「おじゃま、します……!」  
 伝えられた日、買い出しをして志木のマンションを訪ねると、いつもならまだ帰宅して  
いない玄関には、今日に限って靴があった。  
(出張だったから、帰ってくるの、早かったのかな……)  
 言わなくてはいけない事があが、まだ、心の整理が出来ていなかった。  
 煙草の匂いと共に大きな影がぬっと視界に現れる。志木は目をすっと細め、抑揚のない  
声で咎めた。  
 そのきつい眼差しに射竦められ、声が自然に掠れる。  
「遅かったな」  
「あ、の……ごめんなさい、すぐにご飯作ります」  
「まぁいい」  
 空気がピリピリしていた。志木の機嫌もよくない。  
 大学には行かない、と、言わなくてはいけないのに、言い出せない。推薦状を、  
書類を返して欲しいと、言える雰囲気ではない。  
 公立大学に行きたかったのは、学費が安くなって志木の負担を減らしたかった事もある。  
だが一番の理由は、付属の大学に看護学部が無かったからだった。看護婦になって戦争で  
傷ついた人たちを一人でも助けたかった。それに何よりも、誰よりも、怪我をして帰ってくる  
志木の力になりたかった。  
 だけど、もうそんな資格はない。  
 自分では志木を癒せない。むしろ、傷つけ、苦しませるだけだ。  
 高等部さえ卒業できれば、後見人の体面は保てるだろう。  
 きっと、志木もそれを望んでいるに違いない。  
 食事の支度をしながらも、いつ話を切り出そうかと時折志木を見やるが、  
煙草を燻らせながら新聞を睨んでいて、無言の拒絶に近づくことすらできなかった。  
 
 
 食事の支度をしながらも、後片付けをしている時も、カウンター越しの視線がちらちらと絡んでくる。  
 お互いに伝えたい事があるが、言い出せないでいるのだ。だが、その理由は正反対だ。  
チカと離れる事を恐れる自分、自分の傍にいる事を恐れるチカ。情けない話だった。  
 痺れを切らした志木は吸いかけの煙草を揉み消すと、チカはその些細な動作ですら怯え、  
苦しげに顔を歪めた。内心、舌打ちしながら志木は意を決して立ち上がり、  
チカの逃げ場を塞ぐようにキッチンの入り口に立った。  
 今日こそは伝えなければならない。チカをこれ以上傷つけ、苦しめないよう、  
準備を整えている。あの華奢な身体も、潤んだ瞳も、切なげに啼く声も、  
全てに別れを告げなければならない。  
 だから、少しでもその時を引き延ばしたくて先にチカの言葉を待った。  
「どうした」  
「いえ、あの……」  
「どうしたと聞いているんだ」  
 屈むように詰め寄ると、背中が引き攣れ、一瞬動きが鈍った。  
「?……志木さん、もしかして……お怪我……」  
 チカはよく気がつく優しい少女だった。  
 少し痒くなってきた背中の傷を、嫌でも思い出してしまう。  
 なんてことはない、間の抜けた話だ。チカには出張と誤魔化していたが、  
十日間の実戦訓練に参加していた。訓練自体はいい肩慣らしになったが、最終日、  
運の悪いことに手榴弾の暴発に巻き込まれ背中を縫う羽目になってしまったのだ。  
 胸元で両手を重ね、怖ず怖ずと見上げるチカの瞳は少しだけ潤んでいる。  
「おかげん、よく、ないんじゃ――」  
「黙れ」  
 不機嫌な声にチカがビクッと震えた。  
 ただでさえ、苛立ちだけが募っている。よくない兆候だ。  
 八つ当たりだということはわかっているのに、欲望を抑えきれない。  
 打ち消すようにかぶりを振ると、深い息を吐き出した。  
「他に言いたいことがあるんだろう。さっさと言え」  
「……」  
「早く言え」  
「あ、あの……こ、この前の、お話、なんですけど……」  
「……」  
「大学、推薦辞退しますから、書類……もう、いりません」  
「なんだって」  
「大学は、行きません。卒業したら……出て、行きます」  
 顔は青褪め、掠れた声は苦しそうだった。  
「何を……」  
「縁も、ゆかりもない志木さんに、ずっと迷惑ばかりかけてしまいました。そんな資格なんて、  
ないのに……ですから、もう、終わりにします。高等部、卒業させて頂ければ、  
志木さんの体面だって整います。今まで本当に、ごめんなさい」  
 
