燃え盛る夏の太陽に炙られた空は白く霞んでいた。暴力的な陽光は、もう夕方近くだというのに、
衰える気配がまるでない。風は凪ぎ、肌を焦がす熱気はむしろ強まっていると思えるほどだ。おそらく、
この煩わしい暑さは夜になっても消えることはないのだろう。明日も、来週も、月が替わっても。夏が終
わる、その時まで。
辰巳(たつみ)は縁側に面した畳部屋に寝転んで、ぼんやりと庭を眺めていた。左手にうちわ、右
手に食べかけの棒アイス。Tシャツの裾がめくれて腹が丸見えになっているが、それを隠す様子はない。
中学にあがったばかりの少年ならば、それも無理からぬことだ。ここが自宅で、いま家にいるのが彼一人
だとしたら、なおのこと。
「いや〜、あっついわね。死ねるわ。むしろ死んだわ〜」
耳をつんざく蝉時雨に、ふいに間延びした声が混じった。錆びた門扉があげるきしんだ悲鳴に続いて、
すーぱったん、すーぱったん、と気の抜けたサンダルの足音が近づいてくる。凶暴な夏の日差しの落と
す真っ黒な影が、庭先に伸びてきた。
「姉ちゃん、門しめてないだろ。『私たちが旅行中の間も、ちゃんと戸締りしろ』って、母さんたちに留守
番頼まれた時に言われたじゃん」
障子の陰からひょっこり突き出された笑顔に向けて、辰巳が間髪入れずに文句を言うと、『姉ちゃん』
と呼ばれた少女の表情がみるみるうちに曇っていった。
「いいじゃないのよ、別に。こんな田舎にドロボウはいないのよ。平気よ、平気。」
「バカ、そういう問題じゃないだろ」
「バカとはなによう。バカっていったほうがバカなのよ、バカ弟!」
ぶつくさと文句をいいながらも、『姉ちゃん』は間抜けな足音を立てて門扉へ戻っていった。その隙に、
辰巳は乱れた衣服をさりげなく整えた。しばしの間をおいて、錆びた音と、鉄同士がぶつかる重い音が
響いた。
『姉ちゃん』の名前は辰己(たつき)。辰巳とは五つも歳の離れた実の姉である。生まれてからずっと、
毎日顔をあわせている相手であり、お互いの良い部分も悪い部分も全部知っている間柄だ。時折ケ
ンカもするけれど、二人はおおむね仲が良かった。
「ほら、これで満足でしょ? あんたって、無駄に生真面目よね〜」
そう、二人は昔から仲の良い姉弟だった。それははたから見れば、仲が良すぎる、と言われるほどに。
「うっさい。姉ちゃんが緩すぎるだけだよ」
二人は、いつのころか恋をしていた。辰巳はたつきに、たつきは辰巳に。無論、そのささやかな恋心
はお互いにずっと隠し続けていたのだが、それが異常な恋愛だとわかっていても、心に芽生えた花を否
定することなど、できやしない。
買ってきたばかりの大ぶりのスイカを縁側において、「重かったのよ」と、たつきが首をかしげて笑う。屈
託のないその笑顔がたまらなく可愛くて、辰巳は思わず手にしたうちわで口元を覆い、赤らんだ頬を
隠した。
こらえられないほどの恋慕を昨晩、ついに告白したことを辰巳は思い返した。そのときの、はにかんだ
ようなたつきの微笑が、いま彼の目の前で見せている笑顔に一瞬重なる。
初めての恋、初めての告白。その許されざる恋が成就して迎えた、今日という日。
おそらく、今日、姉弟という一線を二人は越える。その予感に、辰巳の胸は狂おしく高鳴っていた。
「ねえ、あたしにもアイスちょうだい」
サンダルを庭に放ったまま、たつきが縁側をあがって部屋へと入ってきた。きつい陽光に半ばぼやけて
いた輪郭が、部屋のなかに落ちる影を境に明瞭となり、その姿を辰巳の目にくっきりと映し出した。
ふわりと波打ったセミロングの髪が、汗で首筋に張りついている。ピンクのタンクトップがぴったりと素肌
に密着しており、年齢のわりに生意気な身体の線を強調している。格好そのものは健康的だが、それ
がかえって悩ましい。辰巳の座っている場所から二歩ほど前で立ち止まり、たつきは静かに腰を下ろし
た。
「食いかけだけど」
逆光のなかに佇む姉の姿は、いつも顔を合わせている肉親の姿とはどこか違った。半身になって崩
