「お帰りなさい……」  
 志木がドアを開けると、少女は俯きながら出迎えに来た。紺色のベストに臙脂色の  
リボンタイがきっちりと結ばれている。いつも通りの制服姿で、いつも通りの強張った  
愛想笑い。しかし、男はちらりと見返しただけで無言で部屋に上がった。  
 ダイニングには夕食が並んでいる。自分の帰宅時間に合わせて作られた温かい夕食。  
 いつも通りの、自分への当てつけだ。  
 席に着くと黙々と食べる。少女も何も言わず、茶をよそう。食べ終わる頃に果物を出し、  
そして食器を片付ける。  
 共通の趣味など元々無い。それでも、今までだったら学校のこと、寮でのこと、天気の話、  
勉強の事、少女は声を弾ませ、嬉しそうに話しかけてくれたし、自分もそれに応えるために一緒に  
笑い、出かけ、会話しようとした。時々しか会えなくとも、そこに安らぎと楽しさがあった。  
だが、あの日から三ヶ月、そんな他愛のない会話すらなくなった。  
 あの後、車で先回りし、寮に入る前にチカを車内に引き摺り込んだ。行くなと、  
ただ引き留めるだけのつもりだった。しかし、彼女の恐怖で引き攣った表情に、小刻みに  
震える身体に、今更謝罪もできず、抱きしめも出来ず、いつも通り来るようにと、  
逃げたら必ず追いかけると、その代わり、大学までの面倒は見ると、そう伝えただけだった。  
そんな言葉だけの脅迫など簡単に反古にできるのに、いや、して当たり前なのに、  
まじめな彼女は怯えながら毎週末自分の部屋に訪れる。  
 毎週末、通ってくれているのに、今では必要最低限の連絡と返事が一言、  
二言くらいしかしない。時折、学校や進路で少しだけ長く言葉を交わす。絶えず  
おどおどしながらこの部屋へ訪れる少女に、自分は舌打ちをするだけだった。その度に  
びくりと震える細い肩に、今にも泣きそうな表情に、自分の罪の重さを再認識させられる。  
それでも、理性を押さえ込む事が出来なかった。  
 
 
 溜まった新聞や手紙を整理しながら煙草を燻らせる志木の横に、チカが佇んだ。  
 一顧だにしない男に対し、少女は言葉をかけようとし、躊躇う。何回か口を開いては  
閉じてを繰り返した後、意を決したように声を絞り出した。  
「……あ、の、学校のことで、お話が……」  
「なんだ?」  
 そっと、テーブルの上に書類を置く。その指先すら、震えていた。  
「……大学、別の所に行きたいんです。授業料のもっと安い、公立に……先生も、  
推薦して下さるって……」  
「そうか、そんなに俺の選んだ場所は嫌か」  
「ち、違います、そんなんじゃ――」  
「構わん、勝手にしろ」  
「あ、あの、ちが……いえ……ごめんなさい」  
 少女は苦しそうに目を伏せるとそのまま後じさり、そしてきびすを返す。  
男が少女の腕を掴み引き寄せると、びくりと肩を震わせ、幼さの残る顔が恐怖で彩られた。  
(そんなに、嫌か)  
 当たり前だ。  
 望まぬまま、力で押さえつけられて、凌辱される。少女にとって恐怖以外の  
何ものでもないだろう。優しくしたいのに、彼女の心が欲しいのに、上手くいかない  
苛立ちが、何もできない苦しさが、チカにぶつけられる。  
 そのまま自分の膝に座らせ、シャツを捲り上げた。  
「や……」  
 腹部の銃創を確かめるように腰を抱えると、煙草を揉み消した手で上に向けて滑らせた。  
チカが後ろに逃れようとするが、背中が男に当たった瞬間慌てて体勢を戻す。  
 胸元を這う腕を抑えようとする少女の手が重なった。しかし震える手では制止できず、  
