恋人と喧嘩をしたのか、啜り泣く女の声が耳に届いた。
誰にも気付かれないように、木陰に隠れてこっそりと
泣く彼女。
それはいつも、僕が彼女をけなしている時に見せるものだ。
僕だけが気付いている、彼女の秘密だった。
ズキリ、と胸が痛んだ。
泣くな。
僕以外の男の言葉で、泣くな。
僕以外の男が、彼女を陥れるのは許せない。
彼女を傷付けるのは、僕だけの特権であってほしい。
あいつは、彼女に笑顔を齎していれば、それでいいんだ。
他の顔まで、奪うな。
それは、僕のものだ。
それさえも奪うというのなら、いっそその泣き顔を
憎しみで染めてしまいたい。
僕だけに、見せてくれるのならば。
そう、たとえそれがどんな手段であったとしても。