『くしゅんっ!今年も嫌な季節になりましたねぇ……花粉症というのはアレルギーのひとつで、身体の過剰反応なんですよね。  
粘膜に花粉とかが付着して、体がIgE抗体って奴を作り出すんです。  
こいつ自体は体内の異物を攻撃する重要な役割を担っているんですけど、アレルギーの人は大量に作りすぎてしまうんです。  
その余った分が肥満細胞に取り込まれて、表面についた花粉なんかと結びついて、粘膜の炎症を起こしてしまう……と。  
防衛機構が逆に自分を傷つけてしまうんですよね。やっかいなもんです。  
 ところで皆さん。昔の人ってアレルギーになりにくかったって知ってました?寄生虫と関係があるんですよね。  
戦後、徹底的に寄生虫の駆除がされるわけですけど、それ以前は回虫とかサナダムシとかを抱えてる人が殆どだったんです。  
で、寄生虫が体内に居ると抗体がそっちに攻撃に行っちゃう訳です。  
ここら辺は、寄生虫がわざと効力の無いIgE抗体を大量に作り出して自分の為に使ってるという説もあるみたいですけどね。  
いずれにせよ、寄生虫がアレルギーを抑えてくれるというんですね。  
 まあ、もちろん寄生虫の害の方が大きいので、駆除するという方針は間違ってはいないんですが。  
つまり、この話は自然と人間との関係を考えず、一方的に片方を切り落としてしまうと、  
手痛いしっぺ返しを喰らうという教訓なんですよね……  
 あ〜そこの大きい人……そう、あなたですあなた。講義が始まって5分で寝ないで下さい。  
せめて、いびきは止めなさい、いびきは。女性として問題あるでしょ?  
なに?無駄話は止めて、さっさと講義を始めろ?  
……まあ、確かに今の話はテストには出しませんけど……もっと別の言い方が……ぶつぶつ。  
 いいでしょう!今日の講義はとっても刺激的ですっ!皆さん、教科書を開いてください。113ページです。  
さて、これから正常ゼーマン効果について考えて行きましょうね。中心力を受けて運動している電子のハミルトニアンは……』  
 
―――魔法学院高等部前期カリキュラム「基礎教養科目V(量子論)」より  
 
『一部の物理学者には知られつつあるが、このような異世界は無数に存在し、中には我々の世界と繋がっているものもある。  
我々魔法使いは世界同士の交わりからマナを抽出すると言うわけだ。そのためには、直感的な理解が必要になる。  
 まず、四次元の球体をイメージする。そして、この球体の赤道を一つ固定して三次元平面でカットする。  
この平面と球体の交わり、すなわち円盤が我々の世界であるとしようか。  
 ここで注意して欲しいのは、この円盤は四次元軸上では厚みの無いが、れっきとした三次元空間であることだ。  
次にこの円盤を球体の中心点を固定したまま適当に傾けてみよう。これが異世界というわけだ。  
ああ、そうそう、時間軸は全ての世界で共有している。こちらの一分は他の世界でも一分だ。  
 そんなわけで平面の傾け方は当然無限に存在するから、理論上異世界も連続体の濃度で無限に存在する……はずなのだが……  
面白いことに、我々がこれまでに観測できた異世界は両の手に満たないのだな。  
 この辺り、“有理数に対して無理数は非常に多く存在するはずなのに、知られている無理数の数は少ない”  
という数学上の問題とリンクしているようで、非常に興味深いね。  
 話を元に戻そう。我々の世界である円盤をAとし、異世界をBとする。  
この二つの三次元空間は一つの線で交わっていることがわかるだろう。  
ん?ああ、混同しやすいが平行世界と異世界は別物だよ。平行世界同士には交わりは存在しないからね。  
 念のために注意しておくが、黒板上ではこれは線だが、実際は二次元平面なんだ。  
この平面から我々はマナを盗み出している……というわけだ、くくく……  
 当然、この平面を通り抜けられるのはマナだけじゃない  
時折、不幸な偶然でこちらの者があちらに、あちらの者がこちらに来てしまうことがあるのは皆知っているだろう。  
 そう、それが魔物だったり神だったりするわけだな。  
案外、こちらからあちらへ神隠しに遭った者は神として祭り上げられているかも知れん。若しくは魔物か、くく……  
 そろそろ時間だな。前回のレポートを回収する。後ろの席から前へ送りたまえ。  
……なんだ、君はまたレポートを忘れてきたのかね?後で私の部屋に来なさい。追加の課題を出してあげよう。  
 あー次回は小テストを行う。多次元空間上でのマナの容量計算を出すから、  
N次元球の体積の公式について復習しておくように……以上だ。委員長合図を。』  
 
―――魔法学院中等部前期カリキュラム「専門教育科目T(魔法理論)」  
 
―――そうか、寄生虫か!  
 少女の体が自由な状態であれば、彼女は思わず、ぽんっ、と手を打ったことだろう。  
雑然と脳内に撒き散らされた情報のピースが、凄まじい勢いで正しい場所へと配置されていく。  
ついに論理のパズルが完成した。  
ヒントになったのは、『寄生虫を抱えている人間は、アレルギーになり難い』という事実である。  
これと同じような状況が、私と妹の体にも起こっているのではないか?  
 恐らく理屈はこうだ。禁呪を掛けられ過剰な防衛反応が引き起こされた私の体に、触手が取り憑いた。  
禁呪はこれを外的と認め、矛先を向ける。触手の方はなんとかして排除されまいと、  
遺伝子上の改変や抗体生産の抑制を行うホルモンを分泌するが、禁呪の効果が強すぎてダメージを負ってしまう。  
意図せぬ均衡の結果として、触手の侵攻は食い止められ、禁呪の副作用は抑制されるというわけだ。  
 事実、私の全身は既に性感帯ではなく、ほとんど通常の感覚を取り戻している。  
ただし、触手と禁呪の戦闘の最前線たる淫核は、当初の禁呪による副作用以上の激感を常時伝えていた。  
 一方で、妹のケースは多少異なる。妹の場合、“触手が取り憑いた後”に禁呪を掛けたのだ。  
故に、禁呪にとって触手は外敵ではない。禁呪が遵守すべき初期状態の一部なのである。  
妹の腕を自由自在に触手へと変化させる技は、触手の活性を無意識にコントロールしている結果なのだろう。  
 触手が活性化すれば、腕が変異し触手に成る。活性を弱めれば禁呪が機能し、腕を元に戻すといったところか。  
細胞単位で活性の度合いを調節し剣すら形成する―――触手と同化した妹にしかできない離れ業と言えよう。  
 しかし、これはあくまで理論上の話だ。まず寄生型触手を逆に乗っ取る例など聞いたことが無い。  
それに、精神的に同化していたのだから、身体に対する触手の侵攻は劇的な速さだったろう。  
禁呪を使うのが数分でも遅れていれば、妹の体は完全に触手と化した後だったろう。  
よしんば、正確にタイミングを測れたとしても、触手の侵攻スピードや禁呪の効果の強弱は個人差がある。  
とてもじゃないが狙って再現できる現象ではない。恐ろしいまでの強運……いや、凶運か?  
―――少女は今の状況が起こりえる確率に思い当たり、ぞっとした。  
こいつはパスカルか何かの悪趣味な冗談だとしか思えない。もし仮に……  
「ふああああああああああ!♥」  
 触手バイブの振動が強められ、思索の海を漂っていた少女の意識が現実へと引き戻される。  
「姉さん!?聞いてるんですか?」  
 突然、妹の顔が大写しになって少女はぎょっとした。  
「なっ!なんだっ!?」  
「人の話を聞いてませんでしたね?『何だ?』じゃありませんよ。全く……」  
 妹は肩を竦めて、顎をしゃくった。見れば、化け物たちが原っぱの真ん中で、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎに興じている。  
宴会の中心では、男女が数人磔にされ、足元には薪が敷き詰められていた。  
少し離れた場所では正面が凹んだ観光バスが放置され、中の獲物たちは怯えていた。  
自分の番が少しでも後であることを祈っていることだろう。  
「むっ!?」  
 少女たちはいつの間にやら、人外の支配領域に踏み込んでいた。  
「ここを通らないと、触手の巣に辿り着けませんけど。もちろん私たちの姿は見えませんから、無視して先を急ぐことも……」  
「却下だ!!」  
「ですよね〜♪」  
 妹の甘言を即座に否定してはみたものの、少女は、はたと困り果てた。  
ゴブリンが百にオークが三、実に組し易い相手だ。もし少女が万全であれば五分とかからぬ。  
仮に武器が無くとも十五分といったところか。だが、少女の体は未だ万全とは程遠い。  
 確かに魔力は戻りつつある。異常性感も一部を除いてほぼ治まってはいる。体力に至っては無尽蔵だ。  
しかし、肝心要の主導権が無い。少女の体の主は妹なのだ。よしんば、妹の支配から脱却したとして、  
クリトリスがこの有様では、立ち上がることすら覚束ないだろう。  
 その上、連中は人質を囲っている。一人の被害も出さずに救出することは至難の業だ。  
何か方法はないかと、少女はしばし逡巡した。見かねて妹が提案する。  
「姉さん?体のコントロール、要ります?」  
「ん?どういう意味だ?」  
 “操るのを止める”ではなく“コントロールが要るか”ときた。微妙な言い回しに少女は首を傾げる。  
「こういう意味なんですけど……」  
 
