主人公はごく普通の……魔法使いの子として生まれた少年。
彼は修行のため異世界へと赴き一般人として学園に潜入しています。
しかしそんな彼も一人の少年。
青春もあれば苦難もある、当然恋もあるんです。
そう、その相手が学園の人気者の先輩の少女だったとしてもです。
実は彼には彼女に恩があるのです、あれは忘れもしません、初めて魔法界から人間界へ赴いた時の事。
当時彼が初めてその世界へ行った時は彼はまだ半人前でした。
当然迷子になります、犬に追いかけられます、大人からはどこの家の子と聞かれます。
色々慌しくもありましたが何とかその全てを切り抜けました。
しかし幼い彼には心細さもあったのです。
とぼとぼと歩いていると公園に辿り着きました、そしてベンチへ座ります。
今頃少年の母親と父親はどうしているでしょうか、そう考えると会いたくて仕方がありません。
けど彼は半人前、まだ修行が残っています、けどけど心細い心は止められません。
じわ…と涙が浮き出てしまいます、そうそんな時でした。
大丈夫?と彼より少し年が上だろう少女の声で優しく声をかけられたのです。
顔を上げると少女が目の前に立っていました、そしてハンカチを差し出しています。
どうしていいか迷っていると辛い事があるんだよね、でも男の子だったら挫けちゃ駄目。
たとえ泣いて俯いてもまた涙を拭いて前を見なきゃ。
だからもう少しがんばってみようと言う母性的な少女の笑顔を見ていると顔が赤くなっていきました。
そしてムクムク勇気が沸いて来たのです、そうだ、母さん達だって見てるんだ、ここで僕ががんばらなくてどうすると。
いつの間にか涙は止まっていました、
少女から差し出されたハンカチで涙を浮くとありがとうと礼を言ってこのハンカチは洗って返すからと箒に乗って飛び去ってしまいました。
後々思い返すともう少し丁寧に言っておけばよかったとか大体向こうはもう忘れているだろうとか不安もぎっしりです。
そして今、学園で再び出会ったのは美しく成長したあの少女だったのです。
あの時一目惚れの様に慰められて以来少年は少女と出会うのを楽しみにしていましたのです。
ハンカチも守りのように大事に持っているほどです。
あれから成長して見違えるように一人前となった少年は一人前らしく任務を受けました。
それは誰かを不幸にする事。
元来精神が優しい少年には想像も出来ません、せいぜいが意地悪な罠を仕掛ける事ぐらいでしょうか。
そんなある日でした、その愛して止まないはずの少女が誰かと出歩いているのを。
初めはクラスメイトかと思いました、しかしそれにしては仲が良いです。
しかも男です、これは由々しき事態です。
先ほどまでの考えなど忘れ呆然と見つめるしかありません、
クラスメイトに聞いてみるとなんとあれは少女の幼馴染の少年というではありませんか。
そして少女が幼馴染の少年を見つめていた視線、あれには覚えがあります。
そう、他でもない自分が彼女に向ける目です、即ち恋をしている目。
少年は落ち込みました、憧れの少女が実は別の異性に目を向けていたからです。
落ち込んで落ち込んで落ち込んで……また泣き虫に戻ってしまうのかと思ったその時でした。
何かが囁いたのです。それがどうした、欲しいのなら奪ってしまえばいいと。
どうせ泣くのなら彼女を泣かせてしまえ、お前の任務はそれだろう?と。
力が欲しいのなら幾らでもくれてやる、さあ今こそ積年の想いを晴らす時ぞ、我を振るえ、汝の願いを叶えるために。
彼はその声が囁いている時、大好きな母親から貰った杖が黒く輝いている事に気づいては居なかったのです。
そしてその闇に耳を傾けた時、少年の純粋な思いは凄惨な支配欲へと変わっていったのでした……。
何かがおかしい気がした、何が…だっけ?
「ううっ…いや…もうやめて…ひどい事、しないでぇ……」
彼女が欲しい(彼女に恩を返したい)
「やっ…こんなところでっ……くぅ…や、めてぇ…」
彼女を独占するために(彼女を守りたい)
「ぁぁ…だめぇ…そんなの、出来ない…・・・や、やだっ…嫌なのにぃ、体が…勝手に…こんなのってひどいよ…」
彼女を泣かせるために(彼女を笑顔にしてあげたい)
「そんな…もう終わりって言ったのにぃ……あぅ…」
全ては、彼女を支配して手に入れるために(完全汚染完了)。
ああ、何もおかしくは無いな