とある、いつもの朝。  
「それじゃ鈴音さん、行ってきますっ」  
「はい、行ってらっしゃいませ、陽一さま」  
 鈴音さんに見送られて、元気に家を出る僕。  
「あ、そうだ」  
 思い出したことがあって、僕は立ち止まった。  
「ごめん、言い忘れてたことがあった」  
「はい?」  
「その……今日は大学の仲間と飲み会があるから、夕飯はいらないです」  
 申し訳なさそうに言うと、鈴音さんは笑顔で  
「そうですか。私の事は気になさらずに、御学友の皆様と楽しんできてくださいね」  
「ん〜……やっぱり、出来るだけ早く帰ります」  
 鈴音さんはちょっと苦笑を浮かべた。  
「分かりました。では、気をつけてお帰りくださいね」  
「はい、じゃあいってきまーす」  
 早く帰ると言ったとき、鈴音さんちょっと嬉しそうに見えた気がした。  
 
 
 それから……  
 二次会を断り、ほろ酔い気分で家路につく僕。  
 良い具合にアルコールが回っているものだから、しょーもないことばかり考えてしまう。  
 まあ、考えることといったら鈴音さんの事ばかりだけど。  
 ……鈴音さんて、お酒飲めるのかなぁ……。  
 昔話で、妖怪がお酒を飲んで酔っ払ってるうちに退治  
 なんてのを読んだ事があるから、妖怪もお酒に酔うとは思うけど……。  
 ……どうなんだろう?  
 
「……」  
 
 ……確かめたい!!  
 いや、別に、決して、鈴音さんを酔わせて不埒な行為をしようなどとは思っておりませんですよ。  
 ただ、ちょっと酔って頬を赤く染めた鈴音さんが見たいだけですよ。  
 そんでもって、ちょっとガードが緩くなった鈴音さんが見たいだけですよ。  
 そんでもって、そんでもって……  
「……」  
 うへへへへぇ〜〜♪  
 バンバンとすぐ横にある薬局のカエルさんをぶっ叩く僕。  
 アルコールが脳みそを侵食しちゃったようです。  
 うん、そう、アルコールのせい、お酒のせい、お酒って怖い怖い♪  
 僕は、鼻歌交じりにスキップしながら、途中にあるコンビニでお酒を買い込むのであった。  
 
 
 そして……  
「ただいま戻りました〜」  
「お帰りなさいませ、陽一さま」  
 鈴音さんが笑顔で迎えてくれる。  
 はあぁ〜、いつ見ても良いなぁ……。  
 待っててくれる人がいるって、すごく心が安らぐ。  
 ひょろひょろと部屋に上がると、足元がふらつき座り込んでしまう。  
「あらあら。いまお水をお持ちしますね」  
「は〜い。ありがとうございます〜」  
 鈴音さんが持ってきてくれたお冷を一息に飲み干す。  
「はぁ」  
 アルコールで熱くなったお腹に染み渡ります。  
 鈴音さんは、そんな僕のとなりにちょこんと座ってるんだけど。  
「あら?」  
 鈴音さんが、僕の買ってきたビニール袋に気づいた。  
「陽一さま、こちらは冷蔵庫に……」  
「鈴音さん」  
 僕はぎゅっと鈴音さんの手を握る。  
「はい」  
 にっこりと鈴音さんが僕を見つめる。  
「鈴音さんと一緒にお酒が飲みたいですっ」  
 酔っているせいか、真っ正直に言う僕。  
「ええ、では明日に……」  
「今がいいですっ」  
 酔っ払いは強引だ。  
「でも……陽一さま、もう大分お酒をすごされて……」  
「だいじょうぶです、全然へいきですっ!!」  
 ひしっと鈴音さんに抱きつく。  
「飲みたいです、飲みたいですっ、鈴音さんとお酒が飲みたいですっ!」  
 ついでに、鈴音さんの豊満な胸にすりすりとする。  
 つくづく酔っ払いは性質が悪い。  
 鈴音さんは困ったような苦笑を浮かべた。  
「もう、しょうがないですね……それではちょっとだけですよ」  
 ハイホゥ♪  
 