したその姿勢は、わざとらしい演技にも見える。自分の顔に注がれる視線をまっすぐ見返すことができ
ず、辰巳は視線をそらして食べかけのアイスを差し出した。手を伸ばしたあとで辰巳は後悔したが、予
想に反してたつきは不満を述べることはしなかった。
「うん。じゃあ、貰っちゃう」
たつきが身を乗り出す気配がした。熱気と辰巳の唾液でほとんど溶けかけているアイスに、たつきは
躊躇せず唇を寄せると、四つんばいの姿勢のままそれを咥えた。
緩くなったシャーベットをほおばる音に、ときおり溶けた汁をすする水音と、舌なめずりの音が混じる。
指先にかかる生暖かい息がくすぐったくて、辰巳は盗み見るように顔をあげた。
「んっ……」
鼻にかかった吐息。指のすぐそこにある、濡れた唇。アイスの棒をしゃぶりながら、姉は辰巳の目をじっ
と見つめていた。うっすらと細められたその瞳が常ならぬ艶を含んでいて、辰巳は思わずアイスの棒から
手を離しそうになった。
「……美味しい?」
生唾を飲み込み、震えそうな声をなんとか抑えて辰巳は尋ねた。ひどく緩慢な動作で、たつきはア
イスの棒を口から離していく。木の棒に染みた汁まですすろうというのか、頬が何度かもごもごと動いた
あとで、たつきは名残惜しそうに顔を遠ざけた。すぼめた桃色の唇に細い糸がひいて、音もなく途切れ
る。
「たっつんの味がする」
白い喉を鳴らしてアイスを飲み下したたつきが、口元を抑えたまま答えた。口の形は見えずとも、い
たずらっ子めいた上目遣いとその声音から、彼女が笑っていることを辰巳は察した。そして、そんな目を
しているときに、彼女がなにを考えているのか、ということを辰巳は知っている。この目は『からかう』ときか
『お願い』するときの目だ。もしくは、その両方――。
「そう。それじゃ、僕も姉ちゃんの味が知りたいな」
我ながら頭の悪い発言だと辰巳もわかってはいたが、狂おしいほどの酷暑と、鼻腔をくすぐる甘酸っ
ぱい香りが脳を蕩かしていた。とめどなく溢れる唾を飲み下す音は、間違いなくたつきの耳にまで届い
ているだろうが、それを気遣うだけの余裕は、もはや辰巳には残されていない。
「うふふ、なにそれ。我ながら頭の悪い発言だ、とか思わないの」
「……」
心のうちを見透かされて、辰巳はかっと顔を赤らめた。なにか言い返そうと口を開いたその瞬間、たつ
きの唇にその口は塞がれていた。
押しつけられた唇の柔らかな感触が離れると、たつきの舌が辰巳の唇を舐めあげた。せかされている
気がして、辰巳が慌てて口を薄く開くと、間髪いれずにたつきの舌がぬるりと侵入してきた。
口のなかをねぶりまわす舌を辰巳が追いかける。歯列をひとつひとつなぞりあげていた舌に舌を絡ま
せ、姉弟は吸い尽くすように互いの唇を貪りあう。
「はあ、はぁ……、んっ」
唾液を吸いあい、奪いあいながら、姉弟はぐっしょりと汗で濡れた身体を押しつけて、畳の上でもつ
れあった。肌と肌を隔てる薄布すら煩わしいとばかりに、互いの衣服を無理やり剥ぎ取れば、二人は
身を焦がすほどの情欲に煽られて、ますます強く相手の身体を求め始めた。
「ん……、ちゅぷっ……ぷはぁ」
息をするのも忘れていたのだろう。だらしなく舌を突きだしたまま唇を離したたつきの口から、荒々しい
吐息が漏れた。薄暗い部屋のなかでもそれとわかるほど唇は濡れ光っており、口腔内から溢れた二
人分の唾液がたつきの首筋から胸にかけてまでをべったりと汚している。
「いつの間にこんな……脱がしてんのよ。バカ。スケベ」
悪態をつきながらも、たつきは晒された素肌を隠そうとはしない。情欲をそそる乳房が荒れた呼吸に
あわせて悩ましげに揺れる。汗でまんべんなく濡れた白い肌は、むせかえりそうな牝臭を纏って否応に
も牡の肉欲を昂ぶらせる。辰巳は欲望に染まった表情を隠そうともせず、実の姉の裸身に見入ってい
た。
「姉ちゃん、姉ちゃん……いいんだろ? 僕……っ」
「バカ、そんなにがっつかないで……よ」
畳の上にたつきを押し倒し、手に収まりきらない豊満な乳房に辰巳は夢中でむしゃぶりついた。たわ
