国境近くにあるこの付近では敵兵や逃亡兵の姿の目撃情報も多く、遠くに行かないように、そう先生から口を酸っぱくして言われていた。しかし近隣で食べれる物は取り尽くしてしまった今、子供達は毎日のように足を延ばし人里離れた山奥へと食べ物を探しに行っていた。
だが、そこで敵国の残党兵に出会ってしまったのだ。
銃声が響き、必死になって逃げた。散り散りになってしまった友人等を心配しながら、そして今なお撃たれるのではないかと怯えながら木陰に潜む。
「チカねえちゃん怖いよお」
「私たち、殺されちゃうの?」
自分より年下の子供が二人、啜り泣いていた。
「大丈夫だよ、大丈夫、だから、おねえちゃんが付いてるから、だから、静かにしなきゃだめだよ」
この中で一番の年上は自分だった。だから、安心させないといけない。
ぎゅっと二人を抱きしめる。強く、強く、そうすれば、自分の震えもきっと止まる。
恐怖と責任感で押しつぶされそうになりながら、敵兵が気付かない事を祈りながら、ぎゅっと目をつむる。
だが、祈りは届かなかった。
「こんな所にいたのか。丁度いい」
「!」
一瞬足がすくむ。しかし、年少の子供を守らなければならない。
もう、家族を目の前で失うのは嫌だった。そう思うと、身体が勝手に動いた。銃を持つ手に飛びついたのだ。
「何をしやがる」
「二人とも、早く逃げて!」
振りほどこうと殴られるが、放すまいと爪を立ててしがみついた。
「畜生」男が呟いた。
身体が浮いたかと思うと木に叩き付けられる。何が起こったのか、理解できなかった。 弟分の泣き叫ぶ声と、脇腹に焼き付くような痛みと、そして世界の反転をぼんやりしながら感じるだけだった。
「見つけたぞ!」
遠くで知らない男の声が聞こえ、銃声が鳴り響いた。
覚えているのは、寒くて暗い世界と、子供の泣きじゃくる声と、そして、自分を励ます男の声と、手を握ってくれる温もりだった。
気がつくと真っ白な部屋にいた。ベッドに一人寝かされ、見覚えのない男が傍らに座っていた。
「大丈夫か?」
「え?……あ、あの……ここは……私一体……」
起き上がろうとすると、目の前の男が手を添えてくれた。
「ここは麓の病院だ。お前は、三日前に山で敵兵に襲われたんだ」
「……てき、に……あ! あの子達は!?」
「大丈夫だ、みんな無事だ。お前が頑張ったお陰だ」
「よかった……あ、あの、あなたは、もしかしてあの時、助けてくださった方、ですか?」
「……ああ。そうだ」
「あの、助けて下さってありがとう、ございます」
慌ててお辞儀しようとしたが、腹部の激痛に身体が凍った。
「まだ傷は塞がっていない。無理をせずゆっくりと休みなさい」
「だめです、休むと、食べ物探せません」
「お前たちが襲われたのは、俺の責任だ。だから、食料も、治療も、何も心配しなくていい」
「え?」
「すまん、怖い思いをさせた。だが、もう大丈夫だ、安心しろ」
「……あ、れ? 私、なんで……あ……」
震えを抑えるために、自分自身に爪を立てていた事にようやく気がついた。
両親も仲の良かった友人も戦火で失った。響く銃声、追いかけられた恐怖、殴られ、撃たれた痛み、押し込めきれなかった感情が、見開いた瞳から涙を溢れさせた。
急に目の前が暗くなった。男の逞しい胸元へとそっと引き寄せられたのだ。煙草と火薬の匂いに一瞬身体が固まる。しかし背中と頭を撫でるその手は、大きくて、温かくて、チカは縋りついて泣きじゃくった。
「よく、頑張ったな」
「ふえ……えぐ……こわか……たけど、でも、でも……」
「お前が無事で……生きていてくれて、よかった」
この時は、全く気がつかなかった。男が、震えていたことを、泣きそうだったことを。後になって、彼の実の娘がたった四歳という幼さで銃弾に倒れたことを知った。
全ての子供を学校に通わせられるほど、孤児院は裕福ではなかった。