男はそのまま片手で器用に薄桃色のブラジャーをずらし、白く柔らかな乳房をたぷたぷと弄ぶ。  
 前までは掴むと手が余る程度だった。しかし、今は鷲掴みすると丁度いいくらいの  
大きさになっている。高等部に入り身長は伸び悩んでいたが、女としての発育は  
まだ進んでいるようだ。  
 
 胸元のリボンタイとボタンを外しベストとブラウスを半分脱がせると、  
先週付けた痕は消え、代わりにストラップの食い込んだ痕が残っていた。その痕を唇で  
辿りながら、男は再び乳房を揉み始める。  
「サイズが変わったな。合わない下着を無理に付けても意味がない。新しいのを買え」  
「ん……必要、ない、です」  
「俺は買え、と言ったんだ。その分は今からお前に払って貰う」  
 右手は柔らかな感触を楽しみながら、左手ではスカートをたくし上げ、太ももを  
撫で回すと、チカの唇からは制止の声が弱々しく漏れた。  
「やめっっ」  
「こんなに濡らしておきながら何を言っている」  
 くくっと喉を鳴らし、耳朶を噛みながらぷっくりと膨らんだ胸の先端を、ショーツの  
基底部を、指先で弄び始めた。花芯をずらし、大きく円を描くように指を滑らすと、  
薄い布越しにじっとりとした熱気が帯びてくる。チカは足を閉じて拒絶しようとしたが、  
逆に男の指をくわえ込む形になってしまい、抵抗を諦めた。  
「や……ぁ、ぁん」  
 優しく、焦らすように指を滑らすと、愛らしい唇から抑えきれない吐息が漏れた。  
ぐっしょりと濡れてきたショーツ越しに、今度は膨らんだ肉芽を摘む。  
「ひっっぁ、あぁぁ」  
 男に全身を委ねられるほど、二人の距離はもう近くない。焦らされ、不安定な  
男の膝の上で身を捩り、重ねた右手に爪を立てる。  
「気持ちいいんだろう?」  
「そん……な、じゃ」  
「じゃぁ、何故こんなに濡れている?」  
 そのまま左手をショーツの中に指を滑り込ます。  
 肉襞をなぞり、小さな芽を潰すように押し込むと、とろとろの淫液が滴ってくる。  
それを人差し指と中指にたっぷりと濡らしては肉襞になすりつけ、秘裂全体が  
ぐしょぐしょになるまで繰り返す。  
「ちが、んふぁ……あぁん」  
 軽く肉芽を爪弾くと、チカの吐息が更に熱く湿りを帯びる。それと共に志木に  
開発された身体が、動きに応えようと疼き出した。  
「あぁ……んぁ、あっっだめっっっ」  
 身体がビクビクと跳ねる。ショーツもシャツも脱がされ、後はスカートと靴下だけが  
残されていた。  
「やめっっし、きさ……しきさん、やだぁあ」  
 愛撫の手は執拗にチカの感じる場所を刺激した。  
 くちゅくちゅと音を立てて嬲られ、じっとりとした声が零れる。  
 志木はこぼれ落ちそうな白い胸をやわやわと揉みしだきながら、首筋に舌を這わせる。  
そして、熱くなった膣内に指をゆっくりと滑り込ませると、チカは頤を反らし、身体を  
ヒクヒクと痙攣させた。  
「やっ……あん、やっっ許して……」  
 ――何が嫌なんだ、気持ちいいんだろう? ここも、悦んでるじゃないか――  
 そうなじりたい気持ちを抑え、行為に没頭する。指一本でも快楽を求め、  
きゅうきゅうに締め付けようとするチカの身体の、更に奥へと進ませた。  
 
 
「あっっっやああ、や、やぁ」  
 志木は慣れた手つきでチカの快楽を引き出し、追い立てていく。  
 くちゅくちゅと指二本で掻き回され、頭がおかしくなりそうだった。  
 いや、既になっていた。  
 指の動きが激しい抽挿に変わる頃には、腰は痺れ甘い疼きに変わっていた。  
 じゅぶじゅぶと水音が一層大きくなり、チカはもたれまいと努めていた事すら忘れ、  