わに実った果肉は驚くほど柔らかく、辰巳の指に合わせておもしろいように形を変えていく。薄い桃色
に色づいた乳首を口に含みながら、片方の乳肉をせわしなく揉みしだくうちに、たつきの荒い息遣いに
次第に艶が混じりはじめた。
「あっ……そんな、おっぱいばっかり、赤ちゃんみたい……ガキね……」
辰巳の口の周りも、たつきの両の乳房も、唾液と汗ですでにねとねとだ。挑発されて憤ったのか、辰
巳は胸をもてあそぶのをやめると、唇を上気しきった姉の身体中に這わせていく。
「すごい……姉ちゃんの身体、すごいよ……やわらかくて、キモチいい……っ」
実の弟に欲情され、その身体を求められていることを改めて知り、たつきは身を震わせて陶酔の吐
息をこぼした。恐るべき背徳感と、それを上回る倒錯の快楽が心と身体をどろどろに溶かしていくのを
感じる。熱っぽくささやく弟の頭をかき抱きながら、たつきもまた、辰巳の身体をまさぐっていた。
「たっつんも、すごいよ……こんなになっちゃってる……ほら、ねえ……わかる?」
「ああっ」
限界まで張りつめていた肉茎をいきなり触れられて、辰巳は身体を震わせて上ずった声をあげた。た
つきの細くしなやかな指が、形を確かめるように幼さの残る辰巳の肉茎を撫でまわし、しごきあげる。
若々しい怒張は先走りの汁でしとどに濡れそぼっており、たつきの手が動くたびににちゃにちゃといやらし
い粘液の音を立てる。
「まだガキんちょのくせに、おちんちんこんなにしちゃって……悪い子……」
「……ああっ、あうう、姉ちゃ、ん……っ」
たつきの肉づきのいい太ももが腰に回され、辰巳は腰をひくこともできない。たどたどしく力も弱い姉
の愛撫はただこそばゆいだけで快感をもたらさないが、それが焦らされているようで、ふつふつと性感が
高まってくる。
「あは、たっつんの顔、かわいい……。このまま、出せそう? 出しちゃおっか? それで、もう……」
「……や、やだっ。入れたい……セックス、したい……」
たつきが言い終える前に、辰巳は声を荒げて首を振った。汗の雫が飛び散り、すでに湿りきっている
畳に新たなしみをつくる。あまりに露骨な辰巳の言葉に、たつきの表情がわずかに凍りついた。
「本当にいいの……? 姉弟なのよ、あたしたち……」
「……」
「戻れなくなる……のよ……」
「……いいんだ。姉ちゃんとなら、姉弟でなくなっても、構わない」
二人の瞳に宿った理性の光は、夏の熱気に浚われて、一瞬にして消え失せた。がくがくと震える身
体を抑えるように、二人はきつく抱きしめあうと、もう一度だけキスをした。
蝉の鳴き声がひどく遠くに聞こえる。竿竹屋ののんきなテープ音がゆっくりと近づき、そして遠ざかって
いく。全ての音が、現実感を持たない。まるで別世界の音のように、全てが遥か彼方の物事に思えて
くる。
畳の上に仰向けに横たわったたつきは、恥ずかしげに脚を開いた。かろうじて腰が入る程度の隙間
に、辰巳は身体をよじって割り込んでいった。初めて見る異性のそこは、まだ子供である辰巳には衝
撃的なものだったらしい。さっきまでの威勢は姿を消し、おどおどと彼は姉の顔色を窺った。
「ここ……? ここに入れればいいの……?」
「そう。たぶん……」
たつきはそっぽをむいたまま、見もせずに言った。顔を腕で隠しており、表情は見えない。
肉色の秘裂は濃い影のなかにあってもわかるほど、濡れきっていた。恐る恐る辰巳が指先で撫でま
わしてみても、たつきはときおり痙攣したように震えるだけで、声もたてない。
卑猥とも奇怪ともとれる秘裂に、意を決した辰巳は肉茎の先端をあてがった。
「あっ……」
「あれ、入ら、ない……入らないよ……」
押しこもうとした肉茎は、肉びらをなぞりあげただけで空振りに終わる。粘膜同士がこすれて、痺れる
ような快感が背筋を駆け登り、あわや精を吐き出しそうになったのを辰巳は懸命に堪えた。
二度、三度と続けて必死に性器をこすりつけるが、どこに挿入すればいいのか、見当もつかないのだ