「え!?おおう!!」  
 体が思い通りに動く!なるほど、体が触手の呪縛から自由になったわけではない。依然として触手の制御下にある。  
少女の指示をそのまま触手が全身に伝達しているのだった。即ち、これまで司令塔は妹であり触手は中継地点であった。  
今、妹の占めていた位置に少女の脳が、でんと座っていると言えば分かりやすいだろうか。  
端的に表現すれば、少女は自分の体をリモコンで操作するという、なんとも面妖な状態に置かれていた。  
 面倒な状況だが、これは同時に少女が望み得る最善の状況でもあった。  
なにしろ、触手バイブによる体の反射行動―――筋肉の硬直や弛緩―――を、ほぼ無視して身体能力を発揮できるのだ。  
「ふっ!はっ!せやっ!!」  
 少女は型を少し試してみた。十分の一拍ほど遅延を感じるが、致命的な問題ではない。  
頭の中では未だ性感が荒れ狂っているので、集中力を必要とする精密な魔力操作は行えないが、  
魔力を打撃に乗せて打ち込むことは可能だ。よもや、あの程度の連中に後れを取ることはあるまい。  
 せっかく勝ち得た譲歩だ!ここは押しの一手―――とばかりに、少女は領土拡張の策に出た。  
体が自由になってちょっと強気になったせいか、少女が居丈高に踏ん反り返って妹に命じる。  
「おいっ!お前!いいかげん、これ止めろ!!」  
 ぴきっと音を立てて、妹のこめかみに青筋が浮かぶ。ほとんど反射的に、触手に対して制裁の指示を下した。  
「きゅいぃぃい!!いやぁぁぁ……強くしちゃらめぇ……」  
 少女のはしたない嬌声が響く。体が快楽の反射から自由になったからといって、精神が淫らな牢獄から開放されたわけではない。  
むしろ、体の反射行動で発散できない分だけ、少女の心が乱れる。  
 妹は引き攣った笑みを張り付かせたまま、努めて冷静な口調で姉を諭した。  
「ちょっと待って姉さん、今……何て言いました?おやおや姉さん?今なんて仰いました!?『これ止めろ』?  
『これ』とか『止めろ』とか言ってる間は、ずっとダメなんですよ?考えてください……もっと考えてください!」  
 少女は目に悔しげな色を滲ませて、喘ぎ声と共に懇願を吐き出した。  
「んっふぅ♥……こ、これ……を……おぁ……とめ……止めて……くふぅ♥止めて下さいぃ……」  
 妹は姉の情けない言葉を聞いて、多少機嫌を取り戻す。  
「また『これ』ですか?もっと良い言葉があるはずです!無いなんて事はありません!どこかにあるはず、探しましょうよ!」  
 少女の頬に薄く紅が差す。風にかき消されそうな声で小さく呟いた。  
「く、クリトリス……」  
 妹は満面に喜色を湛えて、ぱちぱちと手を叩いた。  
「ほら、あるじゃないですか! ほら見なさい!あるじゃありませんか!」  
 少女は今にも泣き出してしまいそうだ。  
「く……クリトリスを……ふぁ♥と、止め……て……ぇぁ……下さい……」  
「そうですっ!もっと大きな声で!!」  
「わ、私のぉ……お……お豆ぇ♥……ぶるぶるさせるの……止めてぇ……」  
「もっと可愛く!!!」  
 少女がこれまでに収集してきた、ありとあらゆる画像が頭の中を駆け巡る。  
少女は両膝を地面に付き、両の手を胸の前で組み合わせて上目遣いをした。  
唇の端を無理矢理吊り上げ、ぎこちなく笑顔を作る。少女は自分が小動物になったつもりで小首を傾げてみた。  
「ふぅぁ……く、クリトリスはぁ……あぁん♥か、感じすぎちゃうからぁ……も、もう……い、いやぁ……いじめないれぇ♥」  
 だが哀しいかな、その姿は小動物というより、茂みから首を出して獲物の様子を窺う黒豹に近い。  
―――有り体に言ってしまえば、絶望的に似合ってなかった。  
 いつもは凛々しい姉が、科を作って媚びる様は、なんとも不気味だ。妹は思わず、おぇっと嘔吐いた。  
「はい……もう結構です。姉さん……なんだか気持ち悪い……」  
 妹の率直な感想が鋭い刃となって、少女の女の子としての部分をばっさり両断する。姉が激昂した。  
「お、お前っ!!!気持ち悪いとはどういう了見だっ!私にも分かるように、ちゃんと説明してみ……うみゃぁぁああ!!  
わ、わかってます!わかってましたぁ!くひぃ♥似合ってないって知ってましたっ!!うぁぁああ……う、嘘吐いてましたぁぁああ!!」  
 少女の触手バイブが、少女の小さな見栄にすら律儀に反応する。不用意な憤怒に引き出されたのは、あまりにも哀しい告白だった。  
―――いいんだ……どうせ、薄汚れた私には可愛い仕草なんか似合わないんだ……  
 