『学校、行けるんですか……行って、いいんですか?』  
 大学までだって行かせてやる、と胸を叩いたらチカは、目を真ん丸にさせて、弾んだ声を上げた。  
志木も嬉しくなって栗色の髪をくしゃりと撫でると、幼い顔には満面の笑みが浮かぶ。  
『ありがとうございます、志木さん。嬉しいです、夢だったんです、頑張ります、  
私、一生懸命勉強します!』  
 あの時宣言した通りに、彼女は努力した。国境沿いとは違い、戦火とは縁が遠い都市部の、  
裕福な子女が多い学校だ。家庭教師が付いていたり、コネだってある生徒もいただろう。  
その中で、数少ない公立大学の推薦枠を勝ち取った。  
 大学に行く、その目的で今の関係を我慢していた筈だ。  
 なのに、チカはそれすらも放棄しようとしている。  
「ふざけるな……」  
 チカの為に、彼女が18になる来週には、全てを終わりにするはずだった。  
自分の欲求を全て捨て去り、成人を迎え後見人が不要になるチカに、別れを告げるはずだった。  
 だが、縁もゆかりもないと言い切られた。今までの関係全てが無かった事になっている。  
 大学も行かないとなると、教育費は不要だ。自分は、用済みになるのだ。  
 もう心は繋がらない。だから身体に言い聞かせるしかない。  
 恐怖で、快楽で、彼女の心身を全て縛り上げるしかない。  
 自分を捨てようとする少女に、自分を刻み込みたかった。  
 細い手首を引っ張り、ごめんなさい、と震えるチカを自室のベッドへと引きずり込んだ。  
 
 ベッドの上で哀れなほどに縮こまる少女の髪を解くと、柔らかな栗毛がふわりと肩に落ちた。  
 リボンタイを解き、ベストを、ブラウスを、下着ごと引き千切るように胸元を開ける。  
 衣服から覗く白い乳房、柔らかく甘やかなそこをきつく吸い寄せ、そして噛み付いた。  
「っっっつっっっ」  
 ワザと痛くしているのに、彼女は涙を浮かべながらただ堪えている。スカートのファスナーを  
下ろすと、チカはぎゅっと目をつむって身体を強張らせたが、抵抗はしなかった。  
 腹を括ったのか、それとも、諦めたのだろうか。  
 人形のようにされるがままの少女に対し、志木は一枚、また一枚と服を剥ぎ取り、  
その辺に落とした。腰を浮かせ、最後の一枚をするりと足から抜くと、両腕でしっとりとして  
滑らかな素肌を腹から太腿まで撫で回した。白い肌がほんのりと紅く染まっていく。  
 足を開かせ、うっすらとした茂みを掻き分けると、薄桃色のそこは潤んでいた。  
包皮ごとぬかるんだ肉芽をついと摘み上げると、チカは身を捩らせる。  
「あ……」  
 チカの感じる場所、自分が仕込んだ快楽をただ与えていく。  
 指を動かすとにちゃにちゃとイヤらしく音を立て、微かな啼き声が上がった。  
「ん、ふぁっっあ、……ん」  
 胸の頂をしゃぶり、舌で転がすと、だらだらと愛液が溢れ出てくる。  
 そうだ、チカはここが感じる。  
 この場所で曲げるともっと感じる。  
 ここを押し込めば軽くイく。  
「ああぁぁあ!」  
 喉を震わせ、耐えきれなくなったチカが身体を捩るようにベッドへと倒れ込んだ。  
 そろそろいい頃合いだった。  
 そのまま少女の片足を自分の肩にかけ、まだ肉付きの薄い尻を割る。淫らに濡れそぼり、  
ひくひくと誘うように蠢く膣孔に、志木は一気に突き立てると、ベッドを軋ませ  
少女の身体が跳ねた。  
「やあぁ、……あ――」  
 背筋が仰け反り、指先が白くなるほど強くシーツにしがみつく少女に被さり、志木は  
獣のように犯し始めた。  
 