だから、成長した子供はここを出て行き、都会に出て働くのだ。
ところが、チカが成長するよりも先に孤児院が閉鎖された。国境近くにある孤児院の敷地は、兵舎の建設地として接収され立ち退く事になったのだ。
他の施設に振り分けようにも数は限られており、まだ幼い子から選ばれた。このまま引き取り手のない子供は行く当てもなく放り出される。チカもその一人だった。
ところが、あの事件をきっかけに定期的に寄付に訪れていた志木が、後見人になら、と名乗り出た。
「仕事があるから一緒に住む事は出来ないが、援助は惜しまないつもりだ。
寮のある学校に通えばいい。交換条件として、時々俺の部屋を掃除する事、いいかな」
あの大きくて優しい手が、頭を撫でてくれた。
寮もあるエスカレーター式の女学校を探してくれたのも、入学できるように手配してくれたのも志木だった。
それから、学校に通いながら志木の休みに合わせて月に2、3回掃除をしに行く日々が始まった。
いつしか掃除だけでなく食事も作るようになり、夏季や冬季の寮の閉鎖期間や、志木の長期休みに合わせて泊まる事もあった。
志木がチカの為に合い鍵を作ったのは、早朝帰宅できるはずが急な仕事で真冬に半日も待たせてしまった反省からだった。
しかし合い鍵を渡されても、チカは出来る限り志木が休みの日に通う事にしていた。
志木が自分の成長を楽しみしていると言ってくれた事もある。
だが、何よりも志木に会えることがチカにとって一番重要な事だった。
初めて出会った時から七年が経った今でも、志木は命の恩人で、保護者で、チカにとって誰よりも大好きな男だった。
例え、後見を名乗り出た理由が仕事上のミスで傷を負わせた償いだとしても、志木にとっての自分が戦時中亡くした娘の代わりだとしても、それでも、構わなかった。
「正式にお前を引き取りたい」
「え?」
「辞令が出て、次の任務が明けたら本部に戻る。そうしたら、普通の会社勤めと変わらん。
お前を独り寮住まいにさせなくても、俺の部屋で一緒に暮らせる」
「一緒に……暮らすって」
「俺の娘になってくれ。お前が大学を出るまでは、親子で過ごそう」
「……」
自分でも卑怯だと思った。
娘が死んですぐ、妻とは別れた。仕事に打ち込むことで娘の死を、独りの寂しさを紛らわそうとした。だから恋人が出来ても長くは続かず、チカと出会ったあの日、別れた苛立ちから残党を逃がしてしまったのだ。
その責任感もあった。そして、少女に親が必要だと思ったのも真実だ。だが、今となってはそれはオマケでしかない。
書類の上だけでも親子になることで、「お父さん」と呼ばれる事で、自制できるかもしれない。
ふとした弾みで少女を女として意識してしまう自分から、逃げているだけだった。
引き取ったばかりの頃はTシャツ一枚で一緒に寝たことだってあった。気がついたのは去年の冬休み、チカが高熱で寝込んだ時だった。パジャマが汗で張り付き、浮かび上がった身体のラインに、潤んだ瞳と苦しげな吐息に、彼女が女であると認識してしまった。
十年前、幼くして亡くした愛娘の代わりだった筈なのに、娘のように思って来た筈なのに、娘として面倒を見ようと後見に名乗り出た筈なのに、だ。
「……すみません、少し、考えさせて下さい」
「急がなくていい。しばらく任務でいないからな」
「そうですか……次は、いつ、会えますか?」
気遣わしげに見上げてくるチカに、志木は苦笑した。
どこに行くのかは聞かない。機密事項だと知っているからだ。
本来なら帰ってくる日も言ってはならない。だから、拘束期間と事後処理、チカの休日を算段して日付を指定する。
「一ヶ月後の土曜に昼メシでも作りに来てくれ」
「わかりました。一ヶ月後の土曜……三月、十日……志木さんのお誕生日ですよね」
「ああ、そういえばそんな時期か。もう36か……そりゃ俺も年を取るはずだ」