 少女が多大なる犠牲を払って、ようやく手にした勝利は何の意味もなさなかった。触手バイブは元気に蠢き続ける。  
ぐすっとしゃくりあげ始める姉を見かねて、妹は決まり悪げに言葉を続けた。  
「泣かないで下さい、姉さん。いい年をしてみっともない……」  
「五月蝿い!五月蝿い!私は泣いてなどいない!それに私は、まだ、じゅうな……ひぁぁああん!  
はひぃ♥泣いてますぅ♥妹の前で泣いちゃってますぅ♥姉なのに泣かされちゃいましたぁぁああ!」  
 虚勢を張ることすら許されず、少女の精神が壁際へと追い詰められていく。バイブによる責めは、地味だが着実に効果を上げていた。  
少女の言動が次第に子供染みたものに変化する。  
「うぇぇええ……もう止めてよぉ……許してよぉ……」  
 ついに、少女は嗚咽を漏らし出した。ついでに指摘すれば、秘所からはずっと愛液が漏れている。  
「だって……元はと言えば、姉さんが悪いんじゃないですか。姉さんが勝手に私の部屋に入ったりなんかするから……」  
 妹は頭痛を堪えるように額に手をやって、かぶりを振る。  
―――これでは自分が悪者になって、いじめているみたいではないか!まあ、悪者なのだが……  
「ぐすっ……で、でもぉ……お前だって……ひっく……お前だって私の部屋に勝手にぃ……」  
「それは、姉さんがちっとも掃除しないからです!酒瓶と空き缶の山に埋もれるつもりですか!?」  
 少女の正論を妹の正論が押し流した。思いもよらぬ方向からの反撃に虚を衝かれ、口調が素に戻る。  
「酒は百薬の長だっ!!何も問題はないっ!!」  
 妹の頭痛がひどくなる―――意味が分からない……どこが反論になっているのだろう?  
「問題大ありですっ!毎週分別してゴミに出してるの、誰だと思ってるんですか!?」  
 姉の無意味な気勢が、妹の剣幕に圧されまくる。しゅるしゅると気勢と共に体も萎んでいくかのようだった。  
「わ、私はそんなこと頼んでな……」  
「だいたい、何が『酒は百薬の長』ですか?私よりお酒弱いくせに!ケーキのブランデーで酔っ払うのなんて姉さんくらいですよ?」  
 口を挟む糸口を見つけた。少女の瞳が、きらり、と光り、反撃の狼煙を上げる。  
「むっ!?お前、酒を飲んでいるのか?いかんぞ!未成年が飲んでは……不良か!?」  
「他人のこと言える立場ですか!?寮でお酒を飲むのは、誰であろうと禁止のはずです!!何様ですかっ!!」  
 薮蛇だった。うわばみと化した妹の顎門に、姉の狼煙があっさりと飲み込まれる。  
「お……お……お前の……姉様……だ……」  
「うるさい!黙りなさい!!」  
 妹の容赦の無い一喝で、最後の抵抗の灯火も潰えた。ある意味当然だった。  
全ての攻め手を封じられた少女が取った次なる一手は、姉として、人として、あまりにも恥ずかしい物だった。  
―――くっ!か、かくなる上はっ!  
「え〜ん……え〜ん……妹がいじめるぅ……」  
「泣き真似は無駄です、姉さん……子供ですか!?ゴミを出す度に、寮長から嫌味を言われるのは私なんですよ?  
泣きたいのはこっちの方です!ゴミの分別がどれだけ面倒くさいか知っていますか?缶も瓶も中までしっかり洗って乾かして……」  
 渾身の演技は即座に看破された。小言の機関銃が、少女に残されたなけなしのプライドを蜂の巣にする。  
 正直なところ、姉妹は口には出さなかったが、ここ数時間の言い争いを心の底から楽しんでいた。  
もちろんこれは茶番にすぎない。妹は姉の心を壊したがっているし、姉は少女を元の純真無垢な存在に戻すべく、今も思索を続けている。  
それでも、本音をぶつけ合い、気兼ねなく罵り合う―――ただ、それだけのことが楽しくてしょうがなかった。  
 こんな風に喧嘩をしたのは何年ぶりだろう?姉妹の会話が表層だけの空虚なものになったのは何時からだろう?  
まともな会話が失われて久しい。妹は言わずもがな、姉も立派な姉であろうと上辺を繕い言葉を選んでいた―――酒で正気を失った時以外は。  
何時の頃からか姉妹の間には、一線を越えた付き合いが無くなっていたのだ。  
 だが、今は違う。今だけは……目に見えぬ垣根は取り払われ、二人は幼い頃に還ったかのようにじゃれ合っていた。  
あくまで“じゃれ合い”である―――一方的な説教に見えるが、決してそんなことは無い……はずだ。  
 
「ひとが一生懸命、横で作業してても、お腹出してぐーぐー寝てるしっ!私がゴキブリに気付いて悲鳴を上げても、起きないしっ!  
……というか、よくあんな部屋で寝てられるものですね!無神経にも程がありますっ!  
ああ、起きた瞬間に吐かれた事もありましたっけ?ごめんの一言も無く涎垂らしながら『水……』って、人としてどうなんですか!?  
水を受け取ったら、一気に飲み干して『みず……うま……』って言ったきり、汚れた服のまま寝ちゃいましたよね?  
あの後、私が姉さんを着替えさせるの、どれだけ大変だったかわかりますか!?  
あんな風に汚れると洗濯だって大変なんです!他の物と一緒に洗濯機に放り込むわけにはいきませんからね……全部手洗いですっ!  
いつもいつも、脱いだら脱ぎっぱなし!何度『洗濯物は籠の中へ入れてください』って言っても聞きやしない!  
下着が廊下に出てたこともありましたよね!?姉さんは女として終わっていますっ!!あの時もそうでした!私が……」  
 妹がさらに昔の記憶を掘り起こそうと視線を上に向けた―――その瞬間だった。  
 縮こまっていた少女の体が、爆発的な動きを見せる。電光石火、妹の背後に回りこみ、手刀を無防備な首筋に打ち込む。  
それは、少女の待ち焦がれていた隙であった。妹の強化された網膜は少女の残像すら捉えられなかった。  
はらりと妹の髪の毛が数本空に舞い、少女の希望が確信へと変わる―――すまぬ、我が妹よ。少しの間だけ眠っていておくれ……  
狸と狐の化かしあいは、少女の方へ軍配が挙がるかに思われた。  
「ふ……ふふっ♪ふふふふふ……」  
 妹の意識を刈り取るべく一閃された手刀は、紙一重の位置で停止していた。  
必勝を期して繰り出された少女の手に、妹の細長い指が絡みつく。少女の人差し指が五本の白い蛇によって覆われた。  
「無駄ですよ……姉さん。私に不意打ちは、もう通用しません。その子が居る限り……ねっ!」  
 こきっ、と乾いた音を立てて指が折れ曲がった。少女は痛がるそぶりすら見せず、舌打ちした。  
「ちっ!安全装置……というわけか?用意のいいことだな!」  
 妹がゆっくりと振り返る。少女を見据える両の瞳は、あくまで純粋で澄んでいて、見る者を虜にする。  
だが、込められた殺気は百戦錬磨の少女をして、心胆寒からしめるに十分であった。  
身を焦がす程の憎悪の発露―――ぞわっと少女の背筋に悪寒が走る。  
「ふふ……元気のいい姉さんには、プレゼントを差し上げます。受け取って頂けますよね?」  
 妹の白いグローブの下で何かが蠢く。ソレがエナメル質の皮を押しのけ姿を現した。小指の先ほどの大きさの白い蛭だった。  
妹の体から生み出された二匹の悪魔が、少女の折れた指を渡り、鎖骨を這い、目的地に辿り着く―――そ、そこは……  
 少女は血の気を失った。  
「あっ!?あぁ……や……やめ……」  
 かぷり……  
「きっひぃぃいい!!!」  
 蛭は本能の赴くまま、小山の頂に喰らいつく。円状に並ぶ微細だが鋭い歯は、コスチュームの魔力防壁を易々と食い破り、  
血が固まらぬよう少女の毛細血管に唾液を流し込んだ―――即座に禁呪が異物を感知する。  
触手対禁呪の新たな戦線が形成された。数千倍鋭敏になった両乳首からの激感に少女は悶え苦しむ。  
「きゃふぅぅうん♥だ……だめ……イ……イク……そんな……ら、らめら……らめ……あぁ……イくぅ♥」  
 少女は手刀を繰り出した凛々しいポーズのまま、恥ずかしい絶頂を迎えてしまう。下の口が、ぷしゅぅうう、と潮を吐いた。  
黒い布地の上で白い小さな蛭が、ぴくぴく震える様は淫靡で、少女自身の乳首が男を求めているかのようだった。  
遠目から見れば、レオタードから乳首だけを露出しているように見えなくも無い。少女はなんともフェティッシュな姿を晒していた。  
 妹は少しの間目を細めて姉の情けない姿を眺めてから、折れた指を解放した。少女の戒めが解かれる。  
少女の両手が、負傷に構わず早速蛭を引き剥がしにかかった。  
「そ、そんなぁ……くひぃ……取れないなんてぇ♥」  
 蛭は必死に抵抗する。甘咬みから、淫肉を引き千切らんばかりの噛み締めに変化した。  
「ひぎぃぃいい!!強くしないれぇ……ち、乳首いじめちゃらめぇ……乳首ごと取れちゃうよぉ♥」  
 妹が、くすくすと嗤った。  
「私が人質を転送します。姉さんは囮役……いいですね?」  
 それは冷たい声だった。同時に姉妹の一時の夢に終わりを告げる声であった。  
三つの弱点からもたらされる強烈な電撃に狂いながら、少女の心は寂しいという感情だけに染まっていた。  
遠ざかっていく妹の背中に、少女はついに言葉を掛ける事が出来なかった。  
 
