どうして、こんなことになってしまったのだろう。
鬱陶しく垂れた前髪をかき上げ、天井に向けてわざとらしく溜息をつく。それが一人の
部屋に虚しく響いて、余計に気が滅入る。
常夜灯のオレンジの光の中、無理矢理起こした自分の上半身に視線を落とす。
数少ない自慢のタネである白い肌には、花びらを散らしたみたいに無数の紅い痣が
浮いている。胸元、乳房、お腹、脇腹、肩や手にも。この分では、全身に満遍なくついている
ことだろう。
もう一度、今度は心の底から深い溜息を吐き出しながら、さっきまで頭を預けていた枕を
振り返った。私の頭の形に窪んだ白い枕の上には、大きな丸い滲みが出来ていた。
私の流した涙だろうか?──それとも彼の?
おそらくその両方。
その滲みは否応なしに昨晩のことを思い起こさせる。
初めは何気なく、そしていつもと変わらず、ただじゃれあっていただけ。関節技を掛け合って
戯れる、寝る前の二人の間のささいなスキンシップ──のはずだった。
だけど、昨晩だけは違った。
じゃれつくうちに、いつしか彼は私の上に圧し掛かり、私の四肢を押さえつけ、力ずくで私を──。
ダメ!これ以上は、思い出したくない。
怖い、怖いのだ──何もかもが壊れてしまうのではないか、と。
私は背筋を走る冷たい恐怖に自分の手で身体を抱き、震えながら背中を丸め、ただそれが
収まるのを待つことしかできなかった。
油断していた──そう言われれば、まさにその通りだ。一つ屋根の下に男女が生活して
いれば、そういうことが起きたって別に不思議ではない。
それでも、私と彼は昔から仲良く遊んでいた従姉弟であり、歳も十近く離れていたから──
彼が私に特別な感情を抱いているとは夢にも思わなかった。私にとって彼は家族と同じ
くらい大切な存在──でも、それより先の想いが私自身にあるのかどうかは分からない。
だけど、私は彼を探しに──迎えに行かなくてはならない。
彼が帰ることのできる場所は最早、世界中ここ以外どこにもないのだから。私が「帰っておいでよ」と
言わない限り、彼は永遠に一人ぼっちだ。何があっても彼が一人で生きていけるようになるまで
面倒を見ると決めた以上、決して私は彼を見捨てたりしない。
昨夜の余韻と乱暴に愛された代償である痛みに苛まれながらも、軋む身体に鞭打ち緩慢な
動作で何とかベッドから降りる。
彼には私が必要だ──そして、私にも彼が──。
それが彼の求める形なのか、そうでないかはハッキリしなくとも──。