「そんなことないです。志木さんはまだまだ若いですって。そうだ、何か、食べたい物ありますか?」
くすくすと笑ってはいるが、どこか寂しそうだった。
養女の話が嫌だったのだろうか。気になったが、そこまで踏み込む勇気がなかった。
踏み込んでしまったら、今までの関係ではいられなくなる気がした。
だから、明るい口調を心がけ、少しおどけて見せた。
「チカのメシは美味いから、何でも嬉しいんだが……そうだなぁ、ハンバーグとポテトサラダがいいかな。あ、ニンジンとピーマンは抜いてくれよ」
「もう、志木さん、子どもみたい。好き嫌いはダメです」
今度は、いつも通りに笑ってくれた。
来月の志木の誕生日の為に、プレゼントを選んでいたら帰りが遅くなってしまった。
暗くなる前に寮に戻ろうと急ぎ、普段は通らない細い路地をすり抜けた。歓楽街の裏路地は
まだ人は少なく、開店準備の為、掃除をしている店員や客引きがまばらにいるくらいだった。
「あ……」
表通りに出る角で大人の女性と抱き合っている志木を見つけた。
人違いかと思ったが、耳に馴染んだ声に心が凍り付く。女性の方が立ちつくす自分を
不審に思ったのか、値踏みするような視線を向けてきたので、チカは慌てて物陰に隠れた。
立ち聞きは良くないことだ。それはわかっていた。志木にだって自分だけではなく、
恋人とも会いたいだろう。自分が立ち入ってはいけないのだ。なのに、足が動かなかった。
「どうした?」
「いえ、ちょっとね」
「……そうか」
「また連絡するわ」
「ああ、すまんな。気をつけてくれ」
町はざわめいていたのに、低く静かな声はハッキリと聞き取れた。
胸が苦しくなる。あの人が、今の志木の恋人なのだ。
志木はそのまま大通りの方に歩いていき、露出の高い服を着た女は、少しきつめの
香水の匂いと共に近付いてくる。美人だった。すらりとした脚、豪奢な髪、長いまつげ、
真っ赤な唇、通った鼻筋、服からのぞく胸の谷間にくびれた腰。自分と比ぶべくもない。
「この辺は物騒よ。早く家に帰りなさい、おちびちゃん」
「!」
女性はちらり、と横目でこちらを見ながら路地の奥へと去って行き、
チカもその場から逃げるように寮に走った。
一ヶ月の間、気持ちが落ち着かなかった。だが、約束の日は明日に迫っていた。
「おちびちゃん」女性の言葉が頭から離れない。確かに、背は低い。180センチを超す
志木とは頭一つ半も違う。だが、十歳の頃に比べればかなり大人の体つきになったとは思う。
胸だって少し寄せれば谷間だって出来る。だけど、ダメなのだ。志木が求める女は自分ではない。
ならば、志木の望みを受け入れるべきなのだろう。彼を困らせる訳にはいかない。このまま、
卒業して何の接点も無くなるよりは、娘として毎日傍に居られるだけでも構わないと言い聞かせる。
去年の冬休みに風邪を拗らせ寝込んだ時、デートをすっぽかしてまで三日三晩看病してくれたのだ。
これからも、自分を大切にしてくれる。それは疑いようのない事実だ。
だから、それ以上は望まない。望んではいけない。好きという気持ちをなくそうと、
これは親への思慕だと、そう思おうとした。
一ヶ月親に会えなかったから、こんなに寂しいのだ。
大好きな父親が他の人に取らそうだから、こんなに苦しいのだ。
(それで、いいんだよね。志木さん)
決意が鈍らないうちに、プレゼントに副えるメッセージを書く。
ボロボロとこぼれ落ちた涙で文字が滲んでしまい、結局、三度書き直した。
一ヶ月後の約束の日、帰宅が遅くなってしまった。
作戦中、長い付き合いだった同僚を二人亡くし、葬儀や手続き、次の作戦の下準備で
疲れ切っていた。やるせなさと苛立ちで陰鬱な気分だったが、チカが待っている、
そう思うと歩みが速くなる。
早くチカに会いたかった。彼女の笑顔を見たかった。彼女の声を聞きたかった。
「すまん遅くなった」
「志木さん! お帰りなさい」
