* * *
「あ、わりぃ、早川ちょっと待って」
昼飯の帰りに通りかかったカフェの前で足を止める。
「なんだお前、まだ食らう気か?」
「違うわ!いや、香子(かこ)に買ってってやろうかと思ってな」
ああ、なるほどな。女子社員がよく持ち帰りしてる事もある店だ。
「最近飲みにも行ってなかったからちょっと余裕もあるしな。それに……」
くくくっと耳まで赤くしてニヤついてやがる。要するにその後のお楽しみが目的か。つうかそのエロ
丸出しの鼻の下やめろ。見てるこっちが恥ずかしいだろうが。
「お前もマナちゃんに買ってってやれよ。うまくいけばエビタイどころかおつりが来るかもよ?」
「あー……そうだな」
いや、俺はエビタイは別に期待してるわけじゃねえぞ。マナにもたまには気の利いた事をと気が向いた
だけでだな……そういや最近はあれだな、美月(みつき)が夜泣きしやがるからすっかり……いや、そうじゃなく。
……それにしても甘い匂いのする店だな……入り口からこれかよ、俺こういうの苦手なんだよな……。
「えーっと、レアチーズとモンブランとザッハトルテ?とあと……あ、そのイチゴのやつ、あ、それ
じゃなくてそっちの、そのミルクレープってやつ。……あ、一応下さい」
なんだお前、意外とこなれてやがるじゃねえかよ!そういやこいつ順応性の高い男だったよな。つか、
保冷剤とかいるんか。
「早川お前は?」
「あ、いや、えっと」
「こちらのお客様お待たせしましたぁ〜。どれになさいますかぁ?」
「……」
* * *
「コージがこんなの買ってきてくれるなんて珍しー。美月のプリンもある!」
「ああ……あのな、マナ悪いんだが」
「なにその手」
「……」
* 〜回想〜 *
『あの……(くそう、わからん。どれが何やらさっぱり意味がわからん。八神のやつよく区別がつくな)』
『はい』
『(だー面倒臭ぇ!)こっからここまで全部一個ずつ……』
『は?あ、ハイ!』
『Σおいおま……どうすんだ!すげー種類あるんだぞここ!?』
『……(会社で食ってもらうか……)』
* 〜回想終了〜 *
「はい。仕方ないな、慣れない事するから……ねぇ美月?」
「あい♪」
ご機嫌の娘を横目に小遣いの追加を受け取る。くそ、ほんとに慣れない事はするもんじゃねえな、
と少しだけ後悔した。
情けなく財布に金を入れていると、ぴた、と背中にぬくい感触がする。
「……なんだ?」
「今月さあ、美月の冬服買いに行きたいから結構きついんだよねー」
嫌みか、おい。
「ならいらねえよ」
「いいよ、それは。そのかわり……」
財布から出そうとした札を押し戻し、背中にぎゅっとしがみついてくる。
「……足りない分はカラダで払ってよね……」
うふふ、と似合わねえ笑い方しやがって、真っ赤じやねえか。そっちこそ慣れない誘い方すんな。
……って飯口実に逃げんな、おい。――くそ、勃っちまうじゃねえかよ!
「……ま、いいか」
かわりにハイハイしてぴったり寄り添ってくる娘を抱き上げ頬を寄せると、きゃあと高い声で笑う。
「よし、飯前に風呂行くか美月」
「う〜」
「汗かいたからよく洗ってやってね」
「ああ」
マジで釣りが来るなこりゃ。
――今夜は寝不足覚悟になりそうだ。
「終わり」