ろう。虚しく腰を空振りし、半べそをかいた辰巳は助けを求めてもう一度、姉の顔色を窺った。
「……ほら、ココ。開いておいてあげるから、はやく……」
ため息と共に、たつきは脚の付け根をそっと指で引っ張った。つられて、閉ざされていた肉の割れ目が
かすかに広がる。すかさず腰を進めると、辰巳は先走りの雫を浮かべた肉茎をぐっとあてがった。
「あたしだって初めてなのに、なんでこんなことまでしてあげないとダメなのよ……バカ」
「ご、ごめん……」
ゆっくり、ゆっくり、辰巳は肉茎を挿入していった。包皮がめくれて、ピンク色の亀頭が肉びらとこすれ
あい、ぬめった感触を伝えてくる。本当にこんなモノが入るのだろうかと心配になるほど、汚れを知らな
いたつきの肉穴は狭く、窮屈であった。
「はっ、ああぁ……!」
背筋をぴんと張って、白い喉を晒したたつきが、悲鳴とも嬌声ともとれる鳴き声をあげた。戸惑った辰
巳は少しばかり腰を進めるのを止めたが、すぐに思い直し、ひといきに肉茎を根元まで埋めていった。
「すご……い、こんなのって……うあぁ……」
姉を気遣う理性は、生まれて初めて味わう肉穴の快楽に塗りつぶされた。きつかったのは最初だけ
で、その奥に秘められていたのは熟れ落ちんばかりの柔らかな痴肉だった。
ぬかるんだ肉襞が、一瞬前まで童貞だった肉茎にねっとりと絡みつき、精を搾り出そうとまとわりつい
てくる。少しでも腰を動かせば、すぐにでも射精してしまいそうになるほどの快感に、辰巳はただただ奥
歯を噛みしめて耐えるのが精一杯であった。
「……ぁ……はいって、る……たっつんのが、お姉ちゃん……に、はいっちゃってるよう……」
熱に浮かされたように、たつきが乱れ吐息とともに呟いた。繊細な髪の毛が汗に濡れた肌にはりつい
ている。軽く握った拳を口元にあてがい、濡れた視線を辰巳に……実の弟に送っている。だがそれは、
弟を見つめる姉の瞳ではなく、男を見つめる女の瞳であった。
「ねえ、あたしは大丈夫だから、動いて……たっつんの好きにして、いいんだよ……?」
その言葉を合図に、辰巳のなかで、なにかが切れてしまった。理性など保っていられようか。血を分
けた姉があられもない姿を晒して、自身の欲望を受け入れているのだ。そればかりか、はしたないおね
だりまで口の端にあげているのだ。
辰巳は弾かれたようにたつきの太ももを両脇に抱えると、強引に脚を押し広げ、その身体に覆いか
ぶさっていった。
「ふあああぁぁ……っ!」
嬌声が誰もいない家中に響く。いままで聞いた事もない姉の潤んだ声音に、脳髄が犯されていく。
ぬっちゅぬっちゅといやらしい粘着質の音をたてながら、辰巳は肉茎を何度も何度も姉の肉穴のなか
で往復させた。腰を引けば生温かい肉襞が敏感なカリ首をなぞりあげ、腰を突けばぬかるんだ痴肉
全体が幼い肉茎を揉みあやす。亀頭が空気に触れるほど抜きだせば、きつきつの秘唇が肉茎を逃す
まいと夢中で吸いついてくる。
テクニックもなにもあったものではない。ただただ牝を犯す悦びに溺れ、辰巳はがむしゃらに腰を振りた
てた。もっと優しくして、と懇願するたつきの表情が、声が、逆に嗜虐心を煽った。もう止まらない。
「ああっ、ああああっ、キモチいいっ、いいよ、姉ちゃん……うああああっ」
突き上げるたびに、重たげな乳房がゆさゆさと揺れる。辰巳は暴れまわる乳肉をめいっぱい握りしめ
ると、固く勃起した乳首を舐めしゃぶり、吸いたてた。とたんに、肉茎を締めつけていた痴肉がきゅっとす
ぼまり、辰巳は強まった快感に耐えられず、先走りに混じって薄い精液を少しだけ膣内に漏らした。
「いた、い……! たっつん、痛い……よっ、やめて……ひあ、ぅ!」
辰巳の背中に爪を立てながら、たつきが息も絶え絶え口を開いた。だが、自分でも何を言っている
のかわからない、けだものじみた唸り声と、荒々しい息しか辰巳の口からは出てこない。口からあふれ
出したよだれがたつきの顔や胸にしたたりおち、すぐに汗と混じって白い肌の上を流れていく。