 少女は蛭の攻略を諦め、指の関節を元に戻す。気を取り直し、自らの敵を見据える。警戒するのはオークだけ……何の問題も無い。  
 あんなになっても妹は妹だ。あの娘は優しい娘だ。無辜の民草を危険に晒すような真似はすまい。  
いまこの時だけは、全幅の信頼を置ける戦友だ。実に心強い仲間だ。責任を持って全員を救出してくれる。私は囮に徹すればよいのだ。  
なぁに、戦術なんて簡単だ。鼻柱をとっ捕まえて、股間を蹴り飛ばせばいい。さっさと片付けてしまおう。  
―――少女は狼に率いられた羊の群れの恐ろしさに気付いていなかった。  
 異種族を纏められると言うことは、高い統率能力を意味している。それだけの能力を持ってすれば、同族のパーティを組むことは容易い。  
わざわざ、力の劣る種族を組み合わせているということは、何か利点があるからだ。オークとゴブリンたちは互いの短所を補い合っている。  
―――少女は身をもって、その恐ろしさを味わうこととなる。  
 少女は野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の怪物たちを仰天させ、彼らに死を宣告した。  
「ま、まってぇ……そのひ、ひと……ひぁ……そのひとたちをこ、こりょしちゃ……ら、らめぇ♥しぇ……しぇいぎの……くぁ……  
しぇいぎのしっこうしゃが……こ、ここかんじすぎちゃうぅ……ここへおりたった……はぁん♥なにかおりてきちゃうぅ♥  
い、いにしぇにょ……けいやきゅ……あぁあ!とまんにゃいよぉ……い、いま……きしゃまりゃ……ぉぁ……だんじゃいしゅりゅぅうう!!」  
『待て。その人たちを殺してはならぬ。正義の執行者がここへ降り立った。古の契約のとおり、いま、貴様らを断罪する!』  
と大声で化け物どもにむかって叫んだつもりであったが、走ったせいで勃起豆がつぶれて、呂律の回らない喘ぎ声が幽かに出たばかり……  
元より下等な魔物は人語を解さないが、他の群衆もひとりとして彼女の言葉に理解が及ばない。  
すでに磔の柱に高々と吊るされ、縄を打たれた人質たちは、徐々に内面の動揺を表に吐き出してゆく。  
「あ、あんた何だ?」「すげぇ格好……変態か?」「なんでもいいから早く助けて!!」  
「馬鹿なことやってないで、さっさと逃げろ!」「むにゃ……お腹すいた……」  
 衆目の前で醜態を晒すわけにはいかぬ―――少女は自分の体に渇を入れ直すべく、大きく深呼吸した。こほん、と一回咳払いする。  
「い、命が惜しくない者は……くぁ……か、掛かって来るがいい!!」  
 突然の出来事に硬直していた魔物たちが一斉に動き始める。少女を嬲り者にせんと取り囲む。  
バスに取り付いていたゴブリンたちが寄ってくるのを横目で確認し、少女は無造作に腕を薙ぎ払った。  
背後から迫ろうとしていたゴブリンが数体犠牲になる。胴体から別たれた首が少女の足元に、ごろごろ転がってきた。  
少女はそれをリフティングの要領で跳ね上げ、リーダー格のオークの顔めがけて蹴り飛ばした。子鬼の首が豚鼻に衝突し四散する。  
 激昂したオークは唸り声を上げて突進してきた。直線上に居た不幸なゴブリンが踏み潰される。  
猪突猛進を少女は、ひらりとかわし足を引っ掛けた。無様に転んだオークの首筋目掛けて、骨を砕かんと踵を振り下ろす。  
「くっ!んっふぅ♥」  
 硬い―――反作用で衝撃が脳天まで伝わる。最も近い足の付け根への影響はより深刻だ。少女は自分の攻撃が原因で軽くイってしまう。  
丈夫さだけが取り得のような種族だ。必殺を期した少女の一撃は野太い頚椎にひびを入れるだけに終わった。  
だが、それで十分だ。リーダーの意識は奪った。後は統率を失った怪物どもを一体ずつ狩るだけだ。  
こいつは最後にじっくり料理してやればよい―――この致命的な判断ミスが少女の運命を決定付けた。  
「なっ!?ぐっ!くあぁっ!!」  
 ゴブリンが四体、少女の四方から襲い掛かった。棍棒の打ち下ろしを背中に受けてしまう。  
コスチュームの魔法防壁のおかげで傷一つ無いが、反動で胸がぷるんと揺れる。余計な負荷が甘咬みされている乳首に掛かった。  
「ふぁ♥こ、このっ!」  
 嬌声を噛み殺しつつ少女の長い足が鉈の様に振るわれ、背後の魔物を屠る。だが―――  
「あぁっ!!」  
 またもや背後を襲われ、片足立ちの少女はバランスを崩し尻餅をついてしまう。ゴブリンが数体止めを刺すべく棍棒を振り上げた。  
「調子に……乗るなっ!!」  
 体全体のばねを開脚した足に乗せ、一回転しながら起き上がる。巻き込まれた四体がばらばらの屍を晒した。  
―――また、四体……統率を失っていない!?しまった、リーダーは別の奴か!?  
 少女の集中力が一瞬途切れ、背後の影に気付けなかった。丸太のような腕が少女の細い胴に回される。  
 
「し、しまっ!!ぐあぁぁああ!!」  
 きりきりと少女の内臓ごと背骨が、万力並みの力で締め付けられた。レオタードが絞られ乳首と淫核が押し潰される。  
「きぁっ!♥ぐふぅ!♥」  
 肺から空気が根こそぎ押し出され、溢れる絶頂感を口に出すことすら許されない。少女の口の端から涎が一筋垂れる。  
こみ上げる胃液を堪え、踵をオークの睾丸に叩き付けた。  
急所を砕かれ、力なく崩れ落ちるオークの体を投げ飛ばし、二体のゴブリンを下敷きにする。  
窮地を脱した少女に間髪入れず四方からゴブリンが突進してきた。両手で二体の胸に風穴を開ける。  
「はぐぅ!げほっ!!」  
 残った二体が死角から棍棒を振るい、少女のわき腹にクリーンヒットした。汗が、涙が、愛液が飛び散る。  
少女はダメージにもアクメにも構わず腕に絡みついたままの屍骸をぶつけた。  
波状攻撃は収まりそうにない―――こいつでもないのか!?残る一体は……ん?何だあいつは?  
 少し離れた場所、残る一体のオークの傍でゴブリンが厳しい視線を少女に向けていた。少女は理解した。  
「そ、そうか……貴様がリーダーか!あふぅ♥」  
 そう、この集団のリーダーはゴブリンだった。オークたちはゴブリンリーダーの用心棒兼切り込み隊長として指示に従っていたにすぎない。  
ゴブリンはオークの衝撃力と防御力を求め、オークはゴブリンリーダーの頭脳を頼りとしていたのだ。  
 肉の壁で囲いを作り、四体ずつ別々の方向から攻撃させる。  
少女が如何なる手練れであろうと、物理的に全周からの同時攻撃を捌く事は出来ない。  
攻撃を受ける度、また攻撃をする度に少女は果ててしまう。  
「はぁっ!!んっ♥このぉっ!ふぅ♥やぁっ!!あぁん♥」  
 獲物は確実にダメージを蓄積していく。少女が疲れ切った所を、後詰のオークが止めを刺す……狙いはそんなところだろう。  
時間は掛かるが、確実な戦法だ。事実、少女は追い詰められていた。体力に問題は無いが、魔力には限りがある。  
 魔力が尽きれば、少女は一流の男子体操選手程度の身体能力しか発揮できない。それは敗北を意味していた。  
仮に魔力の残量に問題が無くとも、戦いながらイクという異常な状況に精神が根を上げるだろう。  
 上から見下ろしていた人質たちが、思い思いに叫ぶ。  
「頑張ってくれ!あんただけが頼りだ!」「なんだぁ?あのエロい声……もしかして感じてんのか?」  
「そんなことどうだっていいわよ!ちょっと、そこのあんた!!なに、たらたらやってんのよっ!さっさと助けなさいよぉ〜」  
「あの調子じゃだめだな……あーあ、俺の命もこれまでか……」「すやすや……お昼まだかなぁ……」  
 今の少女は蜘蛛の網に掛かった蝶に等しい。敗北という大蜘蛛が一歩一歩にじみ寄る。  
それでも少女の目は光を失っていなかった。それは、単なる意地でも強がりでもなく―――来た!!!  
 観光バスが光と共に消滅する。魔物たちは目の前の信じがたい光景に、困惑を隠しきれない。ざわざわと動揺が走る。  
波状攻撃が一瞬停止し、囲みに隙間が出来た。  
「そこっ!!」  
 少女が一気呵成に鳥篭からの脱出を果たす。少し離れた場所まで走ると、眩暈がして倒れ伏してしまった。少女が荒い息を吐く。  
「はぁ……はぁ……はぁ……」  
 自分の体をコントロールするのに、これ程集中力を必要とするとは思わなかった。  
それに、触手への意思伝達の過程で魔力を消費しているのだろう。  
少しでも休んで魔力を回復させねば―――少女は体の制御を一旦停止させた。  
「あ!?んあぁぁああ!えひゃうぅぅ♥」  
 抑制されていた生理反応はすぐに表れた。体が電流を浴びたかのように痙攣し、乳首の蛭と触手淫核が地面にやすり掛けされる。  
極薄生地のコスチュームが小石のざらざらした感触を伝えてきた。蛭は圧迫感に苦しみ乳首に八つ当たりする。  
クリトリスは飽きもせず地面に接吻を繰り返し、蜜で濡れそぼったあそこの布地が泥まみれになる。少女は大地に強姦されていた。  
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛〜!!」  
 は、早く仰向けにならないと……お、おかしくなる―――少女は一時的に体の制御を取り戻し、体を裏返した。  
この判断が少女にさらなる受難を強いることになる。少女が呼吸するたびに胸が生き物のように上下した。  
張りの良い双房が重力にも負けず、つんとそそり立つ。天を指す頂は蛭の淫虐に対抗すべく大きさを増していた。  
共に踊る相手を失い、壁の花と化したクリトリスは孤独に戦慄きつつ淫らな舞踏を続ける。秘所が愛液の涙で相棒の悲しみを代弁した。  
 