扉を開けると、温かいスープの匂いがした。冷え切った身体に、その優しさがじんわりと
染み込む。チカがパタパタと音を立てて玄関先に走って来た。珍しくおろされた栗色の髪と
若草色のワンピースがふわりと舞う。少女の笑顔に、冷え切った心がほんのりと温かくなった。
「お怪我はありませんか?」
「ああ。お陰様で」
「よかった」
少女を心配させたくなかった。だからいつも通りを心がけたつもりだったのだが、
既に気がついていたらしい。すぐに心配そうに顔を覗き込んでくる。
「あの、お疲れでしたら、もうお休みになりますか? それともシャワー浴びますか?」
「……冷えたから先にシャワーを浴びてくる。その後、夕飯を食べたいな。
朝からほとんど食べていないんだ」
「わかりました、すぐに用意しますね。リクエストのハンバーグ、あと焼くだけですから」
「お、すまんな」
柔らかい髪を梳くように頭を撫でるとチカは嬉しそうに頷き、そして、上着を預かろうと
軽く袖を引っ張った。その仕草が可愛くて、ついつい抱きしめたくなってしまう。
娘に、と望んだ少女に甘えたくなる。頭に置いた手が、自然に頬をなぞる。
冷えた手にチカの体温は熱かった。
「あ、あの、志木さん?」
頬を染めてうろたえるチカに、志木は慌てて取り繕う。柔らかな頬の感触を振り払うように、
先ほどの行為を誤魔化すように、チカの鼻をつまんで茶化して見せた。
「やっぱり子供の体温は温かいな」
「も、もう、志木さん、からかわないで下さい。上着、かけてきますから、早く温まってきて下さい」
「ああ、ありがとう。頼む」
「はい」
志木の脱いだジャケットを受け取った瞬間、少女の動きが鈍くなった。
「どうした、チカ?」
あの女性の香水の匂いが志木に染み付いていた。
受け取ったジャケットからも、そして、志木自身からも。
それが何を意味しているのかわからない程無知ではない。
「……」
一ヶ月前から昼食を共にすると、誕生日を祝うと約束していたのに、遅れてきた理由が
それかと思うと悲しかった。朝からほとんど食べず、こんな夜まで、一体どこで何を
していたんだろう、それを考えると苦しかった。
今までだって同じ事があった筈なのに、何故か今日はそれが酷く気に障った。
前は自分を優先してくれた。だが、今回は血の繋がっていない養女より、恋人の方だった。
志木の一番は、彼と寄り添うのは、自分でなく志木の恋人であり、いつか再婚する相手なのだ。
自分は、それを笑顔で祝福しなければならない。頭ではわかっている。だが、その現実が
目の前に突きつけられると、心が受け入れられなかった。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
「いや!!」
残り香と共に伸びてくる手を反射的に振り払ってしまった。
他の女を抱いた手で、自分に触れて欲しくなかった。
受け取ったジャケットも一緒に落ちる。
「チカ?」
「あ……す、すみません、上着、掛けてきますから……」
慌ててジャケットを拾い上げ、パタパタとスリッパの音を立てながら志木の寝室に向かった。
まともに顔を合わせられない。
怖かった。
志木が、他の人間に取られてしまう。醜い独占欲が心を乱した。そんな資格は
自分にはないのに。自分は志木にとっての娘代わりであり、添い遂げられる筈がないのに。
志木の一番には決してなれない。彼の一番大切な娘は自分ではない。
一番大切な女性も、自分ではない。それでも娘になると、決めたはずなのに――
「チカ、どうした、何があった?」
「……ごめんなさい、わたし、今日、もう、帰ります」
すぐに志木が追ってきて、腕を掴まれた。心を落ち着けられない。このままでは、
今まで通りではいられなくなってしまう。とにかく、一人になりたかった。
「何?」
「……友達と、約束があって……だから」
「俺は聞いていないぞ」