志木に身体を委ねていた。  
「ひっひぁっっっやあぁん、あっ、やあっっッッ……」  
 奥に突っ込まれた瞬間、空いた親指が桃色の先端に触れた。  
 ぷるぷると身体が小刻みに震え、頭の中が真っ白になる。  
 志木が膝を開くと、力が抜けたチカの身体はズルリと椅子の上に滑り落ちた。  
 ぐったりと志木に寄りかかっていたので、脱がされ、火照りきった素肌に、  
冷たい志木のシャツのボタンと、熱く硬いモノが痛いくらいに当たっていた。  
「あ……」  
 ゴクリと唾を飲み込んだのは、呼吸を落ち着けたかった事もある。だが、何よりも  
この後に続く行為への覚悟がチカには必要だった。抑えようとしても涙が溢れてくる。  
泣いても何にもならないことなんて、両親が死んだ時からわかりきっていた。それでも、  
泣く事しかできなかった。  
「もっと、太いのが欲しいだろう」  
「きゃっっっ」  
 突然、志木が立ち上がった。右腕で抱えられていたチカは足に力が入らず、志木に  
押し潰される形で、テーブルに突っ伏した。顔をぶつけまいと両の手で庇ったが、  
テーブルに乗っていた封書や新聞が払われるように床へと叩き付けられる。  
 スカートを捲られ押さえつけられたチカは、ただテーブルに縋り付き、志木に  
蹂躙されるのを待つ事しかできなかった。  
「や……め……くだ」  
 そのまま志木はズボンのファスナーを下ろし、いきり立った自身を少女の膣口に宛がった。  
「っっっっぃあぁぁぁ――」  
 幾度となく繰り返している行為の筈なのに、挿入される時の異物感には未だ慣れない。  
 しかし、中に押し入られる度に、身体の芯が熱くなる。  
 浅い抽挿の後、時折ずんと強く突かれ、あられもない声が上がる。身を捩っても腰を  
しっかりと掴まれて、逃げられない。  
 右足を持ち上げられ、ゴリゴリと擦れながら熱がより深く奥に入り込む。  
頭がおかしくなりそうで、悲鳴を上げた。  
「やっっっやだっっっあ、あん、やめっっっっ」  
 身体の火照りに、心が付いていかない。  
 表情がごっそりと抜け落ちた冷たい視線に、チカの心は凍てついたままだった。  
 あの日、重い身体を引き摺って寮に戻ったチカを待ち伏せ、志木は押し殺した声で行くなと言った。  
『俺の体面を考えろ。いつも通り……いや、毎週俺の部屋に来い。  
安心しろ、大学は行かせてやる』  
 志木の面子を潰す、そんな事、考えつかなかった。逃げたかったのは、もう合わせる  
顔がなかったからだ。だから、自分の浅慮に何も反論できず、志木の望むとおりにする。  
 行く度に身体を弄ばれ、冷たい言葉がチカを刺す。恋人がいるのに自分を抱き、  
冷たい言葉を吐きながらも自分をここに通わせる、そんな志木の考えがわからなかった。  
 常に苛立ち、表情の無い志木に、何も聞けない。  
 それでも、この部屋を訪れるのは自分の汚い打算だ。  
 まだ、後見を続けてくれるのだから、そんなに嫌われていないのではないか。  
 美味しい料理を作ったら、また、『うまい』と褒めてくれるかもしれない、  
勉強を頑張れば『頑張ったな』と頭を撫でてくれるかもしれない。  
 志木はそのチャンスをくれたのに、また不興を買ってしまった。  
 
 
「いやあぁぁぁっっあっあん、あぁぁぁ」  
 チカの声が制止から、甘く切ない悲鳴に変わっていた。  
 中はヒクヒクと蠢き、奥を突くと志木にまとわりつくように締めつける。  
 何度も何度も仕込んで、執拗に愛撫し、そしてようやく中でイく事を覚えてくれた。  
