桃太郎伝説と大江山伝説を分けた話。
実は女だった桃太郎は、鬼の首領である酒呑童子に日毎犯され、その術で身体を鬼に変えられていく。
鬼は忌むべき化け物だと教えられて育った桃太郎は、死ぬより辛い地獄を味わう。
そこへ、酒呑童子の息子、茨木童子が現れて言う。「人間に戻してやる」と。
実は、彼は人間と鬼のハーフで、幼い頃は人里で育ったため、身体のほとんどが人間。
酒呑童子に鬼の里へとさらわれてきてから、鬼の妖術を習得したにすぎない。
酒呑童子の術を逆に応用すれば、即ち桃太郎を抱けば、人間に戻してやることができるだろう、と。
しかし、桃太郎は殺気を漲らせて叫ぶ。
「黙れ化け物!これ以上、鬼畜生に身体を汚されてなるものか!」
人里で、偏執的なまでに鬼への憎しみを叩き込まれた桃太郎にとって、茨木も酒呑童子と同じ、
化生にすぎなかった。化け物に情けをかけられるぐらいなら死ぬとまで、彼女は言った。
「ならば好きにせよ―――俺も、そなたを好きにする」
無理矢理に彼女を押し倒した茨木の目が、悲しみに染まっていたことを、桃太郎は知らない。
遠い日、大江山のふもとの人里。あどけない童が二人、じゃれ合うようにして遊んでいる。
『おおきくなったら、桃をお嫁さんにしてあげるね』
『あい、いらあぎ』
『“いばらぎ”だよ、桃』
『いらら、ぎ?』
少年は、舌の回らぬ少女の幼さに苦笑する。今の茨木の口元にも、似た微笑があった。
分かるはずがない、あの頃、桃はずっと幼かった。まして鬼の―――化け物の姿になっているものを、
妹背を誓った幼馴染と、気付くはずがないのだ。
行為の後、見る間に人の形相へと戻っていく桃太郎の額に口づけ、茨木童子は酒呑童子の庵へと
向かう。人里での生活を奪われたことも、鬼の首領の息子だからと無理やり鬼に変えられたことも、
父親と思えばこそ許してきた。だが、もはやこれまでだ。父は―――あの男は、汚してはならないものを
汚した。