「姉ちゃ……出る、ああっ、ね……たつき、出る……よ……! うああっ……たつき、たつき……!」
射精の予感を口にすると、たつきは狂ったように首を振った。のしかかった辰巳の肩をどかそうするが、
その手は震えて力が入っていない。肉と肉がぶつかりあう音が響き、ぐちゅぐちゅと淫らな水音がそれに
絡む。柔肉をかき回していた肉茎が膨れあがり、牡の精を求める肉壷が、いきりたったモノを本能のま
ま扱きたてる。
「たつき、あああっ、ぅああああっ!!!」
欲望の赴くまま姉の肉体を貪っていた辰巳は、最後に一度だけ大きく腰を打ちつけると、それまでの
激しい動きを止めて、ぶるぶると身体を震わせた。
「やっ、ダメ……抜い…………て……お願い、ダメ…………っ」
泡だった結合部から二人の体液がとめどなく溢れでて、畳の上にマーブル模様の水溜りを作っていく。
何十回も痙攣した肉茎からは信じられないほどの量の精液が放たれ、たつきの膣肉の隅々まで蹂躙
していった。
「バカ……。あんたって、いっつもそう。あたしを困らせることばかり……」
「ごめん……」
糸が切れた人形のように。横たわった姉の肢体の上に、辰巳は崩れ落ちた。責めたてて赤らんだ乳
房の合間に顔をうずめると、早鐘を打つたつきの鼓動が聞こえてきた。
どちらも、ぴくりとも動かない。酷暑のなか、水分も取らずに性交に耽っていたのだ。先ほどまでの狂
乱じみた交わりの余韻に浸っている余裕もなく、二人は精も魂も尽き果てていた。
「なんで謝るの……バカ……」
「……ごめん」
胸のなかで喘ぐ辰巳の髪を、たつきはまるで小さな子供をあやすように梳いていた。
蝉の鳴き声はいつのまにか、ヒグラシの鳴き声に代わっていた。哀愁を誘うその鳴き声がどこから聞こ
えるのか無性に気になって、たつきは気だるげに首を庭に向けた。西日が差し込み、濃く長い影が部
屋のなかにまで伸びてきている。鳴き声がふいに途切れた。
「姉ちゃん」
「……なに。『たつき』って呼び捨てにしないの?」
辰巳は重たい身体をあげると、疲れきった息を吐きながらたつきの横に寝転んだ。その目が涙で赤く
なっていることを、たつきは気づいている様子だが、彼女はそのことをからかわなかった。
「僕たち、もう姉弟じゃないのかな……」
「……」
二人の視線が交差した。驚くほど近くに、まだあどけなさすら残る年上の少女の……いや、最愛の
姉の顔がある。緩く開かれた無防備な唇は、辰巳の問いに答えない。
ただ見つめ続けられることが息苦しくて、辰巳はそっとその唇に唇を寄せた。しかし。
「……あんたは、どうしたいの。お姉ちゃんにお姉ちゃんでいて欲しいの? それとも……」
触れ合う直前に、手で遮られた唇。捉えて離さない、たつきの真摯な視線。こわばった唇を噛みし
めて、辰巳は口にすべき言葉を探した。――いったい、自分は姉に対して何を望んでいたのだろう。そ
して、何を望んでいくのだろう。答えは間違いなく心のなかにあるはずなのに、その答えの形が定まらな
い。
「僕はバカだから。どうしたいかなんて、わからないよ。ただ……」
「ただ?」
遮っていた手をつかみ、辰巳はたつきに口づけをした。情欲に身を任せての、淫猥なそれではない。
それはただ触れ合うだけの、ささやかな口づけだった。
「ただ、ずっと仲良くしていたいだけ。今までどおりに。今まで以上に……」
伏せたたつきの目じりに涙が一雫浮かんで、静かに流れ落ちた。指と指を絡め合い、どちらからとも
なくもう一度、二人は小さなキスをした。溢れた涙が頬を伝って落ちて、口のなかに溶けていく。
「……バカね。お姉ちゃんを口説いて、どうするつもりよ……」
「ごめん……」
燃え尽きる夕の太陽に炙られた空は茜色に染まっていた。暴力的な陽光は、夕暮れ近くになって
ようやく和らいできた。風は凪ぎ、肌を焦がす熱気だけは未だ弱まっているとは思えない。おそらく、この
煩わしい暑さは夜になっても消えることはないのだろう。明日も、来週も、月が替わっても。夏が終わる、
その時まで。