 反り返ったしなやかな背中は、志木を誘うように揺らめく。  
「やだ……おねが……やめ、あ、あああぁぁぁ!」  
 懇願を無視して腰を打ち付けると、媚肉をひくつかせ自分を締め上げる。  
 助けを求めるようにテーブルに縋り付いた指先は白くなり、短く切りそろえられた  
爪さえ剥がれそうだった。  
 チカも、自分も限界が近かった。  
「あ、ああぁぁぁぁぁ――」  
 声が絞り出すようにか細くなっていき、少女の力が尽きる。志木は中で出したい  
誘惑を振り切り、チカの中から勢いよく引き抜いた。  
 瞬間、精液がチカの太腿で飛散し、淫液と交わり少女の足を伝う。  
 ガクガクと震え、全身に力が入らないでいるチカが息つく間もなく抱き上げ、  
ソファに投げ出した。  
「あ……ぁ」  
 捲り上がったままのスカートと黒いハイソックス以外は何も身につけていない。焦点の  
合わない瞳は涙で濡れていて、薄紅色の唇は荒い息を無理矢理整えようと何度も唾を  
飲み込んでいた。屈み込み手を伸ばすと、小さな悲鳴を上げ怯えた表情で自分を見上げる。  
「……」  
 一時的な快楽と情欲が、一瞬にして冷たい時間に戻る。  
 志木は立ち上がると衣服を整え、自分の淫行から目を反らすようにシャワールームに向かった。  
 背後では、チカがくぐもった声で啜り泣いていた。  
 
 
 泣いているままでは、また志木に嫌われてしまう。シャワーを浴びている間に  
片付けなければ、そう考え、快楽に酔ったままの気怠い身体を奮い立たせ、チカは起き上がった。先に自分のブラウスを羽織ってから、床にばら撒いてしまった新聞や手紙を  
掻き集め、分けていく。  
 テーブルの上に新聞を、ちらしを、そして請求書や封書を最後に乗せると、  
ひらりと一枚の写真が落ちる。志木が写真を持っているのは珍しい、ぼんやりと  
考えながらその写真を拾った。  
「……この、写真」  
 今よりも若い志木と知らない男、そして三ヶ月前、路地裏で志木と抱き合っていた  
女性が満面の笑顔を浮かべている。  
「ああ、古い付き合いの同僚だった」  
「!」  
 後ろから突然声を掛けられ、驚いて振り返ると、志木が目を細め、自分の手元にある  
写真を見つめていた。  
 志木とはここ最近、雑談など、ろくにしていなかった。  
 写真の人物に見知った顔があったから、口にしてしまったただの独り言だ。  
応えてくれた理由はわからなかったが、とにかく会話を続けようと頭を振り絞った。  
「同僚だったって、この方、退職、されたんですか?」  
「いや、三ヶ月前の作戦で……死んだ」  
「!」  
 写真をチカの手から取り上げ、静かに応える志木の顔には深い皺が刻まれている。  
 血の気が引いたのが自分でもわかった。  
 志木が危ない仕事をしている事は重々承知していた筈だ。怪我をして帰宅する事だって  
珍しくない。  
 だが、辛そうな表情をする事は今まで無かった。  
 死と隣り合わせの場所に、志木はいる。  
 そして、志木の友人と、恋人だった女性もまた、その場所で散った。  
 父のように爆撃で吹き飛んだのだろうか、母のように、瓦礫に潰されたのだろうか、  
それとも志木の娘のように撃たれたのだろうか。  
「ごめ……な……さ……ごめんなさい、ごめんなさい」  
 戦争の、爆撃の、銃声の恐怖が胸中を乱し、足がすくみ、銃創がじくりと痛んだ。  
 だが、何よりも三ヶ月前、という言葉に心が揺さぶられる。  
 忘れもしない、あの日の前だ。  
 仕事の疲れを、友人と恋人が死んだショックを隠して帰ってきてくれたのに、  