「あ……ああ……」  
 で、でも……これじゃ……イ……イけない―――少女の影響下から逃れた両の手が暴走を始めた。  
片方の手が腰布をずらし、秘唇を押し広げ、残った方の手が侵攻を開始する。溜りに溜っていた蜜が、どろりと溢れ出し大地を穢す。  
半ば無意識のまま、少女の両の手は複雑な手順を難なくこなしてみせた。  
「そ、そんな……いきなり……イ……イクっ♥イっクぅ♥」  
 わ……私は何を……た、戦いの真っ最中に―――少女の手は黙々と作業を続けた。さらに奥へと奥へと細長い指が突き入れられる。  
「っっっ!!!イク!イクっ!!イ゛ク゛〜!!!」  
 だ……だめだ……声を出したら魔法が効力を失ってしまう―――挿入された指が洞窟を押し広げ、お預けを喰らっていた手を迎え入れる。  
膣は新たな客人を歓迎し、収縮した。  
「んんんんんんんんっ〜!!!」  
 こ、声さえ出さなければ……だめだ!だめだっ!!こんなこと許されないっ―――欲望の忠実なる僕たちが本格的な活動に移る。  
襞を引っ掻き、感じるポイントを圧迫し、子宮口を突っついた。  
「ぉ……ぉぁ……ぁ……」  
 い、いや、大丈夫だ……私の意志でいつでも止める事が出来るんだ……だから……だから……も、もう少しだけ……  
―――主の許可を得た手が片方、秘所から抜け出した。きゅぽんっと引き抜かれた際の衝撃が少女の子宮を震わせる。  
「んぁっ!!!あっはぁ〜♥」  
 き、気を落ち着かせるためには……これしかないんだ……し、しかたなくやってることなんだ……  
―――自由になった指先が美味しい獲物に標的を定める。胸の白蛭を思いっきり抓った。蛭は堪らず細かい歯を食い込ませる。  
てらてら陽光を反射する黒いグローブから愛液が糸を引く様は、涎を垂らす爬虫類の顎門を連想させる。  
「くひぃ〜!!ぃぃょぉ♥……こ、これ……これ好きぃ♥」  
 こ、これ以上はだめ……だめだっ!これ以上やると……戻れなくなるから……で、でも……でもぉ……  
―――少女の指先が凶悪な牙と化し、淫肉を喰い千切らんと胸の先端を上下左右に捏ね繰り回した。  
巨大な波に翻弄される蛭は、必死に肉突起にしがみ付く。  
「ひぎぃぃいい!!ぃ……痛いのぉ♥しゅごぃぃいい〜!!」  
 狂う……心が壊れる……あぁ……流されてしまう……も、もう戻れない……  
―――理性が消え逝かんとするまさにその時、少女の鼓膜が空気の震えを捉えた。化け物どもの怨嗟の怒号が聞こえる。  
妹が独り戦っているのだ。私はなんて情けない―――その瞬間、少女の中で妹への愛情が欲情を凌駕した。  
「わ、わらひ……ま、負けな……ひ……くぅ……こんなところれ……負けられにゃいぃぃぃ!!!」  
 少女は触手の力も借りず、自らの克己心のみで愛撫する両手を引っぺがした。私はまだ戦える!  
少女は立ち上がった。見れば、五つあった磔台が四つに減っている。妹が危険を顧みず敵中で転送魔法を使用しているのだ。  
どんな術師でも詠唱中は無防備になる。なんとしても怪物どもの注意をこちらに向けねばなるまい。  
 何を思ったか、少女は手ごろな石を集め始めた。やおら腕を伸ばし片目を瞑り距離を測る。よし!  
片足を上げ石を持つ腕を大きく振りかぶった。宙に浮いた足を強く踏み出し勢いを腕の先端へと伝える。  
全身を鞭の様にしならせ、石を放った。魔力で覆われた小石が強烈な初速を得て弾丸と化す。  
石は一直線にゴブリンの集団に突き刺さり、リーダーの頬を掠めて地面を抉った。  
「ちぃっ!!」  
 少女が舌打ちする。石は直線上に居た三体のゴブリンを貫通したものの、最重要目標を外した。  
少女は失敗を気にした様子もなく、続けざまに第二、第三の弾丸を放つ。  
 古来より、投石はポピュラーな軍事行動である。戦国時代の合戦での負傷原因トップはスリングによる物だとする説もある。  
現代でも、イラク、アフガンやガザで多くの兵士が原始的な投石によって負傷しているのだ。  
 ゴブリンリーダーは冷静だった。見えぬ敵の位置を石の弾道から計算し、オークを壁とする。  
部下を大きく二分し、ひとつに背負った弓矢を構えさせ、もうひとつは射撃支援の下に前進するべく集結させた。  
矢の雨が降り注ぐ。手負いの獲物を蹂躙すべく前衛部隊が突進した―――だが、そこに少女の姿は無い……次の瞬間、リーダーの頭が爆ぜた。  
 