「言う必要、無いですから」
「チカ!」
ビクリと震えた。
「だって、そうじゃないですか。今日だって、約束はお昼だったはずです。
夜に友達と約束してちゃ悪いんですか?」
「それは……そうだが、だが、もう夜も遅い。一体誰と約束しているんだ」
「関係ありません」
「関係ない筈がないだろう」
「私と、志木さんは他人です……志木さんは私のお父さんじゃないし、私は志木さんに
とって娘代わりかも知れないけど、本当の娘じゃない、今更志木さんの娘になんて、なれないよ!」
言ってしまった。だが、止まらない。もう、今までの親子ごっこには戻れない。
隠し続けた想いを喚けるほど子供ではなかったが、こんなに痛い気持ちを隠しながら
笑顔でいられるほど、大人でもなかった。
「受けたご恩は必ず返します。今までの学費や寮費も働いて返します。だから、もう、ここには来ません」
「チカ、バカな事を言うな。養女を断られたからと言って、後見をやめる筈がないだろう。
俺はそこまで薄情じゃないぞ」
「私には、もう、耐えられないんです、志木さんの傍にいるのが、苦しいんです。
もう、やなの。お父さんじゃないのに、お父さんの振りなんてしないでよ!」
何が嫌なのか理解できなかった。
先程まで笑顔で迎えてくれたのに、突然の豹変に驚きと、そして怒りが込み上げてくる。
一ヶ月も前から、誕生日を祝ってくれると、昼食を一緒に食べようと約束していたのだ。
今までだって仕事で遅くなる事も度々あり、朝や昼の約束が夕方や夜になる事も多かった。
ほとんど家にいないのでもともと電話は引いていない。代わりに携帯電話を買おうと
再三申し出たが、断固として首を縦に振らなかったのはチカだ。なのに、今更、非難してきたのだ。
「私には、もう、耐えられないんです、志木さんの傍にいるのが、苦しいんです。
もう、やなの。お父さんじゃないのに、お父さんの振りなんてしないでよ!」
無意識のうちに癒しを求めていた少女に拒絶された。彼女の笑顔が心の支えだった。
その足下が崩れ落ちる。耐えられないのは「男」である自分だ。苦しいのはそれでも「父親」で
あろうとした自分だ。友人を亡くし精神的に参っていた事も相まって、我を失うのは簡単だった。
泣きそうなのをこらえ震えているチカに対し、嗜虐心がもたげ劣情が灯る。
掴んだ細腕を、強引に引っ張り寄せた。
「っっっ放してください! きゃっ」
痛みで顔を歪めるチカをベッドに放り投げた。
「学費を返すと言ったな。だったら、身体で払って貰おうか」
「え?」
上半身を起こし立ち上がろうとするチカの肩を掴み、若草色のワンピースを力任せに引き裂いた。
「いやぁ!!」
ボタンがはじけ飛び、チカは目を見開き悲鳴を上げた。胸元を隠そうとかき寄せる
チカの腕を掴み、組み伏せ、服の間から覗いた胸を下着ごと鷲掴みにする。激情と劣情に
身を委ねながら、その一方で頭ではよく育ったと感心してしまう冷静な自分が居た。
去年、チカが熱に浮かされ時に欲情した肢体が目の前にあった。彼女が珍しく甘えて
抱きついてきた時に不覚にも狼狽えてしまった感触が、今、手の中にある。
親子ごっこでは手に入らなかった、女の肉体だった。
薄桃色のスリップも胸元から引き裂くと、衣服の下から白い双丘がふるりと零れ出た。
柔らかく、温かい胸を揉みしだくと、ピンク色の突起がツンと上を向く。
今度は突起を指の腹でクリクリと押し込んだ。
「やめっっっっ」
顔を真っ赤にして押し返そうとする少女の腕は、志木にとって非力すぎた。
そのままのしかかり、少女の秘所に右手を滑り込ませた。
「やっっっああぁ」
チカは身体を無茶苦茶に動かしたが、力で敵うはずもなく軽々押さえつけられた。
慌てて脚を閉じようにも、間に既に自分の脚をねじ込んである。それでも抵抗をやめず、
爪を立て髪を振り乱す少女の耳元に囁いた。
「大人しくしろ、面倒だ」