我慢して笑いかけてくれたのに、自分は志木の傷口を抉るような行為をしてしまった。  
 これは罰だ。  
 志木の恩情に縋っている身で、自分勝手に振る舞った罰なのだ。  
 もう、修復しようがない。弁解すら出来ない。  
 だから、志木自身は最低限しか服を脱がないのだ。だから、キスもしない。  
 死んだ恋人の代替品にすらならない道具に、死んだ娘の代わりにすらなれなかった  
人形に寄せる情など、あるはずがない。親愛も有りはしないのだ。  
 志木の笑顔は、優しさは、もう、自分に向けられる事はない。  
 暖かい時間にはもう、戻せない。  
「ごめなさ……ごめんなさい……」  
「来週は……出張だ。次は再来週、この書類を受け取りに来い」  
 崩れ落ちて泣くチカ一瞥し、志木は自室の扉を閉めた。  
 
 
 震えて泣くチカに、また、何もしてやれない。  
 チカから取り上げた写真をぼんやりと眺める。  
 十数年前、訓練で意気投合し、三人で撮影した。結婚する時、娘が死んだ時、チカを  
迎える時も、励まし、相談に乗ってくれた友人だ。命を救われた事もあったし、救った事もあった。  
 あの作戦が終わったら会社を辞め、結婚するはずだった二人。その遺品整理で、  
親族から自分に送られた写真だ。さっさとしまっておけばよかったのに、いつも掃除を  
チカに任せっきりにしていたツケが、回ってきたのだ。  
 何故、この写真を居間に放置してしまったのだろうか。  
 何故、正直に彼女の問いに答えてしまったのだろうか。  
 両親を目の前で失ったチカにとって、戦争の傷跡は未だに恐怖の元だ。  
 チカが通うようになってから初めて怪我を負った時も、彼女は真っ青になって震えていた。  
人殺しの手だ、怖いか、と聞くとチカは慌てて否定した。  
『こ、怖くないです。志木さんの手は、志木さんは私を、みんなを守ってくれました。  
大きくて、やさしくて……私、大好きです。……あの、おけが、痛くないですか、大丈夫ですか?』  
 涙ぐみながらも、小さな両手で自分の手を包み込んでくれた。  
 チカを守った手は、彼女が大好きと言ってくれた手は、もう、彼女を傷つける事しか  
できない人殺しの手だ。チカにとって恐怖の対象でしかない。  
 またここに通うように伝えたのは、何かきっかけがあれば、以前のような穏やかな時が  
過ごせるかもしれない。笑顔を見せてくれるかもしれない。そんな期待があったからだ。  
 だが、彼女の怯えた仕草が何かにつけて志木を苛立たせ、結局は毎回のように彼女を  
凌辱する事になる。同居を強いなかったのは、彼女を壊してしまいそうだったからだ。  
 それなのに、チカはわかっているのだろうか。別の大学に行くという事は、今の学校の  
寮を出なくてはならない。ここで、この部屋で、毎日戦争と凌辱の恐怖に怯えながら  
過ごすつもりなのだろうか。  
 覚悟を、決めるべきだ。  
 本来なら、この劣情を抱いた時に決めるべきだったのに、ずるずると甘い期待を抱いて、  
愚かしい行為に逃げてしまった。  
 まだ自分のために尽くしてくれているのは、自分の脅しと夢のためだ。  
 親愛も、情も、ありはしない。優しい娘だから、見捨てられないだけかもしれない。  
 もう、彼女が笑顔を向けてくれる事はない。  
 過ちは正せない。だが、これ以上彼女の笑顔を、幸せを奪う事も許される筈がない。  
 携帯のボタンを押す指は、微かに震えていた。  
 
 

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