 少女は怪物どもを侮ってはいなかった。五つだけ石を全力投球した直後に、部隊の側面へと移動していたのだ。  
そして、今度こそ狙いを外さなかった。指揮官を失ったゴブリンどもを殲滅せんと、的外れの方向に矢を放つ集団へと疾走する。  
三十に及ぶゴブリンたちが自分の身に何が起こったのかも認識できず三途の川を渡った。主人と仲間を殺されたオークがいきり立つ。  
少女は最後に残された強敵の方に向きを変え、構えた―――こいつさえ何とかすれば、残りは烏合の衆だ。  
「えっ!?」  
 構えた腕が、だらりと垂れ下がり、膝が崩れ落ちる。少女は驚愕した。太ももと肩から矢が生えていた。  
敗北の二文字が脳裏に浮かぶ。少女は動けない。運命は確定された。  
「ぎゃん!!」  
 暴走車と化したオークに跳ね飛ばされた。少女の体が木の葉の様に宙を舞う。なす術無く十字架下の薪山に叩きつけられる。  
「げほっ!げほっ!どうし……て……」  
 オークが戦果に満足し鼻を鳴らす。その背後に、整然と弓を構えるゴブリンたちの姿があった。  
―――少女は自身の失策に思い至り歯噛みした。  
 ゴブリンたちは不測の事態に備え、指揮権の迅速な委譲の為に、あらかじめ部隊内で順位を定めておいたのだ。  
少女の陽動に引っ掛かった前衛の中で最上位の者が部隊を纏め上げ、即座に反撃の矢を繰り出したのであった。  
「ぐあぁぁああ!!!」  
 少女が力ずくで肩の矢を引き抜く。肉が抉れ血が噴き出す。少女の白い頬が赤く汚れる。即座に組織が再生し腕が力を取り戻した。  
寄りかかった十字架を両手で掴み、片方の足だけで立ち上がる。  
 第二撃を加えんとオークが足を踏み鳴らす。ゴブリンたちが弦に矢を番える―――急がねばならない……時間との勝負が始まった。  
太ももの傷に目を向ける。手刀で鏃を切り落とし、止血点を押さえる。もう片方の手で矢羽を掴み一気に引き抜いた。  
「ぐっ!!!」  
 適切な処置だったが、それでも動脈から鮮血が流れ出る。大量の失血に視界が霞む。傷は塞がったが、血液の生産が間に合わない。  
ふらつきながらも、少女は仁王立ちした直後、絶妙のタイミングで背後の磔台が消滅した。  
目を細めてゴブリンたちの手元を注視する―――発射角は?大丈夫だ、人質には当たらない。  
 オークのダッシュを合図に、矢が放たれた。少女は矢の散布界から逃れるべく横っ飛びに跳ねた。  
「なっ!?」  
 体が空に浮いた直後、信じられないものを目撃する。少女の立っていた位置のすぐ後ろに小さな子供が居たのだ。  
―――十字架の影に隠れていたのか?迂闊だった……  
凄まじい反射神経で子供を掴まえるために、空中で無理矢理上体を捻り腕を伸ばす。そのまま一緒に安全地帯へ連れ出せば……  
一瞬の離れ業だが普段の少女であれば、なんとか可能であった―――普段の状態であれば。  
 コントロールのわずかな遅延が運命を分けた。指先はその子の服を掠めただけだった。少女はなす術無く着地する。  
飛翔する矢の放物線が見える。直進するオークの延長線が見える。物理的な手段では間に合わない―――少女は軽く目を閉じ詠唱した。  
「退けよ!!」  
 掲げた少女の両の手が輝き、不可視の壁が現出する。飛来した矢は弾かれ、地面に転がった。間髪入れずオークが肩から激突する。  
大型バスすら停止させたタックルは見えない障壁に阻まれ、跳ね返された。怪物は無様に転び昏倒した。  
殺しきれなかった運動エネルギーが少女の胸と尻を揺らした。  
「んぁ♥ぐ……ぅ……」  
 少女は足を踏ん張って耐える。乾いた地面に数cmめり込んだブーツが衝撃の凄まじさを物語る。  
「すげぇ尻……むしゃぶりつきたくなるぜ!」「あ、あんた!あの女のどこ見てんのよ!」  
「だ、だってよぉ……」「えへへ……今日はごちそうだね……とう……むにゃ……」  
 少女の耳には外野の声など届いていない。少女の目はゴブリンたちが第二波を放つ様子を捉えていた。少女の頭脳が冷静に状況を判断する。  
―――本来なら魔道具の力を借りて行使する術式だ……負担が大きすぎる。集中力も魔力も続かない。連続使用は十分が限度だろう。  
だからといって解いてしまえば、私はともかく人質に被害が及んでしまう。私の戦術ミスで人を死なせるわけにはいかない!  
あの子は私が抱えて逃げればいいが、それでは磔にされてる人達が……  
―――少女は横目でへたり込んでいる幼児を見た。  
 五、六歳といったところか……中性的な顔立ちだ。男の子?化け物どもの監視の目を掻い潜ってバスから抜け出したのだろうか?  
勇気のある子だ。決して死なせるわけにはゆかぬ!だが、どうすれば……  
 
 少女に待ち焦がれた援護がもたらされた。三本目の十字架直下に転送円が浮かび上がる。  
「くぅくぅ……楽しみだね……スフィンクスぅ……え!?何っ!?ここどこ!?ごちそうはっ!?」  
 またひとり、現世への帰還を果たした。残る十字架は二本。少女が生還への筋道を必死に模索する。  
 このまま妹を信じて耐えるしかない。残る二人の人質が転送されれば動けるようになるが、残った魔力であの数を相手にするのは不可能だ。  
となれば、この子と一緒に逃げるしかない。返す返すも口惜しいが、今は障壁を維持することだけに集中せねばなるまい。  
―――少女は、ぎりっと歯を噛み締め決意を新たにした。だが、思いもよらぬ方向から計算外の因子が忍び寄る。  
「おねえちゃん……こわいよぉ……」  
「あっ!?くぁ♥?」  
 下半身を襲う違和感に少女が身悶える。男の子が背後から抱きつき、可愛い顔を尻の割れ目に埋めていた。  
下腹部に回された小さな掌が偶然触手バイブを捕らえてしまう。  
「んあぁぁああ!!は、離れて……離れてくれぇ♥」  
「やだ!やだっ!!こわいのは、もうやだっ!!」  
 男の子は少女の腰をさらに強く抱き締め、首を駄々っ子のように横に振った。その度に少女の引き締まった丸い尻が歪む。  
擦られて、じんじんした熱が次第に尻全体に広がっていく。白い桃が熟し、桃色に染まる。  
前の方もただ事ではすまない。男の子の掌で豆が押し付けられ振動が股間全体に伝わる。魔術を行使しながら少女は数回果ててしまった。  
子宮が震え、奥から何かが込み上げてくる。括約筋に指示を出し、尿道口を閉じる。  
子供の前でみっともない姿を晒すわけにはいかないが、思考に霞が掛かり、集中が途切れてしまう。  
―――まずい……これ……は……  
魔法障壁が、みるみる小さくなるのを感じる。なんとかしなければならない。少女は優しく語りかけた。  
「んふぅ♥だ、大丈夫……だ……はぁ♥わた……私が君を……きゃうっ!絶対……くっ!!ま、守るから……ああん♥」  
「ほ、ほんとう?」  
 ようやく尻が無邪気な淫辱から開放される。男の子は首を伸ばし、太ももの横から顔を覗かせた。  
涙で、きらきら光る瞳が少女の顔を見つめる。しかし、未だに男の子の指先は勃起肉芽を挟み込んだままだ。  
「あ……ああ……ぁ♥危ないから……はぁん!!は、離れてぇ……ぃ、いぃ♥いなさ……」  
「あれ?おねえちゃんのお洋服の中に何かいるよ?」  
 男の子はそのままの姿勢で目線だけを移した。目と鼻の先に小刻みに震える物体を認める。  
確かにレオタードの下で何かが暴れているように見えなくも無い。男の子の視線が突き刺さり、豆が恥ずかしげに身悶えする。  
何も知らぬ無垢な陵辱者は、触手バイブを別の生き物と判断したようだ―――あながち間違いではないが、真実を告げる気にはなれない。  
「そ……それ……はぁ♥……あぁ……」  
「これなあに?」  
 男の子が正面に回り、やっと指が離れた。苦しみぬいた末、ようやく得られた平穏―――だが、それは儚いものに過ぎなかった。  
真摯な瞳で真っ直ぐ少女の股間を見つめる男の子。捻りなく解釈すれば純粋な好奇心の発露なのだが、少女は羞恥に悶える。  
「お、お願い……だ……見ない……で……くれ……」  
 少女が赤面する。年端もいかぬ幼児に見られているという事実が、情欲の炎を熱く燃え滾らせる。子宮がじんじんする。  
このままではいけない!  
 遠慮の無い視線から逃れるべく、両手は前方に掲げたまま腰を引いた。Tバック状のレオタードが桃の割れ目に食い込む。  
殆ど露出している尻を突き出し、人質のカップルに見せ付ける格好になってしまう。今度は後ろから少女を煽る揶揄が飛んできた。  
「うおぉ……サービス満点だな、あんた!食い込みすげぇ……ケツの穴まで見えるんじゃねぇか?」  
「そんな格好して、恥ずかしくないの!?あんたっ!人の彼氏、誘惑してんじゃないわよっ!!」  
 少女の端正な顔が屈辱に歪む。尻に突き刺さる鋭い視線を感じる―――そんな……どうすればよいのか?  
「くっ!!」  
 背後からの視姦に困惑し姿勢を変えようと、もじもじ腰を動かす。尻が、ぷるぷる震える。  
桃色の血色と相まって、発情期の牝猿にしか見えない。少しだけ腰を前に戻そうとして、壁に当たった。  
「ひぁっ!?」  
 男の子の顔だ。彼はいつの間にやら少女の懐深く潜り込んでいた。股間に荒い鼻息を感じる。あそこに苛烈な視線を感じる。  
直立し、快楽を貪り尽くす触手バイブも、物欲しげに開閉を続ける秘唇も、必死に門を閉じる尿道口も……見られている。  
 
