「どうして………?」  
男の言葉に耳を傾ける事すらせずに彼女は背中を向けた。  
突然の別れの言葉。  
理由を聞いても彼女はただ瞳を伏せるだけで答えを返してくれなかった。  
「なんで突然そんな事をいうんだよ?!理由ぐらい教えてくれたっていいだろ?!」  
「答える事なんて………ないもの」  
「そんなんじゃわからない!別れるって………いなくなるってどういう事だよ!」  
腕を掴んで無理矢理振り向かせる。  
揺れる瞳。何かを訴えるように彷徨っているがその『言葉』はわからない。  
何も、聞こえない。  
「好きだって………僕の事愛してるって言った癖に!」  
柔らかい笑顔で、何処か照れた顔で何度も囁いてくれた言葉。  
「私は………」  
綺麗な声。透き通るような、柔らかい声が聴けなくなる。  
もう二度と。  
この腕(て)を話したら。  
「………許さない」  
掴んだ手に力を込め、一気に引いた。勢いのまま彼女の身体が床に崩れ落ちる。  
がたん、と何かが倒れた音が聞こえたけれど、そんなもの気にもならなかった。  
見える物はただ一つ。目の前の彼女だけ。  
そして、彼女がいなくなる。その事実だけ。  
「僕の事、嫌いになったんだ?それとも他に好きな男でも出来た?」  
「………っ………」  
彼女の細い身体を上から押さえつけ、耳元で囁く。  
肺が圧迫されて苦しいのか、声にならない吐息が唇から零れる。  
「でも、あげないよ。キミは………僕のものだ」  
 
愛してる。  
誰よりも。  
本当なら幸せにしてあげるはずだったのに。  
あの柔らかい、大好きな笑顔を見ていられるはずだったのに。  
だけど。  
「………ぁ」  
苦しそうに涙を浮かべて、彼女が視線だけを向けてくる。  
何かを訴えるように。  
でもそれに気付かない振りをして彼女の服を引き裂いた。  
他の誰かのものになるのなら  
この腕の中からいなくなるというのなら  
 
それならば、壊してしまえばいい。  
 
「ゃ………いや………ぁっ!」  
首を振って必死に逃げようとする彼女を押さえつける。  
今まで優しく抱き締めた事しかない、その細い身体を力任せに抱き寄せた。  
痣になっても構わない。残らない傷になればいい。  
それでも。  
「………愛してるんだ。キミだけを」  
その言葉だけを繰り返す。  
 
 
 
 
力任せに身体を開かれて、悲鳴を上げそうになる。  
無理矢理に彼の想いを埋め込まれて。  
引き裂かれそうな痛みに呻きながら。  
そうして見上げた彼の瞳は酷く傷付いていて、そうさせたのは自分だというのに酷く悲しかった。  
この痛みは当然の報い。優しかった彼を追いつめた。  
でも。  
別れを告げたのは  
貴方の元から去ろうと決意したのは。  
 
「いや………ぁ、あぁぁっ!!」  
 
悲鳴を上げながら、それでも震える手で彼の腕を掴んだ。  
それは伝えられる事のない、もう届かない、『愛の言葉』。  
 
 

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