いた。  
―――妹の、触手が黒く壊死し肉片が、ぼろぼろ、と崩れる。腐肉の中から現われたのは、見慣れた妹の華奢な手だった。  
 それは、有り得ない現象だった。寄生型触手に憑かれた者の触手化は、不可逆反応なのだ。  
わざわざ、遺伝子を改変して作られる触手は、その者にとって、新たな手足そのものである。  
故に、触手から元の人間の手足に戻すという行為は、自らの手足を切り落とすことに等しい。  
「貴……様、なんで……手が……そん……な……ありえな……い……」  
 妹は安堵した。まだ、意識がはっきりしないのか、意味不明なことを呟いているが、どうやら目が覚めたようだ。  
あのまま、気絶したままだったら、面倒なことになっていただろう。  
「姉さん、目が覚めましたか?派手にイって、お疲れのところ申し訳ありませんが、私も忙しいんです。  
学院の皆を始末してこなければいけませんから。そろそろ、遊びは終りにしましょう。」  
 妹の目は、依然として冷酷な光を湛えたままだ。元の妹に戻ったわけではない。やはり、こいつは化け物なのだ。  
だが、ただの触手にしては、おかしな点が多すぎる。いったい、こいつは何なんだ?  
 少女は、目前の妹に得体の知れない恐怖を感じていた。パズルのピースが次々と埋められていく。  
これ以上考えてはならない。これより先に待つ無情な結論に、きっと私は耐えられない―――幸いにも、少女の思考は中断された。  
 妹は、透き通る声で少女に命じる。  
「命乞いなさい、姉さん。」  
 
 

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