 少女の受難はそれだけの留まらなかった。子供の好奇心が少女を崖っぷちに追い詰める。  
「こいつ……うごいてる……」  
つんつん、つんつん  
「あ♥っ!あ♥っ!……あ♥っ!あ♥っ!」  
 男の子が恐る恐る、その奇妙な物体を指先で突いたのだ。少女は危険な衝動を死ぬ気で抑え付ける。  
 だっ……だめ……だめだ……もしイったら……イってしまったらぁ……  
 予測される惨事に少女が蒼ざめる―――天使を……天使を私のあそこが穢してしまう!!  
「おねえちゃん苦しそう……こいつ、わるいやつなんだね!?  
「え!?」  
 男の子は拳を振り上げた。少女の目が恐怖に見開かれる。その小さな拳が振り下ろされる先は―――そん……な……まさ……か……  
淫辱の予感に子宮が、きゅんと締まり、心臓が高鳴る。そ、そんなことされたら、もう……耐えられない!  
「えいっ!!」  
「くっひいぃぃいい〜!!!」  
 狙い違わず拳が淫核めがけて打たれた。堪らず肉突起が形を保ったまま恥丘に倒れ伏す。だが、そんな攻撃で打ち倒せる触手ではない。  
拳の圧力が無くなると触手バイブは、ぴんっとそそり立ち、健在ぶりをアピールしていた。  
当然、少女の方は無事では済まない。ひとかけらの意地すら許されず、絶頂してしまう。噴き出る潮が男の子の顔を濡らした。  
 それが反って男の子の正義の心に火を点けてしまったのか、拳が震えるほど強く握られる―――やめて!やめて!やめて!やめて!  
憎き敵を討ち滅ぼさんと小さな凶器が解き放たれた―――い、いや……いやぁ♥〜!!  
「えい!えい!こいつめ!こいつめ!」  
「う゛ぐぅ♥っ!ひ゛い゛ぃ♥っ!!う゛あ゛ぁ♥っ!!ひ゛ぎい゛ぃ♥っ!!!」  
 殴る度に、潮が飛び散る。少女の意識が明滅し、まともに人語を発することが出来ない。  
一度殴られると、淫核が倒れ恥丘に押し付けられる時と、反発して起き上がり布地で先端が擦られる時、両方でイってしまう。  
少女は調子を刻んで絶頂を繰り返した―――こ……れぇ……すご……いぃ……  
 愛液塗れになった男の子が、ぜいぜいと肩で息をする。元気なのは触手バイブばかり。  
何度倒れてもすぐに起き上がり、少女と男の子をそれぞれ別の意味で絶望させた。  
 埒が明かないと判断したのか、男の子は次なる策に打って出る。片手で腰布を捲り残った手を進入させ、めくらめっぽう弄った。  
ついに淫靡な戦いを主導していた手と、仇敵が邂逅を果たす。そのまま少女のクリトリスを、むんずと掴む。  
「♥っ♥っ♥っ〜!!!!!!!!!」  
「おねえちゃんから、はなれろ!!」  
 男の子は“わるいやつ”をやっつける為に思いっきり引っ張った。妹から受けた豆に対する淫虐に比べれば大した力ではない。  
しかし、純粋無垢な子供にひどいことをされているという異常な状況が、少女を情欲に狂わせる。  
少女が自分の体機能に無理をさせてでも厳守させようとしていた“ある指令”が効力を失う。  
―――だ、だめだ……もう……限界だ……  
「ふ♥あ♥あ♥あ♥あ♥あ♥あ♥〜!!!」  
 ぶっしゃあぁぁぁあああ〜!!  
 元来、男性に比べて女性の括約筋はか弱い。我慢に我慢を重ねた上での放尿は、終わることを知らなかった。  
噴き出した黄金シャワーは男の子の全身を洗い流し、地面に池を作った。男の子は驚いて手を離し、ぽかんと少女の顔を見上げている。  
 少女は恥じて目を固く瞑った。どんなに頑張っても決壊したダムは止められない。尿を垂れ流し続ける少女に、心無い野次が飛んだ。  
「あはははははは。すげぇすげぇ!あの女、イきながら派手にしょんべん漏らしやがった!!」  
「臭〜い……鼻が曲がりそう……人前でなに考えてるのよぉっ!この変態!!」  
 身を焼かれる羞恥の中で、なおも少女は魔法障壁を維持し続けていた。人々を助けるのが魔法少女の使命だ!負けるものか!!  
そのためなら、どんな恥辱にだって耐えてみせる!私は何があってもこの人たちを助けるんだ!!  
 少女は気合を入れるべく、かっ、と目を見開いた。不幸にも、自分の尿でびしょ濡れになった男の子と目が合ってしまう。  
気まずい沈黙が流れる。しょんぼり、うな垂れる男の子の頭に少女の贖罪の涙が降り注ぐ。  
 空気を変えようと口を開いたのは二人同時だった。  
「す、すまぬ……私のせいで……君は……君は……」  
「ああっ!ごめんなさい。ぼく、おねえちゃんのお洋服汚しちゃった……」  
 口にした内容も同じであった。少女と男の子は顔を見合わせて笑う。不思議な昂揚感に包まれ、少女の心の傷はそれだけで癒された。  
 