 
 気がつくと、チカは仰向けになり、志木に組み敷かれていた。  
 影になって志木の顔が見えない。  
 泡立ち、白濁液が滴る秘所に、再び屹立する肉棒が掠めるとチカの身体は再び跳ねた。  
「あ――!」  
 絶頂を迎えた余韻が断続して襲ってくるのは、何度も何度も奥を揺さぶってくるからだ。  
「んっっっ……」  
 羞恥に耐えきれず自分の左指を噛みしめる。ともすれば流されそうになる自分を、  
快楽を貪りたくなる自分を、その痛みで戒める。  
 何をされてもいい。  
 もう、認めて貰いたいなんて思わない。  
 新しい恋人が出来るまでのオモチャでいい。  
 だから、せめて卒業するまでは傍にいて欲しかった。  
「しき、さっっっんんんんん」  
 イきそうになるその声を封じようと、更に強く指を噛むと、口の中に錆の味が広がった。  
 突然、愛撫の手が止められ、そのまま自分の左腕に絡められた。  
 一体どうしたというのだろう。志木の無骨な指が手首を這い、指先へと移る。  
そして、チカの細い指先を引き寄せると口に含んだ。  
「!」  
 ペチャペチャと音を立て、指をしゃぶる。その姿に、チカは見入った。自分のつけた歯形が、  
志木の唾液でぬらりと光を反射している。傷に滲みたが、その痛みすらも心地よく感じてしまう。  
「噛むな、声を出せ、チカ」  
 耳元で囁かれると、もう逆らえなかった。ただの嗜虐心から出た言葉だという事は  
容易に想像が出来たのに、甘い期待が胸を締め付ける。  
(これ、間接、キス、かな……)  
 名前を呼ばれたのは、気遣ってくれたのは、どれくらいぶりだろうか。  
 ただ、少しだけ優しく、親愛を示す行為をされた。  
 今まで、唇を重ねた事はない。胸元や首筋に痕を付ける事はあるが、それは志木の  
気まぐれあってキスというには余りにも冷たい行為だった。  
 だから、たったそれだけのことがスイッチになった。  
「ひゃぁああん、あ、あぁん、あん、やぁあ」  
 ゾクゾクと快感が背筋を駆け抜け、全身が敏感に反応する。  
 何度も何度も抉るように突かれる度、志木のワイシャツに胸が擦れる度、  
理性の箍が外れ、声が溢れ出す。  
 止まらない。  
 どうせ愛される資格など無いのだから、せめて身体だけの関係でも、繋がっていられるのならば、  
それでいい。それでいい筈なのに、一過性の熱が無くなった途端、苦しさが込み上げてくる。  
 同じ事を毎週のように繰り返しているのに、幾度となく志木に抱かれた身体は、  
組み敷かれる度に熱く火照り、肉欲がチカを支配する。悲しさを、苦しさを、恥辱と快楽に  
溺れることで忘れ去りたかった。  
 もっと志木を感じたい。  
 もっともっと志木が欲しい。  
 結合部がぬちゃり、と音を立て更に性欲を掻き立てられる。  
 チカはより深く志木を感じられるよう、とろとろの秘部を擦り付けるように腰をくねらせ、  
そして腕を伸ばした。  
 
 
 一気に突き上げるとチカの零れる嬌声に、じゅぷじゅぷと卑猥な音に、  
締め付けられる感触に、快感が奔る。  
「あっっん、志木、さん、ひゃうっっっ」  
 チカは首をいやいや振り、爪が食い込むほど強くしがみついてくる。シャツ越しに与えられる  
その痛みは愉悦だった。身体だけでも彼女が自分を求めてくれる、その証だ。  
 例え自分が強いた関係だとしても、それだけで満たされる。彼女の笑顔も心も、決して  
自分のモノにはならない。だから、今だけ、身体だけは自分のモノであって欲しかった。  
「志木さん、しきさん、あ――ん、ひっっあぁぁぁ――!」  
 抽送を繰り返す度に、高い声が上がる。  
 いつもはシーツや壁にしがみついて堪えるように声を漏らしていた。だが、今、  
初めて自ら抱きつき、足も絡ませ、そして執拗に名前を呼ぶ。  
 自分の動きに合わせ、快楽を貪るように肢体をくねらせるチカに、更に強く叩き付けた。  
「ひぁっっっとけちゃう、とけちゃうよぉ、しき、さん、ぁん、しきさぁぁあ」  
 開いた傷口も、シャツ越しに触れている肌も、全てが熱い。  
 自分も熱に浮かされ、チカと共に昇りつめる。  
 本当に溶けて一つに混じり合えたら、この渇きは癒されるのだろうか。  
 心も、自分の物になってくれるのだろうか。  
 あのはにかんだ愛しい笑顔を、また見せてくれるだろうか。  
「……ここがいいのか? こうされるのが好きなのか?」  
 熱く蕩けそうな、しかしきゅうきゅうに締め付けてくる媚肉の奥にゴリゴリと押しつけ、  
耳朶を舐りながら囁く。  
 今だったら、快楽に溺れて応えてくれるだろう。  
 本心じゃなくても、強要された言葉でも構わない。  
 志木が動く度にチカは高い声で啼き、痴態を披露する。その嬌声に、艶姿を刻み込みたくて、  
志木は何度も突き上げて滾る熱を注ぎ込んだ。  
 
