一日目 夜  
 
あの後、大泣きするサキを連れて秘密基地になんとか戻って来た  
他の道から皆が来るかもしれないと思ったけど…結局ここに来たのは僕達だけだったようだ。  
ユウは大きなため息を付く、これから一体どうしたら良いかを考えてはいるが、うまく纏らないでいた。  
 
訳がわからないまま突然来てしまった、この世界の情報が余りにも無さ過ぎるからである。  
どこに食料があるのか、人はいるのか、どんな動物が居て、どんな猛獣がいるのか、  
考えれば考えるほど不安になってくる。  
 
家を出る時に持って来た食べ物は、もう殆ど食べてしまった。  
 今思えば、もう少し先の事を考えて食べるべきだった事に気が付いたが、もう遅かった  
自分達は死んでしまうのだろうか?  
こんな知らない世界で…誰にも知られずに…  
そう考えてしまうと、今まで我慢してきた色んな思いが一気に涙となって溢れ出てくる。  
 
勇「家に帰りたい……お父さんとお母さんに逢いたいよぉ、ウッ…ウゥ…」  
 
サキは浅い眠りの中で兄の泣き声を聞いていた  
 
ユウ兄ちゃんがないてる、私と同じで怖くて、寂しくて、不安だから……?  
今まで泣かなかったのは私の為なんだよね  
ユウ兄ちゃんまで泣いたら私がもっと不安になるから、ずっと我慢してたんだよね。  
ごめんね、ずっと泣いてばかりで…  
私、これから余り泣かない様にガンバルから  
だから、もう…泣かないで…ユウ……兄ちゃ………  
 
兄のことを思いながらサキは深い眠りへと落ちていった。  
 
二日目 朝  
 
ユウはふと目を覚ました、そして辺りを見まわす  
テントの中からでもわかる位、外が明るくなってる  
いつの間にか自分は寝てしまっていた様だ、いい考えが出ないまま…  
だけど、いつまでもここには居られない、もう食べ物が無いからだ。  
 
とにかく、食べ物と飲み水をなんとかしないと  
あと、出来れば頑丈な家みたいなのが有れば…  
この世界が安全とは限らないのだから  
色々考えているとサキがのそのそと起き出した  
 
咲「おはよう、ユウ兄ちゃん」  
勇「おはよう、サキ……もう、平気か?」  
 
サキは明るく「うん」と答える、本当は平気な筈がある訳がないだろうに…  
だけど、昨日あれだけ泣いたから其れなりにスッキリはしている様だ。  
取り合えず僕達は残りの食べ物、ビスケット4〜5枚程度だが、それを朝御飯代わりにした  
そのあとサキと今後の事について話し合う  
 
勇「問題はこれから何処に行くかだな、食べ物や飲み水、それと丈夫な家か建物がある所が一番だけど、そんな都合の良い所なんて無いしな…」  
咲「う〜ん、食べ物とお水と丈夫な所…あっ、じゃあ学校に行こうよ」  
勇「僕達の学校は元の世界だろ」  
咲「ちがうよ、ガイジンが居るデッカイ学校の事だよ! この秘密基地の山をず〜〜と登って行けばガイジンが居る学校に着くんだよ」  
勇「あっ そうか、そうだった!お父さんに聞いた事が有るよ、たしか色んな国の人が来ていて、寮生活をしてるんだ やったぞ、サキ大人が居るんだ、僕達だけじゃないんだ、もしかしたら帰る方法だって知ってるかも、僕達、助かるぞ」  
 
子供達は早速、出掛ける準備をする。  
 
幼い兄弟は出掛ける前に自分達の持ち物の確認をした。  
 
ユウの持ち物  
・パチンコ(駄菓子屋とかで売ってる安物ではなく、本格的な物)  
・パチンコの玉(パチンコ屋の玉を父親から少しずつもって帰ってもらった物)  
・折りたたみナイフ(探検の時、通った所の木に印を付けるのに仕様)  
・爆竹一箱(イタズラに使っていた物、基地に隠していた)  
・ローソク1本と半分(基地に置いていた物)  
・ライター1個  
・タオル(汗ふき用)  
・水筒(お茶半分ほど)  
 