 そして、  
「さ、陽一さま、どうぞ」  
 鈴音さんにお酌をしてもらう。  
 トクトク、と音を立ててコップに注がれるお酒(ちなみにジュース系の)  
「はい、鈴音さんも」  
「はい、いただきますね」  
 今度は僕が鈴音さんにお酌をしてあげる(ちなみに、度数高めの)  
「それじゃ、乾杯」  
「あ、はい」  
 軽くコップをくっつけてから、二人同時に口をつける。  
 鈴音さんは  
「……」  
 スルスルと、簡単に飲み干してました。  
「ふぅ……美味しいです」  
「……」  
「……何か?」  
「あ、ううん」  
 僕も鈴音さんに倣って、一息に飲み干す。  
 ……正直、キツイです。  
「さ、陽一さま、どうぞ」  
 すごぉく楽しそうに僕のコップにお酒を注ぐ鈴音さん。(ちなみに、度数相当高め)  
「……す、鈴音さんもどうぞ」  
 僕も鈴音さんにお酒を注いであげる。(度数、一番高いの)  
 そして、  
「……ふう」  
 先ほどと同じく、スルスルと簡単に飲み干してしまう鈴音さん。  
「……」  
 ああ、見てる、鈴音さんが僕を見てる、期待に満ちた眼差しで。  
 あの……ひょっとして……僕、やばいですか?  
「……」  
 ああっ、鈴音さんが悲しそうな顔をしてる。  
「……飲んで、くださらないんですか?」  
 って訴えかけてますよ。  
「いただきまーす」  
 腹を括って、飲み干すのでした。  
 
 結局  
 鈴音さんが軽く飲み干すたびに、  
 僕もそれに倣って一気に飲み干すものだから  
「……」  
 あは〜……身体がフラフラする……  
 視界がグルグル回って……  
「陽一さま、どうぞ」  
 あはは、鈴音さんが三人もいますよ〜  
「ていうか、ごめんなさい、ぼく、もうだめです」  
「……」  
 鈴音さん、ニコニコしてます。  
「ごめんなさい、本当にごめんなさい。  
 鈴音さんにおさけ飲ましたらどうなるかなぁ〜って……」  
「……」  
「ほんのできごころだったんです……」  
 鈴音さんが小さく笑った。  
 そうしてずいっとすぐ目の前にまで顔を寄せて  
「陽一さまの考えてることなんて、お見通しですよ」  
 鈴音さんがくすくす笑っている。  
「陽一さまはえっちですから」  
 あうぅ〜……居たたまれないです  
「じゃ、じゃあ……」  
「ダメです。まだ許してあげません」  
 
 鈴音さんが今さっきお酒を注いだコップを持って  
「最後の一杯、飲み干したら許してあげます」  
「……もう、ムリです……」  
「これでも……ですか?」  
「ぅぁっ!?」  
 鈴音さんが、僕をぎゅっと抱きしめる。  
 すぐ目の前に妖しい笑みを浮かべる鈴音さんがいて  
 鈴音さんがすっとコップのお酒を口に含み  
「……ん」  
「ん……んんっ!?」  
 温くなったお酒が口の中に流し込まれる。  
 ついでに鈴音さんの猫舌が唾液がクチュクチュと僕の口を掻きまわして……  
「ふぅ……」  
「……」  
 こうして、僕は轟沈してしまったのでした……。  
 
 
 次の日。  
「おはようございます、陽一さま。起きてください」  
「……頭痛いです」  
「飲みすぎですね」  
「……気持ち悪いです」  
「二日酔いですね」  
「大学、休み……」  
「ダメです♪」  
 鈴音さん、ニッコリ。  
 鈴音さんはやっぱりきびしい人です……。  
 半べそかいて、死にそうになりながら、僕は大学に向かうのでした……。  
 

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