 
 
「好きなのか?」  
 あまりの気持ちよさに意識が飛び飛びになっている。  
 ふと耳に飛び込んできた言葉に、身体が一層反応した。  
「好きか?」  
 脳内で響く低い囁きに、チカは歓喜に打ち震える。  
 志木を包み込んだ身体がきゅうきゅうと締まり、快楽に酔いしれる。  
「うん、好き……すき、すきぃ」  
 身体の中で熱く爆ぜる度、チカは多幸感に包まれた。  
 もっともっと志木を受け入れられるよう、志木の厚い胸に自分を押しつける。  
「し、きさん、志木さぁん」  
 間接キスでも、嬉しかった。  
 名前を呼んでくれて、とても嬉しかった。  
 自分が頑張れば、志木は喜んでくれるだろうか。  
 自分の身体で、志木は気持ちよくなってくれているだろうか。  
 こうやって抱きしめてくれるのなら、もう、なんだっていい。  
「きもちいい、きもちいい?」  
 荒い息遣いと爛れた熱気に浮かされ、身体も思考もとろとろに溶けていた。  
 
 
「きもちいい? ね、しきさ……」  
「チカ……?」  
 体力の限界だったのか、チカはくたりと力を失った。その顔には微かな笑みが浮かんでいる。  
 久々に見るチカの笑顔に、志木は汗ばんだ手で、頬に、唇に触れる。  
 甘やかで、懐かしくて、何よりも欲しかったチカの笑み。それが、自分の腕の中にある。  
この幸福を噛み締めたくて、これで最後なんだ、そう心の中で言い訳をし、  
少女の体内にうずめたまま、シーツにくるまった。  
 
 チカの温もりにいつの間にかウトウトしてしまった。  
 いつの間にか華奢で小さな手が、深い眠りに就いても尚、縋り付くように志木の  
ワイシャツを掴んでいる。  
「ん……」  
 唇をそっとなぞると、切なげな吐息が零れる。その唇を軽く啄み、柔らかな感触を確認する。  
既に笑みは消え、眉根を寄せ疲労の色が濃い。  
 ずるりと引き抜くと、精液が少女の太腿を伝う。それを掬うと、チカの腹に、  
太腿に日焼けした浅黒い手を滑らせ擦り付ける。  
 だが、彼女を自分で染め上げるには全く足りなかった。  
 再びぬかるんだ少女の中に自分のモノを入れると、気を失ったチカを揺さぶり快楽を  
貪ろうとしたが、弛緩した体では少々刺激が足りなかった。再び引き抜くと、自分の一物に  
チカの手を添えさせ、自慰を始める。自分よりも二回りは小さく白く、そして柔らかな手の平が  
自分を圧迫する。志木は情動に身を任せ、そのまま少女の顔と胸を穢した。  
「……チカ」  
 頬を撫で下ろし、そのまま鎖骨まで白い筋を残しながらゆっくりとなぞっていくと、  
次第にチカは顔を歪め始める。  
「やぁ……しき……さ……んぁ」  
 獣欲にまみれていた頭がスッと冷え、手が止まった。  
 チカは夢の中でも、自分に犯されているのだ。  
 狂喜と快楽に身を委ねた先ほどとは違い、こんなに苦しそうに、切なげに、懇願している。  
 こんな自分に笑顔など向けてくれるはずがないのに、無理矢理手に入れようとした。  
 気を失った少女を尚、穢し続けている。  
「最低だな……」  
 溜息と自嘲が洩れた。  
 