 素直な良い子だ。私も負けておられぬとばかりに敵を睨みつけた。オークたちは……大丈夫だ、まだ眠っている。  
しかし、ゴブリンたちの矢が尽きる様子はない。厄介な……ともかく、あと二人だ。この二人さえ救出してしまえば……  
 少女の真剣な眼差しを見つめていた男の子が声をかけた。  
「ぼくハンカチ持ってるんだ!お顔、拭いてあげるよ!」  
「あ?ああ……ありがとう……」  
 男の子が背伸びして、涙と汗に塗れる少女の顔を拭った。表情が緩み、口許が自然と綻んでしまう。  
しかし、少女の幸福は長く続かなかった。役目を果たしたハンカチが次なる奉仕先を見つける。  
「ここも、きれいにしてあげるね!」  
「えっ!?あ……きゃっふうぅぅうう!!」  
 男の子は布を少女の秘所に宛がうと、勢い良く擦り始めた。忽ちあそこは大洪水になる。  
 ごし!ごし!ごし!ごし!  
「あ♥あぁ♥ふぁ♥にゃぅ♥」  
 少女の甘い声は誰にも止めることは出来ない。柔らかい布で擦られる度に下の口が水分を補給する。  
時折、男の子の曲げた指が秘裂に喰い込まされ、軽くイかされてしまう。先程までとは正反対の優しい刺激に脳が混乱する。  
思わず口を吐いて出たのは彼を制止する命令でも、自己を戒める叱咤でもなく……  
「あぁん♥も……もっとぉ……や、優しくぅ……」  
 それは聴く者全てを蕩かせる淫蕩な鼻声だった。少女は自分自身の言葉に懊悩する。馬鹿な!お前は何を考えているのか!?  
こんな小さな子供に欲情したのか?恥知らずめ!!  
 男の子は少女の葛藤を知る由もなく、命に従った。心なしか、声が上ずっている。  
「こ、こうかな?これでいい?おねえちゃん?」  
「ふわあぁぁああ♥〜い、いいよぉ♥気持ちいいよぉ♥〜!」  
 じんわりと力強い波が体の奥底から押し寄せてくる。絶頂を繰り返した少女にとって、それは決して強い刺激ではない。  
しかし、陵辱し尽され、無理矢理幾度も果てさせられた淫らな体には、逆に新鮮だった。  
 慈しむかのような優しい感触……甘い誘惑が心を包み込み、少女は虜となる。  
小さな子供を自分の欲望の為に奉仕させているという背徳感や、戦いを忘れ快楽を貪る事への罪悪感は情欲を煽る香辛料でしかなかった。  
 なけなしの理性が削り取られる―――これ……は……ぁ……だ、だめだ!こんな……こんなこと許されない!!  
あぁ……そ、そんな……そんなに優しくぅ……優しくされたらぁ……お、おかしくな……  
「も、もっと下……はふぅ♥す、少しだけ……強くぅ……」  
「う、うん……わかった……こう?」  
 ほんの少しずれたが、そのもどかしさが何ともいえず心地よい。他者を信頼し、己が身を任せる……それは少女にとって未知の体験だった。  
自分の両手で弱いところを的確に衝き、快楽を貪る自慰では得られない、暖かな何かが溢れてくる。  
 それは愛と呼ぶべきものだったのかも知れない。少女は潤んだ瞳で男の子を見つめる。  
白磁の頬に朱が差し、上気していた。彼の小さな肩が上下し、荒い息を吐く―――ああ、君も私と同じなのか。  
「お、おねえちゃん……きもちいいの?」  
「う……うん……気持ち……いい……こ、これ……好きぃ♥」  
 少女が全てを曝け出し、秘唇が濃密な蜜を吐き出す。布が吸収しきれない大量の水分が、小さな手と淫らな秘所の隙間から零れだす。  
彼のハンカチは既に機能を失っていた。  
「あ、あれっ!?もうびちょびちょになっちゃった……」  
 淫靡な奉仕に耽溺する二人にとって、そんなことはもうどうでも良いことだ。男の子はそのまま濡れたハンカチを上下に動かし、擦り続ける。  
じゅぷじゅぷ、水音が響き、愛液が飛び散った。辺りが桃色の芳香に染め上げられ、二人は幸福感に包まれた。  
客観的には拙い愛撫に過ぎないが、それはSexと呼んで差し支えなかった。  
 『いつまでもこうしていたい』という願望が少女の心を支配する。しかし、無慈悲な運命は少女の甘えを許さなかった。  
悦びの涙で霞む視界で黒い影が動く。気絶していたオークが覚醒し、半身を起こした。まだふらつくのか、頭をぶんぶん振っている。  
闘う者としての本能が警報を鳴らした―――このままではいけない!流されてはならぬ!皆を助けるのだ!  
「気持ち……だ、だめ……もう止め……んっ♥は、離れ……離れなさ……い……わ、私は君を……守ら……」  
 自分に言い聞かせるように、言葉を紡ぐ。魔法少女としての使命感が情欲の炎に絶望的な闘いを挑む。  
だが、偶然という名の悪魔は、そんな少女の決意をことごとく嘲笑う。  
 
 少女の必死の叫びに男の子が、えっ?と顔を上げた。ぬるぬるした液体によって摩擦が殆どなくなった恥丘の上を、勢い余って拳が滑る。  
その先で傲慢に鎮座しているのはクリトリスだ。濡れ雑巾はそのまま暴君を擦り潰した。  
「♥っ――――――!!!!」  
 前触れの無い強烈な刺激に、成す術無く少女は翻弄され、不可視の壁が揺らぐ。理性が隅へと追いやられ、集中が途切れそうになった。  
水位が一挙に上昇し、崩壊へのカウントダウンが始まる。子宮から快い鈍痛が伝わり、暖かい泉がこんこんと涌き始める―――絶頂が近い。  
「ぼく、なんだか……へん……おちんちん……いたいよぅ……」  
「わ……わた……し……も……う……イ、イクぅ♥……あぁっ!?イっちゃ……」  
 意識が消し飛ぶ寸前、障壁にひびが入っていることに気付く。矢の雨は止みそうにない。残された理性を振り絞って、魔力を障壁に注いだ。  
 だめだ!だめだ!だめだ!それだけはだめだ!!ここでイったら戻れない!君を守れない!!だから……だから……  
理性の過半が消し飛び、最後に残された使命感が悲鳴を上げる。正義の執行者たる矜持が軋む。目から一筋の涙が伝う。  
 その時、少女は頬に柔らかなものが宛がわれるのを感じた―――え?  
「おねえちゃん、なかないで!」  
 胸の奥底から熱い何かが込み上げてくる。心の防波堤が決壊し、これまでにない巨大な波が押し寄せ、少女の雑念を全て洗い流した。  
待ち望んだ暴風雨が全身で荒れ狂う。  
「イク!イク!イクっ!!イっクぅ♥〜!!」  
 ぷしゃあぁぁああ!  
 男の子の全身が再び少女の色で染め上げられた。少女の瞳は歓喜に溢れ、滂沱の涙を流す。  
法悦で弛緩し、だらしなく半開きになった口から透明の粘液が垂れていた。だが、それでも少女は美しかった。  
直立するクリトリスが、たゆんと揺れる胸が、小刻みに震える尻が、蠢くクレヴァスが、女性としての悦びを体現していた  
 砕け散った魔力障壁の欠片が、桜の花弁の様に舞い散る―――神秘的な光景の中、彼は陶然と彼女を見つめ呟く。  
「お……ねえちゃ……ん……きれい……きれいだ!!」  
 少女の空っぽになった心が光で満たされた。呂律の回らぬ口で必死に問い返す。  
「わ……わらひ……きれ……い……?」  
「うんっ!すっごくきれいだよっ!!」  
 こんな惨めな私のことをきれいだと?君はそう言ってくれるのか?罪深い私を許してくれるのか?どうして?どうしてっ!?  
私はこんなに醜いのに!穢れているのに!心も体も壊れているのに!!  
 怪物たちの欲望の捌け口にされ続けた淫らな体、その奥深くに封じられた孤独な魂が泣き叫ぶ。  
「あは♥あははっ♥……しゅ、しゅきぃ♥〜!わ、わらひ……きみの……こと……らいしゅきぃ♥!!」  
 第二次性徴すら迎えていない未成熟な体、そこから抜け出そうと懸命にもがく無垢な魂が、それを優しく抱擁した。  
「うん……ぼくも!ぼくもおねえちゃんがすき!!」  
 二人は仮初めの契りを結ぶ。  
「ありがとう、君……」  
「ありがとう、おねえちゃん!」  
 二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから少女は嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。  
少女は幸福に溺れ、全てを忘れて男の子に体を預ける―――しかし、神が二人に祝福を賜ることは終ぞ無かった。  
「あ……れ……?」  
 男の子の両足が力を失い、ぐらりと揺れる。少女は咄嗟に重心をずらし、小さな体を抱え込んだまま仰向けに倒れた。  
男の子はなんだか吃驚したような顔をしている。無性に愛おしく感じて、ぎゅっと抱き締めた。  
男の子の背中に回された少女の指先が、硬いものに触れる―――なんだ?この感触は!?  
 触覚から得た情報が、脳内のデータベースと照合される。思考が答えを出すより先に、無意識が正解に辿り着いていた。  
少女の顔が蒼ざめる。う、嘘だ!嘘だ!嘘だ!こんなことって……  
 男の子の背中から矢羽が突き出ていた。  
 
 
『次回予告』  
 朝起きたら、以下の文章中にグロシーンが書かれてありました。きっと妖精さんの仕業に違いありません。  
とりあえずここで区切ります。よって、次も『宴』後編の後編。  
 別に何か他に理由があって、急いで投下したというわけではありませんのであしからず。  
 
 ふ、ふん!このSSのことなんて、あたしちっとも気にしてないんだから!!!  
某触手スレで寄生虫の話題が出てきたとき、いつネタが割れるかビクビクなんてしてなかったんだからね!  
祈るような気持ちで、こっそり別の話題を振ったりなんかしてないんだからね!!  
本当なんだからね!!!  
 

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