サキの持ち物  
・ハンカチ1枚  
・ポケットテッシュ1個  
・バンソーコ5〜6枚  
・水筒(お茶、同じく半分ほど)  
 
ユウはパチンコと玉を1個、取り出し外へ出る  
そして、3〜4メートル先にある木に狙いをつける  
強力なゴムの抵抗に逆らい、ギリギリと力一杯に引き、そして放った。  
玉は一瞬にして木に到達し、奥深くめり込んだ  
後ろで見ていたサキが「すっご〜い」と言って木に近づき玉がめり込んだ穴を覗いたり指を入れたりしていた。  
ユウはパチンコの威力に満足したようにうなずき(これならたとえ熊が相手でも勝てる)と思うのだった  
木の穴をほじっていたサキは急に誰かに見られている気がして辺りを見まわした。  
 
咲「何だろ?ユウ兄ちゃんじゃない 他に誰かいるの?」  
勇「何やってんだ?出発するぞ」  
咲「うん、今行く〜」  
 
気のせいだと思いユウのもとへと駆けて行った  
しかし、それを遠くから見つめる影が在った…気のせいではなかったのである。  
 
「アノ、チビメス…サキ、言ウ……カワイイ…オレ、サキ欲シイ…キメタ サキ、飼う……  
オレダケノ物…ダレニモヤラナイ……ヒャハッ」  
 
その影は幼い兄妹のあとを付いて行く  
そんな不気味な影が付いてきてる事などわからずに学校に向かって歩き出す幼い兄妹だった。  
 
秘密基地を出て何時間歩いただろうか?  
日は高く登り、お昼過ぎ位なっているようだ  
子供達の足では思ったより時間がかかり、  
水筒のお茶も残り少なくなってきた時にようやく目的の学校が見えてきた。  
 
勇「見ろよさサキ あともう一息だ、頑張れよ」  
咲「ねぇユウ兄ちゃん 私、思ったんだけど……」  
勇「何をだ?」  
咲「あそこ、ガイジンが居る学校なんだよね…私、エーゴわからないよ、ユウ兄ちゃんはわかるの?」  
勇「えっ…兄ちゃんもわからないよ……バッ、バカだな、わざわざ日本の学校に来るんだ日本語ぐらいできるよ、それに日本人の方が多いに決ってるだろ」  
咲「あっ、そっか〜良かった」  
 
ホッと胸を撫で下ろすサキだが、もう一つ気になる事があった……  
 
それは、朝からずっと誰かに見られている感じがしてならないことだった。  
(何だろう?気持ちが悪いな…)と思いながら、何気に後ろを振り向いた。  
すると、遠くの方でサキを見ていた謎の影と目が合った  
姿はハッキリとは分らないが、人の姿をしていて、異様に目が大きいのが印象的だった。  
 
咲「…ヒッ ヤダー、ユウ兄ちゃ〜ん」  
勇「どうした、サキ!」  
 
突然座り込んで叫ぶサキをユウは庇う様に立ち、反射的にパチンコを構えた。  
「あそこ……」とサキが指をさす方向には既に何も居なかった…  
 
勇「何も居ないじゃないか、サキ」  
咲「居たの、ホントに誰か居たの!」  
 
サキはこんな時に悪ふざけをするような性格じゃない事はユウもよく知っている。  
何よりサキのこの脅え方はウソや演技で出来るもんじゃない  
確かに何かが其処に居たんだ。  
 
勇「サキ、まだ少し距離があるけど、あの学校まで走れるな」  
咲「うん」  
勇「よし、行こう!」  
 
妹の手をシッカリ握り、ユウはその場を逃げる様に走り出した。  
それを少し離れた所からあの謎の影が見ていた…  
 
「アノ道具…キケン、オレ サッキミテタ……アイツ…ユウ、ジャマ コロス…ユウ殺ス、ソシタラ、サキ…オレノ物…」  
謎の影は静かに幼い兄妹を追いかけて行った。  
 

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