 
 何かが、自分に触れた。  
 まだ判然としないチカの目に映ったのは、溜息を吐く志木だった。  
「最低だな……」  
 最低、何が? それとも、誰が?  
 志木の視線の先は、自分だった。  
 微睡みの淵から一気に目が覚める。  
「あ……あ、あ、ごめ、なさ……わた、わた……」  
 背筋が凍り、カタカタと歯の根が合わない。身体に快楽の余韻が残っているのに、  
ジンジンと身体が疼いているのに、なのに震えが止まらなかった。  
 また、志木に嫌われる事をしてしまった。  
 ただの気まぐれに調子に乗って、抱きついて、あられもない声で志木を呼び続けた。  
 志木にとって、その行いは迷惑だったに違いない。  
 卒業するまでは、志木の言うとおりにしようと、道具でいようと心に決めたはずなのに、  
志木の何気ない仕草にその誓いを忘れてしまっていた。  
 ぎょろりと見下ろす志木に、チカの身体は竦み上がる。  
 しかし、志木は詰る訳でもなくサイドボードから何かを掴むと、無造作に自分に投げてくる。  
「飲んでおけ」  
 投げ寄越された錠剤の意味がわからず不安げに見上げると、志木は冷笑を浮かべていた。  
「?」  
「俺の子を産むつもりか?」  
「!」  
 火照った身体からも、すぅっと熱が引いていく。  
 志木の子なら、産んでもよかった。  
 それで自分を見てくれるのなら、愛情が生まれるのならむしろ本望だ。  
 だが、志木はそれを望んではいない。  
 志木が自分を犯すのは、子供が欲しいからでも、当然、自分を想ってくれているからでもない。  
 先ほどの抱擁はただの気まぐれで、自分は志木にとってのただの性欲の捌け口であり、  
オモチャでしかないのだ。  
 その事実を改めて突きつけられ、チカの心は凍り付いた。  
 要らなくなったら、捨てられる。  
 厚かましい願いだとわかってはいるが、せめて、卒業するまでは、志木と共にいたかった。  
 これ以上見放されないうちに、水も含まず慌てて飲み下す。  
「飲んだらさっさとシャワーでも浴びて寝ろ」  
 怒気を孕んだ冷たい声に耐えきれず、逃げるようにバスルームで泣いた。  
 
 
 バスルームから、少女のすすり泣く声が聞こえる。  
 これ以上彼女を傷つけたくなくて、全て終わりにする予定で、合間を縫って色々と  
準備していた。なのに、もう終わりにするという発言に理性が焼き切れた。  
 推薦辞退なんて恐怖から逃げる口実だと、頭のどこかでは理解していたのに、  
大学に行くつもりが無いなら孕ませてもいいんじゃないか、子供が出来たら、諦めて  
自分のモノになってくれるだろうか、そんな妄想が過ぎったのだ。  
 最初はともかく、その後は流石に避妊を心がけていたが、女になった、いや、女にしたチカを  
ケダモノのように貪ってしまった。  
 愚かしい欲望と、チカの恍惚とした仕草に誘われ、容赦なく中に出し、犯し尽くした。  
 だが、事後彼女の寝顔を見て思い出したのは、後見を申し出たあの日、大学まで行っていいと  
言った時のチカの驚きと喜びの表情だった。彼女の夢まで、あの時の笑顔まで、奪いたくなかった。  
 それなのに真っ青になって緊急避妊薬を慌てて飲み込む少女に、志木は落胆した。  
自分が強要したのにもかかわらず、だ。  
 そんなに自分が嫌なのか。そんなに自分の子を産みたくないのか。  
 どこかで、彼女が自分を好いてくれているのではないかと、だからこの部屋にも  
通ってくれているのではないかと、まだ、有り得もしない幻想を抱いていた。  
 甘い響きで名前を呼んでくれたのは、華奢な身体で自分を求めてくれたのは、ただ、凌辱の  
恐怖から逃避するためなのか。それとも教え込んだ身体が「男」を欲しがっていただけなのだろうか。  
 血に染まったシャツを脱ぎ捨て、包帯を巻き直した。本当は彼女の肌を全身で感じたい。  
だが、自分の裸身を見たら、きっと彼女は更に怯えるだろう。初めて抱きしめた時、チカは戦争の  
匂いを敏感に察し腕の中で怯えていた。頭に包帯を巻いて帰宅した時は、真っ青になっていた。  
夜、死なないで、とうなされていた事もあった。先日、戦友の死を告げた時も、震えて泣いた。  
だから会う時は、戦争と死の匂いを持ち帰らないように、怪我もなるべく見せないように細心の  
注意を払っていた。犯される苦痛は与えても、せめて戦争の、死の恐怖だけは、  
思い出させたくない。自分勝手で、最低な言い訳だ。  
 こんな関係を強いておきながら、それでも愛されたいと思う自分の浅ましさに自嘲する。  
 次の日目が覚めるとチカの姿は既に無く、それでも、テーブルの上に食事の支度がしてあった。  
 
 
 

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